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転生龍は人と暮らす  作者: くらいさおら
第二章 セルニアン辺境伯領
38/98

38.決闘はプロレス

 セルニアン辺境伯の居城は、不思議な雰囲気に包まれていた。

 謁見の間には譜代の家臣が並び、誰もが呆れかえったような顔をしている。


 その頂点に位置する玉座で、この領地の支配者たるバーラム・デ・ワーデビットは、楽しげな笑みを浮かべていた。

 そして、彼の前には対照的な表情をした若者と少年が、周囲からの視線に晒されている。


 譜代の家臣たちは呆れた表情のまま、その感情を乗せた視線を少年に向けていた。

 そして、同情的な視線を、若者に向けている。



「ずいぶんと面白いことになってるな、リューヘー?」


 初対面の時に比べ、バーラムの当たりが馴れ馴れしくなっていた。

 妙に警戒されたり高圧的にやられるよりははるかにマシだが、今は余計な誤解を招くばかりで勘弁してほしいと龍平は思う。


――どなたのせいなんでしょうね、この面白いとかいう状況は。私たちは、まるで笑えないのですが――


 龍平の背後についたレフィが、冷ややかな念話を居並ぶ全員の脳裏に伝える。

 多くの者が賛同の意を示す、小さな首肯をしていた。


「まあ、そう仰るな、姫。確かに俺のひと言が招いた事態だが、そうそう困るようなことでもあるまい? 活きのいい少年を見出すきっかけになったことを思えば、勇み足だの軽薄だの言われる筋合いはないと思うが?」


 その言葉を受けて、レフィは思い切り顔をしかめる。

 だが、領主の前に立つ少年は、我が意を得たりとばかりに笑みを浮かべた。


 やはり、この領主はひと言多い。

 それも、悪意なくやらかす分、始末に負えなかった。


 もっとも、譜代の家臣も領民も、一見裏表のないこの領主を愛している。

 もちろん、領地経営が裏表なしの一筋縄ではいかないことも、充分承知の上でだった。


――また……。そのような無責任な発言は、領主としていかがなものかと、私には思えて仕方ないのですが――


 レフィの苦言を受け流し、バーラムは今回の騒動の中心に立つ少年を改めて見据える。

 まだ幼さが残る面立ちは、たしか一四歳になったばかりと聞いていた。


 少年が引き起こした騒動の原因も、ジョエルから苦言混じりに聞かされている。

 まっすぐな正義感を持った、立派な少年だとバーラムは思っている。


 だが、まだ青い。

 直情怪行に過ぎる。


 年相応の好ましさはあるが、次代の村領主としては教育が足りていない。

 これでは、まだ婿候補には早すぎる。


「おい、アルトランの息子。おまえさん、ずいぶんと勘違いをしてくれたようだが、何をやらかしたかの自覚はあるのかい?」


 多少いい気になっていたアルマートに、いきなり冷水が浴びせられた。

 やはり、どこかに甘さがある親とは違い、支配者からのひと言は重さが段違いだった。


「お館様に申し上げます。此度のこと――」


「おめぇは黙ってろ、アルトラン。俺はおまえの息子に聞いてんだ。元服前とはいえ、やっていいこと悪いことは判ってるはずだ。その上で俺の客に剣を向けた。それなりの覚悟があったんだろ。それを聞かせてもらおうじゃねぇか」


