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転生龍は人と暮らす  作者: くらいさおら
第三章 王都ガルジア
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69.自己嫌悪

 ケイリーの結婚式も無事終わり、あとは龍平の騎士修行が一段落したところで、セルニアに向かうだけとなった。

 もちろん、これはケイリーとアミアに関してであり、龍平にはまだまだやることは山ほどある。


 まだ仕事もなく、学校なども行く必要のない龍平は、自堕落な毎日にならないよう、ある程度の日課を決めていた。

 朝起きれば井戸水で顔を洗い、軽くストレッチで身体をほぐした後は、剣の素振りと筋トレを行っている。


 当然バーベル等の器具などはなく、あっても正しい使い方が判らない。

 龍平は腕立て伏せに腹筋背筋、スクワットをメインに行い、ときおり自然石を使っていた。


 井戸で軽く汗を流し、朝食後はミッケルに連れられて、レフィともども登城することが多い。

 ミッケルの仕事を手伝いながら、軍や近衛の関係者に顔つなぎだ。


 一朝ことあれば、ともに轡を並べて戦うことになるかもしれないひとびとと、円滑な関係を築いておくことは、かなり重要なことだ。

 当然訓練に付き合わされることもあり、レフィの存在は軍や近衛関係の者たちに急速に浸透していた。


 午後からはレニアの研究室に顔を出し、送還魔法や時空魔法について意見を交換することも、重要な日課のひとつだった。

 このときはティランが表に出ていることが多く、レフィはほとんど念話を送ることもない。


 既存の魔法で手詰まりなら、異世界の知恵が必要だろうと、ティランに身体を譲っていた。

 単にトカゲ姫が拗ねているだけだとは、決して言ってはいけない。

 だって、リューヘーとレニアが楽しそうに話してるのを見てると、心がちくちくするんだもん。




「なあ、ティラン。おまえ、魔法を使わずに時空を越えたんだよな? レフィもだろ? そん時の状況が再現できたら、おまえたちが融合したっていう、でたらめな亜空間に行けんじゃねぇか? そっからはティランのブレスでも時空を切り割けんだよな?」


 今までは考えもしなかったが、たしかにティランも異世界からここへ来ている。

 これまで召喚の逆にばかり考えが行きすぎ、ダイレクトに日本へ帰ることしか考えていなかった。


 ティランがどうやってこの世界へと時空を渡ったのか、ふと気が抜けた瞬間に思い出していた。

 そして、そのときの手順を踏んでみれば、ひょっとしたら可能性が見えてくるかもしれないと、龍平は考えた。


「それは、いい考えかもしれませんね、リューヘー様。おふたりにはおつらい過去を思い出させてしまうかもしれませんが、既存の魔法から離れてみるのも、ひとつの手かと思います」


 レニアも召喚魔法の組立直しに、手詰まりの状態だった。

 発想を変えてみるのは悪くないと、ティランとレフィの過去を思いながら賛成してみる。


――リューちゃん、レニア、火山の噴火に巻き込まれてみたい? 本気?――


 半ば呆れかえったような、ティランの念話が返された。

 あれは深紅の巨龍だから、死ななかったようなものだった。


――私の場合は、そうねぇ……フォルシティ邸が四軒ほど跡形もなくなるほどの爆発に巻き込まれてみれば、なんとかなるかもしれないかしら。やってみる? 間違いなく死ぬわよ。実際、私、死んだし――


 エメラルドの瞳が冷たく輝き、龍平とレニアを当分ににらみつける。

 つらい過去を思い出させたことに腹を立てているのではなく、ティラン同様半ば呆れかえってのことだった。


「うん、俺が悪かった。……ん? いや、その爆発を一旦魔力で作った器に閉じこめて……違う違う。爆発なら指向性を持たせることができるはずだから……一点に向けてやれば……いや、だめだ。いや、いいんだけど……それじゃこっちに戻るときが……もし地球でそんな爆発起こしたら……いやそもそも地球では魔法を使えないとかなると……あ~っ! こんがらかってきたぁっ!」


