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太陽を抱く君へ  作者: 雛子
序章
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B.C.1390

 世は、メンケペルウラー、通称トトメス4世の治世。

 ヒッタイトによる危機に対抗するため、ミタンニをはじめとする諸国との間に同盟を締結し、シリア方面の情勢を安定させる成果を挙げた勇猛果敢なこの王が存在したのは、遠い未来において新王国時代と呼ばれるエジプト最盛期、紀元前1390年、王都テーベでのことである。

 トトメス4世の死期が近づく中、その嫡男である一人の王子を次の王とする準備が内密に進められていた。



 王都テーベより南、エジプト中部に位置する大都市ムノにはひとつ、飛びぬけて立派な屋敷があった。

 この屋敷の主の名をイウヤと言う。ムノの統治を王から任された彼はデルタ地帯の生まれ、有能な軍人として軍司令官にまで栄進したほどの男である。

 彼とその妻チュウヤの間には二人の息子と一人の娘がいた。


 二人の息子をアネンとアイ。


 末の娘を、ティイと言った。





 武芸。勇ましい。弱いより強い方が断然いい。自分の身くらい自分で守れるようでありたい。


 学問。多くの知識が欲しい。この世の多くのことを、生きている時間の中で、知られる限りのことを知りたい。知らぬまま死ぬなど御免だ。


 馬術。馬に乗って、自由にどこまでも駆けてゆきたい。



 ──しかし、これらすべては男子が行うべきものである。



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