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勇者先生 ~教え子が化物や宇宙人や謎の組織と戦っている件~  作者: 次佐 駆人


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26章 魔人衆バルロ  06

 深淵窟の案内については、そこまで面倒なことも驚くべきこともなかった。


 レアが『深淵獣』を前にして「これがモンスターでぇす!? こんな不気味な生物がいるなんて驚きでぇすね!」と騒いだり、双党や絢斗が『深淵獣』を倒すところを見て「なるほど、『ビャッコ』の皆さんはモンスターに慣れているのでぇすね。だからこの間も『シャドウ』に対して冷静に対処していたのでぇすか」と納得していたり、青奥寺の剣技を見て「アオウジさんの剣術はビューティフルでぇすね。これぞまさにジャパンの神髄、現代のサムライでぇす!」と感激していたりしただけだ。


 これで本当に情報収集になってるのか不安になるくらいだが、まあ『母親』の方も色々と確認をしていたみたいなので大丈夫なのだろう。

 

 一通り『深淵窟』を案内して、青奥寺がレアに『深淵獣』退治の話をしていた時だった。


「ふん……、こちらの世界にもモンスターが現れているわけか……。導師様の言う通りなのだな……」


『深淵窟』の入口、半球状の黒いドームから、黒づくめの若い男が独り言を言いながら現れた。長い黒髪を後ろに流し、漆黒のコートに身を包んだ、陰のあるイケメン。


 それは異世界小旅行の最後、侯爵の館で一瞬だけ手を合わせた、あの『魔人衆』の男……バルロに間違いなかった。


「……っ!? 君は何者だ」


 絢斗(あやと)が真っ先に気づいて声をかける。


 しかし前に出ようとしたのを、俺は腕を出して止めた。残念ながら今の絢斗では奴の一撃を凌げるかどうかもわからない。


「先生?」


「あいつはたぶん俺に用事があるんだと思う。クゼーロに匹敵する男だ。下がっててくれ」


「クゼーロ? ではクリムゾントワイライトの……?」


「幹部の一人だろうな」


 そのやりとりを聞いて、青奥寺と双党が唾を飲み込む。レアも「クゼーロ」の名を聞いて目の前の男の危険度に気が付いたようだ。


 バルロは周囲を見渡したあと、赤い瞳をこちらに向けてきた。一切の迷いなく、俺に向かって刺すような視線を向けてくる。


「くっ……見つけたぞ、あの時の戦士……。なるほど……恐ろしいほどの魔力、そして鍛え抜かれた刃のごときたたずまい……これほどの男が、よもやこちらの世界にいようとはな……」


 バルロは唇を笑いの形にゆがめると、ゆっくりと歩を進めてくる。10メートルほどの距離を置いて立ち止まると、懐から大型ナイフを引き抜いた。赤く、そして波打つようなその刃からは、負の魔力が流れ出ている。


「貴様が何者かは問わぬ……。あの場にいた理由も興味はない……。ただこの場にて……俺と立ち会え……」


 う~ん、言動から察するに、基本戦いにしか興味のない狂戦士タイプの幹部っぽいな。侯爵の館では少しは話が通じそうな雰囲気もあったので、完全なバーサーカーというわけでもなさそうだけど。


「あ~、その前に名前くらいは教えてくれ。それとできればどうして俺のことがわかったのかも。俺は相羽走だ。こっちでは普通に学校の先生をやっている」


「バルロ……『魔人衆』のひとり……。お前がこの国にいることは、仲間から聞いた……」


「ああ、この間の『アサシンシャドウ』とかいうのを使役してた奴から聞いたのか」


「……そうだ……」

 

 なるほど、あの時の「見つけた」ってセリフがここでつながってくるわけか。


 しかし魔人衆は幹部同士意外と仲がいいんだろうか。魔王軍の四天王なんて全員が犬猿の仲みたいな感じだったんだが。


「オーケー、戦いには付き合ってやるが、彼女たちが下がるまでは待ってくれ」


「……弱い者に興味はない。下げるがいい……」


「というわけだ。皆下がっててくれ。こっちは手出し無用。気を取られて『深淵獣』にやられないように注意するように」


「オウ、アイバセンセイ、あの男がクゼーロと同じというのは本当でぇすか?」


「その話は後だ。あいつが大人しくしてる間に下がってくれ。余計なことをしたら命の保証はない」


 レアに釘を刺しておく。彼女は任務があるからこの突発的な状況は是非とも情報を持ち帰りたいだろうが、さすがにそれはお勧めできない。バルロと俺がマトモに打ち合ったら、周囲一帯は更地になる。特に奴が持ってるナイフはヤバい。あれは恐らく――


