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勇者先生 ~教え子が化物や宇宙人や謎の組織と戦っている件~  作者: 次佐 駆人


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40章 魔王の狙い  07

 ダンジョンのボス部屋から続く通路の先で、俺はミノタウロスに襲われている若い冒険者パーティを助けた。


 ジーク少年と茶髪の少女ミザネル、それともう一組の少年少女たち。彼らは偶然にも、リーララが世話になっていた孤児院の子たちだった。


 その孤児院はババレント侯爵という悪徳貴族が治める町にあったのだが、その侯爵が決めた無理な法によって、ジーク少年らはやりたくもない冒険者を無理にやらされていたのであった。たまたま俺やリーララが孤児院を訪れた時にジーク少年が怪我をして帰ってきて、それを助けたのが出会いである。といってもその後ポーションを渡した以外は、特に彼らとなにかがあったわけではない。


 ともかく、(くだん)のババレント侯爵は色々あって失脚したので、彼らが冒険者を続ける理由は今はもうないはずであった。


「それで、なんで君たちはまだ冒険者なんか続けてるんだ? ババレント侯爵が捕まって冒険者になる義務とやらもなくなったんだろ?」


 集まってきた4人の前で質問すると、茶髪の少女ミザネルが答えた。


「その通りなんですけど、実は以前に比べて冒険者の待遇が良くなって、かなり稼げるようになったんです。私たちは一応冒険者の経験があったので、それなら冒険者で稼いでみないかってことになって、それでこの4人で活動を始めたんです」


「そりゃまた安易な……。それは院長のハリソーネさんも許可してるのか?」


「お母さんは反対してますけど、でも今ダンジョンが増えていて、冒険者がすごく必要になっているんです。だから社会のためにもなるんだからって言って説得しました」


「なるほど。ところで、ダンジョンはどれくらい増えてるのかわかる?」


「正確な数はわかりません。でも、私たちの町の周りには、急に5つ以上のダンジョンができたみたいです。


「それはたしかに大事だな。しかしそんな装備と腕でDランクモンスターと戦うのは無理があるんじゃないか」


「済みません、それは私たちの考えが甘かったんです」


 ミザネルがうなだれると、ジーク少年たちも顔を下に向けた。


 う~ん、初級冒険者にありがちな判断ミスか。俺が勇者やってた時代は、冒険者を始めた奴の3割は三カ月以内にダンジョンで命を落としてたんだよなあ。たしかにダンジョンは稼げるが、それは命を量り売りしてるのと同じだと知っていてもらいたいものだ。


 と、説教をしようと思ったが、よく考えたら俺はそんな目的でここに来たわけではない。


 そもそも、彼らとこうして話をしていということは、俺はダンジョンを経由して異世界に来てしまったということだ。つまりスキュアの言っていたことが証明されてしまったことになる。


「まあともかく地上に戻ろうか。ちなみにこのダンジョンは君たちの孤児院からは遠いのか?」


「車で40分くらいです」


「なら少し顔を出してみるか。ハリソーネさんにも話を聞いたほうがよさそうだ」


「今日はリーララは来てないんですか?」


「ああ、今日はちょっと理由があって俺一人なんだ」


 そんなことを話しながら、ボス部屋の奥にある転送室から地上に戻る。


 ちなみにボスのミノタウロスから落ちた魔石と、宝箱から出た金貨はミザネルたちにあげた。最初は遠慮していたが、どうも彼女らは孤児院の子どもたちのために金を稼ぎたいという考えもあったようだ。


 地上に出ると、そこは荒野の真ん中だった。


 地面に大穴が開いていて、それがダンジョンの入り口になっている。周囲には車が10台くらい停まっていて、それらは冒険者たちのもののようだ。


 近くには小屋も建っていて、そこには役人がダンジョン監視のために詰めているらしい。


 ともかく俺は彼らの車に乗せてもらい、一路孤児院に向かうことにした。


 孤児院は、心なしか以前よりも活気があるように見受けられた。


 ミザネルたちとともに俺が入って行くと、眼鏡をかけた中年女性、院長であるハリソーネさんは驚いた顔をしたが、すぐに笑顔になって迎えてくれた。


「あらあら、これはアイバさんではありませんか。お久しぶりですね、お元気でしたか?」


「ええ、特に問題なくやってます。ハリソーネさんもお元気そうでなによりです。済みません、今日はリーララは一緒ではないんですが、ちょっとお話を伺いたくてお邪魔しました」