 ひらめいてはそれを潰していく作業の連続に、龍平の脳はオーバーヒート気味になっている。


「リューヘー様、今日はこの辺りに……あまり根を詰めすぎますとお身体に障ります……」


――リューヘー、ひとりで考えて、うなるのやめなさい。置いてけぼりにされる方の身にもなりなさい――


 レニアは心配そうに、レフィは苛立たしげにという違いはあるが、ふたりの言葉が重なる。

 レフィは、はっとしてレニアを見つめた。


「ああ、すまん。ちょっと暴走した。うん、申し訳ない、みんな。そうだな、今日はこの辺にしとくか……また、何日かしたら来ます。ちょっとまとめておきたくて。それじゃ、ありがとうございました、レニアさん。レフィ、行こうか」


 ルビーの瞳がエメラルドに変わっていることを見た龍平は、レフィに声をかけてレニアの研究室を後にした。



「……なんか、すまん。考えなしに昔のことほじくり返しちまって……」


 横を飛ぶレフィに、龍平は頭を下げる。

 悪気など欠片もなかった分、かえって始末に悪いと思っていた。


――いいの。そのことを気にする必要なんてなくてよ。ちょっと……、自分を省みてくるわ。フォルシティ卿には帰ると伝えておいてほしいかしら――


 負い目と元々の人の良さからなのだろうが、レニアは常に龍平の身体や心に気遣いを持って接している。

 献身という言葉がふさわしいほどだった。


 それに引き替え、自分はどうか。

 たしかに龍平は、誰よりも自分に気安く接してくれる。


 それに甘えてはいなかったか。

 未だに公爵家令嬢などという、くだらないプライドにしがみついているのではないだろうか。


 龍平の後ろ盾になると決めていても、それは彼の世界では既に過去の遺物となった貴族目線の思い上がりではなかったか。

 龍平を守りたいと思っていても、それは深紅の龍の持つ力を嵩に着た上から目線ではなかったか。


 レニアのように、純粋に龍平を心配してのことだったのだろうか。

 単に自分にとって煩わしいことを、龍平たしなめる態をとって止めたいだけではなかったか。


 レフィは、痛烈な自己嫌悪に陥っていた。

 そして、自己嫌悪の理由は、もうひとつある。


 この世界に龍平の友人知己が増えることは喜ばしいはずなのに、どこかでそれを望まない自分がいることをレフィは気づいていた。

 うん。トカゲ姫自身は気づいてないと思うけど、レニア限定だから。今のところ。


 龍平にとっての一番でありたいと、そう願っていることにレフィは気づいていた。

 嫉妬だって認めちゃえよ、トカゲ姫。




「というわけで、レフィは帰りました。卿には申し訳なく、とのことです」


 ミッケルの執務室に戻った龍平は、レフィが帰ったことを伝えていた。

 レフィ自体に仕事があるわけではないが、理由も言わずに姿をくらませていいはずもない。


「承知した。ふむ、レフィ殿の呪縛も解けてきたようで、なによりだ」


 どこで誰が聞き耳を立てているか解らない状況で、レフィを殿下と呼ぶことも、過去の話を龍平相手に出すこともできない。

 龍平もそのことは解っているが、何を以てなによりなのかがまったく解らず、頭の上に疑問符を浮かべていた。


「まあ、卿が気に病むことではない。それだけは確かだ。さ、ぼけってしている暇はないぞ。来年の予算を早急に組まなければならん」


 ミッケルにしてみれば、まだまだ若いふたりはもっと悩めばいいと思っている。

 レフィはそれを許されない立場だったが、この時代に転生したことでさまざまなしがらみから解き放たれていたはずだった。


 だが、生前に染み着いた考え方は、そう簡単に変えられるものではない。

 しかし、縁あってこの世界で巡り会えた悲劇の魔法姫には、国家や公爵家を背負わなければならない立場ではなく、もっと気楽に生きてほしかった。


 もし謀略に巻き込まれなかったら、苦悩のうちに一生を終えたかもしれない公爵家令嬢は、既に死んでいる。

 試練から逃れてばかりでは成長などできないが、少年少女をいらぬ苦しみから守っていくのは大人の責務だとミッケルは考えていた。


「はい。……そんな、もんですか……なんか、俺って、いつも考えなしによけいなこと言って、人を怒らせちゃったりするんで……今回も、悪いとなんて思わなかったから、よけいです」


