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転生龍は人と暮らす  作者: くらいさおら
第二章 セルニアン辺境伯領
42/98

42.フィジカルトレーニング

 「パラシュートを作ろう」


 宿の部屋で、唐突に龍平が言った。

 昨日レフィに試乗して以来、考えに考えたことだった。


――なに、それは?――


 当然、初めて聞く単語に、レフィは首を傾げて尋ねる。

 未知の知識に、左の瞳が薄く光を帯びたようにも見えた。


「そうだなぁ、説明が難しいから、作ってみるか。ちょっと待っててくれ」


 そう言うと、龍平は宿の受付へ行く。

 そこで使い古したシーツの切れ端と、煮込み料理に使う太い木綿糸をもらった。


 そしてハサミを借りた後、裏庭から小石を拾って部屋に戻ってきた。

 レフィは既に、アーリを呼んでいた。


「何やってんだよ。アーリさん忙しいだろうに。いいの? こんなとこ来てて?」


 龍平がレフィを咎め、そしてアーリに確かめる。

 昼食時のピークも過ぎ、従業員たちが三々五々休息に入っているとはいえ、アーリに仕事がないとは言い切れなかった。


「どうぞ、ご心配なく。リューヘー様のお話を聞けるなら、何をおいても馳せ参じますので」


 瞳をキラキラさせながら、アーリは答えた。

 そして、従業員の福利厚生用なのか、客用ではない茶葉を用意している。


――ほら、ご覧なさい。手際のいい人なんだから、そこは心配ないわよ。無理強いするようなマネはしませんから――


 アーリにサーブされたカップを両手に、レフィはなぜか得意げに答える。

 女の子同士の仲良さげな光景に、龍平も思わず笑みがこぼれた。




 シーツの切れ端を直角二等辺三角形に折り、まずは正方形に切り取る。

 再度半分に折って直角二等辺三角形を作り、そこから三回折り込む。


 シーツの切れ端は、頂点が一二,二五度の二等辺三角形へと変えていた。

 底辺に丸みがつくように、ハサミで切り取ってから広げる。


 底辺にかたどられた丸みの頂点に糸を縫いつけ、適当な長さに切りそろえて端を束ねる。

 さらに一本糸を継ぎ足し、そこに小石を結びつけた。


 そして、丁寧に畳んで糸を折り返すと、龍平は立ち上がった。

 不思議そうに龍平の手元を見ていたふたりには、これから何が起きるのかまったく予想もつかず、きょとんとした顔で見上げている。


「さあ、庭に行こうか。ここでは天井が低すぎるからな」


 そのまま部屋を出ていった龍平を、ふたりは慌てて追いかけていく。

 そして、庭に出た龍平は、ふたりに向きなおった。


「では、問題。この包みを上に投げると、どうなるでしょうか? はい、レフィ君」


――そんなもの、普通に落ちてくるだけでしょ――


 いきなり指名されたレフィは、慌てながらも答える。


「はっずれ~! まあ、見てなって」


 そう言うなり、龍平はおもちゃのパラシュートを空高く投げあげる。

 空中で小石に引かれたシーツの切れ端が広がり、おもちゃのパラシュートはゆっくりと降下してきた。


――……。……何これぇっ? 面白ーい!――


 ゆらゆらと風に吹かれながら、ゆっくりと流されていくパラシュートを見たレフィが、子供のような歓声を上げた。

 もっとも、傍目には龍が突然吼えたようにしか見えないが。


「……」


 空に投げた包みが石のように落ちてくると疑わなかったアーリは、唖然とした表情で降りてきたパラシュートを見つめている。


「こんな小さなおもちゃに魔法を使うなんて、なんて無駄なことをするんですか!」


 再起動したアーリが、突然叫んだ。

 風属性の魔法で、小石の落下速度を遅くしたのだと、アーリは考えていた。


 たしかに魔力の無駄遣いは、身体に悪いと言われている。

 こんなことで魔力を使うなど、たとえ客であってもやめさせなければと、アーリは真剣に思っていた。


「いやいや、魔法なんて使ってないって。第一、俺は四属性使えないんだからさ。ほら、自分でやってみれば分かるだろ?」


 そう取り繕った龍平は、アーリにパラシュートを畳ませ、そして投げさせた。

 今度もゆっくりと降りてくるパラシュートを、アーリは信じられないような目で見つめていた。


「リューヘー様っ! これ、私にいただけませんかっ! 弟と妹に見せてあげたいんです! 世の中にはこんな不思議なものがあるよってっ!」


 我に返ったアーリが、龍平に向かってまくし立てた。

 初めて目の当たりにする不思議を、自分ひとりのものになんかしたくなかった。


 龍平たちと話すうち、知識の大切さに気づいたアーリは、弟や妹がそれに気づくきっかけになればいいと考えていた。

 いくら言葉を重ねても、目の前で起こる現象に勝てるはずもない。


「あ、ああ。構わないよ。こをなんでよければ、材料さえあればいくつでも作っちゃるけど」


 アーリの勢いに押され、龍平はつい一歩退いてしまう。


「これの名前教えてください! なんていうんですか、これ! リューヘー様、お願いします!」


 どうやら、ここしばらくの会話で芽を吹きかけていたアーリの知的好奇心は、パラシュートと一緒に一気に開いてしまったようだった。


「パ、パラシュートっていうんだけど……」


 再度アーリの勢いに押され、今度はどもってしまった。


「パッパラシュートですね! パッパラシュート……。ありがとうございますっ!」


 バネ仕掛けの人形のようにアーリは一礼する。

 そして、またパラシュートを投げ上げた。


「違うよっ! パラシュートだよパラシュート! よりにもよって、何だよパッパラシュートって! ものすごく莫迦っぽくなっちゃったよ! アーリさんの笑顔がまぶしすぎて、ものすごく申し訳ないよっ!」