「もちろん構いませんよ。ところでどうしてジークたちと一緒なのでしょうか?」


 ハリソーネさんの質問に、ジーク少年はバツが悪そうな顔をした。


「ダンジョンで助けてもらったんだ。それでそのまま一緒にここに来たんだよ」


「あら、それじゃお礼をしないといけないじゃない。それより助けられたっていうことは、なにか危険な目にあったの?」


「あ~、まあ、ちょっとだけな。でもおかげで今日はかなり稼げた……」


 とジーク少年がお金を出そうとすると、ハリソーネさんはキッと目を怒らせた。


「お金の問題じゃありませんよ! ジークたちの無事が一番大切なんですから。ダンジョンでは無理をしないって約束だったでしょう?」


「それは……今回はたしかにミスしたよ。でも次からはもっと慎重にやるからさ」


「取り返しがつかなくなってからじゃ遅いんですよ。アイバさんにはよくお礼を言っておきなさい!」


「それは車の中で言ったよ。とにかくこれ」


 ジーク少年は金をハリソーネさんの手に握らせると、逃げるように二階に上がっていってしまった。


「まったく……。あと少しで一人立ちしないといけないのに危険なことをして……」


 ハリソーネさんはそうつぶやきながら、渡されたお金を奥の金庫にしまって戻ってきた。


「アイバさん、申し訳ありませんでした。そしてあの子たちを助けてくれてありがとうございます。ジークはもう二回以上助けられていることになりますね」


「気にしないでください。どれもたまたまその場に居合わせて助けただけですから」


「それにあれからアイバ基金という名前で、孤児院に多くの補助が届くようになりました。これもアイバさんが女王陛下にお願いしたものだと聞いております」


「え、あ~……名前は出さないでくれって言ったはずなんですが……」


 そういえばそんな話があった気がする。


 前回異世界に来た時に色々あって、結局は国の危機を救うことになったのだ。その功績から女王陛下が褒美をくださるということになったのだが、面倒だから孤児院を補助してくださいとか適当に言ったのだった。


 あんな思い付きを褒められても困るので、俺は話題を無理やり変えることにする。


「それはともかく、ミザネルたちが冒険者を続けているのには驚きました。ダンジョンが増えているからと聞いたのですが、それは本当なのでしょうか?」


「ええ、それは本当なのです。ババレント侯爵が捕まって、この町が王家の領地にされて、それからしばらくしてダンジョンが少しずつ増えてきたのです。この町でも冒険者ギルドが正常な運営に戻ったので、冒険者も普通に稼げるようになったのですが、新しくできたダンジョンはモンスターが弱い割に貴重な宝が見つかるとかで、冒険者になる者が増えているんです」


「なるほど。しかしDランクはそこまで弱いモンスターじゃないんですが」


「そのランクという考え方もまだ十分に浸透していないようで……」


 この異世界だが、俺が『魔王』を倒したことでダンジョンが消滅しモンスターの数が激減したらしく、その情報も引き継がれなくなって久しいらしい。


 再びダンジョンやモンスターが現れ始めたので、冒険者ギルドが中心になって情報を集めてはいるらしいのだが、ハリソーネさんの話だとまだその情報が十分に冒険者たちに周知されていないようだ。


 ともかく今のままではミザネルたちは確実に事故を起こすので、俺は彼女らを集めてボスモンスターがEランクまでのダンジョンだけ潜るよう厳命した。


「少なくとも全員が魔導銃を装備するか、中級魔法が使えるようになるまではDランクモンスターとは戦わないように。冒険者ってのは地道なトレーニングと事前準備をしっかりやっての実戦が基本なんだ。適当な装備で適当にダンジョンに潜って稼ごうなんて絶対考えるな。そもそも俺がババレント侯爵をなんとかしたのも、君たちが冒険者をさせられているのを不憫(ふびん)に思ってだ。そういったことを顧みずに冒険者を続けるつもりなら、それなりの覚悟をもって臨め」


「わ、わかりました……。申し訳ありません……」


「す、スンマセン……」

 

『威圧』スキルも交えてかなりキツく絞ったので、これでしばらくは言うことを聞くだろう。


 ポーションを少し渡してやり、俺はその後孤児院を後にして女王陛下のところへ行くことにした。


 せっかく異世界に来たのだから『魔王』についての情報は伝えておいた方がいいだろう。俺が行くと基本面倒事しか持ち込まないので、女王様は嫌な顔をするかもしれないが。

【新連載のお知らせ】


数日前より新連載を始めております。


タイトルは「娘に断罪される悪役公爵(37)に転生してました ~悪役ムーブをやめたのになぜか娘が『氷の令嬢』化する件~」です。


タイトルで中身もまるわかりと思いますが、公爵家当主が主人公のおっさんもの(?)になります。


他サイトでも連載をしているもので、しばらくは毎日更新となります。


よろしくお願いいたします。

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