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転生龍は人と暮らす  作者: くらいさおら
第三章 王都ガルジア
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77.異世界喫茶事情

 ナルチアが固まって、数分が過ぎた。

 龍平もレフィもたいして心配していなかったが、レニアとティランが慌てて声をかける。


「ナルチアっ!? ナルチア、どうしたのっ!?」


――ナーちゃんっ!? なんか悪いものあった!? 解毒するっ!?―― 


 レニアは、単純に驚いている。

 だが、ティランはアレルギーの知識はないが、特定のものを飲み食いしたときに、酷い目に遭うことを知っていた。


 まさかとは思うが、茶葉を焙じたことでナルチアにとっては有害な成分が発生したのかと、ティランは思っている。

 今のところ昏倒するような致命的な事態にはなっていないが、この先何が起きるか判らないのがアレルギーの怖さだ。


 小さな朱の龍の指先に膨大な体内魔素が凝集し、同時に水の自然魔素が龍の周囲に引き寄せられる。

 ナルチアが答えられないのであれば、ティランは即座に解毒の魔法を行使するつもりだ。


「美味しーいっ! ……ごめんなさい、レニア様、ティラン。美味しくて……このお茶、美味しすぎますぅっ! リューヘーさんっ! もう一回、作り方やってくださいっ! 私、覚えたいですぅっ!」


