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転生龍は人と暮らす  作者: くらいさおら
第三章 王都ガルジア
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68.異世界結婚式事情

 その朝、ケイリーは緊張の極にいた。

 いよいよ、セルニアン辺境伯二の姫アミア・デ・ワーデビットと、この日結婚式を挙げることになっていた。


 到着を心配していたバーラム夫妻も、龍平とレフィのおかげで無事連れてくることができた。

 領地であるネイピアからも、領主代理を務める父に代わり、母が護衛を引き連れて到着している。


 あとは、神殿の戸口でアミアを待つだけで、もう不安や懸案事項はないはずだった。

 だが、ケイリーは身体の微かな震えを、極度の緊張から止められなかった。




 現代日本の装飾過剰な披露宴のような、派手派手しいことをやるわけではない。

 神殿の戸口前で筆頭巫女か高位の神官の前で、結婚の誓約をして指輪をアミアの指にはめるだけだ。


 だが、問題はそれをひとびとの眼前で、行わなければならないことだった。

 見も知らぬ、行きずりのひとびとが、好奇の視線を注ぐ中で。


 既にガルジア到着後すぐの四〇日ほど前に、ほぼ同様の婚約式を挙行していたが、見知らぬひとびとからの好奇の視線と祝福が、あれほど照れくさく恥ずかしいとは、ケイリーは思ってもいなかった。



