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俺が聖女で、奴が勇者で!?  作者: 柚子れもん
第六章 帰郷、再会、聖女の暴走
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4 地下の毒花

 一番最初に父さん、次にヴォルフ、最後に俺……という順番で、俺たちは穴の中へと降りて行った。

 俺が降りる途中で、底まで到達したらしい父さんが声を掛けてきた。

 中々深いが、ちゃんと底があるようだ。

 ……まあ、当たり前か。


「意外と広そうだな……よく見えんが」


 穴の底は思ったよりもずっと広いようだ。

 ただ当然地下なので、俺たちが通って来た穴からわずかな光が差し込んでいるだけで、ほとんど真っ暗だった。


「うーん、これからどうするか……」

「…………“小さな光(ピコライト)”」


 小さく呪文を唱えると、俺の手のひらに小さな光が現れた。

 杖が無くても、簡単な呪文なら問題なく使えるようだ。

 光に気が付いたのか、父さんが嬉しそうに振り返った。


「おお、助かるよ! こう暗くちゃ進めんからな」


 どうやら父さんは明かりになりそうなものを持ってきていなかったらしい。

 ……俺たちがいなかったら、本当にどうするつもりだったんだろう。


「洞窟、みたいですね……」


 ゆっくりとあたりを見回しながら、ヴォルフがそう呟いた。

 俺も目の前の光景に驚いた。

 てっきり俺たちが通ってきたような細い穴が続くと思いきや、光に照らされたその場所は優に俺たちの背丈の二倍はありそうな高い天井を持つ、洞窟のようになっていたのだ。


「まさか村の地下にこんな場所があったとは……」


 父さんが感心したように呟く。それには俺も同意だ。

 リグリア村の真下にこんな魔物の住処の洞窟があったなんて……よく今まで無事でいられたものだ。


「それで、その親玉の居場所は?」

「……しらみつぶしに探すしかないだろうな」


 見える範囲だけで、俺たちのいる場所からは何本も道が伸びているのがわかる。

 残念ながら、さっき暴れていた蔓がどこに逃げたのかはわからない。

 父さんの言う通り、しらみつぶしに探すしかないだろう。

 俺たちは迷ってもこの場所に戻ってこれるようにと目印をつけながら、魔物たちの親玉を探して歩き始めた。



 ◇◇◇



 洞窟内には外で見た蜂のような魔物がたくさんいた。

 魔物を倒しつつ洞窟内を探索して……俺は疲れてしまった。

 父さんの手前弱音は吐かないが、もう随分と歩き通しだ。いい加減足が痛くなってきた。

 本当にここに魔物の親玉がいるんだろうか。父さんの見込み違いじゃないだろうな……。

 そんな事を考えながら歩いていると、注意が散漫になっていたのか足が疲れていたのか……俺は何かに躓いて盛大にすっ転んでしまった。


「いったぁ……」

「大丈夫ですか!?」


 慌てたようにヴォルフが近づいてくる。その手を取って立ち上がりながら、俺は何気なく自分が何に躓いたのか確認しようとした。

 そして、そこにあった物を見て思わず悲鳴を上げてしまった。


「うわぁ!?」

「おいおい、どうした?……これは」


 呆れたような顔で近づいてきた父さんも、そこにあった物を見て顔を引き締めた。


 そこには、大量の骨が折り重なるようにして散らばっていたのだ。


「ま、まだ死者は出てないって……!」


 リグリア村の異変について聞いた時、父さんは確かにそう言った。

 じゃあ、この骨はなんなんだよ……!