 再起動したナルチアが叫び、レニアとティランが呆気にとられる。

 ナルチアはふたりに謝るなり龍平に向き直ると、掴みかからんばかりの勢いで迫っていった。


 カルミア王の施政のおかげで、庶民の口にも砂糖が行き渡るようになってはいるが、それでもまだ高級品の部類だ。

 コンビニやスーパーに甘い菓子が溢れかえり、スイーツ専門の店がいくらでもある、現代日本とはわけが違う。


 砂糖の濃厚な甘さとは違うが、それでも確実に舌は甘味を捉えている。

 甘味に慣れていないひとびとからすれば、ほうじ茶は砂糖なしでも飲めるレベルの甘さだった。


「おい、そんな慌てんでも……ああ、判ったっ! 判ったからっ! そんな迫ってくんなっ! 近いっ! 近いってっ!」


 吐息を感じるほどの至近距離に詰め寄ったナルチアを、龍平は仰け反って躱している。

 ナルチアはまだ一三歳とはいえ、やはり女の子だ。


 そして、水浴びや身体を拭くことだけで済ませるこの世界において、ほぼ毎日行う禊ぎのための沐浴で、現代日本人に匹敵する清潔さを保っている。

 女の子特有の甘い匂いを嗅いだような錯覚を、龍平は感じていた。


 悲しいかな、現代日本で女の子と触れ合う機会に恵まれなかった龍平には、かなりきつい刺激だ。

 セリスとは触れ合っていたが、どちらかといえば締め落とされているばかりで、おっぱいの感触に集中していたこともあり、香りまで堪能する余裕などなかった。


 要するに、へたれだ。

 つぅか、二〇代後半ならともかくよ、一七で四つも下の女の子にドギマギしてんじゃねぇよ。



「あ、ごめんなさいっ! つい……」


 龍平に言われ、ナルチアは赤面しながら身を引いた。

 理由はどうあれ、男性に迫るなど、筆頭巫女にあるまじき振る舞いだ。


 レフィとティランに懐く前のナルチアを知る人が見れば、ひやりとするような光景だ。

 だが、そうでなければ、筆頭巫女の立場にある者が、懸想した男性に迫っているかのように見えてもおかしくない。


 厨房の職人たちなら見なかったことにしてくれるだろうが、万が一クレイシアにでも見られていたら大目玉は間違いない。

 ナルチアは、恥ずかしさに赤面しながらも、背筋に寒いものを感じていた。


「お、おぅ。気に入ってくれるとは思ってたけどよ、まさかここまで喜んでくれるとは。ああ、いいぜ。けどよ、筆頭巫女様が、厨房で竈の前に立ってていいんか?」


 龍平は、教えることに嫌などない。

 ただ、ナルチアの立場を思い量っていた。


 ついでに、慣れ親しんだほうじ茶が、この世界でも普及してくれたなら嬉しいと思っている。

 厨房の職人たちにも、ぜひ覚えてほしいと考えていた。


 もちろん、料理などインスタントラーメンくらいしかできない龍平は、厨房の職人たちを指導するなどという自惚れは持っていない。

 熟達した職人に見てもらえば、もっと美味しくしてくれるという期待を抱いていた。


「はい、それは大丈夫か、と。趣味のひとつとして、認めていただけます。料理まで手を伸ばすと、それはそれで問題になるかもしれませんが……」


 当直や研究に没頭するあまり、夜中に小腹が減って残り物でこの世界でも伯爵が広めたサンドイッチを作ったり、簡単な麦粥を作るくらいは誰でもやっている。

 さすがに立場のある者が竈の前に立ってなどいたら、鼎の軽重を問われるだろうが。


 きちんと後片づけさえしておけば、職人たちも目くじらを立てることもない。

 翌日以降使う予定の食材を大量に食い尽くしたり、常軌を逸した量の砂糖を消費したりしなければ、特に問題視されていなかった。


 だが、さすがに職人たちがいる中で、自分の食事を作ろうとしたら、それは職人を愚弄する無礼な行為だ。

 信頼関係を、ぶち壊すだけだろう。


 当然、茶葉の加工もその範疇に入る。

 龍平は、そのことを気にしていた。


「解った。教えるけど、う~ん。筆頭巫女様が献上されたお茶をいたくお気に入りあそばされたので、いつでもお飲みになれるよう、厨房の職人たちに教授するようお達しを受けたってことにすっか? あと、レフィがいないこと前提だから、竈を貸してもらえないか聞いてこい。俺から頼むと、命令になっちまうよなぁ。おまえが言っても、結局強権だし……ややっこしいなぁ」


 教えることは了承したが、そこで龍平は頭を抱えた。

 貴族階級となった龍平が頼めば、それは庶民階級の職人たちにとっては逆らえない命令になってしまう。


 これまでの経緯から快く竈を貸してくれるだろうが、特権を振り回しているようで心苦しい。

 ナルチアが頼んでも、神殿内での立場を考えれば同じことだ。


 レフィが頼みに行っても、後ろには龍平がいる。

 筆頭巫女を罷免され、今は女官の立場になったレニアも、微妙な立場だった。



「あの、リューヘー様。もしよろしければ、わたくしどもに今の焙じ方をご教授願えませんか? 家伝の秘とあらば、お聞き流しいただければ幸いにございます」


 厨房から出てきた職人が、黙り込んでいた龍平に声をかける。

 龍平が悩んでいる様子を見て、いかにも興味を持ったという雰囲気をまとい、助け船を出しに来たようだった。


 もちろん、純粋な興味もある。

 ましてや、アンパンを改良しきった龍平が見せたやり方だ。


 間違いなく、アンパンに合う。

 そんな確信を、その職人は抱いていた。


「あ、これはお気遣い、ありがたく。新しい茶葉ではなく、多少古くなって、湿気たような茶葉はありますか? ほうじ茶は、そんな茶葉を再生させるのにも、ぴったりなんです」


