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勇者先生 ~教え子が化物や宇宙人や謎の組織と戦っている件~  作者: 次佐 駆人


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33章 交渉あれこれ  10

 とりあえず青奥寺たちに緊急に集合をかけると、全員からOKが出た。


 正直『聖女さん』こと三留間さんや、基本一般人の清音ちゃんまでOKが出るのはどうかと思ったのだが……ちなみに清音ちゃんは夜遅いということで、母親の山城先生が同伴であった。いやそれはそれで大丈夫なのかいう話だが。


 全員一度『ウロボロス』に集めて、ついでにイグナ嬢とも顔合わせをさせた。


 いきなり10人以上の人間を紹介されてイグナ嬢は目を白黒させていたが、カーミラに別の部屋に連れていかれてなにか説明をされていたようだった。


 戻ってきた時にカーミラが、


「あの娘はまだ大丈夫みたいだから、手遅れにならないうちに弟さんのところへ帰してあげてねぇ」


 と言ってきたのだが、「手遅れ」ってどういうことなのだろうか。聞き返しても「うふふっ」と意味深に笑うだけで結局答えてくれなかった。まあイグナ嬢に関しては、ことが終わったら本人の戻りたいところに戻すつもりなので問題ないだろう。


 ちなみに双党はイグナ嬢に「耳と尻尾を触らせてください!」とか頼み込んでOKをもらっていた。


 その後イグナ嬢の猫耳を触る双党の後ろには列ができていたのだが……清音ちゃんや三留間さんはともかく、青奥寺や雨乃嬢やレアまで並んでいたのは少し驚いた。いや、雨乃嬢とレアは不思議ではない気がするな。


 それはともかく、同時に『ウロボロス』に『応魔』出現の兆候を探させていたのだが、クウコが指示したあたりにはまだ現れていないようだった。


 俺が艦長席でモニターを眺めていると、清音ちゃんを連れて山城先生がやってきた。山城先生は『ウロボロス』に来るのも初めてなので、さすがに緊張しているようだ。


「清音には聞いていたけど、相羽先生は本当に宇宙戦艦の艦長までやっているのねえ。私の想像も及ばない世界に生きているみたいだわ」


「こんなのはすぐに慣れてしまいますよ。清音ちゃんだってもう平気ですし」


「そうねえ。こういう時は子どもの順応性には驚くしかないわね。相羽先生の順応性もすごいと思うけれど」


「自分の場合は深く考えるのをやめているというか、そんな感じですけどね。でも申し訳ありません、結局清音ちゃんには深入りをさせてしまいました」


 一応謝っておくと、山城先生はいつもの謎距離感で近づいてきつつ、首を横にふった。


「いえ、むしろ相羽先生にはお礼を言いたいくらい。この娘も色々経験したからか、最近は急に大人びた感じがするのよ。わがままも言わなくなったし、なんか魔法が面白いとかで」


「間違いなく魔法の才能はありますからね。日本では使う機会はほとんどないと思いますけど」


「でも相羽先生の側にいれば、使うことはあるでしょう?」


「あ~……、たしかにそうかもしれませんね」


 俺の近くにいるってことは、結局青奥寺たちのように戦う女子になるってことなんだけどなあ。まあそういうのに憧れることもなくはないのかもしれない。あまりおすすめはできないが。


「私としては危険なことはして欲しくないけれど、でも青奥寺さんたちを見ていると、それもエゴかなと思うのよねえ」


「彼女らは生まれが特別ですから比べるものでもないと思いますよ」


 と言っていると、『統合指揮所』にアラートが鳴り響いた。


 正面モニターに上空からの都市部周辺映像が映し出され、その一か所にアイコンが表示される。『応魔×5』の文字がその隣に現れると、青奥寺たちの間に緊張感がみなぎった。


『前回観測されたのと同じ波形のエネルギー反応でっす。前回のものより反応がやや弱いものが3、同程度のものが1、強いものが1でっす』


『ウロボちゃん』の報告はなかなか刺激的だった。


 俺の隣にいる狐状態のクウコが身体をブルッと震わせたので、どうやら強力な奴が出てきたのは間違いないらしい。


 青奥寺が真剣な顔で近づいてくる。


「先生、前回の『応魔』は『特Ⅱ型』に近かったというお話ですが、それより強いとなると『特Ⅲ型』になるんでしょうか?」


「可能性はあるな。ちょっと気を引き締めないとマズそうだ。じゃあ出るのは青奥寺、双党、新良、ハリソンさん、絢斗、青納寺さん、カーミラ、リーララ、ルカラスで頼む。三留間さんは怪我人が出たら転送してもらってくれ」


