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勇者先生 ~教え子が化物や宇宙人や謎の組織と戦っている件~  作者: 次佐 駆人


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39章 歓迎されざるもの  01

「相羽先生の報告を聞くと、自分がいかに小さな世界で生きているのか、それが実感されますね」


 銀河連邦の出張から帰った翌日、月曜日の学校。


 3時限目の空き時間に、俺は校長室で出張の報告をしていた。相手もはもちろん女優と見紛うばかりのふんわりセミロング美人、明智校長である。


「しかし地球だけでなく、他の星にも『ダンジョン』なるものが現れているのですね。相羽先生はそれを『魔王』の影響とおっしゃっていましたが、『魔王』を倒せば収まるものなのでしょうか?」


「異世界では、私が『魔王』を倒した後は出現しなくなったと聞いています。ただその時は倒し方が非常に特殊でしたので、同じ状態になる可能性は低いでしょう。私が倒すまでは『魔王』が倒されてもダンジョンはなくなっていませんでしたから」


「そうですか……。そうなると、青奥寺さんたちのような存在も今以上に必要になるということですね」


「そうなるかもしれません。一応彼女らには魔力の扱い方と身に付け方は教えましたので、それを広めてもらえればダンジョンに対応できる人間を多く育成することはできるようになると思います」


「相羽先生はそういった面でも立派な教育者となっていますね」


 ニコリと笑う明智校長。


 魔力については教師であることを意識して教えたわけでもないが、言われてみればそうなるのかもしれない。


 しかしダンジョンが存在し続ける地球についてなど特に考えたことはなかったな。今のところ俺が(というより『ウロボロス』と『ヴリトラ』が)対応しているダンジョンだが、ゆくゆくは俺以外の手によって管理されなければならなくなる。


 その引継ぎについてはいずれ行わなければならないのだろうが、俺が前面に出るのは避けたいので、双党たちが所属する秘密機関『白狐』や青奥寺家、九神家などに上手くやってもらうしかないだろう。


「ところでその惑星ドーントレスについては、先生はこれ以上関わることはないのでしょうか?」


「銀河連邦の対応次第ですが、私としては『魔王』があの星でなにをしようとしていたのかは気になっています。話があれば関わることになるでしょう」


「そうですか……。その時はまた出張扱いとしますので、遠慮なく言ってくださいね」


「ありがとうございます」


 俺が軽く頭を下げると、校長はふうと息を吐きだした。


「しかし相羽先生から色々お話を聞かせていただいておりますが、この世界はどれほどの広がりを持っているのか、ほんとうに身震いがするようです」


「私も宇宙に行くたびに世界の広さを実感します。私が経験したことなどほんの一部分に過ぎないと思いますし」


「すでに地球を含めて5つの惑星に行っている相羽先生にそう言われると、一般人としては困ってしまいますね」


 不意に愁いを帯びたような表情をみせる女優系美人の姿に、勇者の鋼の心臓が少しだけドキリとしてしまった。


 山城先生といい、ウチの学校は対勇者スキルの持ち主が複数いらっしゃいますね。


「校長先生は決して一般人ではないと思いますが……。よければ今度『ウロボロス』に招待しましょうか?」


 おかげでついそんなことをポロッと言ってしまったわけだが、その瞬間明智校長は身体を前のめりにしてきた。


「それは是非お願いしたいですね。お話だけ聞いていると、とてもストレスが溜まるというか、私も相羽先生の世界に是非触れてみたいという思いが強くありますので」


「そ、そうですか。では近いうちに……とか言っていると忘れてしまいますので、週末でもいかがでしょう」


「予定を開けておきますね! ……あ、いえ、よろしくお願いします」


 急に子どものような顔になり、慌ててその無邪気な表情を隠して恥ずかしそうに咳払いを始める明智校長。


 う~ん、ギャップ萌えなる攻撃も仕掛けてくるとはさすが日本を裏から支える校長である。


 今後のことを考えれば、事情を知っている先生たちには少し俺に関して情報開示というか、異世界や銀河連邦のことくらいは知っておいてもらってもいいのかもしれない。


 一人で抱え込みすぎるのもいい結果を生まないことは確かにあるのである。




 その日の夜アパートで一休みしていると、玄関のドアがバーンと開いて、赤い瞳の少女が白銀のロングヘアを振り乱して飛び込んできた。


 見た目は高校生くらいの美少女だが、中身は異世界出身の古代竜・ルカラスである。


「ハシルよ、戻ってきたのならなぜ我に一言かけぬのだ!?」


「帰ったの夜遅くだったし、今日は普通に仕事なんだから仕方ないだろ」


「それならば仕事から帰ったらすぐに声をかけるべきであろう」


「いやだってお前さっきまで寝てなかったか?」


「仕方なかろう、その前の夜はハシルがおらぬから眠れなかったのだ。一人寝の寂しさをハシルは理解できるのか?」


「いつもカーミラの部屋で寝てるのになに言ってんだ」


 しれっと抱き着いて来るルカラスを剥がそうとしたが、今日は妙に抵抗が強くて断念した。見た目はスタイルのいい人間の女性の姿ではあるが、俺にとってルカラスはまだ巨大なドラゴンの姿がチラつく存在であるので、なにか柔らかいモノが押し当てられても余裕で耐えられるのである。