 素直に礼を言い、龍平は頭を軽く下げる。

 年長者に対する言葉遣いはそのままでいいとしても、あまりへりくだりすぎても貴族の体面に関わるし、庶民もどう返していいか困ってしまう。


 適当なところで折り合いをつけなければならないジレンマに、龍平は当分慣れそうもないと感じていた。

 それでも気遣いと竈を借りる礼を兼ねて、龍平は捨てるしかない湿気た茶葉の再利用を教えていた。


「さようでございますか。湿気させてしまった茶葉は、捨てるしかないと思っておりましたが……これはどちらの茶葉も、同じでございましょうか?」


 これは職人にとっても、ありがたい情報だ。

 これまで、茶葉が湿気てしまったときは、厨房内の賄いに回し、最後は捨てるしかなかった。


 今の時期はいいが、夏前はやはり湿気が高くなる。

 一度だけとはいえ、再生できるのであれば無駄がかなり減らせる。


 そして、当然の疑問を職人は口にした。

 緑茶が再生できるのであれば、当然紅茶はどうなのか知りたくなる。


「我が家では、母がよくほうじ茶を作っていました。でも、紅茶は使っていなかったです。なんでも、緑茶同様に渋みが消えて、香ばさが増してまろやかなになるらしいんですが、香りが飛びやすいんで作り置きができないって言っていた気がします。面倒なんで、やらなくなったんじゃないかと」


 実際に紅茶のほうじ茶も、現代日本で販売されている。

 癖があるのか、好みが分かれるようだった。


「さようでございますか。では、一度試してみるといたしましょう。リューヘー様、実はアンパンが焼き上がるのですが、ほうじ茶との相性はいかがでございましょう?」


 職人の言葉に、ティランの意識が一瞬浮上したのか、小さな朱の龍の喉がごくりと鳴った。

 その一瞬でまた引っ込んだ気配があったが、小さな赤い龍はどことなくそわそわしたままだった。


「そりゃあ、もちろんですとも。我が日本の誇りにかけて、保証しますよ」


 我が意を得たりとばかりに龍平が胸を反らせば、職人も納得したように頷く。

 見れば、レニアも嬉しそうに表情をほころばせていた。


 王城での意見交換に際して、龍平は何度かアンパンを差し入れていた。

 もちろん、熱い緑茶を添えてだ。


 言うまでもなく、レニアも日本の味に再生されたアンパンを、いたく気に入っていた。

 そして、ティラン同様にうぐいす餡がお気に入りだ。


 そんな中でナルチアだけが、頭上に疑問符を浮かべている。

 龍平に対する悪感情を抱いていたせいで、頑なにアンパンを拒否していたからだった。


「なんだ、ナルチアはまだアンパン食ったことねぇのか? 緑茶とアンパンの組み合わせは、天下無敵だぞ。あれに対抗できんのは、牛乳くらいだぜ」


 ナルチアの様子から、まだアンパンを食べたことがないと、龍平は判断した。

 ならば、お茶の飲み比べに、焼きたてアンパンを組み合わせようと、龍平は職人に向き直った。


「だって……あれはリューヘーさんが改良したのでしょう? あのときはまだ、私、リューヘーさんに……」


 龍平の背中に、ナルチアは言い訳した。

 だが、あまりのばつの悪さに、ナルチアの言葉が尻すぼみになっていく。


「まあ、それは気にすんな。けどな、だからって、食い物に罪はねぇんだからさ。まあ、今食ってみりゃいいじゃんか。じゃあ、お願いします。ほら、行くぞ」


 そう言って、龍平は職人のあとをついて、厨房へと入っていく。

 気を取り直したナルチアが続き、レフィとレニアが後を追った。




「ほう……見事なお手際でございますな。リューヘー様のご母堂様は、さぞや料理もお上手なのでしょう……あ、配慮に欠ける発言、なにとぞご寛如のほどを」


 龍平の手際を感心しながら見ていた職人が、何気なく口を滑らせてしまった。

 神殿に関わる者であれば、当然龍平の事情は知らされている。


「はい。母の料理をまた食べることが、俺の原動力になっています。謝罪は受け取りますが、どうかお気になさらずご発言いただいて大丈夫ですよ。さて、こんな感じですが、同じように大麦を煎って煮出しても、旨いお茶になるんですよ。こっちは夏の風物詩で、キンキンに冷やして飲むと最高ですね」