 別にガルジオンの風習が、ネイピアと大きく違っているわけではない。

 ネイピアにおける婚約式や結婚式も、神殿の有無などの差異はあるが、やることの流れは同じだった。


 地方の寒村に神殿を維持する経済力はないため、神官も巫女も常駐はしていない。

 定期的に地方の小集落を訪れる、巡回の神官や巫女の来訪に合わせ、その年に結婚する者たちが社の前で合同の式が行われている。


 巡回の神官たちが、一カ所に四〇日も滞在できるわがない。

 そのため、婚約式は領主がこれを代理で行っていた。


 これらは、やはり村人たちの眼前で挙式が執り行われる。

 大きな違いはその点と、そこに集う誰もが顔見知りということだけだ。



 婚約式から結婚式まで、四〇日の猶予を設ける理由は、この婚約に対する異議申し立ての受け付けを行うためだった。

 希ではあるが、近親婚を隠していたり、以前の婚約がまだ解消されていないなど、神殿として結婚を認められないこともあるからだ。


 通例ではこの期間中、婚約者がひとつ屋根の下に住むことは禁じられている。

 だが、ケイリーとアミアはミッケルが迎えた別々の客であり、滞在中のフォルシティ邸はふたりの生活基盤となる家ではない。


 そして、それぞれの寝所を別に設け、これを違う家と解釈することで神殿の同意を得ていた。

 しかし、挙式の朝に同じ門から出かけることはさすがに認められず、ケイリーは母やネイピアの者たちと一緒に、ガルジアでの常宿に移動していた。



「あなたのそんなところは、あの人そっくりね」


 極度の緊張で落ち着きがないケイリーに、母のセリィ・デ・アンソンが声をかける。

 あの人とは、領地に残り領主代行を務めている父、ケントロー・デ・アンソン前ネイピア卿のことだ。


「外向きに対しては果断に容赦なく振る舞う割には、内向きに対して弱いところ。そんなところまで、似なくてもいいのに」


 ネイピア山塊を覆う大森林に巣くう魔獣や、王国への恭順を良しとせず季節ごとに移動しながら暮らすまつろわぬ民に対しては一歩も退かず、ネイピアを守り通した男だ。

 それが今から一八年前にセリィと結婚式を挙げる際には、緊張のあまり大森林に逃げ出すという奇行を演じていた。


 そのせいかどうかはあえて言わないが、内向きの際には今でもセリィに頭が上がらない。

 四〇歳を期にケイリーへ家督を譲り、悠々自適の楽隠居生活を手に入れていたが、今回のセリィ出立に当たり、喜々として領主代行を務めているらしい。


 セリィの代わりにガルジアに来るという手もあるのだが、潰しきれなかったまつろわぬ民と決着をつけると息巻いていた。

 やはり、面倒な王都での人付き合いより、戦の方が性に合っている生粋の武人だった。



 別に、セリィがケントローを凌駕する女傑というわけでも、怒らせると手がつけられないということもない。

 もちろん領地を背負っていく覚悟を持つ一本芯の通った女性だが、穏やかで笑顔を絶やさない領民から愛された領主夫人だった。


 単にケントローが儀式に苦手意識があり、叙爵式に臨んだ龍平と同じ心理に陥りやすいだけだ。

 右手が先か左足が先か、次の言葉は何か、そういったことばかりが頭の中を駆け巡り、どうしていいか解らなくなって、緊張が高まっていく悪循環だった。


「父上と一緒にしないでください、母上。俺はあの気恥ずかしさに耐えられないだけです。この前たまたま通りかかった際に見ましたが、なんですかあの騒ぎは」


 反論したケイリーの左薬指には、婚約式の際にアミアと交わした指輪が光っている。

 結婚式も、婚約式とやることは変わらないと聞かされていたケイリーは、先日衝撃的な場面に行き会っていた。



 挙式を終え、家路についた新郎新婦に、周囲のひとびとが麦の粒を投げつけている。

 そればかりでなく、あろうことか道ばたに落ちているおがくずや、新婦の真っ赤なドレスが汚れない程度のゴミまでが投げつけられていた。


 麦粒やゴミを投げるひとびとは、満面の笑みでふたりを祝福し、悪意の欠片すら見られない。

 その中を喜びいっぱいに馬車まで歩く新郎新婦の背後では、立会人と覚しきひとびとが、やはりいい笑顔で殴り合っていた。


 もちろん、この世界、この時代に生きるケイリーが、結婚式の予備知識をまったく持っていないはずはない。

 だが、昨年叙爵のためガルジアに出てくるまでは、ケイリーの世界はネイピアだけだった。



 村で執り行われる結婚式で、裕福な家の者が麦粒を投げることはあっても、ゴミまでは投げなかった。

 行商に来る商人や巡回の神官から聞かされてはいたが、やはり顔見知り同士でゴミまでは投げられない。


 立会人たちも、せいぜい互いの頭を軽く小突く程度だった。

 やりすぎて後に遺恨など残したら、狭いコミュニティによけいな軋轢が生まれるだけだ。


 そうだね、ふたりの背後で派手な乱闘におよぶ黒髪に黒い瞳の少年と、深紅のチビ龍の姿しか思い浮かばないよ。

 乱闘に夢中になって、そのあと龍車曳くのと御者頼んであるの、忘れないといいね。




 ケイリーが気恥ずかしさをこらえながら、龍平とレフィの乱闘を心配している頃、フォルシティ邸ではアミアのドレスアップが着々と進んでいた。

 ライカが甲斐甲斐しくアミアの周りを走り回り、ジゼルとフロイが最後の針仕事に勤しんでいる。


 デルファとミウル、そしてレフィも手伝いにきているが、どちらかといえば野次馬でしかない。

 そもそも、その手で何を手伝う気だったんですかねぇ、トカゲ姫は。


「アミア様、きれいですぅ……。私も早くそれ着たいなぁ」


 ミッケルが聞いたら吐血しそうなひと言を、デルファがのたまう。

 幸いにしてミッケルは、代父の役割を果たすためケイリーが滞在する宿へ、向かっているところだ。


 ミウルは言葉もなく、これまで縁がなかった優雅な装いに見とれている。

 レフィは生前に何度も他人の結婚式を見たことがあったが、二〇〇年の間に洗練されたドレスのデザインに溜め息をついていた。



――アミア、本当に私たちでいいの? 幻獣が立会人を務めるなんて、前代未聞よ。よく神殿が許したわね? やっぱり、フォルシティ卿の部下で、ケイリーと仲いい人に頼むべきじゃないの?――