 言ってしまったあとに、毎回強烈な後悔が襲ってくる。

 そのときになって悪かったと言っても、もう取り返しのつかないことばかりだった。


「いや、本当に卿が気に病む必要はないさ。これはレフィ殿の問題だ。おそらくだが、卿が言ってしまったことは、レフィ殿はまるで気にしていないはずだ。それよりも、ご自身が言ってしまったことを気にかけているようだな。レニア殿が卿に献身的なことも、その原因のひとつだろう。さあ、この話はここまでだ。こちらに積み上げた予算表がある。これの各項目ごとの小計と総計を出してくれ。それが今年の八割五分に収まるようにしなければならないのでな。各項目がどれほどの過不足になっているか、それが知りたい」


 ミッケルもその場にいたわけではないので、推測がどこまで当たっているかは解らない。

 だが、龍平から聞いた話からは、この程度のことなら導き出せた。


 あとは、レフィがどう消化してくるかだ。

 こればかりは、人と龍という壁がある以上、ふたりで悩んでいくしかないことだった。


 ミッケルは、そこで強引に話を打ち切った。

 そして、龍平に膨大な羊皮紙の束を押しつける。


 まだ龍平は納得がいっていない顔をしているが、こんな時は仕事漬けにするのが一番だ。

 よけいなことを考える暇を与えなければいいことを、ミッケルは経験上知っていた。


「はい。しかし……俺、軍隊ってこんなことまでするとは、思ってもいなかったですよ」


 軍隊といえば、龍平にとって身近な存在は自衛隊だ。

 とはいっても、防衛省の背広組が事務担当で、自衛隊の制服組は常に訓練に明け暮れているというイメージしかない。


 この時代、この世界ではまだその区別は曖昧だ。

 ひとりの軍団長の下で、防衛省に相当する軍政の仕事と、自衛隊に相当する軍令の仕事が並立していた。


 デスクワーク主体の業務の中でも予算関連であれば、計算能力を活かして龍平にも充分役に立てる余地があった。

 当然予算の振り分けや折衝などといった高度な仕事は無理だが、龍平の計算能力のおかげでかなりの時間を圧縮できている。


 龍平にしてみれば軍といえば一日中訓練や街道警備、市街地の警邏に出ているというイメージしかなかった。

 そのためか、膨大なデスクワークが存在すること自体が、意外だった。


「卿がそう思うのも仕方ない。普段ひとびとが目にする軍隊といえば、やはり隊列を組んだ兵だからな。だが、軍隊といえど国の組織である以上、卿の世界の言葉に言い替えれば巨大な官僚組織だ。予算や人事、訓練の立案に実施、円滑な組織運営のため、机の上でやらなければいけないことは、それこそ馬に喰わせるほどあるさ。そういった部分は、やはり卿の世界で言う、お役所仕事であることに違いはないさ」


