49.フォルシティ家
セルニアを発ってから、一六日目。
太陽が早くも傾き始めた冬の午後に、龍平たちは王都ガルシアの門をくぐった。
東西南北それぞれにある門は、それぞれ別の家が代々門番を束ねている。
そのうち、ミッケルが懇意にしている家が担当する東門を選んだおかげで、それほど待たずに入ることができていた。
長蛇の列を作り、抜き打ちでの荷改めを待つひとびとを後目に、龍平たちは軽い挨拶のみで悠々と門を通過した。
そのあとに待つ人別改めすら、ミッケルの顔パスで通ったときには、権力と人脈の使い方を見せつけられた思いがした。
ガルシアの町並みを、レフィが感慨深そうな眼差しで眺めている。
見慣れた貴族街ではないにせよ、この国の建築物は地震も極端に少ないせいで、レフィが生きていた頃と同じ佇まいを保っていた。
道幅五メートルから六メートルの石畳の両側に石造りの家々が並んでいる。
その軒先には木製の屋根がかかり、様々な商品が並んでいた。
道を馬車と人が行き交い、喧噪に溢れた町は、セルニアが田舎町に見えてしまうほど活気に溢れている。
客を呼ぶ商人や宿の従業員の声を掻き分けながら、龍平たちを乗せた馬車は貴族街へと走っていった。
――まるで変わらないのね。申し訳ないけど、ノンマルト家があったあたりを避けていただくよう、フォルシティ卿にお願いしていただけないかしら――
商人街を感慨深げに眺めていたレフィが、貴族街に入った途端に表情を曇らせた。
そしてサリサを通じて、馬車の進路に注文を付ける。
やはり、自身が爆殺されただけでなく、家族や家令たちすべてを巻き込んだ悲劇の跡は見たくないようだった。
そんなレフィを、ミウルは不思議そうに眺めていた。
パーティを襲った悲劇から四日が過ぎ、ミウルは表面上の平静を取り戻していた。
馬車を降りる休憩時に、身分が近いバッレやサリサ、ライカたちと談笑する光景も見られるようになっている。
さすがにアミアが同乗する馬車の中では、借りてきた猫のようにおとなしくしている。
しかし、それは思いに沈んでいるだけでは、なくなっていた。
初めは何を問いかけても虚ろな受け答えばかりだったが、今ではそれなりに会話が成立している。
単に育ちの違いから共通の話題がないことと、高位の貴族相手に気後れしているだけだった。
やがて、瀟洒な門構えの屋敷に、二台の馬車とその護衛たちが滑り込んで行く。
先触れが出ていたのか、誰何されることもなく全員が屋敷の庭に迎え入れられた。
「さて、長旅まことにお疲れさまでした。ようこそ、我がフォルシティ家に」
ひと足先に馬車から降り、重厚な作りの扉の前で振り向いたミッケルが、見事な動作で一礼する。
そして、一糸乱れぬ揃った動作で、家令一同が最敬礼した。
「殿下を宿にお泊めするわけには参りませんからな。万一のことがあっては、王都の名折れになってしまいます」
別に正体を明かして泊まるわけでもないが、通常では幻獣の寝泊まりは馬小屋になっている。
躾どうこうではなく、忌避する者もいるからだった。
――せっかくのご厚意ですものね。ありがたく甘えさせていただくわ――
空中に浮いたまま、優雅な動作でレフィが一礼する。
家令たちから、小さなどよめきが漏れた。
「アミア様、式までこちらにご滞在いただきます。ネイピア卿もご一緒に。ご不自由はおかけしないよう努めさせていただきますが、至らぬことがございましたら何なりとお申し付けください」
アミアとケイリーに、ミッケルは一礼する。
フォルシティ家の名にかけて、ふたりに不自由をさせる気はなかった。
公式にはこのふたりが、今回の主賓だ。
披露宴もここで行う以上、わざわざ宿を手配する必要もない。
「ミッケル様、お世話になります。なにとぞよろしくお願いいたします」
アミアとケイリーが、揃って頭を下げた。
