百四話 イケナイデート計画②
アレンも、もちろんちょっとしたダメージを受けた。
しゅんっと肩を落として、書き留めたメモをじっと見つめる。
「これでは面白みがないのか……ならばどうするのが正解なんだ?」
「逆に言えば、正解なんてありませんのにゃ」
ミアハはやたらと優しい目をして、アレンの肩にポンっと手を置く。
「大事なのは相手になにをしてあげたいか、ですにゃ。参考にすべきはマニュアルなんかより、魔王さんがこれまでシャーロットさんと過ごした日々ですにゃ」
「これまでの、日々……」
「そうですにゃ。魔王さんはシャーロットさんを幸せにするために……なにをしてあげたいんですにゃ?」
ミアハの問いかけを、アレンは心の中で噛みしめる。
「俺は……シャーロットに……!」
なにをしてあげたいか。
そんなものは、出会った当時から変わらない。
「この世のすべての悦楽を教え込み、それらの快楽の虜とさせて……俺のこの手でデロデロにして、それなしでは生きていけなくしてやりたい……!」
「言い方ってもんがあるだろ、あんた!?」
「すんません……このひと言動が絶望的に悪役チックなんですけど、悪い人じゃないんすよ……だからちょっと通報だけは勘弁してくれますか……」
グローが悲鳴のようなツッコミを入れ、メーガスその他はドン引きするその他の客たちにフォローを入れる。
そんな中、ミアハはうんうんと満足げにうなずくのだ。
「それでこそ魔王さんですにゃ。へたに取り繕おうとしなくても大丈夫。いつも通りでいいんですにゃ」
「ミアハ……ありがとう。おまえは俺の恩人だ……!」
ミアハの手を握り、アレンは上ずった声で礼を告げる。
あれだけ悩んでいたはずが、今では嘘のように視界が晴れていた。悟りを開いたとも言う。しみじみしていると――。
「あ、アレンさん?」
「っ……!」
そこで背後からおずおずと声がかかった。
見ればシャーロットが立っている。いつもと変わりない出で立ちだが、それがやたらとアレンの目にはまぶしく映った。
ごくりと喉を鳴らしてから、ゆっくりと口を開く。
「あ、ああ。もう審査が終わったのか、どうだった」
「はい。無事に……」
そう言ってシャーロットが振り返った先には、ゴウセツとルゥがいる。
ゴウセツの方は真新しいバンダナを首に巻いて、どこかご機嫌で目を細めていた。
『ふぉっふぉ……児戯にも等しき課題でございましたなあ』
『やりすぎないように見てるルゥの身にもなりなよ、おばあちゃん。はいこれ、お疲れ様のリンゴ』
『おお、ルゥどの。かたじけのうございます』
そんなゴウセツに、ルゥはそっとリンゴを渡してみせる。
もともと兄弟が多いせいか、ルゥはなにかと面倒見がいい。監視も介護もばっちりで、なかなかいいコンビだった。
二匹はこれにて無事、シャーロットのお付きとなった。
しかしシャーロットはどこか浮かない顔だ。
「どうした、シャーロット。なにか問題でもあったのか」
「い、いえ……その……」
「ちょっ、ちょっと魔王さん……!?」
アレンをチラチラ見て、シャーロットは不安そうに眉を寄せる。
一方で、なぜかミアハが慌て始めた。
まるで読めない状況に首を傾げていると、シャーロットは意を決したように口を開く。寂しげな笑みを浮かべてみせて――。
「えっと、ミアハさんとお話し中だったんですか? だったら私、ルゥちゃんたちとあっちで待ってますね」
「は……? どうして――」
席を外す必要が、と言いかけてハッと気付いた。
先ほどのアドバイスに感動して、ミアハの手を握ったままでいることに――。
「っっ、これは違う! 断じて違うからな!?」
「きゃっ」
慌ててミアハから距離を取り、かわりにシャーロットの手をがしっと掴む。
そうしてまっすぐ目を見つめて必死になって弁明した。
「ミアハには、ちょっと相談に乗ってもらっていただけだ。けっしてやましいことはない。天地神明に誓って言うが、俺はおまえ一筋だ。信じてくれ」
「へっ、あっ、う…………は、はい……」
その思いが伝わったのか、シャーロットは真っ赤な顔で俯いてしまう。ほっと一安心するアレンである。
一方で『うわー』という空気が店中に満ちた。
続きは10月15日(火)更新します。
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