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転生龍は人と暮らす  作者: くらいさおら
第三章 王都ガルジア
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79.アイスクリームへの道

 アイスクリームの歴史は、旧約聖書から始まっている。

 もちろん、現代のようなクリーミーなものではなく、シャーベットやかき氷のようなものだ。


 当時の氷や雪は、保冷庫としての利用が主だったと考えられている。

 これに乳製品や蜂蜜、絞った果汁をかけて食べていたらしい。


 そして、現代のようなデザートではなく、兵士たちの志気を高め、疲れを取るために用いられていたようだ。

 たしかに、ふつう夏には手に入らない高価な支配階級の嗜好品を大盤振る舞いされたら、兵士たちの精神的な疲れも吹き飛び、士気も上がろうというものだ。


 マケドニアのアレクサンドロス三世も、自ら氷菓子を楽しんだだけではなく、戦場の兵士に振る舞っていた。

 マケドニアが当時の文明世界である古代ギリシアに広大な版図を築いた原動力は、大王の天才的戦略眼とファランクス、そしてアイスクリームの原型だったのかもしれない。



 このアイスの原型を初めてデザートとしたのは、古代ローマが誇る女ったらしのコッパゲ借金王、ユリウス・カエサルだ。

 彼はアペニン山脈の万年雪に、乳製品やワイン、蜜をかけて楽しんでいたと伝えられている。


 時代が下がり、暴君と悪名高い古代ローマの黒歴史、史上初のスタジアムワンマンコンサートを敢行した第五代皇帝ネロも、アルプスの万年雪を食べていた。

 こちらはカエサルよりも手の込んだレシピで、果汁に蜜、樹液などをブレンドした氷菓子を愛飲していたといわれている。


 即位直後は善政を敷き、ローマの民に支持されていた若き皇帝が愛飲したレシピは、ドルチェ・ビータと名付けられ広まっていく。

 現代イタリア語では甘い生活と訳されるが、当時のラテン語では甘美な生命と訳するべきだろう。


 一一世紀に入り、シリア地方へ侵攻した十字軍が、砂糖と氷雪で作られた現地の甘い飲み物の製法をヨーロッパに伝えた。

 千夜一夜物語の中にも登場するシャルバートと呼ばれる飲み物が、現代のシャーベットの原型と考えられている。


 シチリア島でシャルバートを元に、特産のナッツや果物を使ったソルベットが作られた。

 シャルバートがシルクロードを伝い、中国は宋の国に伝わったという記録もある。


 また、当時の宋で作られていた牛乳を凍らせたアイスミルクが、マルコ・ポーロによってイタリアに伝えられ、これが爆発的に広まったという起源説もある。

 いずれにせよ、古代から中世にかけての氷菓子は、シャーベットとして発展していった。


 一七世紀末のパリで、ホイップクリームを凍らせたグラス・ア・ラ・シャンティが開発された。

 これが、初めて商業的に成功したアイスクリームとされている。


 フランスからイギリスへとドーバー海峡を渡ったアイスクリームは、一八世紀に大西洋を越え、バケツアイスの本場となるアメリカへと伝えられた。

 一八四六年にアメリカの主婦が、手動式のアイスクリーム攪拌機を発明する。


 その五年後に、メリーランド州のボルチモア市で、余った生クリームを有効活用するために、アイスクリームの生産を開始した牛乳商がいた。

 これが世界初のアイスクリーム製造工場で、アイスクリーム産業化の嚆矢となる。


 一八九〇年代初め、ウインスコンシン州のアイスクリームパーラーで、客の注文に答えてチョコレートシロップをかけたアイスクリームが提供された。

