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俺が聖女で、奴が勇者で!?  作者: 柚子れもん
第三章 魔法使いの島
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6 魔法の島

 その後も、魔物が出てくるたびにフィオナさんがささっと片付けてしまうので、俺たちの護衛としての出番は無いに等しかった。

 うーん、楽な仕事ではあるけどなんかもやっとするな……。

 そんなこんなで余裕ができたので、俺はフィオナさんにリルカの持ち物のブローチとネックレスについて聞いてみることにした。博識な彼女なら何か知ってるんじゃないかと思ったからだ。

 だが、フィオナさんはブローチとネックレスをじっくりと検分した後、残念そうに首を振った。


「これは模倣宝石イミテーションね。ごめんなさい、私の行く店では目にしたことはないわ」


 どうやらこのアクセサリーは本物の宝石ではなく模倣宝石イミテーションだったらしい。まあ、だったらフィオナさんが知らなくても無理はないよな。お姫様ならわざわざ模倣宝石イミテーションなんか買わなくても本物の宝石がいくらでも手に入るだろうし。やっぱり俺たちが自分で探すしか無いようだ。

 そんな事を考えているうちに、いつのまにか大陸最大の湖、エール湖の西岸に近づいていた。陽の光を浴びて、湖面がきらきらと輝いている。ここからまた船に乗って、湖に浮かぶ島へと行くことになる。

 その先が俺たちの目的地、アムラントの街だ。


「……懐かしいわね」


 湖畔に立ち、フィオナさんは嬉しそうに目を細めた。

 本当ならお屋敷の中で大勢の使用人にかしずかれるような立場なのに、彼女はたった一人で魔物の群れを爆破してしまうようなとんでもないお姫様だった。

 きっとフィオナさんはお屋敷の中でじっとしているより、外に出て魔物と戦ったり大学で魔法の研究をしたりする方が性に合っているんだろう。俺はそんな彼女を素直にすごいと思う。


「ほぉ、あそこに見えるのがアムラント島か?」

「そうよ。島のほとんどは森林だけど、大学を中心として街が形成されてるの」


 テオとフィオナさんの会話を横で聞きながら、俺は湖の向こうへ目を凝らした。確かに二人の言った通り、ぼんやりと遠くに緑の島影が見える。

 それにしても大きな湖だ。当然だが向こう岸なんて全然見えなかった。きっと湖だって知らなかったら、俺はここを海だと思っていただろう。


「……さあ! ぼけっとしてないで行くわよ!」


 しばらく湖を眺めていた俺たちはフィオナさんの声を合図に、渡し船に乗る為に歩き始めた。

 そして海を越えてきた船よりは幾分か簡素な渡し船に乗って、俺たちはアムラント島へ出発した。


 近づくにつれて島の全体が見えてくる。

 沿岸からぐるりと城壁に囲われており、少し高い位置には大きな石造りの城のような建物が建っている。その建物へと続く道の周囲に町ができているようだった。


「あそこの大きな城、あれがアムラント大学よ」


 フィオナさんが城を指して教えてくれた。なるほど、あれがそうなのか。大学なんて初めて見たがかなりの大きさだ。きっと選ばれたエリートしかあそこに入ることは許されないんだろうな。



 ◇◇◇


 《フリジア王国東部・アムラント島》



 湖岸に付き、俺たちは船を降りていよいよ島へと足を踏み入れることになる。城壁をくぐると、そこはもう様々な店が所狭しと立ち並ぶ通りになっていた。


「うわぁ、すごぉい!!」


 よく見ると、店に売っているのは不思議な商品ばかりだった。瓶に入ったさまざまの色の薬、多種多様な杖、薬草、自動で動く人形、何故か逆回りに針が進む時計なんてものまであった。いったい何に使うんだろうか。


「ほら、みとれてないで早く行くわよ! 何か買うなら後にしなさい!」


 フィオナさんにそう促されて、俺はしぶしぶ足を進めた。通りは人でごった返していたが、多くの人はリルカと同じような杖を身につけている。思った通り魔法使いが多いみたいだ。不意儀と、すれ違う人たちはみんな生き生きした目をしていた。フィオナさんと同じく、ここで魔法を学ぶことが嬉しくて仕方がない、という感じだ。なんかいいな、こういうの。

 誘惑を振り切りながら通りを進んでいくと、跳ね橋の向こうにひときわ大きな門が見えた。武装した門番もいて簡単に通れるという訳ではなさそうだ。特に悪いことはしてないけど、俺はちょっと怖気づいた。

