第52話 見て見ぬふり(2)
だから貧弱な人種の僕はコツコツだが頑張るしかない。それにもしかする? 異世界ファンタジーの一応は主人公である僕は、何かの拍子やきっかけでアニメやマンガ、ライトノベルの主人公達のように能力向上で《《覚醒》》する可能性だって0パーセントではないからね。
僕はコツコツと一人別の部屋……。御妃さま達とは不仲だから寝ている彼女達を起こさないようにしつつ基礎訓練を続けている。
扉の隙間……。漆黒の闇に覆われた空間の向こう側から、サラちゃんとアイカさん……。そしてプラウムさんにエリエさん……。シルフィーの阿保以外は僕の様子を窺いながら。
「……アイカ姉……。このままだと健ちゃん、この集落からいなくなるかも知れないよ? ……それってサラは嫌なのだけれど。アイカ姉は、それでもいいの?」
サラちゃんが悲しく不安そうな瞳で、僕のするだけ無駄な自主訓練を見ながらアイカさんに問いかけているとも知らずに。僕は訓練に励んでいた。
そんな馬鹿で、阿保で鈍間な亀である僕だから。サラちゃんが悲しい顔で何とかして欲しいと歎願されてもアイカさんは僕のことを侮り、嘲笑っているから。
『放っておけばいい、あなな男……。わらわもあやつのことが好きで結婚をしている訳ではない。ただ前王の命で夫婦になっただけだから、奴がどうなろうが、わらわは知らぬ……』と、
アイカさん冷たくサラちゃんへと告げる訳ではなく。
「……父上の命だから、わらわではあのひとを守ることができないの、兄さんにも監視されているから……。本当にごめんね、サラ……」
アイカさんも悲しい顔で、僕のコツコツとしている努力を陰で見守ってくれているみたい。
しかし僕は、そんなことなど知らないから。
「くそ! くそ! 絶対にアイツ等を見返してやるんだ!」と。