 当時、クリームソーダの販売が条例で禁じられていた日曜日には、このレシピが代わりに提供されるようになっていく。


 また、同州の別のアイスクリームパーラーも、日曜日だけこのレシピを提供していたが、常連客の少女の希望で毎日これを販売するようになる。

 現代に伝わるチョコレートサンデーは、こうして誕生し、ひとびとに愛され続けてきた。


 もちろん、こういったアイスクリームの歴史を、龍平が知っているはずもない。

 チョコレートサンデーの逸話は、耳にしたことかあったかもしれないが。


 だが、サンデーのスペルはSundayだと思い込み、Sundaeというスペルは知らない。

 そして、このスペルが食器商の間書き違いという説や、キリスト教の安息日を冒涜しているという批判によりスペルを変えたという説も、当然のごとく知るはずもなかった。


 この日、龍平は金属製の筒状容器と、氷と塩でアイスクリームを作るという、マンガで読んだ知識を胸に、レフィのコンテナを作り上げたレイナードの下を訪ねている。

 付き添っているレフィは、アンパン改良時以上の意気込を見せる龍平に、半ば呆れかえっていた。




「棟梁、突然お邪魔して申し訳ありません。棟梁しかこういったことを相談できる相手がいませんので、不調法を承知でお邪魔したしだいです」


 社会的な立場では龍平の方が上になってしまったが、年長者で尊敬すべき技術を持つ職人に、横柄な態度を取るような躾はされていない。

 敬意を込めて、龍平は言葉を選んでいた。


「旦那、ドラゴンの姫様も、そう畏まられちゃ、調子が狂うってもんですぜ。あっしゃぁ、そんなたいしたもんじゃぁございやせんや。もっと、こう、砕けたようにしておくんなせぇ。で、今日はどんなご用件で?」


 相手が騎士爵ということで、レイナードはとっておきの紅茶を煎れていた。

 フォルシティ邸や王城で出される高級品には及ばないが、それでも上質な香りが龍平の鼻腔をくすぐっている。


「ええ、そうしたいのは山々ですし、その方が棟梁もお気楽なんでしょうが、なかなか切り替えらんないんですよ。俺、元々は庶民ですから。まあ、とりあえず、それは置いときましょう。金属製の筒で、ふたがぴっちり閉められて、中に入れた水がこぼれないものがほしいんです。冷たいお菓子を作りたいんですが、ちょうどいい具合の入れ物が見つからなくて。棟梁なら作れるんじゃないかと」


 龍平の言葉に、レイナードは腕を組んで考えている。

 薄い板金を筒にして、底を付けることは何とでもなる。


 既にこの世界、この時代にはハンダ溶接が実用化している。

 地球の歴史でも、ハンダは紀元前三〇〇〇年頃、使用されるようになっていた。


 エジプトのツタンカーメンの墓からも、ハンダを使って作られたと思われる装飾品が出土している。

 これは今を去ること三三〇〇年以上の昔、紀元前一三五〇年頃のことだ。


 ローマ帝国時代には鉛が大量に製錬され、銀の精練に使用されていた。

 この鉛を板に加工して長い筒に丸め、長手方向をハンダで接続して、水道の配管として使用されている。


 中世のヨーロッパでは、寺院のステンドグラスの加工に使用されていた。

 この世界でも、金属加工は同様の進化を遂げているようだった。


 だが、底は付けられても、ふたをハンダ付けするわけにはいかない。

 そうなったら、もう破壊するしか開ける方法がないからだ。


「旦那。容器もふたも作れやす。ですが、密閉となると、ろう封しかねぇかと。冷たいお菓子ってことですから、火にかけるってこたぁねぇんでしょう? 幸い、鍛冶屋に頼んでる仕事は、今ありやせんから、明日にはお届できやしょう」


