アイツは公爵家の令嬢で、私は辺境伯家の子息
こんな感じのネタで長編を書きたいなぁと思いつつ、でもこれ需要あるかな? とも思うので、一旦短編にしてみました。
ノルビス大陸と呼ばれるその地には、複数の国々が存在している。その内の1つにエルランド王国という大国がある。
肥沃な大地に豊富な資源、特にこれと言って欠点のない恵まれた国だ。そんな王国には14歳になった貴族の子供達が通う、王立マリウス学園がある。
そこでは現在、新1年生の歓迎会が行われていた。立派な大理石で造られた学園の大ホールで、沢山の学生達が楽しい時間を過ごしている。
そんな中で、3名の男女が何やら揉めている。男性1人に対して女性が2人、その男性が片方の女性を乱雑に扱った。
「きゃっ!?」
「もう良い! お前との婚約は破棄させて貰う!」
そう大声で言い切ったのはエルランド王国の第1王子であるダイン・エルランド・ティオーネ。15歳の2年生である。
短めの金髪とそれなりに整った容姿が特徴であるが、彼の顔は苛立たしげに歪んでいた。
彼が突き飛ばした相手はこの国の公爵令嬢、クラリス・ロアーナ。同じく15歳で彼の婚約者だ。
少女にしては高い身長に、スラリとした身体。腰まで伸ばした輝く銀髪は絹のよう。
知性を感じさせる儚げな印象のある美しい少女であった。
ハッキリとした二重瞼に、綺麗にカールした睫毛。形の良い薄い唇に鼻筋の通った鼻。サファイアの様な瞳を持つ彼女は、精巧な人形かと見紛う程に美しい。
首元に巻かれた黒いチョーカーが、陶器のようなツルツルとした白い肌を際立たせている。
全体的にほっそりとした印象で、真っ白なドレスがよく似合っている。
「私はただ貴族として、相応しい振る舞いを説いただけです」
クラリスはあくまで立ち居振る舞いについて、少し苦言を呈しただけだと主張する。だがダインは、彼女の主張が気に入らないらしい。
「今更言い訳をする気か! お前がミラに陰湿な嫌がらせをしていたのは分かっている!」
「私はそのような事をしておりません!」
ダインが庇う形で背に隠しているのは、男爵家の令嬢であるミラ・エスカーラだ。この国では特に珍しくもない茶髪に平均的な背丈。
顔立ちは平凡であるが、15歳にしては発育が良い少女だ。ダインの背に隠れながら状況を見守る少女は、周りからは見えないよう、隠れながらニヤリとほくそ笑んだ。
そんなミラの様子には気付きもせずにダインは、忌々しげにクラリスを睨んでいる。そんな問答を見ていた聴衆の中から、1人の少年が前に出る。
「お待ち下さいダイン王子。女性に対してそのような乱暴な振る舞いは、褒められた行いではありませんよ」
「チッ! お前には関係ないだろう、エルネス!」
トラブルに介入したのは鮮やかな青い髪をした美男子。氷の貴公子と呼ばれている辺境伯家の長男であるエルネス・ミルローネだ。
落ち着いた雰囲気に切れ長の双眸。女性かと思える程に美しく、しかし凛々しくもある顔立ち。
男性としては平均的な背丈ではあるが、十分に背は高く、鍛え抜かれた肉体を持っている。理知的で冷静な彼は、昨年の入学式から注目を集めている人気者の男子生徒だ。
何人もの令嬢から婚約を申し込まれているが、全て丁寧に断っている。そんな彼が揉め事に自ら関わった事で、その場に居る生徒達の注目を集めた。
「新入生の歓迎会でこんな騒ぎを起こして、関係がないは無理がありますよ」
冷静かつ論理的に、エルネスはダインへと詰め寄る。いつもダインが目に余る行為を行うと、こうしてエルネスが嗜めて来た。
それもあってダインは、苛立ちながら自身の正当性を主張する。クラリスがミラに嫌がらせをしていたのだと。
しかしそれについても、エルネスは冷静に対応する。
「そもそもクラリス様が嫌がらせをしているところなど、私は見た事がありませんよ?」
「お前が見ていないだけだろう!」
かなり無理矢理な主張に過ぎず、エルネスは全く動じていない。自身のスタンスを貫き、不当な扱いを受けたクラリスをフォローする。
