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勇者先生 ~教え子が化物や宇宙人や謎の組織と戦っている件~  作者: 次佐 駆人


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38章 出張、未だ終わらず  01

 ダンジョンから帰った後、その日の夜はホテルでゆっくりと過ごした。


 翌日は一日観光の日であったが、俺はグラメロ青年との約束があったので彼の実家に行ってみることにした。住所は朝食の後にライドーバン局長に聞いたらすぐに調べて教えてくれた。


「ミスターアイバは妙なことにこだわりを持つのだな」


「ええまあ。家族のために海賊一家から薬を盗んで持ってくるなんてなかなか泣かせるじゃないですか。そういうのは嫌いじゃないんですよ」


「ふふっ。実を言うと私も嫌いではない。先方へはすでに信用できる者が行くという話を伝えてあるので、話はすぐに通じるだろう。車は出さないでいいのかね?」


「ええ、飛んでいきますので大丈夫です」


 部屋に戻り、青奥寺たちに野暮用を済ませる旨を伝えると、4人は少し不満そうな顔をした。といっても明確に顔に出したのは双党とレアだけで、青奥寺と新良はジトッと見てきただけだが。


「え~、今日は一日一緒に海で遊ぶって話だったじゃないですか~」


「用事を済ませたらすぐ合流するから。それに女子だけの方が気兼ねなく楽しめるだろ?」


「アイバセンセイが一緒じゃないとだめでぇす。センセイにワタシたちの水着姿を見てもらうのが大切なのでぇすから」


「なんだそりゃ。まあ合流したら見せてもらうから。それまで海で遊んでいてくれ」


 レアが妙なことを言っているが、だいたい教師が生徒と一緒にリゾート地で海水浴とか、日本だったら普通に重大案件である。


 そんなわけで俺は一人『光学迷彩』と『機動』魔法を使って、ホテルの屋上から飛び立った。


 グラメロ青年の家は、俺たちが宿泊したホテルがある、惑星シラシェル屈指のリゾート地の、その外れにあるかなり大きな豪邸であった。


 彼自身言外に匂わせてはいたが、グラメロ青年は富裕層の出身ということになる。そんな彼が海賊一家に入ったということが、彼の家族にも少なからず影響を与えただろうというのは想像に難くない。彼が命を賭してまで薬を持ち出したのは、そのあたりの理由もあったのだろう。


 俺は豪邸から少し離れたところに立っていた木の影に降り立つと、『光学迷彩』を解いて家の門まで歩いていった。


 門の前に立つと、門の上にあるスピーカーから『どちら様でしょうか?』という声が聞こえてくる。


「ハシル・アイバと申します。政府の方からお話があったかと」


『承っております。お入りください』


 と返答があって門がひとりでに開いた。


 シンメトリカルに作られた庭園を抜けて豪邸の玄関まで歩いていくと、玄関が開いてカエル頭の男性が出てきた。見た目で年齢はわからないが、威厳がありそうなので恐らくはグラメロ青年の父親だろう。


「初めまして、ハシル・アイバと申します。この度はグラメロ氏のことについて、少々お話があって参りました」


「初めまして、グラメロの父のグザリロです。他惑星の方でここまできれいなシラシェル語を話される方は初めてですな。どうぞこちらへ」


 カエル紳士のグザリロ氏に従って、応接間へ。豪邸は中まで豪邸であったが、近未来的な豪邸なのでインテリアはむしろシンプルで上質という感じであった。


 互いにソファに座ると、レストランの配膳ロボに手がついたようなロボットがやってきてお茶を用意してくれる。なるほど人型でないロボットは家庭でも普通に使われているわけだ。


 ロボットが去ると、グザリロ氏が口を開いた。


「ではアイバさん、お話をお伺いしても?」


「わかりました。まず私ですが、こちらの星では銀河連邦評議会のゲストという立場でこの星に来ているものです。そして銀河連邦捜査局ともつながりがある人間です。それをまずお伝えしておきます」


「はい」


「私がグラメロ氏と接触をしたのは一昨日のことです。私が目にした時、彼はよからぬ者たちに連れ去られるところでした。形としては、その場で私は彼を助けたことになります」


「それは礼を申さねばなりませんな」


「それはお受けいたしましょう。事情を聞くと、グラメロ氏は所属していた組織からとある薬を持ち出して、その結果として追われていたようなのです。そういったこともあり、私は彼を捜査局へと引き渡しました」