 ふたをかぶせるだけでなく、ろうを受け止める張り出しをつければ、ろう封じに逆さにすることもない。

 開けるときも、ろうであれば溶かす必要もなく、力任せで構わなかった。まあ、いざとなれば、トカゲ姫の爪があるけどな。


 一〇〇も二〇〇も作るのでなければ、時間もそれほどかからない。

 板の在庫さえあれば、レイナードの言うとおり、明日には完成品が届くだろう。


「ありがとうございます、棟梁。上手くいったら、真っ先にお届けに上がりますよ」


 容器さえ何とかなれば、後は簡単なはずだ。

 中に牛乳と砂糖、手に入るなら生クリームを少々入れ、塩を振った氷の上で一五分から二〇分ほど転がし続けるだけ、のはずだ。


 もちろん、金属筒などなくても、材料を入れたボウルを冷やしながら丁寧に掻き回し、掻き混ぜ、しかる後に冷凍庫で冷やせばアイスクリームはできあがる。

 だが、マンガで読んだ知識しかない龍平は、それしかないと思いこんでいた。


 もっとも、それを知っていたとしても、この世界、この時代に冷凍庫はない。

 せいぜいが、天然氷を利用した氷室がいいところだ。


 これでは、アイスクリームを作り上げるには、温度が高すぎる。

 冷蔵庫と言うよりは、断熱の効いた保冷庫の方が近かった。


 レフィに魔法で冷やしてもらう手もあるが、調整が難しい。

 いきなりカチカチに凍ってしまう危険性の方が、圧倒的に高かった。


 氷点下以下でも凍り付かない温度で、なめらかに冷やし固めていかなければならない。

 現代であれば、マイナス一八度設定の冷凍庫で冷やしながら掻き混ぜていけば、一般家庭でもアイスクリームは作ることができる。


 しかし、この世界のこの時代に、安定したマイナス一八度を作る技術はまだない。

 結局、龍平が思いこんでいる方法しか、アイスクリームを作るすべはなかった。



「ええ。ありがとうごぜぇやす。どんなもんができあがるのか、あっしには解りやせんが、楽しみにお待ちしておりやす、旦那、ドラゴンの姫様」


 レイナードの言葉に、本来であれば騎士爵たる者にあるまじき振る舞いだが、龍平は丁寧に頭を下げる。

 レフィにしてみれば龍平がへりくだりすぎるとの思いもあるが、貴族のいない世界の人間にそれを強要することは諦めていた。


 レフィも水準以上の技術や知識を持つ者であれば、庶民であっても敬意を払っている。

 喉を鳴らしたレフィは、龍平の態度を窘めることなく席を立った。


 バターやチーズを作っているのであれば、生クリームも作っていると考えてよい。

 だいたいが春から初夏にかけての作業だが、この時期にも少量であれば作っているだろう。まずは、それを確かめておきたい。


 勇躍バルゴに乗り込んで、今は牛乳の生産がありませんでは、話にならない。

 とりあえず、今日のところは様子見に行ってみようと、龍平は考えていた。


「そいつぁ、光栄だ。旦那、よろしくお願いしやす。それじゃあ、これから鍛冶屋んとこ行ってきやすんで」


 レイナードが立ち上がり、龍平たちのあとを追う。

 それぞれは、これから行くべきところへ向かって、ドアを出て行った。




――いったんフォルシティ邸に戻る? それからバルゴ、かしら?――


 久しぶりに龍平を乗せて飛ぶことに、レフィはうきうきとしていた。

 やはり、コンテナに乗せているより、直接の龍騎は一体感がある。


「ああ。でも、まだ寒いぞ。できたらコンテナで行きたいんだけどな」


 まだ春には間がある。

 この寒空を飛んでいく度胸は、さすがにない。


 龍平にしても、せっかく作った鞍を死蔵させておくのは惜しい。

 だからといって、風邪を引くのも勘弁してほしいところだった。


――そうかしら? あなたの周りを風の魔法で覆って、その中を火の魔法で暖める方法は考えてあるのだけれど、いい機会だから試してみたいかしら?――


 もちろん、レフィも竜の耐寒性と人間のそれを、同等には考えていない。

 風と火の魔法で、解決するつもりだった。


「いや、それさ、俺、焼け死なない? 加減間違って、一瞬で黒こげとか蒸し焼きとか、冗談じゃねぇぞ。とりあえず、今日はコンテナで。その魔法は、実験して安全が検証できたらな。それに、俺が思っているものがあれば、冷たいお菓子の前にもうひとつネタがあるんだ。せっかくだから、ケイリーとアミアも誘わねぇか? ああ、手が空いてるなら、バッレさんとミウルさんも」


