41章 惑星ドーントレスの危機 13
惑星ドーントレスの大陸に開いた超巨大ダンジョン。
その調査を始めた俺たちは、大量に現れるザコモンスターを倒しながら先に進んでいった。
歩くこと数時間、今までのザコとは違う強烈な気配が前方から迫ってくるのが感じられた。
ルカラスが「ハシルよ、これはAランクが複数いるようだぞ」と言ってきたが、確かにその通りのようだ。
「だな。まず一つ予想が当たった感じか」
Aランクは『特Ⅱ型』、すなわち怪獣クラスのモンスターである。俺たちなので対処は余裕で可能だが、銀河連邦の技術力だと宇宙戦艦で相手をするかないくらいの相手である。『ウロボロス』の最強兵器『ソリッドラムダキャノン』……だとちょっと過剰か。
光属性上級魔法『ジャッジメントレイ』を撃てる『五八式魔導銃』のレプリカが大量配備されれば、兵士でも相手ができるようになるだろう。
さて、現れたのは10体の『一つ目巨人』と、同じく10体の『巨大イカ』、それから10体の『キマイラ』である。もちろんそれらの足元には低ランクモンスターも数千体が並んでいる。パッと見て世界の終末、みたいな絵面の軍団だが、俺たちにとってはそこまでの脅威ではない。
……のだが、さすがにメンタードレーダ議長から念話が飛んできた。
『ミスターアイバ、あのモンスターは非常に強力なものに見えますが、大丈夫なのでしょうか?』
『問題ありません。以前お渡しした『魔導銃』の強力な方で一斉射撃すれば倒せますよ』
『あの強力な携帯兵器ですか。そちらも早急に量産体制を整える必要がありそうですね』
『今回のような件が他にも起きる可能性があるなら急いだほうがいいと思いますよ。幸い材料は大量に手に入りましたからね』
魔導銃に限らず、魔導具を作るのに最も必要なものは魔石である。今回の惑星ドーントレスのオーバーフローによって大量の魔石が手に入っているので、それを元にどんどん量産をしてもらいたいものである。
などとやっているうちに、モンスターの大群が間近に迫ってきた。
こちらはすでに迎撃態勢に入っているので、あとは俺が号令を下すだけである。今回はさすがに議長の護衛の兵士にも参加をしてもらう。
「ザコはアンドロイドに任せて双党たちはデカいのを集中攻撃してくれ。ルカラスもAランクの動きの速い奴を先に頼む。じゃあ射撃開始」
こちらの射撃が開始されると同時に、モンスターたちも咆哮を上げて一斉に走り始めた。
『巨大イカ』は巨大な氷の槍魔法を連射し、『キマイラ』も火の玉を吐いてくる。それらは俺の『アロープロテクト』や、アンドロイドたちが携帯している『個人マギシールド』によって防がれる。たださすがにシールドの方はAランクモンスターの魔法相手だと出力が不足しているようで、アンドロイドが何体か吹き飛ばされて、空中で姿勢を立て直して着地したりしている。
「これほどのモンスターはハシルと共に戦った時でもそうは見なかったな」
と言いながら、ルカラスが青白いブレスを吐くと、『巨大イカ』と『キマイラ』が一体ずつ消滅する。
「お前、俺と一緒に戦っていた時より強くなってないか?」
「無論だ、だてにあれから1500年も経っておらぬ。人化したことによって魔力密度が上がったこともあるようだがな」
「ああなるほどな」
と話をしながら、俺も『トライデントサラマンダ』を連続で放つ。三重螺旋の炎の槍が命中すると、3体のクラーケンが内部から爆発したように弾け飛んだ。
双党たちやアンドロイド兵が放った太い光線『ジャッジメントレイ』も、『一つ目巨人』をプスプスと貫いて倒してしまう。これだけ強力な魔法を精神集中なしで連射できてしまうのはあまりに強い。魔法の力と科学の力が合わさると強さがインフレする気がするな。
そんなわけで、結局Aランクモンスターの大軍団も、あっという間に駆逐されてしまった。今回は俺とルカラスがちょっとやりすぎた感もあるが。
『やはりミスターアイバの力は未知数に過ぎますね。先ほどの魔法は駆逐艦を退けたものと同じですか?』
『ええそうです。あれの少し出力を弱めたものですね』
『素手の人間があのような力を自在に行使できるのは驚くべきことです』
『魔法を覚えて鍛えれば……いや、ちょっと難しいかもしれませんね』
俺はもとからアホみたいに鍛えている上に『魔王』の魔力まで取り込んでいるからな。『トライデントサラマンダ』は勇者パーティの賢者だって連射できる魔法ではなかったし。
さて、魔石や素材を回収し、さらに奥に進んでいくと、どうやらそこでようやくこのダンジョンの最奥に到着したようだ。
むしろ3時間真っすぐ歩くだけで着くのだから、大量に現れるモンスターを度外視すればダンジョンとしては最も簡単なものとも言える。
さて問題は、その最奥部であった。
この巨大通路はダンジョンであるので、通路の突き当りには当然にように巨大な扉があった。
しかもその金属製の扉は、俺たちの感覚からすると未来的な、SF的なものだった。扉というよりは、両開きでスライドするタイプの巨大なハッチと言った方がいいのだろうか。
「なんかこれって開くとロボットとか宇宙戦艦とか出てきそうですよね」
という双党の感想に、俺は「やっぱりそう思うか」と返すしかなかったくらいである。
『ミスターアイバ、この扉もダンジョンの一部なのですか? 人工的なもののように見えますが』
メンタードレーダ議長が、白い靄を揺らしながら俺の隣にやってくる。首の角度から、目の前の巨大な扉を見上げてのがわかる。
「ええ、ダンジョンは時として周囲の環境に合わせて見た目が変わることがあるので、これもダンジョンの一部だと思います」
『興味深い特性ですね。そしてこの奥に、いわゆる「ボス」と呼ばれるダンジョンの主がいるわけですか』
「一般的なダンジョンであればそうですね。もっとも、ここは一般からは大きくかけ離れていますが」
『ではこの扉の先に何があるのか、とても楽しみですね。この扉は私の知覚が通じないところがあるようですし。ただ、あのゼンリノ師が発していたものと同種の力をわずかに感じます』
その言葉に、俺は微妙に嫌な予感を覚えながら、皆に小休止を指示した。
さて、この大きさとダンジョンの感じからしてボスが出るとしたらSランク、つまりあの特Ⅲ型『ヘカトンケイル』と同じレベルのものが出てくる可能性もあるだろう。
俺とルカラスがいればなんとかなるだろうが、本当に問題なのはそれで終わるかどうかなんだよな。