「ならダイン王子は、その目で現場を見たのですか?」
「う、うるさい! 何であれクラリスとの婚約は、今この時をもって破棄する!」
その意思は変わらないようで、覆す気はないとダインは表明した。そんなやり取りを見ている周囲の反応は様々である。
学園で人気の公爵令嬢が、落ちぶれるのを見世物として楽しむ者。以前から続く目に余るダインの言動に、少なからず不快感を示す者。
そしてクラリスとエルネスに好意を抱いていた者達は、これからの展開がどうなるのか気が気ではない。様々な意思が入り混じる中で、エルネスはダインに問う。
「王家が決めた婚約を、王の許可なく破棄するのですか?」
「くどい! 王族である俺が決めたのだ!」
そういう事ではないと、エルネスは呆れた表情でダインを見ている。もう何を言っても無駄だろうと、説得を諦めたようだ。
「…………はぁ、分かりました」
エルネスが言うように、ダインとクラリスの婚約は、王家とロアーナ公爵家の取り決めにより決定したものだ。
そんな簡単に破棄出来るものではないのだが、こんな公の場でこれ程の騒ぎになっては、無かった事にするのは難しいだろう。
学生しかいない場と言っても、ほぼ全ての貴族家が揃っているのだ。クラリスが婚約破棄をされたという醜聞を、今から消す事は難しい。
ダインの言動が褒められたものでないのは確かであるが、このままではクラリスが不名誉を被ってしまう。だが、それをエルネスは良しとしない。
「ならば私が、クラリス様に婚約を申し込みましょう」
「えっ!?」
突然の発言にクラリスは大層驚いている。エルネスは自分から婚約を申し出る事がなかった男だ。こんな展開は予想出来なくても当然だ。
「ふ、ふんっ! そんなつまらない女、田舎者の貴様にくれてやるわ!」
床に倒れたクラリスを優しく抱き起こし、エルネスは彼女の手を取る。沢山の貴族の子供達が見守る中で、彼は跪いてクラリスの手の甲に口付けをした。
今まで全ての婚約を断って来た、氷の貴公子がまさかの行動に出た。それによりホールは大騒ぎになった。
最早ダイン王子が発言した嫌がらせ云々の話は忘れ去られ、氷の貴公子が一途にクラリスを想い続けていたのではないかと、会場内は盛り上がり始めた。
王子としては理性に欠けた行動へ出たダインと、あくまで論理的に対応していたエルネス。その対比もあり、騒ぎは広がる一方である。
そんな中をエルネスはスマートにクラリスをホールの外に連れ出した。
すっかり日の落ちたエルランド王国の王都、アリウスの街を1台の馬車がゆっくりと進んでいる。
エルネスの生まれであるミルローネ家の紋章が入った馬車には、エルネスとクラリスの2人だけが乗車していた。
本来は全寮制である学園だが、事が事である為にロアーナ公爵が暮らす、王都内の邸宅に向かっている。
御者を務める男性は、余計な詮索をする事なくエルネスの指示に従っていた。
「申し訳ありませんクラリス様。このような形でしか、場を収める方法が思い当たらず……」
自分なりに冷静な対処をしたつもりとはいえ、これ以上にスマートな解決策を見出せなかった事を謝罪するエルネス。
「い、いえ……ありがとうございます」
クラリスはまだ困惑している様子で、どうにも落ち着きがない。現在の状況を思えば仕方ないだろう。
「私の事はお気にならさらず、婚約は断って頂いて結構ですので」
エルネスはあくまで、クラリスの名誉を守ろうとしただけだ。単にダイン王子に婚約破棄をされた身で終わるより、王子側に見る目が無かったと演出するのが目的だ。
実際クラリスが嫌がらせをしていたという証拠もないので、その目論見は見事に成功している。後は傷心のクラリスが、今は婚約を再びする気にはなれないと断れば終了。
それがエルネスの描いた絵の全容である。15歳にしては良く考えた方で、そこまで悪い手ではない。これで婚約を断られても、エルネスにもそこまで大きなダメージはない。
