表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺が聖女で、奴が勇者で!?  作者: 柚子れもん
第七章 大地の中心で愛を叫ぶ
237/340

27 女神の差し金

 

「こんばんは、皆様方。夜分遅くに失礼いたします」


 オリヴィアさんは唖然とする俺たちを見回すと、にっこりと優しく微笑んだ。


「……殿下もオリヴィア嬢も、こんな夜遅くにいきなりどうしたんです?」


 ジークベルトさんが「夜遅く」と「いきなり」を強調しながらそう問いかける。

 するとオリヴィアさんの後から姿を現したヴィルヘルム皇子が、慌てたように弁解を始めた。


「済まない、ジークベルト。私は止めたんだが……オリヴィアがどうしてもと言うので……」

「申し訳ありません。どうしても今お会いしておきたかったのです」


 オリヴィアさんはゆっくりとそう告げると、じっと黙ってこの光景を見ていたアコルドを振り返った。

 そして一転したように意地悪い笑みを浮かべると、つかつかと彼に歩み寄った。


「招かざる客はわたくし達だけではないようですね……。まったく、とんだ狼藉者が入り込んだことですわ。さっさと出て行ってくださらないかしら」


「…………え?」


 オリヴィアさんは相変わらずにこにこと笑ったままだ。でも、その目は笑っていなかった。

 ……俺の知ってるオリヴィアさんとは違う。

 皆、普段のオリヴィアさんからは考えられない態度に唖然としていた。


 …………まさか、彼女は、


「……本題に入れ、エルダ」


 アコルドが少しイラついたようにそう口にする。すると、その場に居た皆が息を飲んだのがわかった。

 やっぱりな、と俺は内心で納得した。


 前にも、オリヴィアさんの様子がおかしくなったことがあった。その時彼女は、自らをエルダ――この世界を守護する女神の名を名乗ったのだ。

 実際にラファリスも、神が人の体を借りて語りかけることがあると言っていた。以前女神エルダがオリヴィアさんの体に憑依して、俺に話しかけてきたとも。

 今も、同じ状況なんだろう。


「ならば単刀直入に言うぞ」


 オリヴィアさんは瞬時に笑みを消すと、大きく息を吸った。


「この世界から手を引け。これ以上貴様の勝手を見過ごすわけにはいかぬ」


 真っ直ぐにアコルドを睨み付けて、オリヴィアさん――女神エルダはそう告げた。

 俺たちは何も言えずに二人を見守る事しかできなかった。

 対するアコルドは動じる事も無く、小さくため息をついた。


「……俺の役割を覚えているか」

「……世界の調和を保つこと、であろう? だが、貴様の行いはその真逆ではないか」


 女神エルダはまた一歩アコルドに近寄ると、勢いよくその胸倉を掴み上げ怒鳴った。


「貴様がアリアを殺した!! あやつを惑わし、死に追いやったではないか!」


 その言葉を聞いた途端、俺の心臓がどくんと跳ねた。

 体がかたかたと震えだす。

 まだ女神エルダはアコルドに何かを怒鳴っていたが、もう俺の耳には入らなかった。


 ラファリス――女神アリアは死んだ。

 俺の、代わりに。


 あいつはこの世界を守護する女神様で、俺なんかよりもずっとずっと大事な存在だったのに……!