「息子が海賊……ルベルナーザ一家と関係があるというのは存じております。ということは、息子はルベルナーザ一家の手の者に追われていたということになるのでしょうか」


「彼を追っていた者が『ルベルナーザ』という名前を口にしていたのは聞きました。それと彼が言うには、薬を持ち出したのは母親を助けるためだということでした。落ちこぼれの自分だが、せめてそれくらいのことはしたい、と」


 俺がそこまで話すと、グザリロ氏は目をつぶって目と目の間あたりをさすり始めた。ボソッと「馬鹿者が……」と口にしたが、その言葉にはいろいろな感情が交じっているようだ。


「そういういきさつがありまして、彼についてはしばらくは会うことができないかもしれません。もちろん彼が所持していた薬についても、捜査局の証拠品ということで押収されます」


「それは当然でしょう。しかしその薬というのはどのようなものなのでしょう? いえ、それもお聞きできない案件でしょうな」


「そうですね……まあ簡単に言えば、万能の治療薬といったところでしょうか。彼はそれで母君が助けられると考えたようです」


「そんなおとぎ話のような薬などあるはずもないものを……」


 再度目の間をさすり始めるグザリロ氏。


 事前に新良に確認をとったのだが、銀河連邦は当然医療のほうも発達しているらしい。ただそれは人体の器官などを人工物などに置き換えるという方面での発達であって、例えば『エクストラポーション』のように、なんの対価もなく身体が再生するという現象は銀河連邦でも魔法やおとぎ話の領域だそうだ。


 ゆえにグザリロ氏の反応はもっともなものなのだが、すでに銀河連邦はおとぎ話の存在が出現を始めているのも事実である。


 というわけで、おとぎ話の住人である俺は『空間魔法』を開いて、そこから『エクストラポーション』を取り出した。


 それを見ていたグザリロ氏は目を丸く……と言いたいところだが、もともと丸い目なのでよくわからなかった。


「アイバさん、今のは……」


「実は薬のお話は、完全におとぎ話というわけでもないのです」


 俺はテーブルの上に『エクストラポーション』のビンを置いた。


「私はそのグラメロ氏の話に少し感じるところがありましてね、彼と約束をしたのです。彼が持ち出した薬と同等のものを、彼の母君のもとに届けると。それがこちらになります」


「お、お待ちください。その、今の技術といいその薬の話といい、アイバさんはいったい……」


「それに関しては詮索をなさらないでください。ともかくこちらが、グラメロ氏が命がけで持ち出したものと同等品になります。こちらを奥様にぜひお使いください」


「し、しかし……。その、妻がかかっている病気はシラシェル人特有のもので、治る見込みは……」


「だからこそのこの薬です。効果は確かですから、ご子息の心意気を汲んで使っていただければと思います。さて、これで私がこちらへお邪魔をした目的は果たしましたので、失礼させていただきます。ああそれから、言うまでもないことですがこの薬のことは決して外部には漏らさないようにお願いいたします」


 グザリロ氏が唾を飲み込みながらうなずいたのを確認して、俺はソファから立ち上がった。


 さて、これで俺のしたいことは終わりなのだが、やはり勇者の行動には何かが付きまとうものらしい。


 窓の向こう、屋敷の庭の先にある門の方で、今2台の車が停まったのだ。


 どちらも俺から見ると未来的な車であるのだが、黒塗りで窓ガラスが濃いスモークになっているという、いかにも「悪者が乗ってます」ステッカーが貼ってあるような車であった。どうもこういうのは技術が進んでも、違う文明でも似たような形になるらしい。


 二台の車から降りてきたのはカタツムリの頭に似た頭部を持つ連中だ。着ている茶色い作業服はグラメロ青年を追っていた三人組と同じものだが、実は簡易宇宙服にもなる優れモノらしい。


 そう、つまり彼らはグラメロ青年を連れ去ろうとしていた連中の仲間に違いなかった。つまりA級海賊ルベルナーザ一家の手下である。グラメロ青年が捕まらないので、その実家を調べてやって来たとかそんなところだろうか。


 グザリロ氏も外の様子に気付いたようで、カエルの目をキョロキョロと動かした。


「どうやら客人のようですが、メッサール人に知り合いは……まさか……」


 おっとどうやらなにかに気づいてしまったようだ。「メッサール人」というのはあのカタツムリ頭の連中を指すのだろうが、恐らくルベルナーザ一家の構成員として有名なのだろう。


「とりあえずあいつらは私がなんとかします。捜査局にもすぐ連絡をしますので、グザリロさんはここでお待ちください」


「しかしアイバさん、彼らは……」


「問題ありません」


 俺はそう言い残して、応接間を後にした。

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