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転生龍は人と暮らす  作者: くらいさおら
第三章 王都ガルジア
65/98

65.龍・暴走、巫女・迷走

 ――あなた莫迦よね? 莫迦でしょっ! ううん、今決めたわ。あなたは莫迦。今さら言っても仕方ないけど、あなたは大莫迦よっ!――


 目を覚ました龍平が、ベッドで身を起こしている周囲を飛びながら、レフィは罵詈雑言の嵐を叩きつけていた。

 一瞬でもヒヤリとさせられたことが、癪に障って仕方がない。


「莫迦莫迦うるせぇんだよ。ああでもしなきゃ、あの娘いつまでも謝りっぱなしだったろうが。ちょっとやりすぎたのは認めっけどさぁ」


 クレイシアの治癒魔法のおかげで、龍平にダメージは一切残っていないが、大事を取ってしばらく休むようミッケルから命じられている。

 これも交渉術のひとつなのだろうと、龍平は考えていた。


――うるさいとはなによっ! 人の気も知らないでっ! あなたは私と違って、刺せば死ぬし、頭の打ち所が悪くっても死んじゃう普通の人なのっ! 少しは考えて行動しなさいっ! この超莫迦っ!――


 龍平の脳天に、レフィのしっぽが打ち下ろされる。

 気の抜けた一撃を、やりすぎを自覚している龍平は、甘んじて受け止めた。


「ちっ。それにしても酷ぇ言いようだな。それじゃ、まるでおまえがバケモノみてぇじゃねぇか……」


 たしかに龍の身体は頑強であり、ちょっとやそっとのことで死にはしない。

 自身の脆弱性を小馬鹿にされたことより、レフィが自分をバケモノ扱いしている方が聞いていて辛かった。


――そうよっ! 私はバケモノなんだからっ! それのどこが悪いのよっ!――


 再度レフィのしっぽが、龍平の脳天に振り下ろされる。

 別にレフィは自身を正しく理解しているだけで、バケモノと評したことは自虐でも自嘲でもない。


 でもな、もう、彼氏の胸に飛び込んだ彼女が、莫迦莫迦いいながらぽかぽか殴ってるようにしか見えねぇよ、トカゲ姫。


「……ああ、悪ぃよ。俺はおまえをバケモノだなんて、思ったことは一度もねぇよ……。俺の大事な、大切な人を、そんな言い方しねぇでほしいな」


 もちろん、龍平もレフィが自虐や自嘲で言っているなどとは、思っていない。

 だが、それはあまり聞いていて、気持ちのいいことではなかった。


――っ! ……なによ、そんなこと言われたら……やっぱり、あなたは……莫迦ぁっ!――


 一瞬で真っ赤になったレフィが、しっぽで龍平の喉を締め上げる。

 よかったね、トカゲ姫。元から真っ赤だから、誰にも気づかれないよっ!


「くひゅっ! ……」


 龍平は頸動脈を締め上げられる感覚を理解した瞬間、気持ちよく意識を手放した。

 ふたりの遣り取りを生温かく見守っていたジゼルが、フロイに介抱を命じ、ソラに状況をミッケルに伝えるように命じた。




「……。まあ、まだ彼は目を覚まさないようだ。日を改めるのも難儀だろう。今夜は泊まっていきたまえ。馬車は返しておこう。明日迎えに来るように伝えておけばよろしいか? ああ、心配には及ばない。いつものじゃれ合いをしていたようだ」