 ただ俺がポーカーフェイスで耐えていると、「むう」とか唸ってルカラスがさらに強く抱き着いてくるので諸刃の剣ではあるのだが。


「で、結局銀河連邦とやらを相手にして、話はうまくまとまったのか?」


「ああ、交渉は上手くいったよ。ただやっぱりトラブルに巻き込まれたけどな」


「まあハシルだから仕方ないの。で、どんな面倒事が起きたのだ? まさかまた女子が増えるわけではあるまいな」


「なんでそういう話になるんだよ。もっとシリアスな話だぞ」


 というわけで惑星シラシェルでのダンジョン騒ぎから、メンタードレーダ議長の誘拐、そして惑星ドーントレスでの逃走劇などを一通り話すと、ルカラスは「やはり女子の影があるではないか」と勝ち誇ったような顔をした。


「何を聞いたらそんな話になるんだよ。問題は『魔王』だろ、『魔王』」


「ふん、その『魔王』にかこつけて王の娘を拉致するとは、勇者とも思えぬ所業よな」


「すぐに返すつもりだったんだよ。向こうがまさか娘ごとこっちを亡き者にしようとするとは思わないだろ」


「まあ、その娘を連れ帰らなかっただけでもよかったとしようか。後宮の人員をこれ以上増やされるといかに我でも治めきれなくなるから注意せよ」


「そのネタはもういいから。それより『魔王』は惑星に手を出してなにを狙っていると思う?」


 俺が無理に話題を変えると、ルカラスは少し白い目を向けてきてから答えた。


「奴が考えるのは己の力を伸ばすこととその土地を支配することのみよ。今は力を伸ばすことを狙っているなら、当然まずはモンスターを増やすことを考えるであろうな」


「モンスターか。とするとダンジョンを増やしてオーバーフローを誘発する感じか?」


「それが一番早かろう。ダンジョンは『魔王』の魔力が強まれば増える。そのゼンリノ師とやらが訪れていたのはその為ではないか?」


「コピーを通して『魔王』の魔力を広めるわけか。ついでに権力者とつながりを作っておいて、魔力を使った兵器などを開発させれば一石二鳥だな。さすが俺よりも長く『魔王』のやり方を見てきた古代竜だ」


「当然であろう」


 とドヤ顔をするルカラスだが、すぐに真面目な顔になった。


「しかし奴がそこまで準備を進めようとしているのであれば、早めに潰しにいかないと大変なことになるのではないか?」


「あ~、確かにな。こちらが知らないうちにあちこちの星に手を出されていたりしたら、取り返しがつかなくなる可能性もありそうだ」


「であろう」


 なかなかに厳しい話が出てきたが、確かにこれはルカラスの言う通りである。向こうがやってくるまで待ち構えてやろうと思っていたが、銀河をまたぐレベルで力を広げられたりしたら、俺一人の力ではどうにもならなくなる。


 銀河連邦の力を借りられるようになったとしても、甚大な被害が出るのは確実だろう。むしろまさにそれが『魔王』という存在でもある。


「そうすると、結局奴の居場所を掴んで攻めていくしかないか。結局は魔王城と一緒だな」


「うむ。奴は放っておけばひたすらに力を溜め込み始める。ハシルも忘れたわけではあるまいに」


「普通に忘れてたわ。しかしそうはいっても今のところはメンタードレーダ議長の力に頼るしかないからなあ」


「『魔王』の力を察知できるという宇宙人か?」


「ああ。なんか宇宙レベルの範囲で『魔王』の気配を探せるらしい。さすがにそれは俺にも『ウロボロス』にも無理だしな」


 確かにルカラスの言う通り、『魔王』がいるとなったら力をつける前に倒すのが基本である。向こうが攻めてきてから撃退してやろうと思っていたが、面倒になるのがわかっていて向こうの出方を待つのはやはり得策とは言い難い。


 しかし奴の居場所がわからないのではどうしようもないからなあ。


 まあダメ元でメンタードレーダ議長に相談してみるか。

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― 新着の感想 ―
ルカラスは戦闘力も知力もトップクラスに有能な嫁。 もっと可愛がるべし。
再開、有難うございます。 ところで 「異世界では、私が『魔王』を倒した後は出現しなくなったと聞いています。ただその時は倒し方が非常に特殊でしたので、同じ状態になる可能性は低いでしょう。私が倒すまでは…
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