「ま、待ってください!」


 気が付いたら俺は女神エルダの目の前まで飛び出していた。ヴォルフが慌てたように俺を引き戻そうと腕を引っ張ったが、俺は頑としてその場にとどまり続けた。


「ラファ……アリア様が死んだのは…………俺のせいなんです!!」


 女神エルダがアコルドから視線を外し俺の方へ振り向いた。

 どうしても真正面から視線を合わせることができなくて、俺は俯きながら言葉を絞り出す。


「本当は、俺が死ぬはずだったのに……あいつ、俺の代わりにっ……!」

「そんな事くらいわらわも承知しておる」

「…………ぇ?」


 女神エルダはアコルドから手を離して、俯く俺の目の前までやって来た。

 そして正面から俺の肩に手を置くと、言い聞かせるような口調で語りかけてきた。


「守護女神がこの大地に生きる者を守るのは当然のことだ。貴様が気に病む必要はない」

「でも……」

「アリアは自分で貴様を生かす道を選んだのだ。責を負うべきなのはそこまでアリアを追い詰めたあの男だ。まったく、神の風上にも置けぬ奴め……」


 女神エルダがまたそう言ってアコルドを指差す。アコルドは再び大きくため息をついた。


「手厳しいな。それよりも……っ!」


 突然アコルドは何かに気づいたかのように天を仰いだ。

 それと同時に、俺の目の前にいる女神エルダ――オリヴィアさんの頭頂部の髪の毛が、何かに引き寄せられるようにふわりと一房立ち上がったのに気が付いた。


「これは……」


 女神エルダは急に目を瞑って黙り込んだ。

 俺はどうしていいのかわからずにじっとその光景を見ていたが、彼女はすぐに目を開くとアコルドを振り返った。


「……これも貴様の差し金か」

「いや、違う。純粋な事実伝達だろう」


 そう言うと、アコルドは何が起こったのかまったくわからずにいた俺たちに視線をやり、口を開いた。


「……フリジア王国、アムラント島。また厄介な奴らに入り込まれ、危機的状況だそうだ」

「はあ!?」


 いきなり何を言い出すんだこいつは、と俺は戸惑ったが、俺のすぐ隣にいたリルカが慌てたようにアコルドに詰め寄りだした。


「ど、どういうことなんですか!?」

「言った通りだ。わざわざイシュカが知らせてきたという事は、ただ事ではないだろうな」

「そんな……」


 リルカが呆然としたように呟く。俺の脳裏にも、嫌な記憶が蘇った。

 大学内にあふれる魔物。瘴気にあてられ倒れる人々。

 また、あの時みたいな事態になっているとしたら……


「……行こう!」


 俺は元気づけるようにリルカの肩を叩いた。少し瞳を潤ませたリルカが振り返る。

 俺自身も不安で仕方なかったが、リルカを安心させるようにわざと明るい表情を作る。


「行けば、俺たちにもできることがあるかもしれない」

「でも、今からアムラント島を目指すとなると相当時間がかかりますよ」


 ヴォルフにそう言われ、俺は初めてその事に気が付いた。

 確かに、ここからアムラント島は一日二日で着く距離じゃない。

 俺たちが辿り着いた時には、全てが終わっているのかもしれない。


「……それでも、ここでじっとなんてしてられないだろ」


 そう口にすると、リルカが同意するように何度も頷いた。


 あそこにはリルカの師匠のフィオナさんや、精霊の家族や、ホムンクルスの体を作り出した錬金術師がいる。リルカにとっての故郷なんだ。

 このまま何もせずに放っておくわけにはいかないだろう。


「レーテ、お前もだからな」


 そう声を掛けると、地面に座り込んでいたレーテはすっと俺から視線を逸らした。

 アムラント島には、レーテの妹のイリスもいるんだ。いつかレーテを連れて行くと俺はイリスに約束したし、今がその時なのかもしれない。

 レーテは返事はしなかったが、拒絶もしなかった。

 嫌なことははっきりと嫌だと言う奴だし、これは肯定ととってもいいだろう。


「なんだかよくわからないけど、頑張ってね」


 ジークベルトさんはひらひらと俺たちに手を振った。

 俺はもう一度深くジークベルトさんに頭を下げるとそのまま勢いよく屋敷を出て歩き出そうとした。だが、すぐに女神エルダに呼び止められる。


「待て、わらわが送ってやる」

「え、送るって……」