 ソラから報告を受けたミッケルが、噴き出しそうになるのをこらえながらクレイシアに伝えた。

 あれ、どう聞いても恋の告白だよね。

 当人たちにそんな気は欠片もないけどな。


「承知いたしました。ナルチアも現実を目にして、頭が冷えたことでしょう。私の指導力不足のせいで、卿にまでご迷惑をおかけしたこと、深くお詫びいたします」


 半ばそうなることを予感していたクレイシアは、ミッケルに深々と頭を下げた。

 既にアクィルは夫に任せてあり、長期戦の準備はできている。


「初めてお目にかかって以来思っておりますが、あのおふた方、フレケリー卿とレフィ殿は、本当に仲がおよろしい……本物のご姉弟のように、私には見えてしまいます」


 だとしたら、相当のブラコン、シスコンだな、こいつら。

 姉弟って表現は黙っといてやれよ、年長ってのが龍平唯一の拠り所なんだから。


「私にもそう見える。これは独り言だが……。私はこの世界の人間だ。謀略で殺された挙げ句、ドラゴンなどという恐怖と殺戮の象徴に転成し、二〇〇年の時を越え、身寄りなどすべて死に果てたこの時代に蘇らされた悲劇の少女の魂が、彼と巡り会えたことでどれほど救われたことか……。彼に巡り会わねば、悠久の時を過ごしたのちに幻霧の森に朽ち果てるはずの魂が、どれほど救われたことか。決して彼には言えぬが、この奇跡に私は感謝する」


 やはりミッケルはこの世界の人間であり、どうしてもレフィ寄りに考えてしまうこともある。

 謀殺の挙げ句悪名まで着せられた少女に、龍平がもたらした心の安寧はなにものにも代え難い。


「卿の独り言、私ひとりの胸に納めること、ブーレイの名に賭けて……」


 謀略の果ての殺害、二〇〇年、悲劇の三つのキーワードで、クレイシアはレフィの正体を悟った。

 ミッケルが胸の内を吐露することで、クレイシアに踏み絵を差し出したことも、同時に悟っていた。


 レフィの正体は、カルミア王やティルベリー王太子はおろか、王国の重鎮たちにすら明かしていなかった。

 極々近しい者たち、ケイリー夫妻やバーラムの家族以外に、王都でそれを知る者はいない。


 つまり、レフィから自主的に明かさない限り、その正体が露見した場合は、神殿が漏らしたと判断できる。

 神殿がこの先に出てくる秘密を守る意志があるかどうか、恰好の踏み絵となっていた。


「……私はただ、独り言を呟いたに過ぎん。それをどう捉えるかは、神殿次第だな。……さて、そろそろフレケリー卿とレフィ殿を呼んできてくれんかね。筆頭巫女殿に先代殿も。たいして時間は取らん。晩餐の支度もしておいてくれ」


 突き放す様にミッケルは言い、レフィのことを殿下とは呼ばなかった。

 タエニアに命じたあと、ミッケルはクレイシアに向き直った。


「本日の用向きでございますが、幻霧の森、いえ、フレケリー領にレニアをお預けしたく、お願いに上がりました」


 龍平たちやレニアたちが戻ってくる前に、ミッケルには伝えておかなければとクレイシアは判断していた。

 龍平は反対しないと信じているし、レフィが賛成するとは思っていない。


 紛糾する中にナルチアがどんな爆弾を落とすか、予測もつかなかった。

 立会人の立場とはいえ、最も大人であり、冷静な判断を下せる人物に、クレイシアは仲裁を願い出ていた。


「承った。たしかに神殿が誠意を見せるには、最適な人選だ。私が利権を独占していると言われないためにも、それはありがたい隠れ蓑だな。レフィ殿は反発するだろうが、理由はクレイシア殿が思うようなことではないから、安心したまえ。あとは筆頭殿がどう出るかが読めんが、手綱はしっかりと握りたまえ」


