百九十九話 式場探し①
前回までのあらすじ・結婚式を挙げることになった。
マリッジ・ゲートというのは通称で、本来はもっと普通の名前があるらしい。
しかし人口に膾炙しているのは通り名の方だった。
現に街中には結婚式場やホテルなどがこれでもかというほどに乱立していた。
世界中ありとあらゆる文化・宗教の結婚式に対応できると謳うだけあって、アレンが見たこともない形式の式場などがごまんとあって、それらが自在に並ぶ光景には驚かされた。 宗教の対立などといった世知辛い話は、ここでは無縁らしい。
他にもおしゃれなレストランだったりショッピングモールだったりと、観光客を鷲づかみにするスポットも多かった。
着いたその日の昼過ぎのこと、アレンとシャーロットは海が見渡せる高台にやって来ていた。
そこも有名な観光地らしく、カップルや新婚客がわんさかいる。女性同士のグループ旅行者や仲睦まじい老夫婦も混じって、どこもかしこも賑やかだ。
一方、ふたりはベンチに並んで腰掛けて、同時に重いため息をつく。
「まさか一番人気の式場が予約三十年待ちとはな……」
「びっくりですねえ……」
街についてすぐ、一番人気と噂の式場を見学しに行った。
噂に違わず豪華絢爛でビカビカしており、料理もサービスも超一流。
ただしその分、値段と待ち年数がシャレにならないものだった。
一応もらってきたパンフレットに目を通しつつ、アレンはぼやく。
「どうやら長命種どもにも人気の式場らしい。奴らにとって三十年などあっという間だろうから悠長に待てるんだろう」
「そういえばゴウセツさんも、百年くらいは誤差だって……」
シャーロットもおずおずうなずく。
千年以上も生きる種族はごまんといる。
そんな者たちからしてみれば、人間などさぞかしせっかちに生き急いでいるように見えるだろう。
ともかくそういうわけで狙っていた式場は絶望的。
結婚式を挙げるという重大ミッションは早くも暗礁に乗り上げた。
がっくりするアレンに、シャーロットは苦笑しながら言う。
「でも、あんなに豪華な式場だとちょっと気後れしちゃいますよ。もっと他の落ち着いた場所を探しましょう」
「それには同感だな。今もまぶたを閉じると、あのギラギラした輝きが蘇る……」
件の式場は金銀宝石、その他貴重な織物などで飾られていた。
どこを見ても過剰な輝きばかりで、気圧されていたのは確かである。誰もが認める陰キャたるアレンは、おかげで余計にがっくり疲れてしまった。
ともかくシャーロットも同じ気持ちならありがたい。
パンフレットをしまって次に取り出すのはこの街の地図だ。
「さて、次に見学するならどこがいいかな。この調子だと二番目、三番目も似たようなものだろうし……」
街中に式場が溢れていて、そのどれもに特色があるらしい。
そうなってくると気に入るものを虱潰しに探すしかなく……。
(ううむ……思ったよりも大仕事になりそうだな)
アレンが覚悟を新たにした、そのときだ。
「ふふ……」
「む?」
顔を上げれば、シャーロットがやけにニコニコしていた。
アレンは思わずきょとんとしてしまう。
「どうした。やけに嬉しそうだな」
「あっ、い、いえ……その」
シャーロットはすこし言いよどんだ後、ぽっと頬を赤らめて続ける。
「アレンさんとふたりっきりでどこかに行くなんて、久しぶりだなあ……って」
「そ、それもそうだな……」
気付けば家族も増えて、ふたりで暮らしていた屋敷は賑やかになった。
こうしてふたりで出かけたのも、先日の墓参りくらいのものだ。
(そ、そうか……ふたりなのか……うん)
そんな当たり前のことを意識してしまえば、なんとなく気恥ずかしくなって黙りこんでしまう。シャーロットも顔を赤くしたまま
好きだとか幸せにするだとか、そういう当たり前のことなら何度だって真顔で言える。
しかし、このむず痒いシチュエーションには耐性がとんとなかった。