改めてこうしてみると、やはり初々しいふたりだった。
「リューヘー君、いや、フレケリー卿リューヘー・デ・クマノ殿、登城までは、最低限の礼節の特訓だ。窮屈に感じるかと思うが、慣れていただく」
意地悪そうな、だがどこか楽しそうな笑みを浮かべ、ミッケルは龍平に向き直る。
いままでは見逃していたが、これからはそうはいかんと、その目が物語っていた。
「ご厄介になります、フォルシティ卿。至らぬところは多々ございますが、よろしくご指導ご鞭撻のほどを」
過去の記憶を洗いざらいひっくり返し、こんなときに合いそうな言葉を龍平は必死に並べる。
家令たちから蔑むような視線が送られることはなく、龍平はほっと胸をなで下ろしていた。
「ミウル嬢、しばらくこちらに逗留したまえ。王都ギルドへの報告も、慌てる必要はない。我々で手配しておく。疲れを癒すことを最優先に考えたまえ。慣れないところで窮屈かもしれないが、遠慮なく過ごしてほしい」
保護している間は、身分に関わらずフォルシティ家の正式な客だ。
扱いを変えるつもりは、ミッケルにはなかった。
「ありがとうございます。あたし、礼儀も何も分かりませんが、ご迷惑にならないよう気をつけます」
ミウルは混乱の極致にいた。
王都に着いた時点で、別々になると思っていた。
どうやってバッレの宿を聞き出すか、気を揉んでいるうちに豪華な屋敷に連れてこられ、そこに滞在しろと言われた。
一生縁がないと思っていた貴族の屋敷に世話になるなど、ミウルの想像をはるかに超えていた。
「さて、こんなところに突っ立っていても始まらない。まずは部屋にお通しする。食事の支度ができ次第呼びに行かせるので、それまではゆっくりとおくつろぎいただきたい」
ミッケルの声を合図に、それぞれの格に合った侍女たちが案内につく。
元からの貴族三人は慣れたものだが、龍平とミウルは揉みくちゃにされていた。
バーラムの領主館も広かったが、ミッケルの屋敷も負けず劣らずだ。
税収などない法衣貴族のミッケルに、どうしてこれほどの屋敷が維持できるのか、龍平は見当もつかなかった。
「フレケリー卿リューヘー・デ・クマノ様、ようこそおこしくださいました。我が主ミッケルより、わたくしども三名がフレケリー卿のお世話を仰せつかりましてございます。わたくしがジゼル。こちらがフロイ。そしてソラでございます。至らぬことがございましたら、何なりと仰せつけくださいませ」
セリスを彷彿とさせる侍女服に身を包んだ三名が、龍平の前で最敬礼している。
どう対応していいか解らない龍平は、その場に立ち尽くすしかなかった。
「リューヘー様が、こちらとは風習が異なるお国のご出自と、主より聞かされております。どうぞ、こちらの風習をお気になさることなく、お過ごしくださいませ。お茶のご用意をいたしますので、そちらのソファに、どうぞ」
ジゼルに促され、龍平はソファに腰を下ろす。
固すぎず、柔らかすぎずのクッションが心地よい。
そして、龍平が正面のテーブルに目を移すと、そこには既に湯気を立てたティーカップが置かれている。
予想外の光景に、龍平は思わず仰け反りかけてしまった。
「お砂糖はおいくつになさいますか、リューヘー様?」
シュガーポットを龍平に見せつつ、フロイが小首を傾げながら尋ねた。
これがメイド喫茶かと、龍平は莫迦みたいなことを考えている。
「え? あ、ああ、すいません、砂糖は結構です」
カップの中身を見た龍平は、茶色ではなく薄黄緑の液体を見て、砂糖を断った。
セルニアで紅茶を飲んでいたが、紅茶があるなら緑茶があってもおかしくない。
そして、海外ならいざ知らず、日本人は緑茶に砂糖は入れない。
これは、絶対に譲れない日本人の性だった。
かつて、友人が家族と観光で行ったパラオのみやげに、なぜ緑茶のペットボトルがあるのか、龍平は理解できなかった。