 パラシュートを投げ上げあとの、嬉しそうな笑顔が見ていられない。

 思わず龍平は全力で突っ込んでしまった。


 自分がどもってしまったせいかと思うと、申し訳なさが先に立ったが我慢できなかった。

 この世界に転成して以来、これほどいたたまれない気持ちになったことは初めてだった。


「あうぅぅ……ごめんなさい。パラシュート、ですね」


 聞き間違えの恥ずかしさで、アーリの顔が真っ赤に染め上げられた。



 地球においては中世が終わり、ルネサンス最初期の一四八五年頃に、レオナルド・ダ・ビンチによるパラシュートのスケッチが残されている。

 さらに一四七〇年頃のイタリアで、名も知れぬ人がパラシュートの図面を書き残していた。


 そして、実際にパラシュートの原型が作成されたのは、一六一七年だった。

 つまり、この世界においては、まだ着想すら得られていない技術だった。


 ゆっくりと降りてくるパラシュートを、宙に浮いたレフィが不思議そうに眺めていた。


 そして、一緒に降りながら、翼で風を送って吹き流していく。

 パラシュートにまとわりつくチビ龍の姿は、その凶相に反してかわいらしく見えていた。




――すごいわね、これ。で、リューヘー。これを何に使うの?――


 レフィがパラシュートを弄びながら、リューヘーに聞いた。

 たしかに偉大といっても過言ではない技術だが、何に使うのかがさっぱり分からない。


「何って、そりゃあ、おまえに振り落とされたときとか、脱出するときにだろ、常識的に考えて」


 しれっとした顔で、龍平は答えた。

 それ以外の何に使うんだと、その表情は物語っている。


――失礼しちゃうわねっ! いつあなたを振り落としたのよっ! それに、脱出って何よっ!――


 それなりに気を使って乗せていると自負していたレフィが、当然のように激昂する。


「だって、しょうがねぇだろ! おまえ、夢中になると無茶な飛び方するし! ベルトが外れたらどうすんだよっ!」


 龍平も負けずに言い返す。

 どうもこのお姫様は、熱中すると我を忘れる悪い癖があるようだ。


――そんなの、ベルトを頑丈にしてしっかり締めとけばいいじゃないのっ! そう簡単にベルトが切れたりなんかしないわよっ!――


 レフィの言い分も、まあ、まともではある。

 人体の限界というものを知っていればだが。


「んなもん、ベルトが切れる前に俺の身体がぶった切れるわっ! いきなり急制動かけられてみろ! おまえは止まれても俺の身体は止まらんわっ!」


 確かに飛行機事故では、墜落時の衝撃によりシートベルトで身体が切断された事例の報告がある。

 レフィの急降下からの急制動は、墜落とは比べものにはならないが、かなりの慣性の力がかかっていた。


 もっとも、その時点で龍平が飛び出しても、パラシュートがまともに作動する保証はない。

 ドローグシュートと呼ばれる小型のパラシュートがついてなければ、メインパラシュートはまともに開かない。


 まず、姿勢が安定していないと、メインパラシュートの索が絡まってきれいに展開しない。

 そして落下速度が速すぎるときにいきなりメインパラシュートを開くと、風圧で裂けて破損する。


 ドローグシュートは、姿勢の安定と速度の抑制に必需だった。

 さらに、メインパラシュートを収納部から引き出すためも、なくてはならない。


 パラシュートのことは知っていても、ドローグシュートを知らない時点で龍平の考えは絵に描いた餅でしかなかった。

 その上、レフィが飛ぶ高度では、パラシュートで充分に減速する前に地上に激突する。


 風の魔法で減速するにも、龍平には使えなかった。

