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転生龍は人と暮らす  作者: くらいさおら
第二章 セルニアン辺境伯領
45/98

45.幻獣の森

 ワーズパイトの館の前に、三体の幻獣がやってきた。

 セリスがこの地に生まれるよりはるか以前から、幻霧の森を住処としてきた者たちだ。


 昨夜のうちにセリスからの念話を受け、日の出とともに姿を現していた。

 表情からはあまり読み取れないが、緊張した様子は伝わってきた。



 一体は、人間のようなシルエットだが、共通点は二足歩行である点だけだ。

 身長は二,五メートルほどもあり、逆三角形の堂々たる筋肉質の体躯を持っている。


 しかし、首から上には鷲の頭部が乗せられていた。

 そして、両腕は優美な風切り羽を持つ朱に染め上げられた雄大な翼だった。


 筋肉質な上半身同様にたくましい下半身を持っているが、その体表は細かい羽毛に覆われていた。

 両足も脛から下は猛禽類のそれであり、強大な爪が大地を掴み締めている。


 全身を金色のオーラに包まれたその美丈夫は、鳥の王を思わせる佇まいを持っていた。

 だが、その両眼は緊張の色で染め上げられていた。



 一体は身長一五〇センチほどの体躯を、黒のローブで包んでいる。

 こちらも人間に近いシルエットだが、骸骨に薄い皮をまとわせたような不気味な容姿を持っていた。


 朝日の中にいるにもかかわらず、闇を凝縮したかのような黒のフードから、爛々と光る青白い両目が窺える。

 その両目は、節瘤だらけの杖にすがる姿から想像もできないほど、強い意志をたたえていた。


 だが、その意志の強さとは裏腹に、そわそわした態度を隠せないでいる。

 それは、太陽に背を向けた存在が、朝日の下を歩くからだけではなさそうだった。



 最後の一体はアメジストのように輝く紫の体毛に覆われた身体を、朝日の中で地に寝そべらせていた。

 体長四メートルに及ぶ巨大な獅子の体躯と、長大な二本の角を持つ巨獣は、筋骨隆々たる獣の王を彷彿とさせる。


 細く切れ長の双眸には理知的な漆黒の瞳がはめ込まれているが、それは狂気と表裏一体の危うさを内包していた。

 全身に緊張感を漲らせ、短いたてがみが震えている。


 今にも起きる戦いに臨む狂戦士のような風貌と、死の恐怖に怯える小動物が混在していた。

 それがこの巨獣を今に至るまで生きながらえさせてきたであろう本能を、顕わにしている。




――ガルーダよ、呼びかけに応じたのは我らだけか?――


 黒のローブから鳥の王に、問いかけの念話が飛ぶ。


――そのようだな、リッチ。だが、誰もが恐れ、身を縮ませているだけだ。忌避したわけではなかろうて。そうだろう、ベヒーモス?――


 黒のローブに答えた鳥の王は、獣の王に視線を向けた。


――そうねぇ。みんな怖がっちゃってるわぁ。何でこんな貧乏くじ引いちゃったのかしらぁ、あたし――


 余裕を見せるような態度とは裏腹に、その目には怯えの色が浮かんでいる。

 かつて、ワーズパイトの魔法に焼かれたあとが残る角を見上げ、肉弾戦で手こずらされた妖精を思い出していた。


 あのときは二対一の状況で勝てぬまでも負けない戦いだったが、それは互いに殺意を持つまでではなかったからともいえる。

 だが、今回はそうではない。


 命まで取られることはないだろうが、服従か退去を選ばざるを得ないだろう。

 どちらにしても、この森が幻獣のサンクチュアリである時代の終焉だと、誰もが考えていた。




 朝日の中で、三つずつの影が対峙している。

 この世界で生まれた幻獣たちの前に、異世界人、異世界の幻獣、この世界の妖精が、緊張の面持ちで立っていた。


 この世界の幻獣たちは、襲いかかってくる気配のない龍に、ひとまずは安堵の表情になっている。

 セリスとにらみ合うベヒーモスは、別だったが。


――まずは、私の要請を受け入れていただきましたことに感謝を。ガルーダ殿、リッチ様。そして、ベヒーモス――


 セリスが丁寧に一礼する。

 だが、ベヒーモスには一瞥をくれたけだ。


 ねえ、最後だけ態度違うよ?