 だがフィオナさんは物怖じせずにずんずんと歩き、小さな体で堂々と門番の前に進み出た。


「ダラス研究室所属、フィオナ・アルスター。休暇から戻ったわ」

「失礼ですが、杖を」

「ええ、どうぞ」


 フィオナさんが杖を掲げると、同じく門番の杖を取だしフィオナさんの杖と合わせた。特に変化があるようには見えなかったが、門番は納得したように頷き笑顔を見せた。


「帰還を歓迎します」

「ありがとう。後ろの四人は私の付添いよ。バンクルを頂けるかしら?」


 フィオナさんがそう尋ねると、門番は嫌な顔一つせずにすぐ脇の詰所へ戻り、四つの細い金の腕輪のような物を取ってきた。


「はい、中にいる間はこれを付けてちょうだい。これがないと捕まるから失くさないでよ」

「……普通の腕輪ではないのか?」

「魔法がかかってるの。怪しい行動をとっても捕まるから、くれぐれも変なことはしないでちょうだい」


 俺は言われたとおりに腕輪を付けた。魔法がかかってる、と言ってたという事は、もしかしたらこれを付けている間は監視でもされてるんだろうか。うーん、特に変なことはするつもりじゃないけどなんとなく恐いな……。

 門を通り抜けるときはちょっとドキドキしたけど、別に咎められるような事も無く通り抜けることができた。そして、そのまま俺たちは大学内へと足を踏み入れた。



 ◇◇◇



 ぱっと見ただけでも大学内は複雑な地形になっていた。元々山に沿って建てられている上に何度か増改築したような迷路のようになっている。あちこちに階段、小さな建物、石でできた壁が立ち並び、すぐ近くに見えてもたどり着くには随分と遠回りをしなければならない、ということが頻繁にあるらしい。初めて来た人なら確実に迷ってしまうだろう。


「うわぁ、迷いそう……」

「まったく、情けないわね! いい、これを見なさい」


 俺が思わずこぼした声を聞いて、フィオナさんは懐から一枚の紙を取り出した。何やらごちゃごちゃと描かれている地図だ。だが、よく見るとアムラント島全体の地図のようだった。島の形と大きな城が確認できる。

 そして、フィオナさんは地図に気を取られていた俺の髪の毛をぶちっと勢いよく引き抜いた。


「痛あぁぁぁ!!」

「大げさね! ほら、見てなさい」


 フィオナさんは地図の上に俺の髪の毛を乗せると、手をかざして呟いた。俺は涙目でその様子を見守る。


「“現せ(インディケイト)”」


 すると、地図の中心ににぼんやりとした金色の点が現れ、すすっとある位置に移動した。


「ここが通りで、ここがさっきの門。この点が移動したのが、今の私たちがいる所ってわけ」


 フィオナさんが地図上で順に指差したところを見れば、確かに門のすぐそばの点が向かったところが俺たちのいる場所のようだった。


「あんたもやってみなさい」


 そう促されるままに、俺は地図に手をかざして呪文を唱えた。フィオナさんの時と同じように、すぐに地図上に金色の点が現れる。


「すごい……!」

「ここで研究されている魔法道具マジックアイテムの一種よ。ただ、探知対象が特製のバンクルを身に着けていて、呪文を唱える側が探知対象の体の一部を持ってないと意味がないから気を付けて」

「…………体の一部?」

「……そんなに怖がらないでよ。ちぎった髪の毛でも大丈夫なんだから!」


 体の一部、という言葉にちょっと戦慄した俺に気が付いたのか、フィオナさんは慌ててそうフォローしてきた。そのまま彼女は地図の上にあった俺の髪の毛を掴むと、取り出した瓶に入れてまた懐にしまいこんだ。……何に使うんだろうか。


「その地図はあげるわ。迷ったら使いなさい。呪文を唱える側と探知対象が同一人物でも特に問題ないはずだから」


 フィオナさんはそう説明して、俺に地図を手渡した。

 なるほど、これは便利だ。いちいち髪の毛を抜かなきゃいけないのはあれだけど、俺だったら絶対迷いそうだからありがたく使わせてもらうとしよう。

 迷子問題も解決したので、俺たちはまた大学内を歩き出した。どうやらフィオナさんの目的地は湖から見えた大きな城の中にあるようで、地図で見る限りここから結構距離がありそうだった。

 

 大学……というのは学校の一部だと聞いていたのでやっぱり若者が多いのかと俺は思っていたのだが、ここにいる人たちはそうではなかった。もちろん若い人もいるにはいいるのだが、普通に髭を生やしたおじいさんや、その辺のパン屋でもやってそうなおばさんなどいろんな年代の人がいるように見える。でも、見た目で人を判断すべきじゃないのかもしれない。俺たちと一緒にいるフィオナさんだって、どう見ても15歳くらいにしか見えないのに成人済みだって言うし、これで亜人種の血が混じってたら見た目の年齢なんてあてにならないだろうしな。

 

 ちなみに、若い人ばかりじゃないのはここが学校というより研究機関としての側面が強いからだとフィオナさんが教えてくれた。

 なるほどなー、思いながら歩いていると、向こうからリルカと同じくらいの年の女の子が歩いてくるのが見えた。……まさか彼女はここの研究者じゃないだろう。きっと親か誰かがここにいて、俺たちと同じようにその付添いとして来ているんだろうな。そんな事をちらっと考えたが、そんな考えは彼女の顔を見た瞬間に吹っ飛んだ。

 そこにいた女の子は、今の俺によく似た……というかほぼ同じ顔をしていたのだ。


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