 いずれにせよ、パラシュートがまともに開かない時点で、この話は終わりだった。



「おまえが急に壁にぶつかったとしよう」


 まだやってたの、君たち。

 まあ、慣性の法則は重要だね。


――失礼ねっ! そんなの、ぶつからないわよ!――


「ぶつかったとしようっ!」


 仮定を否定されては話が進まない。

 龍平は強引に話を進めた。


「そのとき、俺はどうなる?」


 聞くまでもないが、一応聞いてみる。


――一緒にぶつかるでしょ。そんなことも解らないの?――


 レフィは苛立ち混じりに、龍平の言葉を混ぜ返した。


「そうだ。一緒にぶつかる。当たり前だな。じゃあ、おまえがいきなり、壁にぶつかったように、止まったら?」


――あなたも止まるに決まってるでしょう! 私と一緒に止まるんでしょ? だったらそれでいいじゃないの! 降りるときだって一緒じゃない!――


「ああ。俺も止まる。いきなりな。おまえは魔法なり羽ばたきなりで、自分で止まれるけど、俺はそうじゃない。走ってて誰かにいきなり止められるようなもんだ」


――……――


「いいか、おまえは勢いを殺しきっても平気な身体だ。でも、俺の身体はそうじゃない。おまえが止まる勢いがベルトに全部かかってくるんだ」


 レフィは頭がこんがらかったのか、黙ったまま考え込んでしまった。


「分かりにくいか? じゃあ、馬に乗って走ってるとき、目の前に急に木の枝が現れたら? 馬車が急停車したときはどうなる? そんなとき、ベルトを腹に締めていたら?」


 分かりやすいと思える例を、龍平が提示した。


――そんなの避けるし! そんな下手くそな御者なんてクビよっ!――


「今はそんな問題じゃねぇっ!」


 癇癪を起こしたレフィに、龍平は噛みつくような剣幕で言い返す。

 そして、頭を抱えるようにして、大きな溜め息をひとつついた。


「えっと、リューヘー様。そうなると、たとえば全力で走ってる馬が転んで、放り出されたあと何かにぶつかったときのような衝撃が、ベルトからくるってことですか?」


 アーリが恐る恐る聞いてきた。

 実家近くの牧場で、調教中の馬が柵を飛び越え損ねたときに、乗っていた騎手が前方に飛ばされた事故を見た覚えがあった。


 飛ばされた騎手は全身をしたたかに打ちつけられ、何本か骨折する大怪我を負ったのを覚えている。

 身体全体で受けた衝撃がそうなら、それが一点に集中したらどうなるかは、残念ながら想像もつかなかった。


「正解。速度と止まる勢いにもよるけど、まあ、身体がぶった切れるわ。だから、これを使おうってんだよ」


 なんとか説明し切れたと、龍平は何度目になるか分からない大きな溜め息をついた。

 それでもまだ、レフィは納得しがたいようだ。


――理屈は解ったわ。でも、それで飛び出すのも危ないことには変わりないわね。私が気をつけなきゃいけないってことね。そうでしょ、リューヘー?――


 そうです。その通りです、トカゲ姫。

 あんなパラシュート使わせたら、まず間違いなく龍平君が大怪我か死にます。


「そうなんだけどさ。大丈夫か? おまえを信じるしかないんだぜ、俺は」


 すごい殺し文句ですね。

 挙式はいつにしましょうか。


――ええ。任せて、リューヘー。その信頼に応えてみせるから――


 おあついですね、おふたりさん。

 なに手に手を取って見つめ合ってるんですか、あなたたち。

 アーリさんがすっかり蚊帳の外です。



「あの~、もしよろしかったら、アーリさんも飛んでみます? ゆっくり飛べば問題ないはずですし」


 すっかりふたりの世界に浸っていた龍平が、やっと現実に帰ってきた。

 中身が女の子でも身体が龍じゃぜんぜんどきどきしないよねっ!


