百三十九話 問題児との会食風景①
ここアテナ魔法学院は広大で、学内施設もかなり多い。
中でも学生用の食堂は島のあちこちに存在していた。
特定種族用のみが食べるような料理を出す専門店、ちょっと背伸びした高級レストランなどなど。
とはいえ一番人気なのは安くたくさん食べられる食堂だった。
銀貨一枚あれば満腹になれる価格設定で学生の味方である。
広々した店内には多くの学生がテーブルを囲んでいて――ナタリア一行もそこにいた。
もちろんアレンたちも無理やり同行し、最初は不服そうに睨むだけだった面々だが、今はまったく違った反応を見せていた。
「「うわあ……」」」
舎弟たちは日替わり定食にも手をつけず、口を半開きにして呻き声を上げる。
誰も彼もが真っ青な顔で、じっとシャーロットのことを見つめていた。
当人は注目を浴びていることにも気付かず、ニコニコとルゥとゴウセツの食事を見守るだけである。
「おいしいですか、ルゥちゃん。ゴウセツさん」
『うん! ここって魔物用のごはんもあるんだねー』
『うむうむ。昔以上にメニューが洗練しております。調理人のたゆまぬ努力が感じられますなあ』
「あれ、ゴウセツさん、ここに来たことがあるんですか?」
『はい。その昔、物見遊山がてら人に化けて。あの当時はもうすこし規模の小さな学院でしたが、活気は今と変わりませんなあ』
『おばあちゃん、ほんとに人生経験豊富だねー』
魔物用定食を上機嫌でぱくつく二匹。
そちらと談笑しながら、学生定食をゆっくり食べ進めるシャーロット。
アレンにとっては日常風景だが、他の者たちにはそういうわけにもいかない。
舎弟たちはもちろんのこと、ナタリアも自分のトレーを持って立ち尽くしたまま、わなわなと震えばかりだった。
「じ、地獄カピバラにフェンリルの子供!? あなた一体何者ですか……!」
「へっ?」
シャーロットはきょとんと目を丸くする。
言われて初めて注目されていることに気付いたらしい。
ちなみにナタリア一行だけでなく、その他の生徒たちもこちらを遠巻きにしてヒソヒソしていた。
おかげで混み合った店内で、その一角だけ妙に空間ができていたほどだ。
シャーロットは不思議そうに首をかしげつつ、隣のアレンに声をかけてくる。
「よく言われますけど……そんなにすごいことなんですか?」
「まあ、フェンリルは稀少種魔物の中でも有名だからな」
大盛りラーメンと半チャーハンのセットに舌鼓を打ちながら、アレンは言う。
ラーメンの具は少ないし全体的に脂っこいが、やけにクセになる味付けである。ずるずるすすりながら、シャーロットのために講義を開く。
「フェンリルを従えている魔物使いは、世界中でもごくわずかだ。おまけにルゥのような銀の毛並みは特別稀少でな、品評会に出ればあっさり伝説を築けるだろうよ」
『ふふん、ルゥはすごいんだぞー!』
『ふぉっふぉっ、五百年ほど前に実在したフェンリルを従えた聖女の逸話は、今でも吟遊詩人の鉄板ですからな。大衆人気も高いのですよ。一方で、儂などただの齧歯類でございますとも』
「そいつは基本温厚な生き物だが、ちょっとしたきっかけで暴れ馬と化す。おまえもよく知っているだろう」
「ああ、たしかに……」
先日の誘拐事件は記憶に新しいのか、シャーロットは神妙な顔でうなずいてみせる。
一般人にとっては動物園によくいる間抜けな顔のマスコットだが、多少魔法を学んだ者にとっては眠れる獅子にしか映らない。
そしてフェンリルと地獄カピバラ、どちらも従えている魔物使いなど、アレンも他に聞いたことがなかった。
ナタリアはシャーロットの正面に腰を落とし、呆れたように嘆息する。
「魔物使いとして、もう十分大成しているじゃないですか……魔法を学ぶ意味などあるのですか?」
「でもそれは私じゃなくて、ルゥちゃんとゴウセツさんがすごいだけですから」
シャーロットは頰をかいて苦笑する。
「私はこれまでずっと、アレンさんたちに守られてばっかりでした。でも、それじゃダメだと思って……どんなものにも立ち向かえるように、強くなろうって決めたんです」
「立ち向かうため……ですか」
ナタリアはその言葉を口にして、ほんの少しだけ表情を固くした。
続きは明日更新します。
本日、献本いただきました!みわべ先生のイラストがたいへん素晴らしいです。ぜひぜひよろしくお願いします!





