百五十七話 ミアハの願いごと③
「ほんとにもらってもいいのか……?」
「もちろんですにゃ~」
珍しく恐縮した様子のアレンに、ミアハはさっぱりと笑ってみせた。
黄金郷の店番をジルと交代して、残りの配達を完了させて、ミアハがやってきたのは街外れのアレンの家だった。
朝の間に配達は済ませていたが、別の用事があった。フローラからもらったコタツ一式を運び込むためだ。
「はわ……あったかいですねえ」
『ぬくぬくだ~……』
『ほうほう、これはなかなか……ぐう』
リビングに広げたコタツに入って、シャーロットは顔をゆるませる。
ルゥやゴウセツも首だけ出して入り込み、半分以上夢見心地だ。
転生者サークルたちと一緒に入ったこたつより、ミアハのもらった試作品は二回りほど小さいものだった。三人と二匹が入れば、それだけでもういっぱいになる。
ぽわぽわ平和な空気を見回して、ミアハは満足してうなずいてみせる。
「うちは手狭なアパートですし、会社に置くにもちょっと場所を取りますからにゃー。でも魔王さんのお家に置いていただければ、ミアハも休憩がてら入れますにゃ。寒い冬が来る前の準備ですにゃ!」
「周到だなあ……まあしかし、それならいつでも歓迎だ。茶でも飲むか?」
「もちろんそのつもりですにゃ!」
ミアハもアレンもこたつに入って、和やかなお茶会が始まった。
今日はもう配達もバイトもないので、ミアハはゆったりと出されるお茶とお菓子に舌鼓を打つ。
まったり過ごしつつも――キランと目を光らせた。
(ふっふっふー。甘いのですにゃ、魔王さん。ミアハの目的は……お茶だけではないのですにゃ!)
ここにコタツを持ち込んだのには、もう一つ理由があった。
真向かいに座るアレンに目をやると、彼はもぞもぞと身じろいだ後、ハッとして隣のシャーロットに頭を下げる。
「す、すまん。わざとじゃないんだ」
「い、いえ……大丈夫です」
シャーロットもすこし顔を赤らめて、おずおず言う。
コタツが小さいせいで、足が当たったのだろうと一目で分かった。
ミアハの真の目的が達成された瞬間である。
ふたりに見えないように、こっそりぐっと拳を握る。
(これこれ、これですにゃ! やっぱり小さい方がカップル向け! ふとした瞬間に足とか手が触れてドキドキの空気をお届けできますにゃ!)
奥手のふたりに塩を送った形である。
目論見はうまく行ったようで、アレンは無駄に紅茶を何杯もおかわりしていた。シャーロットも無言でクッキーをぽりぽりかじる。
初々しいやり取り、ご馳走さまである。
(ひょっとしてこの路線で売り出せばガッポリなのでは……? あとでフローラさんに相談しましょうかにゃ。販売経路などはうちの会社が協力して――)
完全仕事モードで脳内のそろばんを弾く。
そんな折、アレンが咳払いをしてから話を向けてきた。
「ああ、そういえばミアハ。留守中の郵便物を預かってもらってすまなかったな」
「はい? あ、ああ。お気になさらずに」
ミアハはにこやかに応える。ここ半月、アレンの家はずっと留守だったので荷物が溜まっていたのだ。
「それにしても魔王さん、一家全員でどこに行っていたのですにゃ?」
「ちょっとアテナ魔法学院に野暮用があってな。なあ、シャーロット」
「……はい」
シャーロットはほんのり微笑んでみせた。
「実は……私の妹に会いに行っていたんです」
「へ」
その思ってもみなかった言葉に、ミアハは目を丸くしてしまう。
彼女の――シャーロット・エヴァンズの事情はミアハもよーく知っていた。
最近では新聞に載ることもなくなったが、隣国のスキャンダルはこちらの国でも大きく報道されたからだ。
だが報道が落ち着いたとはいえ、シャーロットの抱える問題が解決したわけではない。
それなのに妹に会いに行くとは……まるで意味が分からなかった。
「それはほんとのほんとに……?」
「はい。妹がひとりでアテナ魔法学院に留学していることがわかって……それで、いろいろありまして」
それからシャーロットはぽつぽつと、魔法学院でのことを話してくれた。
ずいぶん破天荒な話ではあったが……最終的には大団円。姉妹は無事に再会できたという。
「それでナタリアと約束したんです。今度この家にも遊びに来るって」
「帰るのは一苦労だったがな……」
アレンはげんなりとため息をこぼす。
聞けば、シャーロットを引き留めようとするナタリアを説得するのにずいぶん骨が折れたらしい。
シャーロットは依然としてお尋ね者なので、あまりおおやけの場に長く身を置きすぎるのはよくないということで、一応納得してくれたようだ。
シャーロットは幸せ全開だが、アレンは対照的に疲弊の色を隠そうともしない。
彼が義兄として認められる日は当分先のようだ。
「……そうですかにゃ」
ミアハは手元のカップに視線を落とす。
お茶の表面に写り込む自分の顔は、どこか魂が抜けたようにぼんやりしていて――それをシャーロットに気取られる前に、さっぱり爽やかな笑顔を浮かべてみせた。
「それはよかったですにゃあ。妹さんと、これからはずっと仲良しですにゃ」
「はい! 今度ミアハさんにも紹介させてくださいね!」
「ぜひぜひ。楽しみにしておりますにゃー」
意気込むシャーロットに、ミアハはうんうんとうなずく。
シャーロットは大事な友人で、そんな彼女が家族と無事に再会できたのはよろこばしいことのはずで――それなのにミアハの胸はちくちくと痛みを訴え続けた。
次もまた来週木曜更新予定。次回でミアハ編はラストです。
コミカライズ次回はGWを挟むので再来週の木曜日。書籍と合わせてよろしくお願いいたします!
そしてとうとう本作ブクマ一万を突破いたしました。多くの方に読んでいただけて光栄です。今後とも楽しんでいただけるよう精進いたします!