「ええっ? よろしいんですか? リューヘー様以外が乗せていただいて?」


 まさかの申し出に、アーリは飛び上がらんばかりに驚いた。

 騎士が自らの乗馬の背を他人に任せるなど、あり得ないことだった。


――馬と人間の信頼関係とは違うから、私たちは。私と龍平が信用してる人なら、私は一向に構わないわ――


 アーリの顔が、ぱっと輝いた。

 だが、次の瞬間には、残念そうな表情になってしまう。


「嬉しいんですけど、私、今スカートですぅ。着替えたりしてると、夕食の支度が……」


 さすがに仕事の邪魔はできない。

 アーリの遊覧飛行は、またの機会にお預けとなってしまった。


 おい、ちっとか言わない。

 下から覗くチャンスだと思ったろ。


 だいたい、現代日本で誤った認識の元に作られてるメイド服じゃねぇんだよ。

 乗りにくいだけで、見えねぇからな。



――そうね。残念だけど、またの機会にしましょ。あなたのお休みの時に、どこまでも飛んであげるわね――


 無理強いしてはアーリの立場を悪くするだけと、レフィはわきまえている。

 あっさりと次の約束をして、この日は終わることにした。


「じゃあ、アーリさん、また今度ね。レフィ、いくつか注意しておくことがある。あとは部屋に戻ってからな」


 アーリを乗せるに当たって、ハミルが失神した件を反省しておかなければならない。

 あのときレフィはハミルの失神を恐怖によるものと考えていたが、違う要因があった。


 たしかに急機動による恐怖もあったのだろうが、龍平は重力加速度による失神を疑っていた。

 体軸に対して下方に作用する、急激な重力加速度によって起きる脳虚血だ。


 一般にブラックアウトが失神と思われているが、これは誤解だ。

 ブラックアウトは単に視界が暗転するだけで、重力加速度が弱まれば回復する。


 もちろん、そのまま過剰な重力加速度がかかり続ければ、ブラックアウトしたまま失神する。

 ブラックアウトは失神の予兆であり、パイロットはそれを防ぐため様々な手段を講じている。


 だが、レフィと飛ぶ場合、ブラックアウトが起きてもレフィは気づかない。

 それを防ぐためには、レフィが気をつけるしかなかった。


 部屋に戻ってから龍平は、糸に結んだ小石を使って遠心力から説明を始めた。

 そして以前魚の呼吸で説明した血液の役割の復習から、チョークスリーパーによる失神の原因など、レフィが半泣きになるまでレクチャーは続いたのだった。




「そろそろ夕食にするか。レフィ、生きてるか?」


 テーブルに突っ伏したレフィに、龍平は声をかける。

 短時間ではあったが、かなり高密度のレクチャーになっていた。


――やー。もうお家帰るー――


 脳が拒否しているのか、すっかり幼児退行しているようだった。

 決してレフィの理解力が劣っているわけではなく、教え方の問題だった。


 いくら高校一年生レベルで止まっているとはいえ、龍平は現代科学の基礎をそこそこ理解している。

 だが、その基礎をすっ飛ばし、教えるテクニックもなしに詰め込んだせいだった。



