百十三話 イチャイチャしつつ敵をひねる①
イチャイチャしつつふたりが辿り着いたのは、ショーケースが並ぶ一画だった。
まるで博物館の展示のように、ガラスケースに収まった杖たちが等間隔に並んでいる。その中をのぞきこんで、シャーロットがほうっと吐息をこぼす。
「わあ……綺麗ですね。これが全部魔法の杖なんですか?」
木製のもの、白い石を削り出したもの、宝石がいくつも散りばめられたもの……魔法の杖と一括りにしても、見た目は千差万別だ。ものによっては職人の刻印も刻まれており、シャーロットは物珍しそうに見つめている。
それに、アレンは鷹揚にうなずいてみせた。
「そうだな、ここにあるのは全部初心者の補助用だ」
「ほかにも種類があるんですか?」
「ああ。炎の魔法がかかった杖などがある。振れば、それだけで火の玉が生み出せるんだ」
魔法道具の一種である。
使用回数が限られるという欠点があるものの、誰でも気軽に魔法が使えるため、冒険者たちに人気が高い。
だが、ここにある杖には、そうしたわかりやすい効果はない。
アレンは人差し指で自分の頭を指し示す。
「魔法を使うには精神を集中し、明確なイメージを頭に描く必要がある。ここにある杖はそれを助けてくれるんだ」
「つまり……杖を持てば、集中力がアップするんですね?」
「ま、平たく言うとそんなところだな。慣れると杖なしでも魔法が使えるようになるんだが、最初は必須だ」
杖には集中力の強化だけでなく、魔力の錬成、狙いの補助……などなど、様々な効果がある。
ゆえに魔法を覚えたての者は杖を持つのが一般的だ。
アレンはガラスケースを開けて、シャーロットに手招きする。
「まあ、説明するより。試しに持ってみるといい」
「は、はい。でも、こういうのってお高そうですけど……私のお給料で買えますかね?」
「なに、初デート記念だ。俺が出す」
「むう。いっつもそれじゃないですか……毎月いただくお給料、貯まる一方なんですからね」
シャーロットは眉をへにゃりと下げつつも、おそるおそる杖に手を伸ばす。
金属製の細い一本だ。頭に青い水晶が飾られていて、館内の明かりを受けてキラキラと輝いている。
それを両手で持って、シャーロットは小首をかしげる。
「どうでしょうか……」
「ふむ」
アレンはあごを撫で、じーっとその立ち姿を見つめてみる。
そうして――人差し指をくるりと回す。
「すまない。ちょっとその場で回ってみてくれないか」
「は、はい。わかりました」
シャーロットは真面目な顔でうなずいて、くるりと回ってくれた。ワンピースの裾がふわっと舞い上がり、金の髪が揺れる。
シャーロットは不思議そうに尋ねる。
「回ると、杖のよさとかが分かるんですか?」
「いや、別に?」
「ふえ?」
アレンはこともなげに言ってのける。
その人に合った杖かどうかは、持つだけでわかる。回ってもらったのは、そんなことよりもっと重大な理由があったからだ。
「単に似合って可愛いだろうなと思っただけだ」
「…………ど、どう、でした?」
「そんなのもちろん決まっているだろう」
シャーロットの肩にぽんっと手を乗せ、アレンは真顔で告げる。
「最高に可愛い」
「ううううっ……」
ぽんっと音を立てて、シャーロットの顔が真っ赤に染まった。
杖をぎゅうっと抱きしめて、うつむいて小さくなってしまう。
「そ、そんな……アレンさんってばお上手なんですから……お世辞を言っても、なんにも出ませんよ……?」
「は? 俺が世辞を使えるような器用な男だと思うか?」
「うっ、ぐう……ご、ご自分でおっしゃることではないと思うんですけど……」
もにょもにょ言いつつ、シャーロットはますます真っ赤に縮こまる。
そんな彼女にアレンはまだまだ畳み掛ける。
「こら、顔を伏せるんじゃない。もっと可愛いおまえを見せてくれ。俺の寝顔を眺めていた分、俺だっておまえを見つめるんだからな」
「あうう……さっきの仕返しですね!? 見ないで下さいぃ……!」
ついに背を向けてしまうシャーロットだった。
あんまり虐めすぎるのもなんなので、その辺で終わりにしておく。
アレンがニヤニヤしていると――。
「まあ、その話は後にしよう。杖の使い方を……お?」
「きゃっ」
そこで、店内の灯りがすべて落とされた。
あたり一帯が静かな闇に支配され、シャーロットは小さな悲鳴を上げてアレンのそばに寄る。
続きはまた四日後、11/10(日)に更新予定です。
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