百十五話 これから①
そんなこんなで買い物が終わったあと。
アレンはシャーロットを連れて、次の場所を訪れていた。
丸テーブルを挟んで向かい合いながら、アレンは顎を撫でる。
「さてと、俺はとりあえずエールにするが……おまえは?」
「え、えっと……お水で大丈夫です」
「それじゃあオレンジジュースとエールを頼む」
「かしこまりました」
「お水でいいって言いましたのにぃ……」
ウェイターは折り目正しく頭を下げ、メニューを残して去っていく。
どこまでも無駄のない、洗練された所作だった。
それもそのはず。ふたりがいるのは、街でも有数の高級レストランだったからだ。
広い店内にはいくつものテーブルが並び、ピアノの音色が優しく響く。ドレスコードこそないにせよ、入るには少し財布との相談が必要になってくるような場所だった。
おかげで店内に足を踏み入れてから、シャーロットはずっと緊張しっぱなしだった。
落ち着きなくあたりをキョロキョロしてから、目の前に座るアレンの顔をのぞきこむ。
「あ、アレンさん。ここってお高いレストランなんじゃ……」
「まあ、大衆向けとは言い難いかな。気にするほどじゃない」
「気にしますって! さっきも私の杖のお金、たくさん払ってらっしゃいましたし……」
シャーロットの椅子の背には、魔法用の杖が立てかけてあった。
頭に青い水晶を頂いた金属製の一本だ。
彼女が最初に手に取ったそれは、長さも重さも申し分なく、さほど悩むこともなくこれに決まった。
その支払いに、アレンが金貨を何枚も渡しているのを見ていたのだろう。シャーロットは眉をへにゃりと下げて浮かない顔だ。
(うむ。これはこれで見ていて飽きないが……誤解はきちんと解いておかないとな)
アレンは懐を探りつつ、口を開く。
「安心しろ、おまえの支出など微々たるものだ。見ろ。この領収書を」
「領収書……ですか?」
こんなこともあろうかと、ジルに用意させておいて正解だった。
領収書には、今回アレンが買い上げた品々がずらっと並んでいる。
「魔法の杖一本に……薬草の束が二十個に、痺れキノコ七つ、紫スライムの分泌液三本……?」
長々続くそれらを読み上げて、シャーロットは目を丸くする。
「なんだかいっぱい買われたんですね……いつの間に」
「ああ。ちょっと必要になってな」
「ひょっとして魔法のお薬の材料ですか?」
「そんなところだ」
アレンは鷹揚に笑ってみせる。
実を言うと、これらは店で大立ち回りを演じた結果、損壊してしまった品々の弁償代だ。
(弱いなりに、あいつら数が多かったからなあ。ついついやりすぎた)
襲撃者の数は二十あまり。
なるべくスマートに鎮圧したつもりだったが、店内の商品にちょっとした被害が出てしまった。
とはいえ初歩的な魔法道具しか置いていない一画だったため、財布に優しい弁償である。
結局あの暗闇の襲撃は、数分も経たずに片がついた。
明かりが着く頃には、ゴウセツとルゥの手によって黒ずくめたちはひとり残らず運び出され、あとには目を閉じたシャーロットとアレン……そして、すこしばかり荒れた商品棚が残された。
頃合いを見て、アレンは風の結界をそっと解除。
そうしてシャーロットに目を開けるように告げた。
『イメトレはそこまでにしておこう。目を開けて、俺の言うとおりに呪文を唱えるんだ』
『は、はい』
シャーロットはなんの疑いもなく目を開き、アレンの口にする呪文を復唱し――。
『えっと……魔灯!』
強張った声で唱えると同時。
シャーロットの目の前に、手のひら大の光がふんわりと現れた。
おかげでシャーロットはぱあっと顔を明るくした。
『わっ、見てくださいアレンさん! ちっちゃいですけど……光ができました!』
『うんうん、やはり俺が睨んだ通り優秀な生徒だな』
アレンはにこやかにうなずいて、彼女の初めて使った魔法を目に焼き付けたのだった。
かくしてシャーロットに一切気取られることなく、敵の排除はひとまず完了した。
ここまではおおむね、シャーロットが店の空気に気後れするのも含めて計画通りだ。
領収書を見て金額には納得したらしいが、店にはまだ馴染めないらしい。落ち着きない小声で、ぼそぼそと――。
「でもやっぱり、普通のお店でよかったんですよ? アレンさんとだったら、どこでご飯を食べても嬉しいですし」
「俺もそう思ったんだがな、調べた限りここが一番条件に適していたんだ」
「条件?」
「失礼いたします、お客様」
そこで先ほどのウェイターが飲み物を持ってやってきた。
エールとジュースをテーブルに並べてから、メニューの冊子を恭しく差し出してみせる。
「こちらがメニューでございます。どうぞごゆっくり」
「ああ。礼を言う」
ウェイターを見送ってから、アレンはシャーロットにメニューを手渡した。
「ここの料理を、おまえに食わせてやりたくてな」
「いったい何……が」
シャーロットはメニューを開き、目を丸くして固まった。
アレンは淡々と、用意しておいたセリフを並べ立てる。
「ここのシェフはな、隣のニールズ王国出身なんだ。だからこの店では、二国の料理が楽しめる」
この街は、そもそもアレンたちが暮らすノートル皇国と、シャーロットの故郷であるニールズ王国――二国の国境に近い場所にある。
そのため街にはニールズ王国出身の者もちらほらいる。
両国の料理が食べられる店も多く、中でもここは随一の評判だった。
そう説明するのだが、シャーロットは黙ったままだった。
おかげでアレンは柄にもなく不安を覚える。
(むう……やはりまだ故郷の話は早かったか?)
シャーロットはこちらに来てから、祖国の味を懐かしんだことは一度もない。
アレンに遠慮しているのか、はたまた祖国にいい思い出がないからか、あるいはその両方か。
だからアレンは敢えて今回、彼女をここに連れてきたのだ。
「その……おまえもずいぶんここに馴染んできたし、久々に故郷の味を楽しんでもらいたいな、と思ったんだ。だが、あまり快く思わないのなら、今からでも別の店に――」
「……いえ」
アレンの言葉を、シャーロットは静かに遮った。
ゆっくりとかぶりを振って、メニューの隅を指差す。
細められた目に浮かぶのは、あたたかな光だ。
「この、豆と鶏肉のトマトスープ……お母さんがよく作ってくれた料理です。久しぶりに、食べてみたいです」
「……そうか」
アレンは噛みしめるようにうなずいた。
そのままウェイターにスープやその他いくつかの料理を注文してから――改めてシャーロットに笑いかける。
「料理が来るまで、すこし話をしよう。これからのことだ」
「……はい」
シャーロットはそれに、すこしぎこちなくうなずいた。
続きはまた四日後、11/18(月)に更新予定です。
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