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勇者先生 ~教え子が化物や宇宙人や謎の組織と戦っている件~  作者: 次佐 駆人


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22 勇者式強奪  01

「おじさん先生って正直なところサイアクだよね」


「なんだいきなり訳の分からないことを」


 週末、俺は以前の約束を遂行するために褐色娘(リーララ)を連れて街に繰り出していた。


 もちろん成人男性が女児を連れて通りを歩いていたら完璧な事案であるので、そこは魔法で欺瞞(ぎまん)をしている。


 『隠形(おんぎょう)』という、『光学迷彩』とは別の原理で気配を消す魔法がある。まともにかけると「目の前にいても認識しない」という強烈な効果があるのだが、弱めにかけると「目に入っても記憶に残らない」くらいの丁度いい感じになる。


 今はその魔法を自分とリーララにかけているわけだが、そのせいで困ったことに互いに強く意識していないと一緒にいることを忘れてしまうのだ。そこで思いついたのが腕を組むという方法なのだが、どうもそれに関して文句があるらしい。


「この魔法自体はすごいと思うんだけど、そのせいで腕を組んで歩かなきゃいけないとかゴーモンに近いし。こんなことを狙っていたとかサイアクでしょ」


「腕を組もうって言ったのはお前の方だろ。なんで俺の評価になるんだよ」


「はぁ? 私は腕を組むように誘導されただけだから。はぁ~、こんなヘンタイおじさんに好きにされるとかサイアクもいいとこ」


「人聞きの悪すぎること口にすんな。で、とりあえずどの店に行くんだ? 買いたいものは決まってるんだろ?」


「あのねぇ、女の買い物ってのは店に行ってから決めるの。男みたいに買い物があるから店に行くわけじゃないから」


「は? いやそんなはずないだろ、本気で言ってんのか?」


「これだから週末おひとりさまおじさんは」


「うぐ……っ」


 人の弱点をこの上なくピンポイントに貫いてくる褐色ひねくれ娘。あまりのクリティカルヒットっぷりにさすがの勇者も1ターン行動不能に陥る。


「さらに言えば、どの店に入るかも歩きながら決めるの。それが理解できないようじゃ一生週末おひとりさま確定かな~」


「く……っ」


 さらに行動不能ターン延長。というかなんで初等部の女児に女性のいろはを教わってるんだろう俺。


「そういうことも理解できてないから、おじさん先生は色々と大変なことになってるって自覚しないとね」


「いや別になにも大変なことになんてなってないぞ? 仕事もまあ順調だし、クリムゾントワイライトもいったんは片付いたし、宇宙艦隊はまだ来そうにないし、『深淵窟』もこれから対応は楽になる予定だし、どっちかって言うとお前の『不法魔導廃棄物』が一番の問題くらいだ」


「はぁ~~~~」


「溜息長いな」


「だって今のは8人? いや9人分くらいの溜息だし。まあいいや、それよりそこの店に入ろ」


「おう」


 う~ん、こういうやりとりはもっと歳の近い女性としたいんだがなあ。今知り合っている相手だと雨乃(あまの)嬢と宇佐さんが丁度いい感じなんだが……一応カーミラもそうだが、アレを連れて街を歩くとかそれだけで犯罪である。


「あ、おじさん先生今違う女のこと考えてたでしょ」


「お前心の中読めんの?」


「顔見ればだいたいわかるし。そういうのもサイアクだからね」


「そりゃすまん」


 即答で謝っておくが、正直今のはちょっと勇者的に怖い。やはり女性は未知の能力を持っていると考えておいた方がよさそうだ。


 そんなこんなでいわゆる百貨店の中を歩いているわけだが……あれ、ここってもしかして結構高級な店じゃないか? おのれリーララ、謀ったな。


 どんな高いモノせがまれるのかと身構えているが、リーララはしゃべりながら店内をうろつくだけで何かを欲しがる様子もない。これホントに買うモノを探しながら歩いてるみたいだな。俺には理解できない行動だ。


 そのまま20分ほど店内をフラフラ歩かされたのだが、ふと妙な視線を感じるようになった。


『隠形』をかけている以上注視されるということはないはずだ。すると相手は魔法を使える人間ということになる。


「おじさん先生どうしたの?」


 俺が周囲を見回していると、リーララが腕を引っ張った。


「ん~、どうも誰かにじっと見られてる気がしてな」


「そんなの別におかしくないでしょ……ってこともないんだっけ。おじさん先生の魔法が破られるなんて普通なさそうだし」


「そうそう。だから相手は素人じゃない……って……」


 その時俺の視界の端に、小さな女の子の影が映った気がした。そちらを見ると、そこに立っていたのは……


「あれ? あそこにいるのは清音じゃない?」


「そうだな。どうも清音ちゃんには俺たちが見えるみたいだ」


 魔力に対して非常に敏感な子らしいので、軽い『隠形』くらいなら看破されてもおかしくはないのかもしれない。やはり彼女も魔力トレーニングをさせておいた方がいいか。じゃなくて、彼女がここにいるということは……


「あら清音どうしたの、誰のことをそんなにじっと見てるの?」


 清音ちゃんに声をかけながら近づいてくるのは、言うまでもなく彼女のお母さんで、俺の同僚の山城先生である。


「あそこに相羽先生がいるの。しかもリーララちゃんと腕を組んでるの。それってダメだよね、お母さん」


「えっ、相羽先生が……? あそこにいる人がそうなの? 別人に見えるけど……」


 あ~、これちょっと誤魔化しきれない奴だ。


 リーララに目配せすると「見つかっちゃったらしょうがないよね~」とか無責任なことを言いやがる。


 俺は仕方なく魔法を解除し、山城親子を説得するための言い訳を考えるべく、『高速思考』スキルをフル回転させた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] これだから週末おひとりさまおじさんは いやぁ何度読んでも致命傷不可避だぁ……初見の人はこれを不意打ちで喰らうからなあ……
[一言] 清音ちゃん素養ありすぎでは
[良い点] JSに女心を説かれる勇者(22歳・社会人)w だかそんな鈍感というか勇者的マイナス補正というか、そこがいい!! 頑張れ勇者!! [一言] おまわりさんこっちです!! は兎も角 やった!!…
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