甘ったるい空気をごまかすようにして、アレンは話を変える。
「その……シャーロットは結婚式にどんな希望がある?」
「希望、ですか?」
「ああ。やると決めたはいいが、できるだけおまえの意志に沿いたいからな」
結婚式はふたりで挙げるものだ。
アレンひとり突っ走っても意味がない。
しかしシャーロットは控えめなので、嫌々付き合っている可能性も大いにあった。
そう心配していると、シャーロットは頬をかいて苦笑する。
「その、最初はちょっと恥ずかしい気もしたんです」
「うぐっ……な、ならばひょっとして式自体が嫌だったりするのか?」
「いえいえ。今ではすっごく楽しみですよ」
青くなるアレンに、シャーロットはにこやかにかぶりを振る。
両手の指を合わせて、ぽかぽかするような笑顔で言うことには――。
「その……結婚式ってみなさんに『今よりもっと幸せになります』って報告する場ですよね。そう考えたら、なんだか素敵だなって」
「……そうか」
アレンは小さくうなずく。
非常に大人な考え方だった。『ウェディングドレス姿の嫁を見たい……!』という一心で爆走してしまった己を恥じる。
「だから、いろんな人をお呼びしたいなと……かまいませんか?」
「もちろんだ。全力で心得た」
アレンはドンッと胸を叩く。伴侶の希望を叶えなければ男が廃るというものだ。
そうと決まれば話は早い。頭に浮かぶ顔ぶれを指折り数えていく。
「ありったけの知り合いを呼ぼう。町の奴らに、うちの家族と……」
「あと、お父様にナタリアですね」
シャーロットも楽しそうに指を折り、そうしてくすりと破顔した。
「ふふ。結婚式をするってお手紙を出したら、お父様からお返事をいただいたんです」
「おお、それはよかったな。改めてまた挨拶に伺おう」
「ぜひぜひ。いただいたお手紙、涙のせいか文字がかすれて読めなかったので……ちゃんとお話ししたいです」
「エヴァンズ卿は相変わらずのようだな……」
ちなみにアレンもナタリアから手紙を頂戴していた。封筒には何十もの呪詛がかけられており、肝心の中身は『お幸せに』と書かれたメッセージカードだけだった。その裏は真っ赤なインクで『コロス』と殴り書きされていて、ツンデレもあそこまでいくと芸術的だった。
それはともかくとして。
アレンは膝を叩き、決意を新たに地図を睨む。
「よし、ならば式場探しに全身全霊を賭けねばな。どこかいい場所があるといいんだが……」
「やっぱり豪華すぎないところがいいですよねえ……」
「それには完全に同意するんだが……だいたい派手なのを売りにしているようだな」
地図には教会ごとの謳い文句が描かれている。
絢爛豪華だのゴージャスだの、自分にはどうも縁遠い単語ばかりだ。
(やはりこういうのがスタンダードなのか……? 受け入れなければならないのか?)
金ぴかの式場で白いタキシードを着込み、目が死んだ自分の姿が脳裏をよぎる。
それを覚悟しかけた、そのときだ。
「……あれ?」
シャーロットも地図をのぞき込もうとして、そこできょとんと目を瞬かせた。
視線は眼前に広がる海――その崖側に向けられている。
「どうかしたか?」
「いえ、あんなところにも教会があるんですね」
「む、本当だな」
シャーロットが指さす先。
切り立った崖の上に、小さな教会がぽつんと建っているのが見えた。どこまでも素朴な造りだが、高くそびえる尖塔は威風堂々としたたたずまいを示す。
今日見た中では、もっとも落ち着いた雰囲気だった。
顔を見合わせ、アレンは言う。
「……ちょっと見てみるか?」
「はい!」
それにシャーロットはワクワクとうなずいてみせた。
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次回はまた未定ですが、のんびりお待ちください。
次で二百話です。皆さんのおかげでここまで続けられることができました!感謝!