 高温の密閉容器に閉じ込められたら、間違いなく焼け死ぬ。

 たしかに冬の空を暖かく飛ぶには必要だろうが、検証もなしにやる度胸はない。


 それは後日に譲るとして、バターがあるなら生クリームがあるはずと龍平は考えていた。

 ならば、アイスクリームを作る前に、ホイップクリームも堪能したい。


 作り方の詳細は知らないが、砂糖を入れてホイッパーで腕が鉛になるまで掻き回せばいいはずだ。

 それこそ、レフィにやらせればいい。


 そして、新婚生活を邪魔したくないという意識から、最近あまり会っていない友人と、久し振りに遊びたかった。

 どうやらネイピアへの移住に心が傾き始めたミウルと、バッレの後押しをしておこうとも考えている。


 バーラムを迎えに行った際に、レフィはバルゴで好意的に受け入れられた。

 だからといって突然の訪問は不躾であり、先触れを出す必要もあった。


――そうね。そういうことなら、今回はコンテナで行きましょう。さすがにレニアとナルチアを、連れ出すわけにもいかないでしょう。ケイリーたちと出かけるのも、久し振りね。なら、ふたりがどこかへ出かける前に捕まえましょう――


 ケイリーたちも、フォルシティ邸に居候している。

 食事の時間に顔を合わせてはいるが、挙式以来一緒に出かけるようなことはなかった。


 ミウルとバッレもフォルシティ邸で起居しているが、身分の違いから食事は別室だ。

 それぞれに出かける用事も多く、最近ではあまり顔を見ていなかった。


 当然のことだが、バーラム夫妻は別に宿を取っている。

 バーラム自身が王城との話し合いで多忙なため、こちらも顔を合わせる機会が減っていた。


 公用で多忙なバーラム夫妻を誘うことは無理だが、ケイリー夫妻やミウルにバッレなら、一日くらい連れ出しても問題はないだろう。

 後日、ホイップクリームやアイスクリームで、ミッケルやバーラムの機嫌を取っておけばいい。




「いやあ、嬉しいね、リューヘー。あのアンパンも素晴らしいものだが、今回はそれ以上のものなのだろう? 君の意気込みを見ていると、そう確信したよ。そうだろう、アミア?」


 コンテナの中でくつろぎながら、ケイリーがアミアに話を振る。

 お熱いですね、おふたりさんは。


 もっと見せつけてやっておくんなさい。

 龍平はどうでもいいから、主にバッレさんとミウルさんのために。


「ええ、あなた。冷たいお菓子と聞いて、わたくし、とても楽しみですわ。夏に氷室から出した氷で甘い飲み物をこしらえることはありますが、それとはまた違うのですよね、リューヘー様?」


 ワーデビット家ほどの貴族であれば氷室のひとつやふたつは所有しているが、冷菓を毎日堪能することは難しい。

 慎ましい態度は崩さないが、アミアが浮かれていることは明らかだった。


 ましてや、地方の寒村でしかないネイピアで、冷菓など夢のまた夢だ。

 ケイリーは、アミア以上に興奮を抑えられなかった。


「こないだのアンパンもそうなんですが、俺みたいな下々の者が口にしていいものなんですかい? ミウルさんはともかく、俺なんぞより、デイヴの旦那を連れて来てやった方が、よかったんじゃございやせんか?」


 龍平たちがふたりを連れ出した意図を悟ることなく、バッレが問う。

 割と鈍いね、この人も。


 たしかに、魔獣襲来で右腕を失ったデイヴは、ケイリー護衛とネイピア兵統率の任を解かれ、宿で無聊を囲っている。

 治癒の魔法で傷は塞がっているが、まだ身体のバランスに苦労している状態だ。


 身体の一部を失うと、それまでとはバランスが狂い、ちょっとしたことで転びやすくなる。

 命に別状があるわけではないが、もうしばらく遠出は控えた方がいいと、龍平は考えていた。


「ネイピアに帰るまで、右手がない状態に慣れておいた方がいいと思うんだ。まだ、しばらくは宿で養生している方がいいよ、きっと。セルニアからの移動で疲れが酷いだろうしね。もちろん、道具を作ってくれた親方の次に、それを持ってお見舞いに行くさ」


