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百二話 大魔王の苦悩②

 一同は手慣れた調子で片付けを終え、また改めてアレンを囲む。

 全員が全員『帰りたいなあ』という心の声が顔に出ていたが、口に出すものはいなかった。

 壮絶な表情で酒を飲み続けるアレンが、あまりに怖かったからだ。

 

「えーっと、ひとまずは……」

「おめでとうございます……?」

「ああ。おまえたちのアドバイスがあったおかげだ」

 

 戸惑い気味の祝福に、アレンはぶっきらぼうに返す。

 そのまま一週間前の顛末を話しはじめた。


 あの日、花畑でシャーロットに告白しようとしたこと。

 地獄カピバラの絡む紆余曲折の騒動がありつつも、告白を果たしたこと。

 無事、シャーロットと恋人という関係になれたこと。


 おめでたいはずの報告を、アレンはこの世の終わりを見てきたような顔で語った。

 

「それで……シャーロットは今、地獄カピバラの同伴許可をもらいに行っている。奴もうちに住むことになってな」

「フェンリルの次は地獄カピバラかよ……」

「どんどんヤバくなるな、大魔王軍……」

 

 メーガスたちは青ざめた顔を見合わせる。


 地獄カピバラといえば、この世界の冒険者なら誰もがその悪名を知っている。味方にできれば心強いが、滅多なことでは従属しない。優れた魔物使いだろうと、仲間にすることは容易ではないのだ。



 あの一件が片付いたあと、地獄カピバラ――ゴウセツは折り目正しく頭を下げて、こう頼んできた。

 

『ご迷惑をかけたお詫びに、シャーロット様の身辺警護をたまわりたい。どうかお側に置いていただけませんでしょうか』

『いや、動物園に帰れよ』


 アレンは真顔で反対したが、ゴウセツはテコでも動かなかった。

 かなり悩んだものの、目のつくところに置いておいた方がいいかと判断して、しぶしぶ定住を許可したのだ。


 今ではシャーロットの従者その二として、彼女の自室をねぐらにしている。まさかのメスだからまだよかったものの、これが万が一オスだったら、アレンは容赦なく叩き出していただろう。ひとまずルゥに見張らせているが、今のところ怪しい気配はないらしい。


 ちなみに件の動物園に問い合わせたところ『ゴウセツさんを無理やり連れ戻すとか無理です……そちらでお引き取りください……』というにべもない返答が帰ってきていた。



 まあ、それはともかくとして。

 


「それで、話は戻るが……付き合うとは、いったい何をすべきものなんだ?」

「いや、そんなのふつうにイチャつけよとしか……」

「その作法が分かったら苦労せんわ!」

 

 アレンはだんっとテーブルを叩く。


 あれから一週間である。

 恋人になりたての一週間といえば、甘くとろけるような期間であるのは間違いないだろう。

 だがしかし、そんな展開は一切なかった。


 

 たとえば朝一番で顔を合わせて。

 

『あっ、お、おはよう』

『お、おはよう、ございます……』

『…………飯にするか』

『は、はい』


 たとえば日中に、ふと手が触れてしまって。

 

『きゃっ……!』

『す、すまん……! わざとじゃないんだ!』

『い、いえ、大丈夫……です』


 たとえば寝る直前に。

 

『えーっと……おやすみ』

『は、はい。おやすみなさい……です』

 

 万事が万事、そんな調子なのである。



 イチャつくどころか会話すら減っていて、まともに目を合わすこともできずにいた。

 原因は火を見るよりも明らかだ。お互いに意識しすぎている。それだけである。


 とはいえ、これはこれで甘酸っぱくて悪くはない。会話をしなくても同じ空間にいるだけで心が満たされるのを感じて、たしかに以前よりも幸福度は増した気がする。


 だが……恋人になったのだから全力でイチャつきたい。

 それはもう、誰もが目を覆いたくなるくらいにはイチャイチャしたい。


 アレンは恋愛方面に極めて鈍い男ではあるものの、そういう欲求は人並みにあった。むしろ日照りが続いた分、人並み以上に強いかもしれない。

 だがいかんせん恋愛初心者。何をどう切り出せばいいのかが、全くわからないのだ。

 

「恥を忍んで……おまえたちに聞きたい」

 

 居並ぶ男たちを見回して、アレンは真剣に問いかける。

 

「おまえたちは恋人と普段どんな風に接しているんだ? 参考までに聞かせてほしい」

「えっ…………?」

 

 一同はなぜか言葉を失ってしまう。

 アレンが首を傾げていると、メーガスやグローはすこし目そらしてボソボソと告げる。

 

「いや……そりゃまあ、あれだろ。あれ。なんかこう、デートしたりとか」

「うん。やっぱデートだよな。たぶん。そんで花とかアクセサリーっぽいものとか贈る……でいいんだよな?」

「デートするなら、手を繋いでみたりしたいっすね……」

「膝枕とかしてもらいてーな……」

 

 他の面々も、なんだかふわっとしたことしか言わないし、誰とも目が合わない。

 アレンはしばし考え込んで、ぽんと手を打つ。

 

「さては貴様ら、誰も恋人がいないな?」

「ああそうだよ! モテなくて悪いか!」

「ふつうに恋人がいたら、こんな真昼間から集団で酒場になんか来ねーんだよ!!」

「いやうん、すまない。さすがにこれは俺が悪かった」

 

 泣き崩れる男たちに、素直に謝罪するアレンだった。この場唯一の恋人持ちということで心の余裕が生まれたおかげでもある。

続きは10/11(金)更新します。

ブクマや評価、まことにありがとうございます!おかげさまで8000ブクマ目前です。感謝感激です。

つきましては突破したらSS上げます。唐突に書きたくなったからキリのいいブクマ数に乗っかったとか、そんなんじゃないです。はい。

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[気になる点] デスヨネ―…ほんとわからん...どうやったらモテるとか...愚痴とかおしゃべりはするんだけどなぁ...結局友達どまりで終わるんだよ...
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