 異世界を渡ることは、龍平の中では決定事項だ。

 ふと思い出したときには涙ぐむこともあるが、意識していれば大きな原動力になっている。


 そして、平謝りになりそうだった職人を取りなすように、龍平は麦茶のことを口にした。

 そういえば、この世界に召喚されて以来、冷めたお茶を飲むことはあっても、積極的に冷やしたお茶は飲んだことがなかった。


 冷蔵庫がないことが主な原因だろうが、氷の呪文があるならそれをなぜ使わないのか。

 そうすれば、真夏であろうと冷やした麦茶が飲めるのにと、龍平は思っていた。


 龍平は今そう思い至ったが、やはり世界の常識は強固なものがある。

 魔法は軽々しく使うものではなく、ましてや氷の魔法は戦闘に使われるものと決めつけられていた。


 以前、パラシュートを見たアーリが、その原理に驚く前に、風の魔法を使ったと決めつけて龍平を窘めたことがあった。

 そして、簡易な魔法以外に使い方によっては生活に役立つ魔法があっても、それは敵を倒すためのものという固定観念は、そう簡単に覆せるものではなかった。



「お茶を冷やす、のですか? どうやって? いえ、冷めたお茶など……えっ? 夏に冷たいお茶? わたくし、わけがわかりません」


 レニアが混乱した。

 冷めたお茶を喜んで飲むなど、この世界においてはあり得ない。


 夏に過酷な肉体労働に従事する者たちでさえ、水分補給をするなら水を飲み、休憩時には熱いお茶でなければならなかった。

 冷めたお茶など捨てるものであり、積極的に冷やすなど考えもしなかった。

 世界が違えば常識も違うと、レニアは混乱しながらも理解しようと必死に考えている。


「あぁ、そうだよな。お茶は熱いもんだ。基本的には、な。でも、冷めちゃったのはともかく、キンキンに冷やしても旨いんだぜ。俺の国では、冬でも冷やしたお茶売ってるし。貨幣価値が違うし、物の価値も違うから一概には言えないけど、五〇〇のペットボトル一本が、こっちだと銅貨一枚くらいか……あれ、この世界にペットボトル持ち込んだら、一本に金貨何十枚も出す奴いるんじゃね?」


 龍平は自販機やコンビニ、スーパーマーケットを思い浮かべながら、レニアに言った。

 それが、またレニアには考えもつかないことだった。


 そのうえ、わけの解らない言葉も出てきた。

 金貨何十枚という言葉に、レニアは意識が遠のくような気がした。


――なによ、ぺっとぼとるって? 金貨何十枚? どんな魔装具よ? そんな物があなたの国では当たり前なの? いったい何なの、それは?――


 レフィがまくし立てるように聞いてきた。

 当たり前の反応だろう。


「ペットボトルってなぁ、飲み物を入れておく容器。洗えば何度でも使えるけど、基本使い捨て。透明で、柔らかくて、丈夫で……多分、おまえが力一杯叩きつけても、踏んづけても割れないけど、刃物なら簡単に切れる――」


――そんな物あるわけないでしょうっ! どれだけ進んでいるのか解らないけど、魔法のない世界でそんな夢みたいなもの、作れるわけないでしょう! 私たちが知らないからって、でたらめはやめてちょうだいっ!――


