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勇者先生 ~教え子が化物や宇宙人や謎の組織と戦っている件~  作者: 次佐 駆人


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38章 出張、未だ終わらず  05

『ラムダジャンプアウト完了。指定座標マデ通常航行デ向カイマス』


 無機質なAIボイスが艦内に響き、俺一人を乗せた『ウロボロス』は、海賊が指定した座標へと近づいていった。


 俺はと言えば、ありったけの欺瞞スキルや欺瞞魔法を最高出力で重ね掛けして、『統合指揮所』の端っこに座っている。


 今の俺が銀河連邦の科学力でも感知できないのはすでに『ウロボちゃん』によって確認済みなので、安心して事の成り行きを見守っている。


『指定座標マデ後10秒。5,4,3,2,1、到着シマシタ。本艦ハ静止状態ニ入リマス』


『統合指揮所』の正面大型モニターには無限の大宇宙が映っているだけである。3Dモニターには『ウロボロス』の周囲が広い範囲で表示されているはずだが、そこにも『ウロボロス』以外の艦艇の姿はない。


『ラムダ空間ノ歪ミヲ感知。前方100キロノ宙域に13隻ノ艦艇ガラムダジャンプアウトシテキマス』


 しばらく待っていると、AIがそんな報告を始め、モニターに13の輝点が現れた。拡大された映像を見ると、13隻のうち11隻は、以前『ウロボロス』に襲い掛かってきたルベルナーザ一家の宇宙戦艦、ミッドガラン級駆逐艦とかいうやつと同じものだった。


 中央の1隻はそれより2回りほど大きい宇宙戦艦で、確か俺が持っているガルガンティール戦闘艦というものに似ている。恐らくはそれが旗艦だろう。


 その旗艦の横に、鉛筆を二本並べたような小型の宇宙船が浮いている。それがメンタードレーダ議長の乗る高速船『サジタルキス』だというのは事前に勉強済みだ。


 その13隻の船団は、数分で『ウロボロス』を囲むように移動するとその場に停止した。


『本艦ハ外部カラスキャンサレテイマス。望マシクナイ場合ハ妨害システムヲ起動シテクダサイ』


 というAIボイスによって連中が何をしているかがわかる。


 数分するとミッドガラン級駆逐艦が1隻接近してきて、船体を『ウロボロス』の横にぴたりとくっつけた。すぐにアンカーのようなものが『ウロボロス』に打ち込まれ、さらに太めの管が伸びてきて、『ウロボロス』の外部接続ハッチに接合される。


『本艦ノ全システムノコントロール権ヲ外部ヘ移譲シマシタ』


 ということなので、これで『ウロボロス』は一旦乗っ取られたという形になるのだろう。


 その後ハッチが開放され、ミッドガラン級駆逐艦から海賊たちが『ウロボロス』へと乗り込んできた。モニターを見ると、茶色い簡易宇宙服に黒いバイザーのついたフルフェイスのヘルメットをつけた人間が銃を手にぞろぞろと入ってくるのが見える。


 誰もいないことや妙な小細工をしていないことが確認されたのだろう、海賊たちは一部が機関室へ、そして残りはこの『統合指揮所』へと入って来た。


「『統合指揮所』を確保しました。ボス、指示をお願いします」


 海賊の一人、カタツムリ頭の男(?)が通信を始めると、正面モニターの一部が切り替わり、海賊のボスらしき人物の顔が映し出された。


 といってもやはりカタツムリ顔なので、どんな人物なのかよくわからない。


『変な小細工はされていないだろうね?』


「現在詳細にスキャン中です。機関部から連絡。なにも問題はないと確認されました」


『へえ、まさか本当に言う通りにしてくるとは思わなかったよ。まあそれだけ人質が大切なんだろうけどさ』


「そのようです。それと向こうとしても、連邦議長がお忍びでシラシェルに来ていることを公にしたくないのでしょう」


『怪しい取引ではあるからねえ。まあこっちには好都合だったね』


「まったくです。ボス、システムの掌握が終了しました。艦名は『ウロボロス』です」


『なるほど、なんとなく「フィーマクード」のボスのセンスを感じるね。例の「オメガ機関」兵装はどうだい?』


「そちらも確認しました。確かに特殊な兵装を積んでいるようです。データシートからすると『オメガ機関』である可能性は極めて高そうです」


『当たりかい。よし、じゃあ獲物をもって帰るよ』


「了解しました」


『議長の船は解放してやんな。……ん、ちょっと待ちな。「親鳥」から連絡だ』


 そこで通話がいったん途絶えた。


 しかしまず驚いたのは、ルベルナーザ一家のボスが女らしいということか。まあ喋り方でそう判断できるというだけで、見た目ではまったくわからないのだが。


 それから連中の狙いが『ウロボロス』そのものではなく、『魔力ドライバ機関』にあるというのも気になる所だ。それ自体は予想していたが、気になるのは連中が『オメガ機関』という耳慣れない言葉を使っていたことだ。


 なぜならそんな言葉があるということは、連中がすでに『魔力ドライバ機関』と同じものを知っているということに他ならないからである。


 さらには――というところで女ボスが再度話をはじめた。


『モーザー、「親鳥」からの指令だ。メンタードレーダ議長を連れて帰れってさ』


「それは危険ではありませんか? 銀河連邦全体を敵に回しかねませんが」


『帰り道には気をつけろってさ。トレースされないように気を付けて帰るよ』


「わかりました。では速やかに撤収準備を始めます」


 おっと、どうやらちょっとマズい展開になってきたようだ。


 この手の取引は、目の前にいるモーザーとかいう男(?)が言っていたように、約束を守らないとなると海賊側も相応のリスクを背負うことになる。相手が一企業程度であるならともかく、銀河連邦ともなるとそんなリスクは到底負えないはずだ。なぜなら連邦がコストを度外視して本気で潰しにかかれば、一犯罪集団にすぎない海賊など容易に叩かれてしまうからだ。


 それができるということは、ルベルナーザ一家が想像より巨大な集団であるか、背後に別の巨大組織があるかである。そしてボスの言葉からすると後者である可能性が高そうだ。


 しかしこれは少し困った展開である。議長が解放されたタイミングでひと暴れして帰るつもりだったのだが、それができなくなってしまった。


『本艦は旗艦「ヴィーヴル」ニ続イテラムダジャンプニ入リマス。ジャンプ先座標確認、ジャンプシマス』


 結局『ウロボロス』は再度ラムダ航行に入ってしまった。


 どうやら勇者の背負った業は、どうしてもこの事件の背後を俺に探れと言っているようだ。まあ確かに、連中が魔力を扱う技術をどの程度研究してるかは調べなくてはならないか。


 しかしそこまでやるとなると、学校を無断欠勤することは避けられなさそうだ。俺のことはほうっておいて、青奥寺たちはさっさと地球に戻ってくれればいいんだが。

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黒幕も余計な欲をかかなければ勇者を呼び込んで破滅することも無かったろうに
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