――リューちゃん、しょうがないよ。知るために知らなければならないことを、知らないままに詰め込んでるんだもん。リューちゃんも知らないことあるから、そこがあやふやになってるんだよね――


 赤い龍の左の瞳が、ルビーのような輝きを取り戻していた。

 レフィが幼児退行したせいか、ティランの意識が浮き上がってきたようだった。


「ん、ティランか? 痛いとこ突くなぁ。そうなんだよな、これからもっと教わるってときに、こっちに来ちゃったからなぁ」


 龍平は素直に認め、頭を掻いた。

 生兵法ではないが、このままではきっとパラシュートで大怪我を負う危険性も気づいていない。


――でも、ボクはリューちゃんの話、好きだよ。もっといろんな話聞きたいな。足りないとこは、一緒に考えようよ。これでもボク、前の世界では青龍ほどじゃないけど、賢龍って言われてたんだから――


 少しだけ悲しそうな瞳で、ティランは龍平に言った。

 かつて討ち倒してしまった同胞への、惜別の哀と限りない敬意がそこにはあった。


「そうだなぁ。俺だけじゃ足りないとこは、ティランに助けてもらうとするよ。あのときみたいに暴れられると困っちまうけど、こうしてくるなら歓迎だぜ、俺は」


 初めて対峙したときの狂気は、今のティランからは微塵も感じ取れない。

 龍平は、素直に歓迎の意を示した。


――レフィ姉、寝ちゃったかな。ねぇねぇ、ふたりともずいぶんと仲いいよね。見てると楽しくなっちゃう――


 いたずらっぽい笑みが、赤龍の凶相に浮かび上がった。

 かつての夢の跡、赤龍の梁山泊に集うひとびととの交流で、ティランは人間の心の機微を多少は理解している。


「そうだな。俺、レフィにはかなり助けてもらったからなぁ。面と向かってだと恥ずかしくなっちまうけど、恩返しはきちんとしたいと思ってる」


 エメラルドの瞳は開いているが、今はその光を失っている。

 レフィは完全に眠っているのか、龍平の言葉に反応することはなかった。


――うんうん。その気持ち、ボクにも解るよ。仲良くしていくことが、一番の恩返しだからね。リューちゃん、それ忘れないで――


 喋り口からは、まだ未成熟な女の子を彷彿とさせている。

 確かにティランは異世界転移の原因となった激闘の後遺症で、幼児退行を来していた。


 しかし元はといえば、悠久の時間を生き抜いてきた存在だ。

 精神的には老成した大人の部分が復活しつつあり、多少の歪みをみせてはいるが、賢龍の片鱗を取り戻しつつあるようだった。


 そして、たとえ片鱗であっても、一七、十八の人間が逆立ちしたところで、その精神性には及ぶべくもない。

 龍平は、その点も素直に認めていた。


「どうする? レフィ寝かしたまま夕食にするか? たまには食いたいだろ?」


 いたずらっぽく笑い、龍平が提案する。

 それに応えるルビーの瞳が、楽しそうに細められた。


――いいね。たまにはボクが食べてもいいよね。レフィ姉、ごめんねー――


 旧来の友人のように、龍平とティランは食堂へと連れ立っていった。

 あとでどうなっても知らねぇからな。

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