 当然の反応だ。

 龍平だって、今並べられたことを鑑みれば、ペットボトルは魔法の産物としか思えない。


 実際に、現代社会は石油と電気で動いているが、原理を理解できている人間はほとんどいない。

 そうあるから、そうだ。こんな程度だ。


 物事が電気、つまり磁力で動くものを、電気で動いてるとしか説明できない。

 使い方なら説明できても、なぜモーターが電気で動くのか、説明できる人間は専門家しかいない。


 レフィにペットボトルがどんなものかは説明できるが、どうやって作られているかは龍平の理解外だ。

 もっとも、どれだけ説明しても、見たことも聞いたこともない物質は、絶対にイメージできないが。


 どこの世界に薄さ一ミリ程度で、龍がブン投げようが叩きつけようが、踏みつぶそうがして、形は変われど砕け散らない物があろうか。

 そして、それは簡単な刃物で切り裂ける物が、あっていいはずがない。


 それを実現した世界を見てみたい。

 口では否定しているが、龍平を信じ切っているレフィは、それを望んでいた。


「まあ、俺も作り方は解んねぇけどな。この世界もあと五、六〇〇年もすりゃ、そんなことも当たり前に……あれ? 魔法があれば、たいがいのことできちまうぞ。……おい、レフィ。この世界、案外ヤバいかもしんねぇ。魔法のせいで、科学が発展しない可能性もあるぞ。科学と魔法を掛け合わせれば、とんでもなく発展すっかもしれねぇけど、それは膨大な基礎知識を蓄えてきた俺の世界の技術であってだ。こっちは魔法が便利すぎて、その基礎知識が発展しねぇかもしんねぇ。確かにアーリが言ってたみたいに、みだりに使うもんじゃねぇな」


 レフィたちに話ながら、龍平はミッケルやクレイシアと相談する必要性を痛感していた。

 物理法則に限らず自然の法則に従った技術を開発し、広めていかなければならない。


 この世界で再現不能な現代世界の技術を伝えても、何の意味もない。

 物理、科学、自然科学、数学といった学問を、まずは発展させなければならなかった。


――リューヘー、どうしたの? リューヘー! リューヘーっ! 帰ってきなさぁいっ!――


 この世界の危機をまくし立てたと思ったら、急に黙り込んでしまった龍平に、レフィは何事かと慌てていた。

 まさか、太陽の膨張以外でも、魔法が原因で世界が滅亡する可能性にでも気づいたのかと、ふたりの様子を見ながらレニアは考えていた。


「あ、おぅ、すまん。これ、あとでミッケル様とクレイシアさんも入れて話そう。今はとりあえず忘れてくれ。今すぐ世界がどうこうって話じゃないから、安心してくれ。ま、心配させちまったお返しに、冷たく冷やしたお茶がどんなものか、味わっていただこうじゃないか」


 一瞬呆けたようになった龍平が、レフィの呼びかけで再起動する。

 突然いらぬ心配をさせたお詫びと、アンパンと新たに焙じたほうじ茶の荒熱を取る間の手慰みに、龍平は冷やしたお茶を作ることにした。


――なによ、思わせぶりなことしないでほしいかしら。で、どうやってお茶を冷やすの? 庭にでも置いて、冷めるのを待つのかしら?――


 職人たちもいるところで、心配させそうな話を根ほり葉ほりする気はない。

 とりあえず、龍平がどうやってお茶を冷やす気なのか、そちらに興味を向けることにした。


「おう。アーリには窘められたけど、今回は特別ってことで。レフィ、あのヤカンの中にこんくらいの氷を八分目くらいまで作ってくれ」


 龍平は親指と人差し指で丸を作りながら、レフィに答えた。

 そして職人に断り、一リットルほど入りそうなヤカンを借りてくる。


――お安いご用よ。本来の私は呪符とかの方が得意なんだけど、ティランのおかげで、ね――


 小首をかわいらしく傾げながら答えたレフィが、あっという間にヤカンをかち割りのような氷で満たした。

 本来であれば、敵を氷の中に閉じ込める魔法だが、それの威力を調整している。


 ティランが全力を出せば、フォルシティ邸を氷に閉じ込めるくらいは朝飯前だ。

 当然、どんな相手でも全力ぶっぱでは味方に被害が及びかねず、威力の調整は必需の魔法だった。


「おーけー、おーけー。そこに、このものすっごく濃く出したお茶を注ぐ。……うん、こんなもんか」


 龍平はそれぞれのカップに、キンキンに冷えたお茶を注ぐ。

 もちろん、職人にも味わってもらわなければと、カップを用意してもらった。


 厨房内は昼食の準備やパン焼き釜から発せられる熱で、冬でもそれなりの気温になっている。

 ナルチアの歓声が、再び響きわたった。

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