 子供の前で親の面子を潰すなど、悪手も悪手だ。

 だが、既にアルトランの面子など、アルマートの蛮行で跡形もなく潰れている。

 それを理解させるため、あえてバーラムはアルトランの言葉を遮っていた。


「お館様に、言上、仕り、ます。私は、ウィクシー様の、婚儀に、反対で……」


 絶対的な支配者ににらみつけられた上に、ここまでの流れで龍平に斬りかかったことが勇み足だと気づかされたアルマートは、完全に萎縮していた。

 バーラムから発言を促されたが、言葉は震え、尻すぼみになってしまった。


「ほう、行き違いとはいえ、仮にも俺の決定に異を唱えるとは、ずいぶんと覚悟を決めていたようだな。構わねぇから言っちまいな。何が気に入らねぇってんだ」


 自分のことなどすっかりと棚に上げ、地鳴りのような低い声でバーラムはアルマートに迫る。

 アルマートの中で恐怖が限界を超え、自己防衛のための凶暴性が目を覚ました。


「お言葉ながら。私はこのどこの馬の骨とも判らぬ男にウィクシー様が嫁ぐなど認められませんっ! どうしてもと仰るなら私との決闘をお認めくださいっ!」


 読点を挟めないほどの勢いで、アルマートはひと息に言い切った。

 そして、言い切ってから、はっと我に返る。


 龍平にウィクシーが嫁ぐという噂が、ただの戯れ言から発したことは理解していた。

 ただ、このときのアルマートはバーラムににらまれた恐怖が反転し、明らかに理性を欠いていた。



「こりゃぁ、いい。決闘に勝ってウィクシーを娶る気だったと……。笑わせるなっ! 貴様のごとき短慮の者がウィクシーを娶るなど一〇年早いわっ! だが、その意気やよし! リューヘー、当然受けるだろう?」


 バーラムは破顔一笑からアルマートをきつく叱責し、一転して満面の笑顔で誉める。

 そして、厳めしく表情を作り、龍平に短く尋ねた。


「はい?」


 急転直下の状況に、龍平は思わず素っ頓狂な声で聞き返してしまった。

 その声に、バーラムはまたしても満面の笑みで頷いた。


「よしっ! 今の言葉、受諾と受け取るっ! ジョエル、今すぐ場を設えよ! 双方、仕度をいたせ!」


 ジョエルがやれやれといった表情でバーラムに一礼し、龍平とレフィに済まなそうな視線を送る。

 アルマートは叱責にしょげていたが、決闘を認められたことでウィクシーへの仄かな恋心に望みがつながったとまなじりを決していた。


 バーラムが玉座を立ち、ジョエルが決闘の場を設えるために謁見の間をあとにすると、他の家臣たちも見物の場所取りへと先を争って出て行った。

 アルマートがアルトランに伴われて謁見の間から退出し、龍平とレフィだけが取り残された。


 呆気に取られたまま固まる龍平の肩を、レフィが叩く。

 我に返った龍平が救いを求める要にレフィを見上げるが、小さな赤い龍は呆れたように首を横に振るだけだった。




「やっぱり逃げきれんかったか」


 あてがわれた控えの間で、龍平は入念に柔軟運動を繰り返していた。

 といっても、せいぜいが膝の屈伸に伸脚、アキレス腱延ばしがいいところだ。


 本格的なトレーニングを積んだアスリートに比べたら、足元にも及ばない柔軟性だ。

 それでもウォーミングアップを含め、やらないよりははるかにマシだった。


――仕方ないわね。皆娯楽に飢えてるから。せいぜい相手が返り血で染まらないよう気をつけなさい――


 確かに古来より人が戦う姿は、ひとびとを引きつける魅力がある。

 古代ローマの剣闘士しかり、現代の格闘技興業しかりだ。


「そだね。たぶん現役騎士にはまだかなわないと思うけど、あいつの剣なら肉体強化で何とか対処できるかなぁ。そこで彼の見せ場作って……で、あとは流れで……」


 龍平の頭の中にはプロレスがあった。

 かつては真剣勝負をうたい、観客も大半はそれを信じて熱狂した時代があった。


 だが、アメリカの最大王手団体のワールドレスリングフェデレーション通称WWFが、株式を上場する際にシナリオ等の存在を公表し、名称ワールドレスリングエンタテイメント通称WWEに変更した。