 良くも悪くも伝統を大切に考えているレフィが、この期に及んでまだ心配事を口にした。

 もっとも、今の神殿に龍平の関係者がやることを、拒否などできるとも思えないが。


 本来であれば、ガルジオン国軍での上司に当たるミッケルと、その部下で仲のいい騎士に頼むのが筋だろう。

 だが、領地から出てこないケントローに代わる代父の役割を、ミッケルには頼んであった。


「はい。構いませんわ。是非お願いしたいと思っておりましたの」


 アミアが平然と答える。

 今後もケイリーに関わってくるひとびとの顔や義理を立てることも重要だが、ここでの立会人はこのふたりと決めていた。


 それこそセルニアやネイピアでは、逃れられない義理立てがある。

 ガルジアで正式な挙式を済ませたとはいえ、形だけでもそれぞれのふるさとで結婚式を挙げる必要もあった。


 なんといっても、龍平とレフィには命を救われている。

 そして、アミアにとって初めての、同世代の有人だ。


 これほどふたりの新たな第一歩に、ふさわしい立会人はいない。

 アミアはそう信じていた。



「まあ、まあまあっ! アミアったら、すっかりきれいになって! 私のドレスを着てくれるなんて、嬉しいわぁ」


 バーラムと一緒に別室に控えていたはずのラナイラが、ディフィとともに入ってきた。

 自身がバーラムとの挙式で着たガルジア仕立てのドレスに身を包んだ愛娘を、眩しそうに眺めている。


「お母様、ありがとうございます。このドレス、私の一生の思い出になります。ディフィ様、ありがとうございました。お屋敷の皆様に、すっかりお手伝いいただきまして」


 肩まで伸ばしたウエーブがかかった亜麻色の髪をまとめあげたアミアが、ラナイラとディフィに深々と一礼する。

 すっきりとした鼻筋に続く小振りな唇には、ドレスの色に近い鮮やかな紅が引かれ、ふっくらとした白い頬がそれを引き立たせていた。


 琥珀のように透き通った瞳がはめ込まれた両目は、この日を迎えられた喜びと両親の元を離れる寂しさの相反する感情をたたえている。

 同じ赤でも、レフィがまとう深紅の鱗とは対照的な鮮やかな朱のドレスが、アミアの美しさをよりいっそう引き立たせていた。



「アミア・デ・ワーデビット殿、本日はまことにおめでとうございます。たいへんお美しゅうございます。この名で呼ばれるのも、あとわずか。我々はいったん別の間へ向かいますので、今ひとときは、親子水入らずのときをお過ごしください」