紳士的な行動を取った事で、むしろプラスとも言える。しかしそれは、あくまでも普通ならばという事だ。
「きゃっ!?」
大きめの石でも踏んでしまったのか、馬車が大きく揺れてクラリスがバランスを崩す。
「おっと、大丈夫ですか?」
エルネスはクラリスが倒れないように、慌ててその体を支えに行く。彼は抱き締める形で、クラリスをその身で受け止める。
「は、はい」
運命の悪戯か、その時問題は起こった。正面に座っていたクラリスをエルネスが受け止めた時、たまたまクラリスの掌がエルネスの体に触れた。
そしてダインから乱雑に扱われた時、損傷したのだろう。クラリスが首元に着けていた黒いチョーカーが、外れてしまっていた。
エルネスは視界へ入って来た情報に、強い違和感を覚えた。クラリスの首には、明らかに男性と分かる喉仏が自己主張している。
これまでに学んで来た知識から、ここまでハッキリと出ている女性は存在しない事を、エルネスは知っている。
自分が出ていない事を誤魔化す為に、わざと襟が高めのシャツを着るようにしているのだから。
「えっ、クラリス、様って……も、もしかして……」
エルネスは少しずつ状況を理解し始めた。もしかしてクラリスは、女装をしている男性なのではないかと。
「っ!?」
隠し続けて来た真実を知られてしまったクラリスは、慌ててチョーカーを拾おうとするが抱きとめられているので身動きが取れない。
そしてエルネスが何故こうも早く、性別を偽っているという発想に至れたのか。どうして即判断が出来たのか、それはエルネスもまた同様だったからだ。
エルネスは改めてクラリスを見る。受け止めた時の姿勢のままであり、クラリスの掌がエルネスの体に触れている。
「きゃあ!?」
思わずエルネスはクラリスを突き飛ばす。エルネスの叫び声が馬車の中でこだまする。貴族用に作られた馬車なので、防音処理が施されている。
しかしそれでも、御者が思わず振り返る程の声量であった。女性が相手なら、エルネスは気にしなかった。
だがクラリスは男性で、うら若き乙女が狭い空間で密着するのは恥ずかしい。
「ちょっ!? あ、あんた! どこ触ってるの!?」
エルネスは演技も忘れ、顔を真っ赤にしてクラリスへと文句をつける。その腕で胸元を隠しながら。こんな反応をされれば、クラリスも状況を理解する。
純粋な男性がこんな反応をするわけがない。あるとすれば、自分と同じく性別を偽っている場合ぐらいだろう。
「お、お前……男じゃないのか?」
秘密がバレたのもあり、クラリスは本来の話し方で対応した。クラリスはエルネスに触れていた手のひらを見て狼狽する。
「ちょっ、待てよ! お前が勝手に抱き着いて来たんだろうが! 男のふりをしていたお前が悪いだろ!」
「それはこっちのセリフなんですけど!?」
本当の性別がバレた2人は、取り繕うのを止めた。なるほど演技を辞めてみれば、確かに2人はこの方がしっくり来る。
女性としては低めの声だったクラリスと、男性としては高い声だったエルネス。
男性として見れば、クラリスは母親似と言われればそれまでだし、エルネスも父親似と言われたら同様だ。
いざ分かってしまえば、もうお互いにそのようにしか見えなかった。
「つーかマジで余計な事しやがって! 俺はわざと婚約破棄されたんだぞ!」
ずっと言いたくても言えなかったクレームを、ここぞとばかりにクラリスは訴える。
「知らないわよそんな事! あんな公衆の面前でやったのが悪いんでしょ!」
「仕方ねーだろ! あの王子から逃げるには、これが最善手だったんだよ!」
クラリスはそもそも男性である。ならば男性の婚約者との婚約破棄を目指すのは、とても理に適っている。
だがそれは事情を知らぬエルネスが、理解出来る筈も無い。単なる善意から行動に出ただけで、何も悪い事はしていない。
ただ2人がお互いに、特殊な家庭事情を抱えていたというだけである。そんな事を知らない2人は、口論を続ける。
「これじゃあまた、婚約者が出来てしまうだろ! 俺の苦労が全部パァだ!」