「私も参ります」


 と前に出たのは九神家メイドの宇佐さんだ。まあ九神家としても詳細な情報は欲しいか。


「では宇佐さんもお願いします。前回と同じ『伯爵級』はルカラスが相手をしてくれ。俺は一番強い奴と当たってみる。他は残りの三体を頼む」


「はい」「は~い」「了解しました」「我に任せよ」


「先生、わたしは行っちゃダメですか?」


「清音ちゃんは今回はダメかな。相手の強さがわからないからね」


「わかりました。わたしがリーララちゃんくらい強くならないとだめってことですね」


 清音ちゃんが少しだけ恨めしそうにリーララを見る。


「まあわたしレベルになるのは簡単じゃないけどね~」


「先生に才能があるって言われてるし、すぐ追いつくから!」


 どうやら二人は友人からライバルになる感じのようだ。戦いの前だが、こういうのはほほえましいね。


「よし、じゃあ行くか。『ウロボロス』転送を頼む」


『了解でっす。お気を付けて~』


 さてさて、本当に異世界で戦った『特Ⅲ型』レベルが出てきたらさすがにマズいんだが。どうなることやら、だな。




 俺たちが転送されたのは、幹線道路からやや離れたところにある、商業施設の駐車場だった。


 幸い早くに閉店する施設だったらしく、駐車場には数台の車しか停まっていない。ただ完全に無人というわけでもなく、もちろん近くにはそこそこ車が走っている道路も通っていて、もしここに『応魔』が現れたらさすがに人の目につくのは避けられない。


 こういう時は『銀河連邦』の技術力に頼るしかない。俺は、すでに銀色のパワードスーツである『アームドスーツ』姿になっている新良に声をかけた。


「『応魔』が現れたら『ラムダ空間封鎖』を頼めるか?」


「わかりました。ただ、あの『特Ⅲ型』レベルのものが相手だと15分ほどしかもたないと思います」


「とすると奴らと話をする暇はないか。ともかく出現したらすぐに頼む」


「わかりました」


『ラムダ空間封鎖』とは、一部空間を切り取り無限に拡大することで封鎖空間にしてしまうという、意味不明な驚異の技術である。


 まあ要するに、周りの目を気にしないで派手に戦うことができるようになるという、勇者的にはかなりありがたいものだ。


 ただこれは『銀河連邦』の捜査局極秘の技術で、新良のような『独立判事』の宇宙船にしか搭載されていない機能らしい。『ウロボロス』で使えれば色々助かるんだが、さすがに技術の供与はダメと言われてしまった。


 全員で周囲を警戒していると、20メートルほど先の地面に、以前見た禍々しい模様の魔法陣が浮かび上がった。その数は5つ。魔法陣そのものの大きさは同じだが、そこから流れてくる魔力には差があって、一つはたしかに前回のものよりも強烈だ。


「来るぞ、油断するなよ」


 青奥寺は太刀『ムラマサ』を、雨乃嬢も同じく『マサムネ』を、絢斗は長剣『デュランダル』を、宇佐さんは二本の棍『阿吽(あうん)』をそれぞれ構える。


 新良と双党、レアは異世界のダンジョンで手に入れた『五八型魔導銃』を構え、リーララはすでに魔法少女に変身し、弓型魔道具『アルアリア』を手にしている。カーミラもどこから取り出したのか、短い杖のような魔道具を持っていた。


 ルカラスだけは素手だが、まあコイツは元がドラゴンだからいらないだろう。


 俺たちが戦闘準備を完了していると、5つの魔法陣からズズズ、とせりあがってくるように、5体の『応魔』が姿を現した。

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