百十一話 魔法道具屋でお買い物①
まずアレンが向かったのは、大通りから外れた路地だった。
人通りもまばらで、並ぶのは民家ばかり。
シャーロットは不思議そうな顔をしながらも、アレンの手をしっかりにぎったままついてくる。
「いったいどちらに向かっているんですか?」
「ちょっとした買い物をしようと思ってな。ああ、ここだ」
「ここ、ですか……?」
アレンが指し示したのは、路地から分岐したさらに細い小径だ。
建物と建物に挟まれて薄暗く、どこかじめっとした空気が漂っている。だが、アレンは気にせず足を進めた。
その奥には粗末な小屋が立っている。
ドアを開けば――シャーロットが目を丸くした。
「わあ……!」
ドアの向こうに広がっていたのは、巨大な空間だった。
左右の壁にはずらっと棚が並んでおり、吹き抜けとなった三階までそれが続いている。棚に詰め込まれているのは乾燥させた草花、鉱物などだ。
ほかにも中空に浮かぶ水晶だったり、壁に張り付くスライムだったりといった謎の物体が並び、雑多な博物館といった様相だった。しかもそれが、見渡す限りにどこまでも続いている。
アレンにとっては見慣れた場所だが、シャーロットを連れてくるのは初めてのことだ。
ぽかんとしたまま、あたりをキョロキョロと見回す。
「こ、こんな大きなお家には見えませんでしたけど……どうなっているんですか?」
「魔法で空間をねじ曲げているんだ。それにしても……」
ひとまずシャーロットの手を放し、アレンもまた周囲をうかがう。
ぱっと見た限りでは人影が見られないものの――。
「おーい、俺だ。誰かいないかー」
「あれ、アレンさん?」
そこで、二階部分から声がかかった。
見上げた先。物陰からひょっこりと現れるのは、車椅子に乗った青年だった。くすんだ赤髪を肩まで伸ばし、柔和な笑みをたたえている。
「珍しいですね、店の方にまで来るなんて。ポーションのことで何かありましたか?」
「いや、それとは別に買い物がしたい。店主はいるか?」
「今はちょっと仕入れに出ておりまして……僕でよければお伺いしますよ。待っててください」
すると車椅子がふわりと浮き上がり、そのまま一階のアレンたちの前にまで降りてくる。
青年はそこでシャーロットへ軽く会釈してみせた。
「どうもこんにちは。シャーロットさんですよね、はじめまして」
「は、はい。はじめまして……?」
シャーロットはおずおずと頭を下げる。
青年の顔をじーっと見つめて、こてんと首をかしげてみせた。
「あのー……どこかでお会いしませんでしたか?」
「ほら、あれだ。以前街で、エルーカに詰め寄られていた男だ」
「ああ、あのときの!」
「ジル・コンスタンといいます。よろしくお願いいたします」
以前、アレンとシャーロット、そしてエルーカの三人で街に出たことがあった。
そのとき、エルーカが話しかけたのが、このジルだ。
「ここは魔法道具屋で、ジルはここの店員なんだ」
「でも、まだ一ヶ月くらいですよ。エルーカさんに紹介していただきまして……」
「そうだったんですか……魔法屋さん、ですか」
シャーロットはますます興味深そうにあたりを見回す。
そんななか、アレンは首を捻ってうなるのだ。
義妹たるエルーカには、シャーロットの祖国について調べものを頼んでいた。
「しかしエルーカのやつ、まだ帰ってこないな……せめて連絡のひとつも寄越せばいいのに」
「ああ。そろそろ戻るって、僕の方には手紙が来てましたよ」
「そ、そうか? しかしなぜ俺ではなく、おまえに手紙を……」
「……え?」
そこで、ジルの笑顔がぴたっと凍りついた。
「ひょっとして……エルーカさんから聞いてません?」
「なにをだ」
「あー……それじゃ、今度改めてご挨拶させていただきます……」
「だから、なんの挨拶だ?」
神妙な顔をするジルだった。
アレンは首をひねるしかないのだが、彼にそれ以上話す気がないとわかり思考を切り替える。
「まあいい。今日はシャーロットの買い物なんだ」
「へっ? わ、私ですか?」
「そう。おまえだ」
急に話を向けられたせいか、シャーロットが目を丸くする。
そんな彼女に笑いかけ、アレンはうなずく。
「おまえもそろそろ、魔法を覚えてもいい頃かもしれないと思ってな」
「魔法……ですか?」
「そう。ルゥやゴウセツがいるにせよ、身を守る手段は多い方がいいからな」
シャーロットの身は、アレンたちが全力で守る。
だがしかし、多少なりとも戦う術を持っていれば、シャーロットも安心するだろう。
魔物使いとしての才能は折り紙付きだし、きっと魔法もすぐ習得すると踏んでいた。
「それにな……」
シャーロットの肩をぽんっと叩き、アレンは爽やかな顔で告げる。
「気に食わんやつに攻撃魔法をぶちかます快感は、この世でも五本の指に入るイケナイ快感だ。おまえにもそれを味わって欲しくてな」
「は、はあ……」
「それはたぶん、限られた人向けの快感だと思いますけどね……」
ジルがちょっと引いたような苦笑をうかべた。
続きは11/2(土)に更新予定です。ペースが落ちて申し訳ない……!
車椅子の青年・ジルは二十七話以来の登場です。再登場が延び延びになってしまいました。
下記リンクの人気投票は日曜いっぱいまで受け付ける予定です。よろしくお願いいたします。