 王国が賠償金の他に叙爵と領地を与えている以上、神殿もそれ相応の出血を求められることは当然だった。

 上層部同士で了解済みだが、龍平の承諾なしに進めていい話ではなかった。


 しかし、レニアの幻霧の森への派遣は、龍平を元の世界に還すために、現時点では最も理に適っていると考えられている。

 神殿の知識とワーズパイトの知恵を結集すれば、不可能はないと関係者は信仰にも似た願いを抱いていた。


「ありがとうございます、卿。フレケリー卿には私からお伺いいたします。風向きがおかしくなりましたら、ご助力をお願いいたします」


 ミッケルの了承に、クレイシアは肩の荷をひとつ降ろせた気がした。

 幻霧の森行きはレニアの願いであり、まさかレフィとナルチアがこの件に関して、呉越同舟で手を組むとは考えられなかった。



「先ほどはとんだ醜態を晒してしまい、まことに申し訳ございませんでした。ご心配をおかけしたことを、お詫びいたします」


 改めて三人と向き合った龍平が、今度はテーブルを打ち抜くことなく頭を下げた。 レニアが、心配そうな視線を投げかけている。


 ナルチアは控えの間でレニアに諭されたのか、それとも龍平の気絶に機先を制されたのか、わめき散らすことはなかったが、刺すような視線を送っていた。

 そんなナルチアに構うことなく、クレイシアが龍平をまっすぐ見つめる。


「大事にならなくて何よりです。……フレケリー卿。本日は重大なお願いがあり、参上した次第でございまして……」


 クレイシアはそこで言葉を切り、龍平とレフィを交互に見る。

 クレイシアの視線を受けたレフィの瞳が、虹彩を縦に絞り込ませた。


「……どうぞ。俺にできることであれば」


 怪しげな雰囲気をまとい始めたレフィのしっぽをとっさに掴んだ龍平は、短く答え手続きを促す。

 レフィの喉が、低くうなり始めた。


「はい。こちらに控えますレニアを、フレケリー領にてお預かりいただきたく。卿を元の世界へとお返しするための研究は、ガルジアにある文献すべてを洗いざらい調べ尽くしましたが、未だ手がかりすら掴めぬ有様にございます。ことここに至りますれば、叡智の結晶とも言うべきワーズパイト様の未発表原稿に当たるより他なしと存じます。不始末の挽回の機会を、レニアにお与えくださいますよう、なにとぞお願い申しあげます」


 クレイシアは、龍平から視線を外すことなく、一気に言い切った。

 次の瞬間、悲鳴のような叫びと、龍の咆哮が部屋に渦巻き、龍平がレフィを抱え込んだ。


「だめですぅっ! そんなこと、レニア様がかわいそうですっ!」


――冗談じゃないわっ! その娘になにをさせるつもりっ!? 焼き払われたいのっ!?―


 ナルチアが立ち上がってクレイシアに食ってかかり、レフィは龍平に抱えられたまま、口腔内にブレスを溜め始める。


「はいはい、そこまで、そこまで。落ち着け、レフィ」


――ん~っ! んん~っ! んむぃぎぃいいいいっ!――


 龍平はレフィのマズルを力一杯掴み締め、ブレスを封じている。

 じたばたしているレフィがブレスを収めた気配を察知し、龍平はマズルから手を離した。


――ぷはあっ! なんてことするのよっ! ブレス飲み込んじゃうでしょっ! ワーズパイト様の未発表文献見せろですってぇっ! 私たちが調べていないとでも思ってるのっ!? とっくにやってるわよっ! それでも手がかりひとつ見つけられないから困ってるんでしょっ! あなたになにができるっていうのっ!――


 もし、ワーズパイトの著書に返還魔法のヒントでもあれば、魔法姫の異名を取ったレフィが見落とすはずがない。

 実際、龍平が開発しようとしている時空魔法や、現在磨きをかけている肉体強化魔法は、この世界にはない龍平独自の理論で構築されていた。


 とはいうものの、レフィも龍平も、実はすべての著書に目を通したわけではない。

 ワーズパイトが遺した著書は、一年や二年で隅から隅まで読み切れるような量ではなかった。



 レフィは内心が念話となって漏れないよう、必死に感情を押さえ込みながら頭をフル回転させている。

 相手が理詰めできている以上、感情的な反論では簡単に論破されてしまう。


――だめよ、なにがあっても阻止しなきゃ。お互い相手に対して申し訳ないなんて思い遣ってるふたりを一緒になんかしたら……。レニアって娘は女の私が見てもきれいだし。歳もリューヘーと同じじゃないっ! だめだめ、今は遠慮がちにしてるけど、リューヘーって人懐っこいし、あの娘はリューヘーに対して負い目を持ってるし……ああ、もう、どうすればいいのっ! ティラン、なんかいい考えはないのかしらっ!――


