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勇者先生 ~教え子が化物や宇宙人や謎の組織と戦っている件~  作者: 次佐 駆人


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41章 惑星ドーントレスの危機 10

 総統府ビルの地下施設の奥『特別指令室』にて、俺たちは総統と対面を果たしていた。


 俺と総統の話が一段落すると、それまで横で見ていたダイアルビーお嬢様が、総統の前に一歩進み出た。


「お父様、よろしいでしょうか?」


「お前と話すことなどなにもないと言ったはずだ」


「いえ、これだけはお答えください。お父様がこの星のために色々と手を尽くしていらっしゃったというのはリ・ザから聞きました。では、私をあの時お見捨てになったのも同じ考えからなのですか?」


「そうだ。私はこの星の主権と独立を守らねばならない立場にいる人間なのだ。娘一人のためにそれを投げ捨てることをしてはならない人間なのだ。お前がもしこの後私と同じ立場に立つことがあれば、理解できるようになるだろう」


 そう強く言うと、総統はそのまま口を固く閉ざしてしまった。


 お嬢様は総統の顔を見たまま、しばらく肩を震わせていた。


 父親に「私は娘の命より星を優先する」などと言われた娘の心境など、勇者であっても測れるものではない。


 しかし気丈にも、お嬢様は息を大きく吐き出すと、再び口を開いた。


「そうですか、わかりました。お父様はこの後、正当な裁きを受けるとよろしいでしょう。星のためとはいえ、海賊と手を結び、メンタードレーダ議長を拉致なさった罪は償うべきです」


「……」


「この星のことは、叔父様とも話し合ってなんとかいたします。お父様の思った方には向かわないかもしれませんが」


「……やってみるがいい。それとお前」


 総統は再び俺に目を向けた。


「ゼンリノについて、私が知っていることはそれほど多くない。奴は確かに『オメガ機関』という技術をこの星に持ち込んだ。アビスホール……ダンジョンが現れ始めたのは、奴が来るひと月ほど前からだ。奴はそのダンジョンが現れ始めた星を救うために、『オメガ機関』を広めているのだと言っていた。胡散臭いのは初めから分かっていた。だが『オメガ機関』技術はあまりにこの星に有益だった」


「そうだろうな」


「私がメンタードレーダを拉致したのも、奴がメンター人の能力があれば『オメガ機関』がさらに有用なものになると言っていたからだ。だが今思うと、それは欺瞞であったように思う。奴はむしろ、メンター人の能力を恐れているようだった」


「なぜ?」


「それはわからんが、奴はメンター人の能力を詳しく知りたがっていた。拉致してあの場でメンタードレーダになにかしようとしたのも、恐らくはメンター人の能力を測るためだったのだろう。私が知るのはそれだけだ」


「新しく開いたデカい穴についてはなにも知らないのか?」


「あそこにはもともと最も深いダンジョンが開いていた。現れるアビスビーストも恐ろしく強力で、ほとんど手が出せなかったダンジョンだ。一度ゼンリノが向かったことがあるのでその時細工をしたのかもしれんが、それ以外わからん」