 そのために、直接軍を率いないミッケルのような法衣貴族も、軍の運営に関わっている。

 その部分では、軍政と軍令の棲み分けができているといえなくもない。


 もっとも、近衛や軍は事務方を見下す傾向にあり、予算要求の突き上げはかなり激しい。

 同時にサミウルを頂点とする財務からは、軍も近衛も巨大な金食い虫扱いで、毎年一割から二割のシーリングがかけられている。


 シーリングをかけてくるということは、前年比で八割から九割を約束しているわけではない。

 最大で八割から九割しか認めない、ということを意味している。


 つまり、ことあらばここからさらに削るということだ。

 この間に立って、軍や近衛の無茶な要求を躱し、財務から最大限の予算を勝ち取るには、並の力量では務まらない。


「フォルシティ卿、見たところ今年の六割程度の項目と、同額を大きく超えた項目がかなりありますが、これを均一にするということですか?」


 龍平は、どの部署も公平に予算を削減するものだと思っていた。

 当然大きく減らされた部署の不満は大きくなり、円滑な組織運営に支障をきたすと考えてしまう。


「そうではない。各項目に積算根拠も書かれていると思うが……例えば、だ。予算を削減するからといって、近衛兵への俸給や普段の食費を減らしたら、どうなると思うかね?」


 ミッケルは、最も解りやすい例を出し、龍平に問う。

 もちろん、領地経営の予行演習だ。


「下手すれば反乱が起きますね。よくても、手抜きか職場放棄といったところですか」


 龍平は即答した。

 誇りや義務感だけで、腹は膨らまない。


 わずかとはいえ、アルバイトの経験がそう答えさせていた。

 貴族階級で他に収入源があるならばともかく、職業軍人の俸給を削るなど、国としての自殺行為に他ならない。


「正解だ。動員に応じた領主への報償もだな。ここは、減らす必要はない。それどころか、街道警備の頻度が上がっているなら、増やしておくべきだ。逆に、もうある程度やる必要がなくなってきた兵舎の増築費などは、ばっさりと切ってもいいだろう。修繕費もそうだ。他にもまだあるが、それはその都度説明しよう。年によって変わるからな」


 ミッケルが言っていることは、メリハリの利いた予算編成をするということだ。

 まだこの国は、ついた予算は使い切らなければ、次年度にはなかったことにされるという、悪しき日本の慣習に毒されてはいなかった。


 もちろん、予期せぬ野盗集団の出現や、他国との国境紛争に備えて、補正予算の編成の余地は当然だが残してある。

 そのためにも繰越金の確保は各部署とも必死であり、言い方は悪いが裏金作りの技術も発達している。


 言うまでもないが、それで私腹を肥やせば即死罪であり、サミウルをはじめとした財務方が目を光らせている。

 もっとも、私腹を肥やしたとしても、補正予算が組まれることはない。


 そうなれば、その当人が自腹を切ることが暗黙の了解であり、裏金が贅に費やされることは、ほとんどなかった。

 当然だが、ミッケルも万一に備えて、それなりの金をプールしていた。


「そこに書かれた数字は、各部署からあがってきた要求を書き連ねたものに過ぎん。それに意味を持たせるのは、私の仕事だ。卿は、私が判断を間違えないように、正確に計算してほしい。よろしく頼んだぞ」