 ネイピアを出て以来、セルニアからガルジアと転戦に次ぐ転戦だ。

 右腕を失う以前であれば、その程度はなんということもなかっただろう。


 だが、身体のバランスが狂ったまま、慣れない状態で馬車に揺られることは、尋常ではない疲労をもたらしているはずだ。

 そんなデイヴを連れ出す気には、とてもではないが龍平はなれなかった。


 だからといって、デイヴを蔑ろにする気などあるはずない。

 それはケイリーもアミアも同じだ。


 先代からの忠臣を蔑ろにするような教育をケイリーは受けていないし、そんな気はさらさらない。

 ただ、見舞いに行けば無理をすることが判っているから、敢えて宿を取らせて仕事を与えていないだけだった。


 いや、ケイリーは厳しい仕事をデイヴに与えていた。

 今は焦る心を抑え養生に徹し、身体を休めながら現状に慣れ、帰郷後陪臣になる知識と知恵を養えと。


 王家が叙勲する直臣でなくとも、領主権限の中で叙勲する陪臣であればデイヴの立場を保障できる。

 自身を守るために傷ついたデイヴにできることはないかと、悩み続けたケイリーの答えだった。


「そうでございやすか。ありがてぇことでございやす。ご領主様だけじゃなく、フレケリー様からもそう言っていただけるなら、デイヴの旦那も納得するでしょう」


 バッレ自身が納得できたのか、この話題に固執することはなかった。

 コンテナの中で気楽な話をできるミウルに向き直ったバッレの気配を感じ、レフィは安心したように飛び続けていた。




「ご無沙汰いたしております、フライエリ卿。突然の来訪、ご迷惑とは存じますが、なにとぞご寛恕のほどを。本日はお願いがあって、やってまいりました」


 龍平が丁寧に頭を下げ、代官であるフライエリに口上を伝えた。

 コンテナを村外れに降ろしたレフィが、チビ龍のサイズで一礼している。


「ようこそ、フレケリー卿。娯楽の少ない村ですからな。外よりのお客は歓迎しますぞ。して、お願いとはなんでしょうな?」


 大空より舞い降りてくるコンテナを抱えた赤龍の姿に、子供のようにはしゃいでいたフライエリは、勉めて表情を引き締めて答える。

 わざわざ地方の寒村に龍まで引き連れて来た龍平の意図が、フライエリには読み切れなかった。


「いえ、大したことではございません。チーズやバターの材料となる牛乳を、差し支えない程度分けていただけないでしょいか。もちろん、対価はお支払いいたします」


 代官の屋敷へと歩きながら、龍平は来訪の理由を説明した。

 当然のことだが、いくら少量とはいえ、ただでよこせなどと言うわけにはいかない。


 どのような対価を要求されるか判らないが、一応現金は用意してある。

 もしも、物々交換を要求された場合は、レフィにひとっ飛びを頼むつもりだ。


「さようですか。まだ量産する時期ではありませんが、少量でよろしいならば融通できるでしょう。対価を要求するような量は、まだ生産しておりませんからな。心苦しいと言われるなら……そうですなあ……貴卿のコンテナに、乗せてはいただけませんかな」


 現在、牛乳の生産量は、日産で桶一杯というところだ。

 そっくり譲り渡したところで、後日同量のチーズかバターを運んでもらえばいい。

 それよりはこの場で軽く恩を売り、地上最強の戦力と懇意になっておいた方が、目に見えない利益は大きい。

 とっさにそこまで考えたフライエリは、少年のような瞳をレフィに向けていた。

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