 多くのファンが幻滅とともに去る中、それを承知で鍛え上げた肉体の競演を楽しむ新たなファン層の開拓に成功している。


 日本も力道山の昔より八百長論争が絶えなかったが、これを期に混乱期を経て八百長ではなくストーリーのあるエンタテイメントという認識が広まっていた。

 過去の熱狂にはほど遠いが、アメリカに負けず劣らずコアなファン層ができあがっている。

 龍平は、過去の熱狂などDVDの中でしか知らない、新たなファンだった。


「これ、話の解る人集めたら、新しい興業にならないかな。この世界でもカーニバルレスラーっている?」


 古代ギリシアで、レスリングは神聖なスポーツでありオリンピックで実施された五種の競技のひとつで、熱狂的なファンも多かった。

 哲学者のピタゴラスも、そのひとりだといわれている。


 古代ローマ時代、キリスト教の隆盛とともに異教徒の競技として禁じられ、歴史の表舞台から一度は姿を消している。

 だが、隠れて引き継ぐ者たちの手により、中世からルネサンス期には社会的地位のある者たちの競技として生き延びた。


 そこからあぶれた競技者がサーカスに合流し、競技を見せながら観客から挑戦者を募っていたのが、プロレスの原型といわれている。

 現代に残るプロレスは、その後新大陸への移民がアメリカ特有のショービジネスとして確立していったものだ。


――面白い発想ね。この世界でも大昔には剣闘士の戦いが見せ物になっていたそうよ。すごい人気だったらしいわね。でも、騎士の隆盛で戦い方が変わって廃れちゃったみたいかしら――


 やはり、この世界も魔法を除けば、だいたい地球と同じような道を歩んでいるようだ。

 よほどの技術革新でもない限り、知的な進化はあまり変わらないのだろう。



「リューヘー様、ご準備はよろしいでしょうか」


 時間になったのか、ワーデビット家の家令がドアを叩いた。

 龍平は、一旦プロレス興業の件を、頭から叩き出す。


 実際にやるとなれば、問題は山積している。

 町中での龍平対レフィの喧嘩ですら、賭の対象になるような世界だ。


 ストーリーやシナリオがあると判れば、当然不正の温床になる。

 地球においても、興業は反社会勢力の影響が強かった。


 この世界においても、それは当然あると考えなければならないだろう。

 ギルド程度の力で、それを押さえ込めるかはまったく判らない。


 領主なり、王都の権威なりの力は当然必要だが、清濁併せ呑む器量も必要である以上、完全に排除することは難しい。

 地球に似た文化の進化をしているからといっても、すべてにおいてそうであるとは言い切れない。


 WWEがシナリオの公開に踏み切ったとき、相当な勇気が必要だったことは想像に難くない。

 一〇〇年以上に及ぶ歴史の中で、暗黙の了解が世間に浸透していたからこそできたことだろう。


 それをすっ飛ばして、いきなりシナリオがあることを公開して、人気を集められるとも思えない。

 また、関係してくる者たちにどう説明するかも、まったくもって解らないままだ。


 とりあえず、この騒動が終わってからある程度のガイドラインを考え、その上でミッケルあたりに相談するしかない。

 龍平はそう考えてから、家令に続いてドアをくぐった。




 辺境伯の居城前に広がる空間には、黒山の人だかりができていた。

 そこは龍平にとって、無惨な子供たちの遺体を見せつけられた、あまりいい気持ちでいられる場所ではない。


 城門を背に領主の家族と譜代の重臣、今回の当事者であるディミディオ家中の者が並んでいる。

 残る三方を人垣が埋め、およそ一〇メートル四方の空間がその中心に形成されていた。


 城門の中心に座るバーラムに向かって右手にアルマート、左手に龍平がそれぞれ介添え人を帯同して立っている。

 アルマートには家中の者が、龍平にはもちろんレフィが付き従っていた。


「セルニアの皆、今日はよく集まってくれた。これよりアルマート・デ・ディミディオとリューヘー・クマノの試合を行う。互いに行き違いからの遺恨だが、どちらが勝つにせよ、試合後は一切水に流せ。いいな、ふたりとも」