 ミッケルは、春がくるまでに龍平を財務方に貸し出すことを、考えている。

 当然のことながら、フレケリー領を経営するために、必要なことを吸収させるためだ。


 代々の地方領主であれば、親からその技術を学ぶことができる。

 だが、龍平には、その親がいない。


 本来の騎士修行とはかなり内容が違うが、龍平に必要なことは領地経営のノウハウだ。

 悠長に友人知己との交友を広め、貴族としての誇りだけを叩き込んでいる場合ではなかった。


 異世界から拉致してしまった少年に、酷なことをさせているとは自覚しているが、ミッケルにできることはそれくらいしかなかった。

 恨むなら恨んでくれて構わないと、ミッケルは心を鬼にしていた。

 巻き添えのデルファが、かわいそうでしょうがないよ。




 龍平とレフィが辞したあと、レニアは酷く落ち込んでいた。

 うかつなひと言で、レフィとティランを傷つけてしまったと、後悔が襲ってきている。


 クレイシアにも指摘されていたが、レニアは気負いすぎていた。

 龍平に対する負い目がそうさせているが、端から見れば痛々しいほどだった。


 一歩間違えれば、龍平に媚びを売っているように取られかねない。

 事実、レフィにはそう見られている節もあると、クレイシアは考えていた。


 今日の龍平への同意はまったくそんなことなど考えていなかったが、レフィがどう取ったかはそのあとの態度を見れば一目瞭然だ。

 そして、ティランが姿を隠してしまったことも、レニアにショックを与えている。


 あのときティランがレフィに身体を譲ったのは、龍平と話をさせるつもりだったが、それはレニアには解らないことだった。

 レフィが自己嫌悪で飛び去ってしまったため、ティランはレニアにそれを伝えることもできなかった。



「レニア、なにがあったの?」


 そんな落ち込みきったレニアを、偶然だが王城に顔を出したクレイシアが訪ねてきた。

 クレイシアにしてみれば進捗状況の確認もあり、トロン神官長からの伝言をキルアン内務尚書に届けにきたついでに寄っただけだった。


「クレイシア様……わたくし、取り返しのつかない失態を……レフィ様とティラン様のお心を傷つけてしまいました……」


 消え入るような声で、レニアはことの次第をクレイシアに伝えた。

 膝の上にある両手が、強く握り締められている。


「……そう。あまり気にしないことね。この先、何度もそんなことはあるでしょう。あなたの使命は、フレケリー卿を元の世界に送り返すことではないわ。卿に彼の世界とこちらの世界を往復できる魔法を、身につけさせること。既存の魔法や、私たちの常識に囚われていてはできないことなの。ティラン殿の知恵も、卿の知恵もなんでも使えるものは使わなければならないのよ。ときには踏み込まなければいけないときもあるわ。何をしてもいいなんて決して言わないけど。大丈夫、今回のことも、きっと解っていただけるわ」


 クレイシアは、決して楽観的な考えで言っているわけではない。

 もちろん、目的達成のためならば、手段を選ばないと言っているわけでもない。


 フォルシティ邸での面会以来、龍平たちの人となりはある程度把握できているつもりだ。

 その中でもアクィルを通して、レフィとは特に親しく接してもらっている。


 そんな交流の中で、クレイシアはレフィもティランも、過去に触れた程度で傷つき、相手を責めるような性格ではないと見ていた。

 龍平に対する負い目から、レニアが卑屈になっているせいで、些細なこともネガティブに考えてしまっているだけだとクレイシアは見抜いていた。


「……ですが……お帰りの際にティラン様は、表においでになることもなく……」


 そう言われても、レニアの心が晴れることはない。

 研究の行き詰まりもあって、考えることは悪い方へ悪い方へと流されてしまっていた。


 ここまで筆頭巫女に上り詰めるまでのつらい修行は積んできたが、挫折など知らず生きてきたレニアにとって、初めての行き詰まりだ。

 年も若く、順調な人生を送ってきたレニアには、まだこんなとき心をどう処すればいいかの経験が不足していた


 だが、こんなところでつまづいていては、この世界でだれも成し得なかった魔法の開発など夢のまた夢だ。

 フレケリー領に移ったあとも、負い目を抱えたまま卑屈でいては、できることもできなくなってしまう。


 魔力を失ったことは、確かに痛手だ。

 理論を構築できても、自分で実験ができない。


 しかし、結局その魔法を行使するのは龍平だ。

 最終的な実験は、龍平にやってもらうしかない。


 その前段階の実験も、無限の魔力を有する深紅の龍に手伝ってもらわなければできないことだ。

 そのときに相手を傷つけるのではないか、怒らせてしまうのではないかと恐れ、卑屈になっていては、伝えなければならないことも伝わらない。


 もう少し、レニアは肩の力を抜く必要がある。

 一旦魔法の研究を離れたところで、龍平たちと遊んでみた方がいい。


 別に、レニアは王城に監禁されているわけではない。

 必要に応じて、町に出て買い物くらいはしていた。


 だが、いきなり三人で町に放り出しても、世間ずれしていないレニアが硬直するだけだ。

 ここはミッケルに相談してみるべきと、クレイシアは考えた。


 修羅場、ですね?

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