クラリスは別の男性から再び婚約を申し込まれない為に、わざと男爵令嬢であるミラの策に自ら乗った。
嫌な女だと周囲に思わせて、婚約の対象から外されに行った。
「なら公爵令嬢のフリなんて、やらなければ良いじゃない!」
「お前にだけは言われたくねぇよ!」
どちらが悪いというわけではなく、純粋に不運な事故である。もしあの場で婚約破棄が行われなければ、エルネスがあの場にいなければ。こんな事態には発展しなかった。
だがそれは可能性の話であり、これが現実だ。お互いに性別を偽っていた令嬢と子息で、隠していた秘密がこの場で判明してしまった。
本来は墓まで持っていく筈だった真実を、お互いに知ってしまったのだ。今更無かった事にするのは不可能である。溢れてしまった水は、盆の中に戻る事はない。
「親父になんて説明すりゃ良いんだよ……」
「それもこっちのセリフなんですけど」
2人は睨み合いながら、お互い様な文句を言い合う。これから親にどう説明するべきか、頭を悩ませるエルネスとクラリス。
「「はぁぁぁ……」」
ロアーナ公爵邸に向かう馬車の中では、2人の男女が重苦しい空気を抱えながら向かい合っていた。
エルランド王国には2つの有名な貴族家がある。1つは知を司る公爵家、ロアーナ。そしてもう1つは武を司る辺境伯家、ミルローネ。
ロアーナ公爵家は宰相や王妃を輩出する家系であり、ミルローネ辺境伯家は代々将軍や剣術指南役を輩出して来た血筋である。
それもあって跡継ぎには、厳しい指導と条件が課せられる。要職を担う家系故に、1つの血筋に依存し過ぎないよう、王家との間に取り決めが定められている。
例えばロアーナ家の現当主は宰相をしており、その子供には王妃の役割が求められ、宰相にはなれない。
現在剣術指南をしているミルローネ家の場合だと、将軍を務める男児が必要となる。権力の独占を避ける目的で作られた法だが、次代の子らに両家とも恵まれなかった。
そんなロアーナ家にて、たまたま王都に来ていたミルローネ家の当主も呼ばれていた。
「なあどうすんだよ親父!」
「お父様、私はどうすれば……」
性別を偽り続けて来た両家の現当主が、ロアーナ家の来賓室で向かい合う。
ロアーナ家の当主でクラリスの父、モノクルが似合う30代後半の知的な印象を受ける宰相のアレン。
そしてミルローネ家の当主であるエルネスの父、同じく30代後半の美丈夫レグルス。王国の要職を担う2人の男達は、鋭い眼差しでお互いを見ている。
この国の法では、貴族の出生登録を偽ってはならない。血統を守る為に、エルランド王国で定められている基本的な法律だ。
だがそれを真っ向から破っているのは大問題である。それ故に2人の男達は、お互いの手を固く握り合った。
「息子を頼む」
「こちらこそ、娘を宜しく」
睨み合っていたのは何だったのかと、2人の子供達は驚く。
「「はぁっ!?」」
子供達の困惑を他所に、2人の父親は分かり合っていた。女児が必要だったロアーナ家には、男児の双子が生まれた。
男児が必要だったミルローネ家には、女児の双子が生まれた。どちらもそれ以降は子宝に恵まれず、出生登録をせねばならない5歳を迎えてしまった。
仕方なくロアーナ家は長男を長女と偽り、ミルローネ家は長女を長男と偽った。その苦悩と苦労を、一瞬にして分かり合った父親達は明るい表情だ。
「実に幸運だったよレグルス殿」
「それはこちらもだよアレン殿」
2人共側室を設けない愛妻家で、別の女性との間に子供を作りたくはなかった。
また養子縁組の制度はあるが、将軍や王妃は養子からは出せない。法律上は重要度の高い地位には、直系の血筋でなければなれない。
あくまで正統な後継者でなければならないのだ。ギリギリまで愛する妻との子に拘ったが、成果が出る事は無かった。
「「わははははは!」」
笑い合いながら2人の父親は肩を叩き合いながら喜んでいる。
「「どういう事!?」」
何やら父達が分かり合ったらしい事を、子供達も理解した。しかしだから何だというのか、エルネスとクラリスは分からない。
