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時魔術士の強くてニューゲーム ~過去に戻って世界最強からやり直す~(Web版)  作者: 坂木持丸
第3章 王都エンデ

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43話 不自然な襲撃

 荷馬車が王都に近づいたところで。


「――ま、魔物にゃんねっ!」


 ネココさんが緊迫した叫び声を上げた。

 丘の陰になっていたせいで、今まで見えなかったが。

 前方に広がる草原に――黒いシミのような巨大な影の群れが動いていた。


 王都近くにある丘は、農業用水を流し込めないため放牧地にされているようだが……おそらくは、そこで放し飼いされていた家畜を狙っていたのだろう。


(あれは……合成魔獣(キマイラ)か)


 遠目からでもわかる特徴的なシルエットだ。

 火炎を吐く獅子の頭、空を駆ける鷲の翼、猛毒を宿した蛇の尾……。

 あらゆる生き物の強いパーツを寄せ集めたような人工的な魔物。


 1週間前、アルマナの地下迷宮で、魔術士たちが使役していたやつらだろうか。

 迷宮崩落後に地上にあふれたものについては、俺がひそかに倒していたが……まだ討ち漏らしがいたのかもしれない。


「な、なんでこんなとこに、あんなやばい魔物がいるにゃんね!? と、とにかく逃げるにゃんね!」


「……ダメです。もう間に合いません」


 すでに、合成魔獣(キマイラ)はこちらに狙いをすませて、駆け寄ってきている。

 本来、巨体の肉食魔物というのは、獲物の配分の都合上、群れを作らないのだが――統率もよくとれているな。


(……接敵まで、あと10秒ってところか)


 まあ、それだけ時間があれば――問題ない。


「せっかくだ。エル、訓練の成果を見せてくれ」


「え? あ……う、うんっ! わかったっ!」


 エルが頷くとともに――。

 その魔力が光の羽根となって、周囲にひらりと舞った。

 そして、手の中から、すらりと壮麗な光の弓矢が現れる。


「いっくよ~っ! ――“閃光弾Ⅲ(トリプル・フラッシュ)”!」


 ひゅん――ッ! と。

 空へと放たれた光の矢が、流星となって幾筋もきらめいた。矢は合成魔獣(キマイラ)たちの眼前で――かッ! と閃光となって弾ける。


「――ッ!」


 ひるんで立ち止まる合成魔獣たち。

 その隙に、エルが新たな魔法陣を構築する。


「からのぉ~っ! ――“守護聖域Ⅳフォース・サンクチュアリ”!」


 今度は、馬車の足元に現れた巨大魔法陣が光を放った。

 光は障壁となり、飛びかかってきた合成魔獣(キマイラ)たちを弾き返す。


「やった! 発動体なしでも魔術使えたよ!」


「ナイスだ、エル。さっそく訓練の成果が出たな」


「えへへー」


 頭をなでると顔をほころばせるエル。


「これで、クロムくんの役にも立てるかな?」


「ああ」


「って、いちゃいちゃしてる状況じゃないにゃんね!? 結界を張っても逃げ場がないのは同じにゃんね! やられるのは時間の問題にゃんね!」


 慌てるネココさんを前に、エルがにこにこと笑う。


「大丈夫だよ、ネココちゃん」


「にゃ、にゃんね……?」


「だって――クロムくんがいるもん」


 エルがそう言ったときには、俺は荷台から飛び降りていた。


「く、クロムにゃん!? なにしてるにゃんね!?」


 ネココさんの叫び声を背中に受けながら。

 俺は剣を静かに抜いて、結界の外に足を踏み出した。


 合成魔獣(キマイラ)たちは、結界からむざむざ出てきた俺を、バカな獲物だとでも思ったのだろう。舌なめずりしながら、食欲に満ちた目で俺をじっと見てくる。


(……やっぱり、結界があると後ろを気にしなくていいな)