「レア、急いで下がりましょう。先生がここまで言うってことは、本当に危険なんだと思う」


「アオウジサン……う~、わかりまぁした」


 ナイス青奥寺。さすがに付き合いが長い教え子は頼りになる。


 俺は皆が下がるの確認して、『空間魔法』から『魔剣ディアブラ』を取り出した。


 黒く禍々しい大剣を見て、バルロの目がわずかに見開かれる。


「その剣は……俺の『ディアブロ』と同じ……か」


「たぶんな。どちらも反魔導物質でできてる剣だ。ちなみに名は『ディアブラ』だ」


悪魔(ディアブロ)』と『女悪魔(ディアブラ)』、いかにも一対の剣みたいな符号合わせだ。実際どうなのかはわからないが。


「……クク、そういうのは面白い。貴様との立ち合い……定められていたということか……」


「どうかな。じゃあ始めるか」


 俺がディアブラを構えると、バルロはディアブロを前に出すように半身に構えた。


「……参るッ!」


 瞬間、黒い疾風が、赤い閃光をまとって迫る。


 先制の一撃をディアブラで弾くが、バルロの動きは止まらない。ディアブロを縦横無尽にひらめかせ、あらゆる急所に致命の一撃を放ってくる。


 俺はそれらを最小限の動きで弾きつつ、バルロの動きをつかんでいく。


 しかし速い。速いのだが、俺の『感覚高速化』スキルを凌駕するほどではない。


 体感時間を引き延ばすスキルの前では、達人の動きも常人のそれに変貌する。


「なんという反応速度……ッ!」


 寸毫(すんごう)の隙をついて、ディアブラを薙いで黒い旋風を追い返す。


 バルロは口元をゆがめると、一気に距離を取ってディアブロを振り回し始める。


 その刃からほとばしるのは、不可視の斬撃。無数の見えない刃が俺に襲い掛かる。


「相手が使うと面倒だな」


 俺はそれらを、勇者の勘で叩き落としていく。ついでにこちらもディアブラから斬撃を飛ばしてやると、バルロはまるで見えているかのように身を(ひるがえ)して避けていく。


 しばしの遠距離戦。不可視斬撃のとばっちりを受けた遊具が、次々と切断されて吹き飛んでいく。


「やはり(らち)があかぬ……ッ!」


 バルロは超高速斬りで数十の見えない刃を生み出すと、その後ろを追いかけるように突っ込んできた。


 俺は見えない刃を一振りで叩き壊し、その向こうにいるバルロにカウンターで斬りかかる。想定外の攻撃に、バルロはディアブロで受け止めつつも、衝撃をいなしきれずに吹き飛んだ。


 その隙を見のがす勇者ではない。『高速移動』で一気に距離を詰め、ディアブラを振り回してバルロを追いかける。


「この程度では……ッ!」


 巧みな体技と剣捌きで凌いでいたバルロだが、俺が一段ギアを上げると次第にかわし切れなくなってくる。


 俺のディアブラが唸り、バルロのコートに裂け目が増える。そろそろ次のステージか。


「くおぉ……!」


 ディアブラの刃がバルロの肉に届く、その直前に、バルロの内側から膨大な魔力がほとばしった。今までの動きが(なぎ)に思えるほどの、圧倒的な高速移動。そのスピードでディアブラの刃から逃れたバルロは、全身から赤いオーラを発散させながら再度ディアブロを前に構えをとった。


「さすがだアイバ……ここからは俺も力を解放させてもらう……」


「速度特化の『身体強化』スキルか。そのレベルはお目にかかったことがないな」


「……俺にこの力を使わせる奴は、魔人衆でもほとんどいない……。感謝するぞアイバ……」


「こっちもお前レベルの格闘戦の達人は経験がない。勇者パーティの戦士くらいか。魔王軍でも四天王のトップを張れるな」


「……意味のわからぬことを……」


「絶賛に近い誉め言葉だ。勇者が認めたんだから誇っていいぞ」


「……そうか。ならば悪くない……な」


 バルロはニイと笑って、消えた。


 首筋に電流、ディアブラの刃でそこを守ると甲高い金属音と衝撃。さらに胸、腹、もも、背中、あらゆる部位にチリチリと電流が走る。俺はそのたびにディアブラでそこを守る。何度も響き渡る刃同士がぶつかる音と、重い衝撃。なにも見えないが、たしかにそこをバルロが攻撃しているのだ。


 視覚が追いつかないほどの、もはや光速に近いほど超速度。バルロの体技とスキルは、それを実現するまで高まっていたらしい。


 その動きは『感覚高速化』を使っても疾風のよう。勇者の勘がなければ俺は全身を切り刻まれて倒れていただろう。


 一歩も動かない俺に必殺の攻撃を何度も防がれ、しかしバルロはさらにその速度を上げた。もはや俺の周囲すべての空間に、バルロが()()()()()。そんな矛盾すら成立する。


 もちろん速度にはエネルギーが伴う。超速度の余波を受けて、周囲一面は竜巻にえぐられたように更地になっていく。


「これでも……ついてくるか……ッ!」


 もはや竜巻の中にいるような俺の周囲で、そんな声が聞こえた気がした。


 あらゆる角度から、あらゆる速度で、あらゆるフェイントを混ぜながら急所を狙う赤い閃光。魔剣同士が重なるたびに飛び散る魔力の飛沫。そしてしだいに見えてくる、達人バルロの息遣い――


 俺は一見無造作に、ディアブラをつ……と虚空に伸ばした。


「ぐう……ッ!」


 瞬間黒衣の男は姿を現し、そして男の右腕は、赤い魔剣を握ったまま地に落ちた。

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[一言] バルロ△ 勇者先生も認めるツワモノじゃけぇ!
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