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勇者先生 ~教え子が化物や宇宙人や謎の組織と戦っている件~  作者: 次佐 駆人


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28章 異世界修学旅行その1  07

 転送されたのは、行政府……すなわち女王陛下がいる国会議事堂みたいな王城……の前に広がる庭園の真ん中だった。


 さすがに急なトラブルなので転送の隠蔽工作はしなかった。いざとなれば「魔法でやりました」が通じる世界なのでそれでゴリ押そう。


 庭園には多くの人が散歩をしたりベンチに座ったりしていて平和そのものの光景であった。


 が、確かに足元の地面からヘドロのような嫌な魔力がじわじわとにじみ出してきているのが感じられる。


「皆さんここは危険です! モンスターが湧いてきます!」


 大声で怒鳴ってから、『威圧』スキルを広範囲に放つ。


 すると周囲にいた人々はビクッとなって、一斉に門のほうに動き始めた。中には小さく悲鳴をあげた女性もいたようだが、助けるためなので許してほしい。


 代わりに門のところと、行政府の玄関付近にいる警備員がこちらに近寄ってこようとするのだが、彼らには強い『威圧』を与えて立ち止まらせる。ひとり膝から崩れ落ちた警備員がいて申し訳なくなる。


『艦長、あと3分で地上に到達しまっす』


「了解」


 俺は『機動』魔法で50メートルほど飛び上がる。


『地上到達まであと5秒、4,3,2、1、出てきまっす』


 いきなり庭園の真ん中が直径10メートルほどの円形に崩れて地下に崩落していった。代わりにコールタールみたいなどす黒い『魔導廃棄物』が地下からせりあがってくる。


 その時になって、ようやく宮中の警備隊員が集まってきた。50人以上いる彼らは、プロテクターを着け大型の魔導銃を持っており、特殊部隊の兵士のようにも見える。周囲にはサイレンの音も響き始めた。庭園の外の通りを見ると、兵員輸送車のような大型の厳つい車が何台も停まり、そこからやはり兵士たちが下りてくる。もしかしたらこの事態を想定していたのかもしれない。


 ついに『魔導廃棄物』が地上まで達した。あふれたところからモンスターに変化していく。『深淵獣』のランクから行くと丙型丁型がほとんどで、ところどころ乙型が見えるくらいか。


 行政府建物前に並んだ警備隊員たちがモンスターに向けて一斉に射撃を開始した。


 魔導銃から射出されるのはやはり魔法だ。『ライトアロー』という省魔力高威力の光の矢が次々とモンスターを貫いていく。


「これは俺要らなかったかな」


 新たにやってきた兵士たち50人も加わり、穴から広がっていこうとするモンスターに激しい銃撃をあびせる。乙型のカマキリや4本鼻のゾウも集中攻撃で倒していく様はさすがとも言いたくなるほどだ。対処に慣れている感もあるので、ここひと月モンスターの相手をしてきているのかもしれない。


 俺が感心していると、ブレスレット端末から『ウロボちゃん』の声。


『艦長、もう一か所『魔導廃棄物』が集まっている場所がありまっす』


「どこだ?」


『少し離れた場所ですね~。繁華街の交差点でっす』


「そりゃマズいな。そっちに部隊が向かってるってことは?」


『今のところなさそうでっす』


「じゃあそっちに転送してくれ」


 転送された先はたしかに繁華街……というかビル街の大きな交差点の真上だった。


 その交差点の真ん中から、『魔導廃棄物』上がってくる感触がある。


 しかし交差点は当然自動車がひっきりなしに行き交っていて、そのままだと何台かは開いた穴に落ちてしまうだろうし、その後も大惨事間違いなしだ。


「しょうがない、まずは車を止めるか」


 俺は『拘束』魔法を多重発動し、交差点に近づく自動車をすべて減速させていった。当然後ろの車はクラクションを鳴らし始め、付近が図らずも喧騒に包まれる。


 人が近づくのも危険なので、俺はさらに地属性の壁生成魔法『グランドウォール』を発動し交差点全体を岩の壁で丸く覆う。魔王軍を迎撃する時に城壁作成に使っていた魔法だ。


 いきなり出現した岩の壁に、周囲はさらに騒然となった。ビルの窓に張り付く人たちもいて、何人かは空中にいる俺に気づいて指をさしている。


『艦長、来まっす』


 庭園と同じように、交差点の真ん中がいきなり円形状に陥没する。こっちは直径15メートルくらいか。


 コールタールのような『魔導廃棄物』があふれ、次々とモンスターに変わっていく。


 周りを見るが、さっきの兵員輸送車みたいのは来てないようだ。というか道路は完全に渋滞している。遠くからサイレンが聞こえてくるが、渋滞にはまって近づけないようだ。


「しかし二か所同時とはな。ウロボロス、他にもないか継続して注意してくれ」


『了解でっす』


 返事を聞きながら、俺は『ライトアロー』の魔法を多重展開して、光の矢の雨を地上に向かって降らせてやる。


 上空からの一方的な攻撃に、出現したモンスターは為すすべなく貫かれ引き裂かれ消えていく。


 地上の人たちには岩の壁のせいでなにが行われているのか分からないだろう。一方でビルの上の階の窓には、顔をひきつらせた人間が大勢見える。そりゃ交差点の真ん中に穴が開いてモンスターが湧きだしてきてたら恐怖以外の何物でもないだろう。