もはや杯でも交わしそうな雰囲気の2人に、子供達は困惑する事しか出来ない。今日まで隠し続けて来た秘密がバレてしまったのに、悲壮感はまるでない。
むしろ明るい雰囲気になったのだから、子供達には意味が分からない。怒られると思っていたら、これなのだから。
「良いかクラリス、王子から婚約破棄をして来たのだろう? ならもう我が家から、王妃を出す必要がない」
ロアーナ家当主のアレンは、息子に状況を説明する。こちらは制度を名目上とは言え守ったのに、第一王子のダインが自ら婚約破棄をした。ならばもう使命は果たした、という事にしたいアレン。
「そしてうちは、そんな公爵家のご令嬢を嫁に貰うわけだ。これで後継ぎ問題は解決だな、エルネス!」
ミルローネ家の当主であり剣術指南役、レグルスは娘の婚約をあっさりと受け入れていた。
2人の父親は楽しそうに笑っており、もう今すぐにでも結婚の準備を進めそうな勢いだ。
「ちょっと待て親父!? こんな男のフリをしていたヤツと、結婚させる気か!?」
「アンタが言えた事じゃないでしょうが!!」
実に仲良さげな父親達とは打って変わり、娘と息子の空気は最悪である。どう考えても婚約が決まった男女の関係性ではない。
完璧な男子として生活していた人物が実は女子で、麗しき令嬢として生活していた人物が実は男子だったのだ。
深い交友関係は無かったが、これまでそんな事は知らずに過ごしていたのだ。お互いの認識が正されたら、過去の出来事も全て意味が違って来る。
だがそんな事は父親達の知った事では無かった。
「何を怒っているんだエルネス? ちゃんと女性として結婚出来るのだぞ?」
「い、いや、それはそうだけど……」
性別を偽ったままでは、結婚など到底出来はしない。女性としての幸せを諦めるしか無かったエルネスには、クラリスが丁度いい相手と言える。
「クラリス達が表向きは性別を偽ったままで、結婚をすれば良いのだ。お前だって、今から男と結婚したくはないだろう?」
「だ、だからって親父!」
2人は性別を偽っているから、結婚する事が出来なかった。しかし偽った者同士であるならば、その問題は解決出来るのだ。
そしてちゃんと子孫も残せる。双子の片方しか子孫を残す可能性が無かった筈なのに、両方残せる可能性が生まれた。
貴族家の現当主としては大歓迎である。もちろん親として、我が子の幸せが実現したのも大きい。
子供に悲しい未来を背負わせずに済んだのだ。家柄も年齢も釣り合いが取れており、2人とも見目麗しい美男美女。
こんな好条件は二度と訪れないと、父親達は理解している。しかし子供達が納得するかは別の話だ。
「ま、待てよ! 本当にコイツと結婚するのかよ!?」
「おめでとうクラリス、いやクリス。婚約者が美人で良かったな」
結婚相手として都合が良い、それだけはクリスにだって理解出来る。しかし気持ちは追い着いていない。
「お、お父様、嘘ですよね?」
「エルネリーゼ、なるべく早く孫を抱かせてくれよ!」
女性としての人生を諦めていたエルネリーゼだったが、諦めなくても良くなった。その点だけは確かに喜ぶところかも知れない。
「「わははははは!」」
勝手に盛り上がる父親達の姿に、絶望の表情を浮かべる子供達。確かにこの条件なら自分達はちゃんと異性と結婚出来る。
性別を偽っていても問題はない。だが気持ちの問題はまた別だ。女子のフリをしていた男子、男子のフリをしていた女子。
それがお前の婚約者だと言われて、納得出来る程に2人は成熟していない。何でこんな奴が婚約者なのだと、2人は互いに睨み合う。
いつまでも和やかな父親達により、冷やかな空気を纏う子供達の婚約はこうして決定した。
婚約者となった2人は、様々な苦難を乗り越えながら絆を深めていく。最初はいがみ合っていた2人だったが、次第に惹かれ合っていく。
そうしてエルネリーゼとクリスは、幸せな家庭を築く事になる。
お付き合い頂きありがとうございました!