 嫉妬ですか、トカゲ姫。


――素直になっちゃえばいいんじゃない? ボクはそう思うんだけどな。大丈夫。なるようにしかならないって――


 太鼓判を押すような、無責任なような念話が返された。


――な、な、なによ、素直になればってっ!? 私はドラゴンだし、リューヘーは人間よっ!? 種族が違うわっ! そ、そ、それに、私はリューヘーのことなんてっ!――


 応援しているのか、からかっているのか解らないティランの念話に、レフィの感情が暴走し始めた。



 レフィが暴走しかけている正面で、ナルチアは混乱の局地にいた。

 クレイシアからは龍平を糾弾するなら、命の保証はないとまで言われていた。


 しかし、それは言葉のあやだと思っていた。

 そして神の言葉と同義の筆頭巫女の言葉で弾劾し、ひざまづかせて魔力を返還させればすべてが丸く収まるものと信じていた。


 だが、実際に糾弾の言葉を発してみれば、クレイシアとレニアにその場で叱責され、さらにはレニアに控えのまで懇々と諭されるありさまだ。


 そのうえ、赤い龍と王国随一の武闘派貴族を本気で怒らせてしまった。

 そして、面会を再会してみれば、敬愛するレニアがその領地へ同行すると言いだしていた。


 ナルチアの情報処理能力が限界に達し、聡明なはずの筆頭巫女は迷走を始めている。

 暴走する龍と迷走する巫女の叫びが、部屋にこだました。


――あなたが全部悪いのよっ!――


「私が行きますぅっ!」


 抱え込まれていた腕を振りほどいたレフィは、咆哮をあげながらしっぽを龍平の脳天に振り下ろす。

 混乱状態に陥ったナルチアが叫びながら立ち上がり、レフィを抑えようと立ち上がった龍平の頬に平手打ちを力一杯お見舞いした。


 龍平は脳天と顎で、ほぼ同時にふたりの一撃を受け止めてしまう。

 レフィとナルチアが呆気に取られる中、龍平は声を発することなく昏倒した。




「いってぇなぁ……てめぇら、いきなりなにしやがんでぃ。ちったぁ、落ち着けや。話が進まねぇじゃねぇかよ」


 何となく先が読めていた龍平は、とっさに肉体強化魔法を展開し、かろうじて再度の戦線離脱だけは免れていた。

 クレイシアの回復魔法で意識を取り戻した龍平は、おろおろしているレフィとナルチアの頬をつねりあげている。


「だいたい、てめぇはなんなんだよ、急に黙りこくったかと思えば、いきなり俺が全部悪いだぁ? どういう了見だ、こら。答えやがれ、トカゲ姫。こととしだいによっちゃぁ、足ツボマッサージの刑だかんなっ!」


 嫉妬に狂っただけです。

 勘弁したってください。


――いひゃい、いひゃいの。ゆるひて。ごうぇんにゃひゃぁ。ひょれはかんうぇんひてくらひゃあ――


 龍平は途中からレフィの頬を離し、鼻の穴に指を突っ込んで吊り上げていた。

 あの、一応中身は女の子なんだからさ、もうちょっと手心を加えるとかしようよ。


「あんたはあんたで、いったい何がしてぇんだ、おい。会うなりさんざん罵倒しやがって。俺があんたになんか悪ぃことしたか、ああん? それをいきなり、地に伏して謝るのは俺の方だの、魔力を返せだの。返せるもんならさっさと返してらぁっ! それで誰が苦労してると思ってんだ、このあほんだらぁっ!」


 あ、聞こえてたんだ、魔力返せって。

 まあ、まだ子供ですから、勘弁したってください。


「う、うるひゃい、はにゃへぇぇ。あんひゃ、れにゃあひゃまをどぉひゅりゅちゅもりにょぉぉっ! らかりゃ、わらひがかわりにぃぃぃっ!」


 この期に及んで、ナルチアはレニアが幻霧の森へ行くのは、賠償の一環として強制されたものと思い込んでいる。

 敬愛する先代筆頭をそんな酷い目に遭わせるくらいなら、自分が肩代わりするとナルチアは決心していた。


「トカゲは答えなかったから、足ツボマッサージの刑、決定な。ジゼルさん、逃げないように捕まえといてください。それから、てめぇにゃ決定権なんざねぇんだろうが。なら、てめぇは黙って見てろ、この小娘が。それに、筆頭巫女とやらが軽々しくどっか行くとか無責任に言ってんじゃねぇ。クレイシアさん、とりあえず俺が決めちゃっていいんですか? フォルシティ卿、その辺りはいかがなんでしょうか?」