勧められるままにひと口含んだ瞬間、龍平はあまりの甘さに吹き出していた。
そして口直しにと言われて渡されたウーロン茶のペットボトルを一気にあおり、脳天まで突き抜けるほどの甘さに、再び噴水と化したことを思い出していた。
まさか、ウーロン茶まで甘いとは、想像のはるか斜め上だった。
「え? あの……苦くて……渋くて……飲めませんよ?」
茶菓子を用意していたソラが、トレイを落とさんばかりに驚いた。
この世界、貴族の社会では、砂糖をどれだけ使ってみせるかが、豊かさの象徴であり、もてなしの心だったからだ。
そして、貴族階級ではないが、庶民の中では上流階級出身のソラにとって、砂糖を入れない茶など、飲み下すことができるとは思えなかった。
確かに龍平の国が異なる風習を持つと聞かされていたが、ソラにとっては想像の斜め上だった。
「これ、失礼でしょう、ソラ。リューヘー様、大変失礼をいたしました。まだ年も若く、慣れぬことにございますれば、どうかご寛恕のほどを」
ジゼルがソラを叱り、深々と頭を下げる。
決して異郷の風習を小馬鹿にするような態度ではなかったが、客の好みにあれこれつけるなど、許されない振る舞いだった。
「あ、こちらこそ。どうかお気になさらず。俺の国でも紅茶やコーヒーには砂糖を入れる人は多いですね。あと、違う国だと、この緑茶にも砂糖を入れるみたいです」
そして、いただきますとひと声かけてから、緑茶をすする。
やはり、同じような人間が進化した世界であれば、それほど地球とは違う生物の進化はしないのだろう。
そして、味覚も同じような方向に、好みを求めて発達してきたようだった。
もう二度と飲めないかもしれないと思っていた味に、思わず視界がにじんできた。
「これは、熱すぎましたか? 入れ直して参りましょう」
お茶の用意をしたフロイが、慌ててカップを下げようとした。
だが、龍平はそっと、その手を遮る。
「ごめんなさい。熱くない。ちょうどいいです。もう、二度と飲めないと思っていた味だったんで、つい……嬉しくて」
これ以上気を遣わせるわけにはいかないと、龍平は少しだけ間をおいて本心を吐露した。
二年近く日本の味と隔絶されていた龍平にとって、緑茶の味は何よりのもてなしになっていた。
「それほどまでにお喜びいただけて、わたくしどもも幸甚にございます。おかわりはいかがでございましょう? お茶菓子もお召し上がりくださいませ」
涙ぐんだ龍平に保護欲を刺激されたのか、ジゼルが甲斐甲斐しく世話を焼き始めた。
二〇代半ばに見えるジゼルにとって、龍平は手の掛かる弟にでも見えたのか、フロイとソラが呆気に取られるほどだった。
「リューヘー様、晩餐会の間に、お荷物をお片づけさせていただきますが、ご希望はございますか?」
ソファで雑談に興じていたジゼルが、窓の外を見ながら声をかける。
陽が沈み、月が昇り初め、そろそろ晩餐会の支度も整う頃だ。
「あ、大丈夫ですよ。それほど量があるでもなし。自分ででき――」
「ここはお任せください。そんなご遠慮なさらないでくださいませ。それがわたくしどもの仕事でございます」
遠慮から断ろうとした龍平を、ソラの言葉が遮った。
客に荷物の整理などさせようものなら、フォルシティ家の恥とでも言わんばかりだ。
「んー。……分かりました。じゃ、着替えはクローゼットにまとめて入れてください。下着もありますし。自分以外に任せたこともないんで、それはやらせてください。あと、本はそちらのテーブルにまとめていただければ。あとは、ないかな」
さすがに同世代や近い世代の女性に、下着まで探られたくはなかった。
セリスのパンツは漁ったくせにな。
着替え以外には、読みかけの本が数冊に、手製の辞書とメモの束くらいだ。
換金用の魔石もあるが、さすがにこちらまで片づけるつもりはないようだった。