 絶対なんかあったでしょ?


――初めまして。かつてこの世界に生を受け、ゆえあって異世界のドラゴンに魂を宿しております、アレフィキュールと申します。レフィとお呼びください。――


 チビ龍が先住者への敬意を込めて、空中で優雅に一礼する。

 龍平は金髪縦ロールの、なぜかデコ娘の姿を龍の背後に見たような気がした。


――えっと、初めまして。ボクが今回の騒動というか、ご迷惑をおかけしているというか、誤解させてしまったというか……ティランです。こことは違う世界で生まれ、いろいろあってレフィに身体を譲ってます――


 再びチビ龍が頭を下げる。

 先ほどより、念話から受ける印象が幼く感じられた。


「最後になりましたが、リュウヘイ・クマノです。ティランとはまた違う世界から、この世界に迷い込んだというか、手違いで召喚されたというか……そんな次第です」


 どう見てもこの世の者ならざる幻獣三体を前に、龍平は腰が引けまくっている。

 どれもこれも容易く龍平の命を刈り取ってしまいそうな、そんな容貌と佇まいを持っていた。



――こうして対面するのは何年、いや何十年振りか。貴殿等との約定に従い不干渉を貫いておったが、どうした風の吹き回しだ?――


 鷲のくちばしが動くことはないが、間違いなく念話が伝わってくる。

 あからさまに懐疑的な態度を、隠そうともしていない。


――久しいのう、セリス。幾とせ振りかの。そちらのドラゴン殿か。我らを害そうとはしておらぬようだが、こうして呼びつけたということは、なにかしらの意図があるということじゃな?――


 骸骨に薄皮をまとった口が動くが、既に言語を発する機能を失って久しいのか音声は発生しかなった。

 見た目とは裏腹に好々爺を思わせる念話がそれぞれに届いている。


――あらぁ、私だけ呼び捨てぇ? つれないわねぇ、セリスぅ。まあ、かわいらしい男の子ね。食べちゃいたいわぁ。で、今度こそ殺し合いかしらぁ? 黙って服従も出て行くことも、私は認めないわぁ――


 やおら立ち上がり、四本の足で大地を踏みしめた巨獣から、妖艶な色気をまとった念話が届く。

 だが、あからさまな敵意をちりばめた念話に、龍平の腰がさらに引けていく。


 食べちゃいたいって、どっちの意味ですかね?