 ホルソン家の処刑とは違い、厳かな声でバーラムが試合の宣言を行った。

 先のあるふたりにもしものことがないよう、決闘という言葉は使わない。


 観客にも、この戦いが殺し合い前提ではないことを解らせるため、あえて声の調子を落としている。

 無駄な熱狂がふたりに伝わり、余計な興奮を引き起こさないためだった。


「よし、反則は目ん玉と金的でいいだろう。それから、直接攻撃の魔法もなしだ。勝負はどちらかが気絶するか、降参するか、介添え人が続行不可能と判断したらだ」


 龍平たちの首肯を受け、バーラムがルールを宣言した。

 あとは、開始の声を待つだけだ。



 龍平は一旦人垣の直前まで下がり、反対側のアルマートを観察した。

 同様に、アルマートもこちらを見ていた。


 アルマートは革製の胸当てに、腰回りを守る直垂を巻いている。

 肘から手首までのアームガードと篭手をつけ、刃引きした剣と小振りの盾を携えていた。


 そしてフェイスガードなしのヘルメットを被り、膝下をレッグガードで固めたアルマートは、一端の騎士見習いに見える。

 龍平は知らなかったが、騎士見習いが身につける標準装備だった。


 それに対して龍平は、胸当てとレッグガードは同様だが、ヘルメットも直垂も篭手もつけていない。

 そして、刃引きした剣は持っているが、盾も携えていなかった。


 改めて対峙したアルマートの目に、怒りの炎が宿っている。

 龍平の軽装を、莫迦にされたと受け取ったらしかった。



「両者、準備はいいな? では、始めっ!」


 バーラムの野太い声が広場に響き、観客から歓声が上がる。

 龍平もアルマートも弾かれたように走り出し、ちょうど両者の中間点で剣を振り出した。


 大上段から片手で振り下ろされたアルマートの剣を、龍平は両腕に力を込めて下から迎撃する。

 インパクトの瞬間、魔力を両腕に集中させ、アルマートの剣戟を受け止めていた。


 剣を伝った衝撃にアルマートは手の痺れを感じるが、怯むことなく剣が振り下ろされる。

 だが、盾を前にかざしての剣戟は、龍平に軽く捌かれていた。


 突然、盾を全面にかざし、剣を突き出したまま、アルマートが突進する。

 片手剣では龍平を崩せないと見るや否や、全身を使って事態の打開にでようとしていた。


 龍平は、冷静に魔力を全身にちりばめ、突っ込んでくるアルマートの盾を肩で受け止める。

 ロープワークの末、リングの中央でタックルを叩きつけ合うプロレスラーのようだった。


 渾身の激突を、互いに一歩引くだけで倒れることを拒んだふたりは、また剣を振るい合う。

 今度は龍平が打ち下ろした剣を、アルマートが盾で受け流した。


 体勢を崩すことなく打ち返された龍平の剣を、自らの剣で受け止める。

 そして互いに正面から打ち合った剣で、激しいつば迫り合いを演じていた。



 唐突に龍平が体を開きながら、右足を一歩引く。

 のめるように前に一歩踏み出してしまったアルマートの土手っ腹に、龍平の右膝が食い込んだ。


 胸当てと直垂の中間を正確に撃ち抜かれたアルマートは、思わず息が止まり、その場に膝を突いてしまう。

 龍平は、いきなり剣を投げ捨て、アルマートの背後に回った。


 それまで渦巻いていた観客の歓声が、戸惑ったようなどよめきに変わる。

 あのまま剣をアルマートの後頭部に叩き込んでいれば、龍平の勝利は間違いなかったはずだった。


 だが、レフィだけは、龍平の狙いが読めていた。

 よろめくように立ち上がったアルマートの首に、龍平の腕が巻き付く。


 何度もセリスに気持ちよく眠らされた、チョークスリーパーの態勢だった。

 もちろん、龍平はこれで終わらせる気などない。

 当然アルマートを、嬲りものにしようなどとも、考えていない。


 首を極めるように見せて顎をしっかりと抱え込んだ龍平は、上から体重をかけてアルマートの身体を潰していく。