「これは……家畜の骨だな」

「家畜の骨?」


 俺はおそるおそる再度散らばる骨に視線をやった。

 うーん、俺には人間の骨と動物の骨の違いはよくわからないが、なんだかそう言われてくるとそんな気もしてくる。


「なんだ、よかった……」


 人の骨じゃないとわかって俺は安堵のため息を吐いたが、父さんは険しい顔で散らばる骨の確認をしていた。


「今は安心していいが……これは良くない兆候だな。家畜の味を覚えたら、次は人を狙って襲うようになるかもしれん」

「えぇ……?」


 今ここに散らばっている骨は動物のものだ。

 でも、そのうちこれが人骨になる可能性もあるということだろうか……。


「……なんとしてでも、今日仕留めないとな。ここに骨が落ちてるって事は、奴の本体は近いだろう。気を抜くなよ」


 父さんは真剣な顔でそう告げた。

 俺も拳をぎゅっと握りしめて頷き返す。

 不安がないわけじゃないけど……ここで引くなんてことはできない。

 より一層あたりに警戒しながら、俺たちはまた歩き始めた。



 ◇◇◇



 骨を見つけた地点からさらに歩き続けていると、不意に進む先の方からずるずる……という重い音が聞こえてきた。


「あれって……」

「おそらくはあそこだろう……」


 父さんは神妙な顔をして剣を抜いた。

 俺も思わず身構える。

 そこにいるのがどんなものなのかはわからない。でも、絶対に気は抜けない。


 更に歩き続けると、もうずるずるという音がすぐ向こうから聞こえてくるようになった。

 見たところ、すぐ向こうはかなり広い空間になっているようだ。

 俺たちは覚悟を決めて一歩踏み出した、

 そして、その向こうにあったものを目にして、俺は思わず息を飲んだ。


 まるで城一つは入りそうなひらけた空間に、巨大な花が鎮座していた。

 赤紫色の毒々しい花びらを広げ、その花の周りを地上で見た長い長い蔓がずるずると這い回っている。

 しかもその花びらを広げた大きさは、ちょっと大き目な家くらいの広さがあるのだ。

 更には花の周りに鬱蒼と茂った葉や、ピンク色の袋のようなものまで垂れ下がっている。


 ……こんなヤバそうな花は今までに見たことが無い。

 巨大は花の背後には、花と同じように巨大なゲートが見えた。

 異世界から来た魔物か、長期間瘴気に晒された植物のなれの果てなのだろうか。


「…………取りあえずは作戦会議といこうか」


 父さんは少しこわばった顔で俺たちを振り返ると、小声でそうささやいた。

 俺も無言で何度も頷き返す。

 なんか、思って以上に危なそうな感じだ。あんなものがリグリア村の地下に潜んでいたなんて……今更だけど怖くなってしまう。

 幸い、まだあの花はこちらに気づいていないようだ。

 俺たちはあの巨大な毒花にばれないように物陰に隠れ、ひそひそと作戦会議を開始した。


「おい、どうする? 見たところあの花びらが本体っぽいが……」


 父さんもまさかあんなのが親玉だとは思っていなかったんだろう。顔がこわばったままだ。

 俺もなんとかあの毒花を倒す方法を考えた。

 いくら大きくても、たぶんあれは植物だ。燃やしてしまえばなんとかなるんじゃないかと思ったが、そもそも俺たちは燃やす道具を持ってきていない。


 たぶんリルカがいたら、あんな巨大な毒花でも魔法でぱぱっと燃やしちゃうんだろうな……。


 そこまで考えて、俺はいかんいかんと頭を振った。

 確かにリルカがいれば簡単にあの毒花を燃やすことができただろうが、今ここにリルカはいない

 リルカや……テオがいる時と同じように動いていてはダメなんだ……。


「一旦村に戻って、何かあいつを燃やす道具とか取ってきた方がいいんじゃない?」

「そうですね……それが一番簡単そうです。あの花がどんな手を使ってくるかはわかりませんが、燃やしてしまえばそれで終わりです」


 話がまとまりかけたところで、俺は尻のあたりに撫でられたような感触を受けた。


 ……ヴォルフも父さんも目の前にいるし、そもそもこんな状況で俺の尻を触るとも思えない。

 と、いうことは……

 

 慌てて立ちあがって下を確認すると、そこには細い植物のツタのようなモノがしゅるしゅると動いていた。


「これって……まさか!」


 あの毒花の一部か!?

 そう気づいた次の瞬間、毒花の茎のあたりから地上で見た巨大な蔓がものすごい勢いで俺たちの方へと迫ってきた。


「うわぁ!?」


 間一髪転がって避けたが、その蔓は一本ではなかった。

 何本もの太い蔓が、俺たちめがけて間髪入れず襲い掛かって来た。


「くそっ、こうなったら作戦変更だ! とにかくここで殺るぞ!!」


 父さんがそう叫んで向かってきた蔓を切り裂いた。

 確かに、相手に気づかれてしまってはもう逃げるのは難しそうだ。

 広い空間にいるからなんとか襲いくる蔓に対応できているけど、狭い道に戻ったらきっと蔓から逃げることもできないだろう……!


「ク……レーテさんは僕の後ろに!」


 ヴォルフは素早く氷の剣を出現させると、蔓に向かって斬りつけた。

 わかった、と返事をしようとして、俺は父さんの姿に釘付けになった。

 父さんはちょうど正面から襲いくる蔓に応戦している。

 だが、その背後のからもう一本の蔓がゆっくりと父さんの足元のに忍び寄り、父さんを捕獲しようとしていたのだ。

 正面の蔓に気を取られている父さんはまだその後ろの蔓には気づいていない。


 考えるよりも先に、体が動いた。


「父さん、危ない!!」


 一気にその場から駆け出し、思いっきり父さんの体を突き飛ばす。

 次の瞬間、俺の体はものすごい速さで蔓に巻き付かれていた。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 物語の順序立てがしっかりできている。 [気になる点] だんだん複雑になってる物語を暗示などの表現効果を使って見てはどうか。 [一言] 頑張ってください
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