「いいからここに立っていろ」


 女神エルダは俺たちを自分の目の前まで呼び寄せると、いきなりぎゅっと俺の腕を掴んだ。

 その途端腕が一気に熱くなり、次の瞬間俺の腕から何か黒い煙のような物が出て行った。


「憑かれていたぞ。よくないものを引き寄せていたな」

「あ……」


 ルディスと戦ってから、魔物や教団の人々によく襲われていた事だろうか。

 きっと俺に憑いてた変なモノを、エルダ様が浄化してくれたんだろう。


「……ありがとうございます」

「……俺も行こう」


 頭を下げる俺の元へアコルドが近づいてくる。俺たちは驚いたが、女神エルダはすっと目を細めただけだった。


「今度はイシュカを丸め込もうというつもりか」

「あいつがそんなタマでないことはお前も知っているだろう」

「……まあいい。今度こそ、貴様は責を果たせ」


 そう言うと、女神エルダは何やら早口で呪文のような言葉を紡ぎだした。

 その途端、経験したことのない浮遊感が俺を襲う。

 視界がちかちかして、すぐにすべてが真っ白に染まる。



 次の瞬間、何かに引き寄せられるように俺の体は地面に落下していた。



「いったあぁぁ!!」

「誰!?」


 思いっきり尻のあたりをぶつけて悲鳴を上げると、俺に向かって鋭い声が飛んできた。

 思わず目を開けて、俺は驚愕した。


「フィオナさん!?」

「リルカ! それに、あんたたち……」


 流れる栗色の髪に、特徴的な尖った耳。

 俺の前に現れたのは、以前お世話になったエルフのお姫様、フィオナさんだったのだ。


 慌てて周囲に目をやると、リルカ、ヴォルフ、レーテ、それにアコルドもちゃんと一緒にいた。

 俺たちはさっきまでヴァイセンベルク家の屋敷の庭にいたはずなのに、ここは見た事のない部屋だった。

 でも、部屋の雰囲気自体は以前訪れたアムラント大学の室内によく似ている。

 それに、フィオナさんがいるってことは……まさかここは、アムラント島か!?


「あんたたち、いつの間にここに……」

「そ、それより、大丈夫なんですか!?」


 リルカが慌てて立ち上がりフィオナさんに詰め寄る。

 フィオナさんはしばし事態を飲み込めていないのか固まっていたが、すぐに大きく息を吸うと口を開いた。

 だが、その途端部屋の扉が勢いよく開いた。


「フィオナ! どうしました!?」


 やってきたのは、アムラント大学の教授でイリスの面倒を見ている女性――ディオール教授だった。

 俺の知ってる彼女はいつもおっとりしていて穏やか笑みを絶やさない人だったが、今の彼女はひどく慌てたような様子だ。


「あなた方は、いつの間に……」

「……ディオール教授、彼らなら!」


 驚いたようなディオール教授を見て、フィオナさんが何かをひらめいたように声を上げた。

 ディオール教授もはっとしたような表情になると、じっと俺たちを見まわした。

 俺は一体二人が何の話をしているのかわからずにただ成り行きを見守るしかなかった。

 ……状況的に見て、間違いなくここはアムラント島だろう。

 一瞬でこんな所まで来たのも驚いたが、それよりも二人の焦ったような様子が気になった。


「……申し訳ありません。あなた方に頼みたいことがあるのです」


 ディオール教授が憔悴した顔でそう告げる。

 きっとこの島での騒動のことだろう、と俺は気を引き締めたが、彼女の口から出たのはまったく予想外の言葉だった。


「イリスが……イリスが攫われたのです! お願いです、皆様方! あの子を助けてください!!」


 一息でそう告げると、ディオール教授は手で顔を覆ってすすり泣いた。

 思わぬ言葉に俺の体は固まった。だが、背後から聞こえてきた低い声に俺の意識は否応にも現実に引き戻されざるを得なかった。


「…………なんだって」


 反射的に振り返る。

 そこには、ディオール教授に負けないほどにひどい顔をしたレーテがいた。





ちょっと中途半端ですが、ここで7章終了です。次回からは8章が始まります!

8章は3章に深く関係する章になります。けっこう再登場する人もいます!

姉妹の再会とか、あといろいろ再会があります!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