 しかも正体不明の男がアホみたいな魔法でそのモンスターを殲滅しているのだ。普通なら映画の撮影か、などと現実逃避をしたくなる光景かもしれない。


 モンスターの湧きだしは15分ほど続いた。


 さすがに後半は緊急車両などが到着して警察官のような人が集まってきていたが、岩の壁を見上げるだけで何もできない。


 俺の方を見て指をさす者もいるが、間違って敵だと思わないで欲しいものだ。


『『魔導廃棄物』の反応なくなりました~。行政府の方も消えたみたいですよ~』


「お疲れさん。とりあえず皆のところに戻るか。店のトイレまで転送してくれ」


『了解でっす』


 地面に穴が開いたままだから、人が近づけないように『グランドウォール』は腰の高さあたりまでは残しておいた。後始末は適当にやってくれるだろう。


 転送で百貨店に戻ると、皆はまだ服を選んでいる最中だった。


 どうやらまだモンスターが現れたことは知られていないようだ。地区が離れていたからなのか、それとも緊急避難の体制がまだ敷かれていないのかは分からないが。


俺を見つけてカーミラが寄ってくる。


「お疲れ様ねぇ。なにがあったか聞いてもいいかしら」


「街中で小規模なオーバーフローが起きた。しかも二か所」


 俺があっさり言ったからだろうか、カーミラはよく分かっていないふうに色っぽく首をかしげて、


「ふぅん、オーバーフローねぇ」


 と言ったあと、目を丸くして身体を寄せてきた。


「オーバーフローってあのモンスターがあふれる現象よねぇ!? それが街中に起きたのぉ!?」


「大声出すなって。そうだ、モンスターがあふれる奴だ。ただ一か所は兵士が現れて対応してたからもしかしたら事前情報があったのかもしれない」


「そういえば遠くでサイレンが鳴っていたような気がするわぁ。今の話だと、もう一か所は先生が対応した感じなの?」


「そうだ。さすがに交差点のど真ん中に穴が開いたからな。あれは俺がいなかったらちょっと危なかったかもしれない」


「それは本当に怖い話ねぇ。急いでラミーエルに会わないといけないかしら」


「そうしたいところだけど、たぶん今は女王陛下は大変なんじゃないか」


 準備をしていたとしても、街中の2カ所でオーバーフローが発生したなんていうのはあまりにも重大な事案だ。街中の雰囲気に緊張感がなかったことからして、初めて起こった現象である可能性が高いし、行政府としては各方面の対応が大変だろう。


「でも先生が一か所対応しちゃったなら、すぐに会わない訳にもいかないんじゃない? 謎の男がモンスターを全滅させましたなんて話を聞けば、ラミーエルは先生だってすぐ気づくでしょうしねぇ」


「あ~、まあそれもそうか」


「なにがそうなんですか?」


 青奥寺が服を何着か手にしてこちらへ歩いて来た。目つきが鋭いのはなにか不穏な空気を感じ取ったからかな。


「ちょっとトラブルがあって、女王陛下に会うのが先延ばしになるかもって話だったんだ。ただやっぱりすぐに会った方がいいって結論になった」


「トラブル? なにかあったんですか?」


「街中にモンスターが現れたんだ。モンスターってのは『深淵獣』のことな」


「えっ!? それって大変なことなんじゃ……」


「こっちはモンスターを倒せる武器が揃ってるから大丈夫……ってこともなかったけど、日本よりは大丈夫だ。ただあまり観光を楽しめない感じかもな」


「そうですか……。いえ、もともと遊びに来たわけでもありませんからね」


「まあそれはそれこれはこれだ。そろそろ飯も食いたいし、服を選ぶのはあと10分って皆に伝えてくれないか」


「分かりました」


 青奥寺が皆に連絡を伝えに戻っていく。


 しかし再度考えてみても、都市部に直接『魔導廃棄物』が流れてくるってのは危険だな。例の『魔導廃棄物』を集める魔道具が設置されたのかと思ったが、さすがにガッチリ舗装されてる道路の下には設置できないだろう。『ウロボロス』も魔道具については指摘をしていなかった。


 これがどういうことを示しているのか……女王陛下がすでにつかんでいるといいんだが。

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