 勇者の勘が、総統が嘘を言っていないとしらせていた。


 まあそれはそうだろう。この星はただゼンリノ師、ひいては『魔王』に利用されただけである。


 俺がふうと息を吐き出していると、部屋の扉の方が騒がしくなった。どうやらルカラスたちが戻ってきたようだ。


 随分早いお戻りだと思いながら迎えに出る。


「お疲れ。早かったな」


「うむ、大した深さのないダンジョンであった。娘らが張り切っていたので我の出番すらなかったわ。ただ、ミソノが面白いものを発見しておったぞ」


 ルカラスに名前を呼ばれて、青奥寺が前に出てくる。


 その手には、加工された魔石がはめ込まれた、円盤型の魔導具があった。


「先生、これなんですけど、以前九神家の人間が人為的に『深淵窟』を発生させていた『深淵核』に似てると思うんです」


「どれ……あ~……」



--------------------

魔窟核


 複数の魔石を合わせ特殊な加工を施し、魔力を放出するよう加工したもの


 含有する魔力量に応じた規模のダンジョンを発生させる


 ただし魔力がなくなればダンジョンは消失する

--------------------



 確かに青奥寺が言う通りのもののようだ。ということは、誰かがこの場所にダンジョンが発生するように仕組んだということになる。


 まあそうじゃなけりゃ、いきなりこのタイミングでこの地下施設にピンポイントでダンジョンができたりはしないか。


 俺は部屋の中に引き返して、総統にその『魔窟核』を見せた。


「これに見覚えはあるか?」


「一時的にダンジョンを発生させる道具だ。ゼンリノが伝えてきた技術の一つだが、やはりそれが使われていたのか」


「身に覚えがあるみたいだな」


 総統は鼻で笑って、皮肉気に答えた。


「権力者である以上、命を狙われるのは珍しいことでもない。特にこのような非常時ではな」


「下手人に心当たりは?」


「いくらでもいるが、その道具は危険なので私は製造は許可しなかった。試作品がいくつかあったが、厳重に保管していたはずだ。手に入れられる人間は私の側近か、将軍くらいだろうな」


「将軍? 宇宙港にいる奴か?」


「宇宙軍の将軍はそうだ。地上には別の将軍がいる」


「ふむ……あ~、そうか」

 

 俺はその時ピンときた。さっきこの部屋に入って来た時に見覚えがある気がした女性だ。


 彼女は確か、宇宙港にいた将軍の副官だったはずだ。名前は確か「ト・ナ」と呼ばれていたな。


「宇宙軍の将軍がこれを設置した可能性がありそうだな。そこにいるのは宇宙軍の将軍の副官だろう?」


「なに……?」


 総統は俺が示した女性をギロッと睨みつけた。


 女性――ト・ナ嬢は一瞬怯んだような表情を見せたが、なんと次の瞬間、腰のホルスターから銃を引き抜いた。


 他の側近たちはすぐに反応して銃を引き抜き、お嬢様の護衛のリ・ザ嬢はお嬢様を守るように動く。ルカラスたちも瞬時に臨戦態勢に入るのはさすがである。


 部屋に緊張が張り詰める――その時ト・ナ嬢は意外な行動に出た。なんと銃口を自分のこめかみにあてがったのだ。映画とかでそういうシーンは見たことがあるが、まさか別の惑星でそれを目にすることになるとは思わなかった。


 彼女は躊躇なく引き金を引いた……ようだったが、生憎その引き金は俺の『拘束』魔法によって動かなくなっていた。ちなみに他の側近の銃も同じことになっている。


 俺は素早くト・ナ嬢に近寄って、その手から銃を奪い取った。


 彼女はそれでも暴れようとしたようだが、残念ながら両手両足も『拘束』済である。


「上官の命令を聞くのは結構なことだが、命は粗末にしない方がいいな」


 俺はそう言って『睡眠』魔法を発動し、眠りに落ちたト・ナ嬢を抱えて近くの椅子に座らせた。


 一部始終を見ていた総統はわずかに眉を寄せ、苦々しそうに言葉を吐き捨てた。


「……なるほど、反総統派の隠れ首魁がまさかギム・レイだったとはな。てっきり弟だとばかり思っていたが、とんだところで真相が判明した。礼を言うぞ」


「そっちの事情は知ったことじゃないが、お嬢様にしっかり引き継いでおいてくれ」


「そうしよう」


 と、どうやらこの場はこれで収まりそうな雰囲気だ。


 総統はもちろん銀河連邦評議会に引き渡しとなり、この星の後を引き継ぐのはダイアルビーお嬢様になるのだろう。今の話を聞くと総統には弟がいるようだ。お嬢様も「叔父」と口にしていたので、そちらが話のわかる人間なら補佐につくこともあるだろう。まあ新たな権力争いが勃発する可能性もあるが、そこまでは俺の関わることではない。


 後は宇宙軍の将軍は総統暗殺の疑惑がかけられることになるだろう。『反総統派』なんて言葉も聞こえてきたが、この星もいろいろ悩みがありそうだ。


 ともかくこれでモンスターの駆除、『オーバーフロー』の鎮静化、そして総統確保までは終了した。後は最後に残った、地上に開いた大穴の調査だが――


『艦長、大変でっす。大陸北部に大穴に多数のモンスター反応が見られまっす。その数およそ10万、しかもその数はさらに増えそうでっす』


 あ~、やっぱりそうなっちゃったか。

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