 龍平はレフィとナルチアを黙らせ、それぞれジゼルとクレイシアに押しつける。

 そして、レニアの処遇について、決定権の所在をクレイシアとミッケルに尋ねた。


「はい。貴領に関するご決定になりますので、フレケリー卿のご一存でお決めいただいて構いません。あくまでも、研究の現状打開と、卿のお手伝いが目的にございます。卿が嫌だと仰ることを、強要するつもりは毛頭ございません。また、ナルチアの重ね重ねの無礼、深くお詫びいたします、フレケリー卿。ですが、筆頭巫女を軽々しく処分するわけにも参りません。なにとぞ、ご寛恕のほどを」


 できることなら、レニアを幻霧の森に送り込みたい。

 いずれ、レニアがワーズパイトの書に接し、得られるであろう知識は、神殿の知の価値をさらに高めていくとみられている。

 打算的といわれようが、転んだままでいるわけにも、ただで起き上がるわけにもいかない。

 そして、龍平がもしレニアに手をつけるなら、それはそれで賠償の一環として飲み込むしかない。


 人身御供と後ろ指を差されようと、それで得られる見返りは神殿にとって大きなものだ。

 ミッケルはそれを理解しているし、龍平も何となく察していた。


 龍平の性格を鑑みれば、仮にレニアを押しつけたとしても、人身御供に差し出したと神殿が後ろ指を差されるような扱いはしないと、クレイシアは信じている。

 だが、レニアの幻霧の森入りを龍平がどう考えているか、それはクレイシアには予想がつかなかった。


「卿の領地に関することだ。一切合切の決定権と、それに伴う責任は、すべて卿にある。もちろん私は相談には乗るし、レフィ殿に相談することもいいだろう。だが、最終的な決定を下し、その責任を負うのは、レフィ殿でもセリス殿でもない。フレケリー卿、君だ」


 ミッケルは、あえて突き放す様に言った。

 これは龍平が決めなければならないことだった。


 これからも、領地の舵取りで難しい決断を求められるときはあるだろう。

 その覚悟を持たせるいい機会だと、ミッケルは見ている。


 レニアの人生が懸かった決断だ。

 人ひとりの人生を背負い込む決断は、生半可な覚悟でしていいものではない。


 新たな領民を受け入れるかどうか、領主としての第一歩にふさわしい決断だろう。

 ミッケルは、たとえ龍平が拒否したとしても、その決断を指示すると決めている。


 それによる不利益を受け入れることも、それを挽回していかなければならないことも、まさしく領主の責任だ。

 ミッケルは、龍平がどう判断するか、楽しみに待っていた。


「解りました、クレイシアさん、フォルシティ卿。……レニアさん、きっと来たらびっくりすると思います。いろいろと。でも、俺は日本に帰りたいし、帰りっぱなしでみんなと会えなくなるのもいやだ。欲張りなんです、俺。だから、手伝ってください」


 そう言って、龍平は深々と頭を下げた。

 レフィがジゼルの腕の中で暴れているが、今は無視でいい。


 姿勢を正した龍平が、まっすぐにレニアを見つめた。

 レニアも龍平の決断に高揚したのか、頬を長い髪と同色の朱に染めている。


「はい。フレケリー様、わたくしを受け入れていただき、まことにありがとうございます。非才微力の身ではございますが、力の及ぶ限りお役に立てるよう努力することをお約束いたします。ふつつか者ですが、末永くよろしくお願いいたします」


 おい、最後、それ大きく間違ってる。

 トカゲが大暴れするぞ、それは。


 ナルチアが、糸の切れたマリオネットのように、その場にすとんと崩れ落ちた。

 レニアの晴れやかな表情から、強制されたものではないと思い知らされたようだった。



「よろしい。私は卿の判断を支持する。責任は重いぞ。覚悟しておきたまえ。さあ、少々遅い時間になってしまったが、フレケリー領に初めての移民が決定した祝いだ。ささやかだが、晩餐をご用意した。ひとまずは、控えの間でくつろがれよ。支度が出来次第、お呼びする」


 ミッケルの言葉に、タエニアが歴代巫女たちを控えの間に連れて行く。

 龍平は、半ば放心状態のレフィを抱えたジゼルに先導され、一旦あてがわれている自室へと下がった。


 晩餐までのひととき、夜の闇に包まれたフォルシティ邸は、足ツボマッサージの餌食となった龍の悲鳴に包まれていた。

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