そのとき、重厚な扉を叩く音が響き、晩餐会の準備が整ったとの報せがきた。
対応に出たジセルが、一旦扉を閉めて龍平に向き直る。
「では、リューヘー様、ご案内いたします。こちらは、このふたりにお任せください」
改めて扉を開けたジゼルが、恭しく龍平に一礼する。
「あ、じゃあ、お願いします。適当でいいですからね」
龍平はフロイとソラに声をかけてから、ジゼルについて部屋を出た。
庶民育ちの龍平にとって王都の貴族屋敷は、常識をひっくり返されてばかりで驚きの連続だった。
「お待たせしてしまいましたかな? それでは、ささやかながら皆様の歓迎の宴を。今宵の出会いに感謝を」
ミッケルの着席を待って、それぞれの杯に酒が注がれる。
そしてミッケルの発声で乾杯となり、宴が始まった。
各自にひと皿ずつサーブされるような、フレンチのコースはまだ発達していない。
テーブルに料理を飾るように盛りつけた大皿が並び、それぞれに用意された取り皿へ取り分けられていく。
ナイフとフォーク、そしてスプーンがひとつずつ置かれている。
それらの食器もフレンチのマナーのように、使う順序が決められていることもなかった。
そして、今夜はそれらの他に、二本の棒が置かれている。
ミッケルが龍平のためにと、わざわざ用意させたものだった。
「器用なものだな、リューヘー殿は。実は、私も練習してみたのだが、どうにも上手く使えなかった。妻など、指が吊ったと大騒ぎする始末だ。ひとつ、見本を見せていただけまいか」
せっかく用意してくれたものを使わないのも失礼と、龍平はほとんどの料理を箸だけで食べていた。
手掴みのものもあるが、基本的にナイフを使うような料理はあまりなかったおかげで、箸でも充分食べられていた。
もちろん、ミッケルの気遣いであり、共通の話題が少ない龍平に話を振るための演出でもあった。
叙爵式や領地経営の打ち合わせなど、話さなければならないことは山ほどあるが、今はそのときではなかった。
「リューヘー様、是非お願いいたしますわ。私、使えないままミッケルにからかわれるなんて、我慢なりませんわ」
これぞ貴族婦人といった佇まいの、ディフィが夫を軽くにらみながら言った。
巧みな話術で、龍平が話題から外れないよう誘導してくれている。
「では、私の国の文化をご紹介させていただきましょう。古来より、私の国では箸を食事に用いてきました。およそ一二〇〇年から一六〇〇年ほど前から、といわれています。当初は貴人のみに使うことが許されていましたが、一五〇〇年ほど前には庶民にも広まったといわれています」
小さな感嘆の声が、各人の間から漏れてきた。
庶民の間にそんな古い時代から食器が浸透していたことは、スプーンがやっと庶民に浸透し始めたこの世界から見ると驚嘆に値した。
「持ち方は、三本の指を使います。親指、人指し指、中指で上から三分の一くらいの部分を持ってください。このとき、中指は上下の箸に触れています。で、箸先がピタリとつくように。あとは、こう箸先を開いたときに、中指は上の箸についているようにすれば、上手くいくはずです」
龍平が箸を開いたり閉じたりしてみせる。
やはり誰もがそう簡単には、指が動かないようだった。
最初から食器が持てないレフィは、我関せずとばかりに、手掴みで料理にかぶりついている。
そして楽しそうに、箸談義に加わる様は、社交慣れした貴族そのものだった。
「私、できませーん。年期が違いすぎますよぅ。だいたい、リューヘー様はおいくつの頃から、そんな自由自在にお使いになれるようになったのです?」
ミッケルの愛娘であるデルファが、子供らしさを残した口を尖らせる。
人差し指に力が入りすぎるのか、いわゆるバッテン箸になっていた。