 ディフィがかしこまった言葉で挨拶し、ライカを除く全員に退出を促した。

 全員が口々に、祝いの言葉とアミアの美しさを讃えながら、部屋を出ていく。


 もちろん、ライカも部屋を出るが、呼ばれたらすぐ対応できるように、扉の外に控えていた。

 部屋には、ドレスを譲り渡し、受け取った母と娘が残された。



「お母様、お父様はどちらに?」


 本来なら、バーラムとふたりできてもおかしくない。

 こんな日にまで仕事が舞い込んだのかと、地方領主が背負う責務の重さに、アミアは身が引き締まる思いだった。


 嫁ぐ先は実家と比べものにならないほど小さな領地だが、領主が負わなければならない責務の重さに違いはないはずだ。

 アミアはそんな重責を負う夫を支えていこうと、決意を新たにしていた。


「さっき、ようやく起きたところよ。もう、いくら寂しくなるからって、昨夜は飲み過ぎなんだから。フレケリー卿にはホント迷惑かけちゃったわね」


 呆れた表情で、ラナイラはアミアに夫の醜態をあっさりとバラす。


「お父様、大丈夫でしょうか……。リューヘー様も……」


 アミアは、思わず目頭が熱くなるのを感じ、そして巻き添えを喰ったらしい龍平を心配した。


「大丈夫よ。今レフィちゃんに解毒の魔法をお願いしておいたわ。フレケリー卿もレフィちゃんにお願いしていたみたいよ」


 ラナイラは、溜め息混じりにアミアに告げる。

 いつの世、どこの世界でも、娘を嫁がせる男親の心情は不変のようだった。




 ブーレイ神殿の戸口には、緊張した面もちのナルチアが立っていた。

 筆頭巫女の正装に身を包み、栗色の真っ直ぐな髪を肩の辺りで束ね、腰へと流している。


 糸のように細い眼窩にはめ込まれた、理知的でくっきりとした瞳がまっすぐ前を見つめていた。

 高い鼻梁に連なる唇は固く引き結ばれ、これから執り行われる神事への責任感をにじませている。


 無駄な肉を削ぎ落としたかのような頬に浮かぶ知性は、ナルチアが何事にも真摯に取り組む性格を表している。

 ナルチアは、群衆の向こうから近づいてくる、ケイリーとアミアを待ちかまえていた。



 群衆が道を譲り、セリィとミッケルに付き添われたケイリーと、バーラムとラナイラに付き添われたアミアが、ナルチアの前に立った。

 ケイリーは騎士の正装に身を包み、アミアは髪に金銀の装飾を施したティアラを飾り、その上から処女であることを証明する薄いヴェールをかぶっている。


 彼らのうしろには、立会人として龍平とレフィが静かに付き従う。

 龍平も騎士の正装をまとい、レフィは角としっぽに翡翠色のリボンを飾り、額に深紅の石をはめ込んだフェロニエールをかけていた。



 ケイリーとアミアの婚約式は、ナルチアがふたりを龍平の関係者であると認識する前に、ミッケルの策略によりさっさと執り行われていた。

 もちろん、もしナルチアがそれを知っていたとしても、ミッケルは強行していただろうし、ナルチアも当人以外に噛みつくことなどしない。


 たとえそれが龍平の婚約式であったとしても、それをぶち壊すような筆頭巫女にあるまじき振る舞いは、ナルチアにはできない。

 恨みや怒りみと、筆頭巫女の責務は別物だと、ナルチアは峻別していた。




「本日は、まことにおめでとうございます。ネイピア卿ケイリー・デ・アンソン様、アミア様。ブーレイ神の名においてこの結婚を認め、祝福いたします。さあ、結婚の誓約を。どうぞ」