 軽度のケモナーなことは否定しませんが、さすがに一〇〇パーセントはちょっと……



――取り繕っても、仕方がございません。単刀直入に言わせていただきます。この森を人間に、いえ、あまねくすべての生きとし生ける種族に開放いたします――


 予想もしなかった言葉が、セリスの念話によって伝えられた。

 それは龍平にすら、予測できなかったことだった。


「おい!」


 あまりにも荒唐無稽な言葉に、龍平が血相を変えた。


――ほう。正気の沙汰とは思えぬが……――


 落ち着き払った態度は崩さないが、セリスの良識を疑うような呟きがガルーダから漏れた。

 そして、赤い龍やセリスの反応を待っている。


――ふむ……――


 リッチは顎を軽くひと撫でし、そのまま黙り込む。

 深い思索の海へと、沈んでいくかのようだ。


――ちょっとぉっ! 私たちに出て行けってことぉっ? どういうことか、筋道を立てて説明なさいよぉっ!――


 喉から地鳴りのようなうめき声を上げながら、ベヒーモスが食ってかかる。

 ことと次第によってはただでは済まさぬとの意志が、全身に漲っているようだった。


――誰もあなたたちに出ていけなどとは、申し上げておりません。ベヒーモス、これから説明する。あなたは少し短慮にすぎるきらいがある――


 セリスは龍平がなぜ、この世界に来たかから語り始めた。

 誤召喚。ミッケルに聞かされた王国による捜索。そして、ワーズパイトの著書を公開するに至った経緯。


 そして、レフィが現代に甦り、ティランがこの世界を訪れた理由。

 二〇〇年前に起きた、王都での暗殺事件。異次元における、レフィとティランの出会い。詳しくは語られていないが、ティランが異次元にいた理由。


 セリスからの説明が終わる頃、太陽は既に沖天高く昇りつめている。

 そして、誰ひとり、一体として、言葉を荒げることもなく聞いていた。



――もちろん、無制限な開放をするつもりは、毛頭ございません。ここを訪れたいと望む者は、王国による厳しい審査がございます。あなた方はこれまで通り、不干渉を貫くことも構いませんし、訪問者を害さないのであれば交流を持つことは歓迎いたします。そして、なにより――


 セリスはそこで言葉を切り、三体の幻獣を均等に見つめた。


――世界中で迫害されている幻獣たちの、もちろん好んで人を害するような者は除きますが、あなた方の同胞の聖域を作りたいと存じます。つきましては――


――ちょっと待ってぇ! そんなことしたら、収拾がつかなくなるに決まってるわぁっ! だいたい、王国とやらの審査が信用に値するのかしらぁっ! それに、世界中から幻獣を呼び寄せる出すってぇっ? あなた、人間どもと戦争でも始めるつもりぃっ?――


 セリスの言葉を食いちぎり、ベヒーモスが食ってかかる。

 彼女が言うことは、当然のことながら充分に考えられる危惧だった。


 王国による審査など、どのようにでも恣意的な意志が介在できる。

 ワーズパイトが残した攻撃魔法に関する知識を吸い上げ、実用の目途が立った途端に牙を剥きかねない。


 世界中から集められた幻獣を率い、世界征服の戦争を引き起こすことも、また容易なことだ。

 そんな個人の欲望に、同胞たちが消耗品のごとく投入されるなど、決して看過し得ないことだった。



――まあ、待て。セリス殿、もちろん対策は講じてあろうな? 試しにやってみてだめだった、では済まされんぞ。当然試行錯誤などという、行き当たりばったりも承諾はできぬ――


 ガルーダがベヒーモスを宥めるが、やはり厳しい問いがなされている。

 決して偏屈な頑迷さではなく、誰だって急激な変革は戸惑うものだ。


――なかなか面白そうな話じゃの。その審査に我らも加われと。そう言いたいのじゃな、セリスよ――


 リッチがベヒーモスに食いちぎられた、セリスの言葉を継いだ。

 智を求めるあまり、ワーズパイトとは異なる方法で延命してきた賢者は、早くも変革を受け入れるようだった。


 リッチの問いに、セリスは小さく首肯する。

 ベヒーモスが信じられないというような表情で、リッチをにらみつけていた。


――我らが審査に加わることはよしとして、それはどこで行うつもりか? 我らに森を出ろと言うのであれば、それは断る――


 ガルーダも審査に加わること自体は、認めるようだった。

 だが、わざわざ安住の地を離れようとは、当然だが考えてもいない。


――あなたたち、何を言ってるのかしらぁ? 私がのこのこ人の前に出るとでも思って? 冗談じゃないわぁ。嫌よそんなことぉ。勝手にやってなさぁい。私の領分を侵さない限り、あなたとの約定の延長だと思ってあげるわぁ――


 ベヒーモスは、あくまでも人との交流を拒む姿勢を崩さない。

 だが、リッチとガルーダが賛成にまわったことで、不干渉を条件に人間の進入を認めることにした。



――ご理解を賜りまして、まことにありがうございます。審査は、当然森の中にて行う所存にございます。そして、ここからが重要な点ですが、我々が戦争を望まずとも、仕掛けてくる勢力は必ず出ましょう。我々から仕掛けることは決してございませんが、ここを守る力は必ず必要になります。皆様方にご協力いただきたい点は、ここにございます――