 こうなっては、剣も盾も役には立たない。


 アルマートが剣と盾を投げ捨て、もがきながら跳ね上がり、ヘルメットの後頭部を龍平の額に叩きつける。

 この直前、龍平は腕のロックを僅かに緩めていた。


――レフィ、俺が転がっていったら、誰にも見えないように、爪で額を軽く切ってくれ――


――なに考えてんのよっ! 莫迦じゃないの、あなたっ!――


――いいから。頭からの流血は派手に見えるんだよ。あいつが俺を追い詰めてるように見えるだろ? 演出だよ、演出。あんまり深くなくな――


 念話で会話しながら、龍平は顔を押さえながらレフィの足下に転がった。

 心配そうな素振りでレフィが龍平の顔に覆い被さり、翼で周囲からの視線を遮って爪を額に食い込ませる。


――これでいいんでしょ! これでっ! あんまり莫迦をやるんじゃないわよ――


――いってぇぇっ! もっと優しくやれ、この莫迦っ!――


――自分でやれって言っといて、なによその言い草はっ!――


 龍平がよろめきながら立ち上がったとき、額からの流血に気づいた観客から、どよめくような歓声が上がる。

 ほんの僅か早く立ち上がっていたアルマートは、肩で息をしながら肉食獣のような笑みを浮かべていた。


 龍平の流血に勝ちを確信したアルマートが、獣のような叫びをあげながら突進する。

 龍平を殴り倒そうと、走り込みながらテレフォンパンチを繰り出してきた。


 龍平は冷静に身を沈めて、アルマートのパンチをかいくぐる。

 アルマートが振り向いたとき、龍平は両脚と右腕に魔力を集中し、短距離のスタートダッシュのように踏み込んだ。


 カチ上げるように振り抜いた龍平の右腕が、アルマートの喉元に食い込む。

 クローズラインがまともに決まり、アルマートを大の字に打ち倒した。


 投げ出されたアルマートの左足を掴み、自身の右脚に巻き込むように龍平は一回転する。

 投げ出されたアルマートの右脚を掴んで引き伸ばし、その膝に巻き込んでいた左のふくらはぎを重ねた。


 引き伸ばしたアルマートの右脚を、股間に抱えるように持ち上げる。

 そして、アルマートの左足をまたいで膝裏を足首に重ね、そのまま受け身を取りながら後ろに倒れ込む。


 自身の左足首をアルマートの右太ももにフックさせ、足四の字固めが完成した。

 そして、上体を跳ねさせて受け身のように両手で大地に叩き、アルマートの両脚を締め上げながら衝撃も加えていく。


 アルマートは激痛に悲鳴を上げながら、身体を捻って振りほどこうともがき続ける。

 だが、一旦がっちりと極まった足四の字は、龍平から外さない限り絶対にほどけない。


 必死にもがくアルマートが身体を右に捻り、その動きに引っ張られて龍平の身体も反転する。

 ふたりがうつ伏せになったとき、龍平からも苦痛の叫びが上がった。


 足四の字は裏返されると仕掛けた方の足に負担がかかり、激しい痛みが襲いかかる。

 という設定があった。


 もちろん、身体を反転させたのは龍平であり、その設定通りに悲鳴を上げていた。

 必死に元に戻そうと身体を捻るが、もちろん元に戻るはずもない。


――レフィ、このあたりで引き分けに。あいつの介添え人に、この状態になったらふたりとも動けないって。あと、バーラム様にも。うわっ、マジでいてぇぇぇっ!――


 数秒後、レフィの念話で引き分けをバーラムが宣言し、アルマートの介添え人が駆け込んでくる。

 レフィと介添え人のふたりがかりで絡み合った足をほどいたとき、アルマートは気息奄々になっていた。


 龍平は疲労困憊で立つこともできず、レフィとケイリーに抱えられて控えの間に運ばれていく。

 観客の歓声を受けながら、龍平は満足そうな笑みを浮かべていた。

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