「私の国では、家庭によりますが、だいたい三歳の頃から始めて、一年くらいで持てるように躾ていますね。それでも大人になってもきちんと持てない人もたくさんいます。日本人ならきちんと使えと思いますが、違う文化の方々に強制するものではないと、わたしは考えています」
箸が持てたから偉いだの、器用に箸を使える日本人がすぐれているだのといった、思い上がりは嫌いだった。
それぞれの文化は尊重すべきであり、優劣などないと龍平は考えている。
「ほら、やっぱり。お父様はさんざん私のことをからかってばかりで。お父様が一所懸命練習なさっていたの、私知ってるんですからね」
昨日今日で箸を使いこなすなど、よほど器用な者でなければ無理なことだ。
我が意を得たりとばかりにミッケルに噛みつくデルファに、誰もが微笑ましい視線を送っていた。
そして、練習をばらされ、娘に冷ややかな目で見られ、取り繕うこともできずにいるミッケルには、生温かい視線が送られている。
暖かな家庭の風景に、龍平はまた目頭が熱くなっていた。
「旦那様、なんですか、あの方は! 私、とても信じられません! 仰るとおりお荷物を改めさせていただきましたが、あの本! ワーズパイト様の著書でした! あんなものどこで手に入れたんですか!」
深夜、ミッケルの執務室に若い女性の声が響いた。
もちろん貴族が住まう屋敷で、時と場所もわきまえずに叫ぶような不調法はしないが、それでも興奮を抑えきれないようだった。
「それに羊皮紙にぎっしりと書き込まれた文字! どこの国の文字ですか! あまりにも種類が多すぎて! おひとりで書いたなんて、とても信じられません!」
もうひとり、同じく興奮さめやらぬ様子の女性が、なんとか叫び出すことだけは抑えながら早口でまくし立てる。
予想の遙か斜め上を行かれてしまうと、人は冷静ではいられないようだった。
「素晴らしいだろう、彼の知識は。彼の国には三種類の文字があり、それぞれにひらがな、カタカナ、漢字というそうだ。ひらがなとカタカナは五〇以上の文字があり、漢字に至っては数千もあるらしいぞ。その他に違う国の文字も、彼は習得しているそうだ。ああ、それから君たちは四則演算は得意かね?」
なぜかミッケルが得意げな顔で、ふたりの女性に問いかける。
そして、執務机の引き出しから、龍平に写させてもらった筆算と因数分解のメモを取りだした。
「はい。人並み以上と自負はしておりますが、それが何か?」
訝しげな表情で、メモを覗き込みながらフロイが答えた。
だが、そのメモにその自負が叩き潰されそうな内容が書き込まれている、嫌な予感が漂っていた。
「はい。私も同じくです。お役目違いで任されることはございませんが、帳簿くらいはなんとか」
ソラからはメモの中身は見えないが、わざわざミッケルが取り出したことに、嫌な予感しかなかった。
それ以前に、三種類の文字を使い分けて、文章を書き上げる方がもっと信じられない。
この世界、この時代では教育格差が著しく、文字は読めても書けない、文章は読めない、書けたとしても文章までは書けないなど当たり前だった。
また、四則演算は特殊技能に等しく、足し算引き算はなんとかできても、複数桁の計算はよほどの訓練を積んだ者しかできないことだった。
ましてや、龍平が平然と行う暗算など、財務の仕事に関わる者でもなければ、魔法にも匹敵する技能だ。
ミッケルは、なんとか龍平が習得した計算方法を理解し、それをふたりに見せようとしていた。
「なんですか、これは! もう、ぜんぜん解んないっ! これをあの方が? いったい、どんな人生送れば、私と同じくらいの年で、こんなことできるようになるんですか!」
フロイがついに叫んだ。
頭が理解を拒否している。
「お嬢様に、これを?」
ソラは目の焦点が、どこかへ飛んでいた。
デルファが明日どんな目に遭わされるか、ソラは考えることを放棄した。