 現時点で王国が敵に回らない保障は、ミッケルの言葉しかない。

 セルニアン領全体にバーラムがにらみを利かせているとしても、血迷った小領主が暴走しないとも限らない。


 そして、最大の脅威は、隣国カナルロクと東の大帝国ドライアスだ。

 ガルジオン一国にワーズパイトの知識を独占させるつもりなど、決してあり得ない。


 もちろん、ワーズパイトの館を開放して、即開戦になるわけではない。

 当然外交による利益の分配は、なされなければならない。


 だが、人間至上主義のカナルロクが、ワーズパイトの館を妖精に任せておくとは思えない。

 そして、貪欲さでは大陸随一のドライアスが、いつまでも他国に利益を左右されるままにいるとも思えなかった。


 セリスはワーズパイトの知識を、この世界に住む者たちで共有しようと考えているが、どこか一国に独占させようとは思ってもいない。

 そして、迫害された幻獣たちが逃げ込める場所は、なにをおいても守らなければならないと考えている。

 そのためには、すぐれた防衛力が必要だった。



――それなら、そのドラゴンがいるじゃなぁい。本当はあなたたちに出ていってほしいけどぉ、力では勝てそうもないしぃ。私を巻き込まないならぁ、あとは勝手におやりなさぁい。私から話すことは、もうないわぁ。それじゃ、さようならぁ。もう二度と会うこともないでしょうねぇ――


 そう言ってベヒーモスは踵を返した。

 だが、ルビーの瞳を持つ赤いチビ龍が、その目の前に飛び込んだ。


――ちょっと、お姉さん、待ってよ! ボクからもお願いするから、力を貸してよ! あっ!――


 おそらく肉体年齢であれば、ティランの方がはるかに上だが、幼児退行のせいで精神年齢はベヒーモスが上回っている。

 その優位に気づいたベヒーモスが、ティランを見下すように見つめた。


 そして、邪魔だとばかりにチビ龍を払いのけようとした瞬間、ティランは思わず抑えていたオーラを開放してしまった。

 全長八〇メートルを超える殺戮の化身が、オーラだけとはいえ、全力でベヒーモスに襲いかかってしまった。


――ひっ! ひぃぃぃっ! や、やめてぇぇぇっ! 殺さないでぇぇぇっ!――


 全長四メートルに及ぶ巨体を震わせて、ベヒーモスは左右の前肢で頭を抱え込んだ。

 過去、幾多の冒険者たちの挑戦を跳ね退け、孤高の獣王と呼ばれた巨獣が無惨に震えている。


――ああっ! ごめんなさいっ! おどすとか、そんなつもりじゃ!――


 慌てたティランがオーラを納め、ベヒーモスの頭の回りを飛び回る。


――嫌ぁっ! 来ないでぇっ! 何でも言うこと聞くからぁっ! 殺すのだけは許してぇっ!――


 ん? 今、何でも言うこと聞くって言ったよね?


――そんなことしないっ! しないからぁっ! 落ち着いてぇっ!――


 ティランがベヒーモスの前肢を退かそうとしがみつくが、完全に逆効果だった。

 勝手に身の危険を感じたベヒーモスが、最後の手段に出る。


――そんなっ! そんなことしちゃだめぇっ! ボク、お姉さんと仲良くしたいだけだからぁっ!――


 仰向けに転がり、腹を見せたベヒーモスの右前肢を抱えたティランが、必死になって元に戻そうとする。

 ベヒーモスは仰向けのまま焦点の合わない目を虚ろに開き、鋭い牙をガチガチと鳴らすだけだった。




――あちらはティランに任せておくとして、細かい話はまた後日相談させていただきたく存じます――


 セリスはガルーダとリッチに向かい、深々と頭を下げる。

 なんとか、話はまとまりそうだ。大騒ぎしているティランとベヒーモスは別にして。


――有意義な再会に感謝を。そうだな。我々も変わるべきところは変わらねばならんのだな。人と幻獣が並び立つ時代が来るなどと、ついぞ思ったこともなかった。そなたもその少年とドラゴンを見て、考えを変えたのか?――