 ことさら厳かな声を作り、ナルチアはふたりを促す。

 ケイリーとアミアが、ナルチアの前で向き合った。


「アミア、とも白髪となり、死がふたりを分かとうとも、私の愛は変わらないことをブーレイ神に誓う」


 龍平から仕入れた異世界における結婚の決まり文句を、ケイリーは誓約に織り込んでいた。


「はい。病めるときも、健やかなるときも、わたくしはケイリー様を夫とし、変わらぬ愛をブーレイの神に誓います」


 アミアも密かに龍平から仕入れていた決まり文句を、誓約に織り込んでいた。


「おふたりの誓約はブーレイの神に届きました。新婦ケイリー様、結婚の証として、指輪を新婦アミア様の指に」


 ナルチアはふたりの誓約が成立したことを宣言し、女官から祝別した指輪を受け取りケイリーに渡した。

 それを受け取ったケイリーは、アミアの左薬指から婚約指輪を抜き取り、代わりに新しく結婚指輪をはめる。


 その瞬間、レフィのしっぽが横殴りに龍平の頬をクリーンヒットした。

 深紅の龍の口角がつり上がる。


――あら、強すぎたかしら? ごめんあそばせ――


 にっこり笑った龍平が、そのしっぽをひっ掴む。

 そして、思い切り引き寄せたかと思った瞬間、レフィの鼻面に拳がめり込んだ。


「こっちの風習だって聞いてるからやらしときゃぁてめぇは。ちったぁ手加減しやがれっ!」


 握られたしっぽを振りほどいたレフィは、そのまま龍平の首に巻き付け、口に小さな両手を突っ込んで思い切り広げにかかる。

 龍平はレフィのマズルを掴み締め、躊躇いもなく鼻の穴に指を突っ込んだ。


 さすがにしっぽ持ってブン回すのは自重したのね。

 でも、既にやり過ぎだと思うよ。


 唐突に始まった立会人同士のガチバトルに、見物人たちから歓声が沸き上がる。

 王都の空に舞った深紅の龍が、意外と人間くさい性格であることを、ほとんどの見物人は好意的に捉えていた。



「それでは皆様、中へお入りください。この結婚に祝別を与え、神の御前で祭儀を執り行います……あんたたち、いつまでやってんのっ!」


 伝統的な式次第に則り、場所を神殿内に変えようとしたナルチアは、いつまでも取っ組み合いを続ける龍平たちに、罵声を叩きつけた。

 このままでは、いつまで経っても式が進まない。


 龍平に噛みついていたレフィの動きが止まり、レフィの両顎を引き開けようとしていた龍平の手が離される。

 ほぼ毎日のように繰り広げられている見慣れた光景に、参列者の誰もが笑いを浮かべていた。


 このふたりを立会人にした時点で、こうなることは誰もが確信している。

 今更それを咎めようとは、誰も思わなかった。




 神殿内に入り、神像を背にナルチアが立ち、その前にケイリーとアミアが並ぶ。

 新郎新婦は一枚のヴェールを手に、この祭儀に臨んでいた。


 ケイリーとアミアが差し出したヴェールを受け取ったナルチアが、ふたりの背後に回る。

 そして、ケイリーの両肩とアミアの頭を、そのヴェールで覆った。


 国によってかぶり方の違いはあるが、では、ガルジアではこのかぶり方が一般的だ。

 次いでナルチアは元の位置に戻り、ふたりに一礼して神像に向き直ると、厳かな低い声で祝詞を上げ始めた。


 ナルチアが祝詞を上げる間、ケイリーとアミアには祝別された一片の聖餅が振る舞われる。

 ふたりはそれを分けて口にし、次いで祝別されたワインを同じ器で飲んだ。


 その光景を見ながら、龍平は親戚の結婚式で見た三三九度を思い出している。

 結婚式という儀式は、国や宗教が違っても、それこそ世界すら違っていても、重要な部分は同じなんだと、龍平は考えていた。


 龍平がそんなことを考えている間に、ナルチアの歌うように調子を変えた祝詞が終わる。

 ケイリーとアミアに一本のロウソクと紡錘竿が渡され、ふたりはそれを神像の前に設えられた祭壇に持って行く。


 ケイリーが持つロウソクの明かりに照らされたアミアが、紡錘竿を手にして糸を紡ぐ仕草を行った。

 家内を守るという、妻を象徴する決まり事だ。


 本来であれば、このあとふたりはナルチアの先導で墓地に入り、先祖の墓参りをすることになるが、それはセルニアとネイピアでなければできないことだ。

 既に世を去った先祖に報告するというよりは、先祖も含めて一家全員が結婚式に列席するという考え方だった。


 ガルジアにはふたりとも先祖の墓を持たないため、一連の流れはここで完了となる。

 あとはケイリーが驚いた麦粒やおがくず、ゴミの嵐の中、フォルシティ邸まで帰るだけだ。


 ナルチアの先導で神殿の戸口をくぐったふたりに、群衆からの洗礼が浴びせかけられた。

 判ってはいたが戸惑うケイリーを置いて、龍平とレフィは神殿の下男によって引き出されていた屋根のない馬車に向かう。


 群衆が投げる麦粒の中で、レフィが龍騎サイズに巨大化する。

 ひとびとから驚愕の声が挙がり、それに手を振るレフィに龍平が馬車をつないだ。

 現代地球のライスシャワーに比べていささか乱暴な祝福が降り注ぐ中、ミッケルとセリィに付き添われたケイリーと、バーラムとラナイラに付き添われたアミアが馬車に乗り込む。

 そして、龍平がレフィに声をかけると、龍の咆哮が神殿前の広場に響きわたった。

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