百二十八話 久方ぶりの帰省④
アレンは遠くの方からやってくる銀髪をじーっと見つめた。
あれがこの場にいるとなると……話はかなり変わってくる。
起き上がることを放棄して、地面に頬杖をついてぼやくだけだ。
「やっぱり放っておこう。あんなもの相手にしていられるか」
「だよねー」
エルーカもそれに気付いたのか、半笑いでうなずく。
ただひとり事情の分からないシャーロットは、青い顔でおろおろするばかりだ。
「い、いいんですか? お怪我をされる方が出そうですけど……」
「大丈夫だろ。すぐに鎮圧されるからな」
「へ?」
シャーロットはきょとんとする。
そうする間にも言い争いはヒートアップしていった。今にも手が出そうなほど緊迫の空気が漂う中――ひとりの男が近付いてきていたことに、その場の誰もが寸前になるまで気付けなかった。
「ちょっといいですか、きみたち」
「ああ? なに――!?」
揉め事の中心人物ふたりの肩を、男がぽんっとそれぞれ叩く。
その瞬間――凍てつく冷気があたり一帯に吹き荒れた。見守っていた者たちの間にどよめきが走る。
やがて冷気が落ち着いたあと。
そこには数多くの氷柱がそびえ立っていた。先ほど揉めていた人数分である。氷の中には彼らがもれなく驚愕の表情を浮かべたまま閉じ込められていて、びくともしない。
広範囲魔法かつ呪文詠唱カット。実に鮮やかな手際である。
「迎えに来てみればこれですか……まったく仕方のない子たちですね」
苦笑をこぼすのは、銀の髪を長く伸ばした男だった。年の頃はアレンと同じくらいに見える。長身痩躯の身を上等な礼服で包み、金の刺繍が入った黒の外套を羽織っている。いかにも上等な魔法使いといった出で立ちだ。
柔和な面立ちに笑みを浮かべれば、優男という言葉が異様によく似合う。
男はこんこんと氷柱に向かって説教する。
「いいですか、ここは学院の生徒だけでなくお客様も訪れる場所ですよ。我が学院の生徒なら、もっと節度を守って……ああ、今は聞こえませんか。あとで呼び出しですねえ」
ぐるりと氷柱たちを見回して、男は軽く肩をすくめてみせた。大人数を一瞬で制圧した達成感などは一切ない。
その頃にもなれば周囲の者たちも事態を飲み込んで「お疲れ様ですー」やら「あとは俺らが片付けときますね」やら「懲罰室空いてたかなあ」などなど慣れた様子で声をかけていく。
その光景を見守って、シャーロットは感嘆の声をこぼす。
「な、なんだかすごい人ですね……アレンさんみたいです」
『ですな。あれはかなりの使い手でございますぞ』
『あれ、この匂いって……』
ゴウセツは興味深そうに目を細め、ルゥがきょとんと首をかしげてみせた。
そんな中、男がこちらに気付く。
「おや……?」
そこでほんの少しだけ目を丸くしてから、ぱっと相好を崩してみせた。
そのまま彼は足早にこちらに歩み寄ってきて、にこやかに片手を上げる。
「久しぶりですね、アレン。元気そうで何よりです」
「この状況を見たのなら、もう少し言うことがあると思うんだが……」
二匹に乗っかられたまま、アレンは男にジト目を向ける。
エルーカはエルーカで、男にびしっと片手を上げた。
「たっだいまー! このとーり、ちゃんとおにいたちを連れてきたよ!」
「ありがとうございます、エルーカ。おかげで助かりました」
男はにこにことそれに応え、シャーロットに目を向ける。
「それで、きみが噂のシャーロットさんですね。どうも初めまして」
「は、はじめまして……あの、どちら様ですか?」
「ああ、すみません。申し遅れました」
男は柔和に微笑んで、胸に手を当てて名乗ってみせる。
「私の名はハーヴェイ・クロフォード。そこにいる、アレンやエルーカのパパです」
「パパさん!?」
「やっぱ驚くよねー。うちのパパ、若作りなんだよ」
「それにしたって限度があるだろ」
アレンはげんなりとため息をこぼす。
幼少のアレンを引き取ったころから養父は老ける気配が一切ないので、変な魔法を使っているのではないかと疑っている。
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