第140話 肖像画(5)
「あ、あの、姫さま?」と。
僕は声をかけ。
「何か書くもはないですか?」と尋ねた。
「……ん? 書くもの?」
姫さまは僕の問いかけに対して、可愛く首を傾げるから。
(ああ、姫さまは、絵を描くのに鉛筆とかクレヨンなどの染料がいることをしらないんだね)と。
僕は悟ることができたから。
「姫さま。そこの焚火の中の炭をもらっていいですか? それを鉛筆代わりに使用して、僕は姫さまの絵を描きますから」
僕は焚火の炭をくださいと姫さまに嘆願をした。
「……ん? 良いですよ。使用しなさい。許可をします」
姫さまは、まるでこの集落の女王さまのような振る舞い。
そう、僕の元嫁アイカのように威厳のある態度で僕に炭の使用許可をくれた。
「はい、ありがとうございます」
僕は何とか気力を振り絞り、姫さまに愛想笑いをしつつ、お礼を告げると。
僕を神への生贄にするために用意をされた焚火へと、フラフラした足取りで向かう。
そして焚火の炭にあるちょっと大き目な隅へと手を差し伸べ、指で摘まむ。
ジュー!
すると直ぐに、何かが焼ける音と香ばしい香りが漂う。
そう、炭を掴んだ僕の指が、まだ熱を持つ炭に焼かれた音と匂いが漂う。
だから僕の指に激痛が走ったのだろうと思うけれど?
僕が先ほど説明をした通りで。
僕はもう既に、自身の身体が痛くて仕方が無い。
本当は立って歩くことさえ、困難な状態なのだけれど。