 ガルーダにもベヒーモス同様に、数多の冒険者や軍を撃ち破ってきた過去がある。

 強大な風属性の大魔法を操り、雷鳴とともに敵を撃ち払う姿を、ひとびとは畏怖を込めて雷神鳥と呼んできた。


 飽くことのないひとびとの挑戦に疲れたガルーダは、戦いを捨て幻霧の森での隠遁を選んでいた。

 だが、それにも飽いていた。


 澱んだような毎日は研ぎ澄まされた精神を鈍らせ、朽ち果てていくような不安が心にこびりついていた。

 無益な殺生はもう望まないが、他者との関わりを欲していたことにガルーダは気づいた。



――儂もこの森に住み五〇〇年以上じゃ。ワーズパイト殿との論議も楽しかったが、あれから一〇〇年、世間にも新しい知見が蓄えられておるじゃろう。賢者がこの地に集うことを、儂は歓迎しよう。差し当たっては彼のドラゴンとその少年に、異世界の知識を聞かせてもらうとしようかの――


 不気味な風貌とは裏腹の、好々爺然とした念話がリッチから伝えられた。

 世界中の知識を渇望し、不死者への転生によりほぼ無限の生を手にしたかつての大賢者は、新たなる智に生き甲斐を感じていた。


 おぞましい姿を忌避された彼は、それでも新たな知識を求めて各地をさまよい続けていた。

 その過程で多くの王侯貴族や裕福層に招かれては知識を披露し、家庭教師を勤めることもあった。


 だが、その姿を見られる度に悪霊と恐れられ、命を吸い取られると誤解され、石もて追われていた。

 大陸をさまよい、安住の地を求めた彼が幻霧の森に隠棲し三五〇年が過ぎた頃、ワーズパイトがこの森に住み着いた。


 ほぼ同じ時代を過ごしてきたふたりは、肝胆相照らす仲となったがそれほど頻繁に会っていたわけではない。

 ワーズパイトは魔法の研究に没頭し、リッチは膨大な知識の体系付けた整理に意識が向いていた。


 十数年に一度会っては時間を忘れて語り合ったものだが、それもワーズパイトの死を以て終焉を迎える。

 それ以降は自身の研究に没頭しながら、妖鬼と化していくセリスに心を痛めていた。


 だが、セリスが龍平を拾い、かつての姿を取り戻したことに彼は安堵していた。

 そして赤龍を受け入れたことで、活き活きと過ごすようになった姿を見て、彼は森の変革を確信していた。


――では、ささやかながら歓談の宴を仕度しておりますので、どうぞ我らが館にお越しくださいませ――


 セリスに先導され、ガルーダとリッチが並び、後ろに龍平が続いた。

 そのとき、龍平はベヒーモスと赤龍の姿が、見えないことに気づく。


「なぁ、セリス。いいのかい、あのふたりは?」


 仮にも幻獣たちを代表してきた存在を、ぞんざいに扱っていいものか龍平は気になっていた。


「……ん。……構わない。……ティランと……レフィに……任せて……おく。……私が……何を言っても……意固地に……なるだけ。……そのうち……来る」


 ねえ、なにがあったの?

 絶対、ろくなことじゃないよね?



――嫌ああああっ! 許ひてぇぇぇっ! 食べないれぇぇぇっ! ……ぁふぅ……――


 情けない悲鳴のあと、ベヒーモスの気配が消失する。

 ティランへの恐怖が限界を超え、意識を投げ捨てることで心を守ったようだった。


 セリスさん、なにガッツポーズ作ってんですか!

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