 ただ、エルが専門としているのは光魔術だ。

 光魔術がつかさどるのは、閃光・守護・再生など。

 つまり、攻撃には向いていない。

 だから、ここから先は――俺の魔術の出番だ。



「――“時間加速(ヘイスト)Ⅶ倍速(セブン・スピード)”」



 俺がそう唱えるとともに――ぴたり、と世界が停止した。

 荷台から散った花びらたちが、飛びかかってきた合成魔獣(キマイラ)たちが――空中にゆっくりと浮遊している。

 そんな世界の中を、俺だけがいつも通りの速度で動く。


 ――圧倒的な早さ。


 それこそが、時魔術の強みの1つだ。

 早くなれたところで、攻撃力や防御力が上がることはないが。

 しかし、今の俺の速度について来れる者はいない。

 俺はとんっと地面を蹴り、そして――。


「――“倍速解除”」


 ちん……と、剣を鞘に収めた。

 同時に、世界が元の速度で動きだす。


「な、なにしてるにゃんね!? 危ないにゃんね! 戻るにゃんね――!」


 背後からネココさんの必死そうな声が飛んでくるが。

 しかし、俺はそれに笑って応えた。


「いや、大丈夫ですよ」


 俺はくるりと合成魔獣(キマイラ)たちに背を向ける。



「――もう、終わりましたから」



 その次の瞬間。

 ぶっしゃぁあぁあ――ッ! と。

 合成魔獣(キマイラ)たちが一斉に血飛沫を上げて、その場に崩れ落ちた。


「にゃんね!?」


 唖然としたように目を白黒させるネココさん。

 時魔術の存在はあまり知られたくはないが……まあ、倍速術式なら身体強化の魔術としてごまかしが効くだろう。

 俺が荷馬車へと戻っていくと、エルが駆け寄ってきた。


「クロムくん! 大丈夫、怪我はない?」


「ああ。あのぐらいの敵じゃなんともないから」


「あの魔物が……あのぐらいの敵、にゃんね……?」


 ネココさんが口をぱくぱくさせる。

 なにか問いたげだったが、なにから言葉にしていいのかわからないという様子だった。


「く、クロムにゃんはいったい……何者にゃんね……?」


「え? ただのエルの幼馴染ですが」


「わたしの自慢の幼馴染だよ?」


「なにかおかしいにゃんね、この2人……」


 まあ、嘘はついていない。

 本来ならば俺は、ただの勇者の幼馴染だ。

 勇者エルルーナの物語があるとすれば――その脇役でしかない。


「ふふんっ、ネココちゃんもクロムくんのすごさがわかった?」


「にゃー……ここまで匂いと中身が違う人は、初めて見たにゃんね」


 ネココさんが肩をすくめてから。


「と、ところで……この魔物の死骸、どうするにゃんね? なんかすごい良質な素材の匂いがするにゃんね」


「まあ、魔術士協会に品種改良された魔物ですしね」


 前回の人生では、俺も魔術士協会にいたから合成魔獣(キマイラ)を使うことがあったが。

 こいつらは戦闘力だけじゃなくて、実験素材としての有用性も考えられていた。なんなら、食用にも適していたはずだ。


「欲しかったら、もらってください」


「む、無料でいいにゃんね?」


「まあ、放置するのも不衛生ですし、他の人が困りますしね。道を綺麗にしていただけるなら、それで」


「神様にゃんね!」


 ネココさんが尻尾をふりふりさせる。

 それから、みんなで協力して、ひとまず持っていける素材を荷台にくくりつけていった。


「――“浄化Ⅲ(トリプル・ピュア)!”」


 エルも魔術の訓練もかねて、浄化魔術で臭いや汚れなどを消し去る。

 持っていけない合成魔獣(キマイラ)たちの肉については、ネココさんの巨大猫にがつがつと食されていた。


「にゃんねにゃんね~♪ これでお金がっぽがっぽにゃんね~♪ クロムにゃんには感謝にゃんね~♪」


 やがて、綺麗さっぱりした道を見ながら、ネココさんが満足げに額の汗をぬぐう。

 こんなことで喜んでもらえたのなら、なによりだ。

 しかし――。


「…………」


「どうしたの、クロムくん?」


「ああ、いや」


 俺ははぐらかしてから、合成魔獣(キマイラ)の死骸に視線を落とした。


(……不自然な襲撃だったな)


 解体してみてわかったが……。

 この合成魔獣(キマイラ)たちの胃袋は空だった。

 つまり、放牧地にいたのに家畜を襲っていなかったのだ。


 それなのに、俺たちを見るとまっしぐらに襲ってきた。

 まるで、誰かに指示されていたかのように。

 それに――。


(こいつら……迷宮にいた合成魔獣(キマイラ)じゃないな)


 それもそのはずだ。

 迷宮にいた合成魔獣(キマイラ)たちは、地下の狭い通路を警備していたのだ。こんな巨体では小回りがきかないし、空を飛ぶための翼も邪魔にしかならない。


(なら、どこから来た……?)


 いや、そんなのは――決まってるか。

 俺は前方を睨みつける。

 そこに見えるのは、王都エンデの町並み。

 そして、その中にひときわ高くそびえ立っているのは――。


 ――魔術士協会の塔だ。


 遠視魔術でも使えば、塔からここの様子も見えていることだろう。

 だとしたら……。


(狙いは――俺か)


 俺は過去に戻ってから、魔術士協会の企みをことごとく潰してきたのだ。

 そのうえ、地下拠点を潰したときに、けっこう目立ってしまった。


(今回の襲撃は……俺が“魔術士たちを倒した人間”だと確認するためのものか)


 そして、確認されてしまった。

 だとすると――本格的な攻撃が、ここから始まるだろう。


「もふもふ~」


「あっ、尻尾のつけ根はダメにゃんね! 有料にゃんね! あっ……あぁあっ!」


 平和にたわむれているエルとネココさんを、ちらりと見る。

 彼女たちの笑顔をくもらせないためにも――。


(……気を引きしめないとな)


 王都エンデを前にして、俺はひそかに拳を握りしめるのだった。


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