33.赤龍覚醒
安物のガラス玉のような濁った赤い瞳が、辺りを睥睨する。
赤龍の喉から、低く不気味な鳴動が響いていた。
敵も味方もすべての命ある者が、赤龍の視線に射抜かれ竦み上がる。
人間より危険に対する感覚が鋭いせいか、騎乗している馬までが立ち竦んでいた。
赤龍の姿が掻き消えた。気がした。
跳躍。着地。急制動。
誰ひとり目が追いつかなかった。
最初に赤龍に気づいたのは、へたり込んで虚ろに視線をさまよわせていたツーライだった。
別段、彼の動体視力がすぐれていたわけではない。
ただ赤い龍がそこにいたから。
目の前にその姿を認めたからだった。
ツーライが信じられないといった表情で息を飲み、喉が無惨な音を立てる。
そして、その赤龍の姿が、彼がこの世で見た最後の光景となった。
ツーライの目が恐怖に見開き、口が絶叫の形に開かれた瞬間。
赤龍の右腕がうなりを上げて振り抜かれた。
ツーライの腰から上が吹き飛ばされ、はらわたをまき散らしながら弾丸のように彼方の大木に激突する。
赤龍が既に命を失った下半身をひっ掴み、渾身の力を込めて大木に貼り付いた上半身めがけて投げつけた。
元は人間だったとは到底思えない肉塊が、大木の幹に朱い花を咲かせる。
そして、蒼い高温の炎が叩きつけられた。
ツーライだった肉塊が大木ごと盛大な火葬を施され、この世から消えようとしている。
そして赤龍が、最後の敵に振り向いた。
レフィが無意識にかけていたリミッターは、赤龍が覚醒した時点で消えている。
この世界に存在する生物には到底発揮し得ない速度で、赤龍が地を走り抜けた。
ツーライの死を目の当たりにしてもなお、カウンは呆然としていた。
だが、赤い影が目の前に現れた瞬間に、我を取り戻した。
「ひぃっ! た、た……たす……け……っ! 助け――」
怯えきった表情で命乞いするカウンを、赤龍の右足がゴミでも蹴るかのように突き転がした。
そして、右手が左足を、左手が右足を掴む。
そして、カウンを逆さ吊りにした赤龍は、その身体を力任せに引き裂いた。
真っ二つに引き裂かれたカウンの死体は、大地に叩きつけられた衝撃でミンチより酷い状態になりながらクレーターを作り出す。
赤龍が濁った赤いガラス玉の瞳で肉塊を見下ろしながら、大きく息を吸い込んだ。
そして、クレーターの中に盛大な蒼い炎が奔流となって溢れかえり、異臭を放っていた肉塊を骨の一片も残さず焼き尽くす。
カウンは、いったい何が我が身に起きたのかまったく解らないまま、この世から消滅した。
抉れた大地とガラス化した地面から水蒸気が立ち登り、彼がこの世にいたことを忍ぶ縁すら残らなかった。
再び、赤龍が辺りを睥睨する。
大地に倒れ伏す龍平に駆け寄るアミアを、濁った赤いガラス玉の瞳が捉えていた。
そして、近づきつつあった武装集団をにらみ据える。
だが仲間たちの無惨な死を目の当たりにして、彼らはその場に立ち尽くしていた。
酸鼻極まる光景を呆然と見ていたアミアが、唐突に我を取り戻した。
「リューヘー様っ! お気を確かにっ! 返事をっ! 返事をしてくださいましっ!」
血塗れの龍平を治療すべく、アミアが震える膝を抑えて走り寄る。
直近の脅威が去った今、アミアにできることはこれだけだ。
今までに参加した魔獣討伐とはまるで異なる惨状に、アミアは恐怖していた。
魔獣の反撃に傷つく兵もいたが、これほどの深手も流血も初めて目にするものだった。
「誰かっ! 手をっ! 手を貸してっ! リューヘー様を起こしてっ!」
うつ伏せたまま意識を失っている龍平から流れ出る血がスカートを汚そうと、構うことなくアミアは必死に仰向けに起こそうとする。
だが、脱力した若者の身体は、少女の手には荷が勝ちすぎていた。
慌てて走り寄ったクリフが手を貸し、やっとの思いで龍平を仰向けに寝かせる。
大きく切り裂かれた腹から胸板への傷は、脂肪と筋肉を切り裂き、危うくはらわたに達するところだった。
おそらく、肉体強化魔法が、寸でのところで剣を防いだのだろう。
出血は止まりかけているが、裂創が深く長い。
傍らでは、サリサとライカがエプロンを引き裂き、包帯の代用を作っている。
ケイリーは治療に当たるアミアと、補助を務めるサリサとライカを護衛するようバッレに命じた。
応急処置を施されたデイヴを除く三人が、龍平たちを取り囲む。
アミアの掌に、水属性の体内魔力が収束した。
それに呼応して、自然界に散在する水属性の魔力が活性化する。
アミアが龍平の裂創に掌を当て、端から魔力を流し込んでいく。
淡く白い光とともに徐々に傷口が塞がっていくが、魔力が不足したのか途中で光が消えていく。
「……っ! ああっ! 誰か手を貸して! 私だけでは魔力が……」
アミアが悲痛な叫びを上げ、天を仰ぎ見る。
だが、ここにはアミア以外に、水属性の適正を持つ者はいなかった。
アミアは天を仰いだまま、思わず目を閉じた。
このままでは、またいつ傷口が開くか判らない。
龍平を安全な場所まで運ぶにも、戸板一枚ない状況は絶望的だった。
抱えるにも背負うにも、どうやっても胸の傷を動かしてしまう。
悲嘆に暮れるアミアの固く閉じた両目から、ひと筋涙がこぼれ落ちた。
そのとき、武装集団の方角から、再び金属音混じりの不協和音と悲鳴が聞こえてきた。
冒険者を装っていた六人のうち、シレンからの命を受けたふたりが、後詰めを引き連れて襲いかかる手はずになっていた。
シレンたちへの防戦に気を取られている隙に急襲し、一気に片を付けて離脱する作戦だった。
ケイリーたちがどれほど奮闘しようと、数の暴力にひと飲みにできる。
そのあとは、お楽しみの時間が待っている。はずだった。
古来、戦に負けた側の女がどのような道をたどるか、知らぬ者はいない。
陵辱に陵辱を重ねられ、よくて奴隷として売り払われる。
たいがいは犯し尽くし、正気を失うまで嬲り倒して殺すだけだ。
誰もがその光景を思い描いて、あらかじめ決めておいた襲撃地点へ向かっていた。
だが、思い描いていた光景など、そんなものはどこにもなかった。
それどころか、あり得ない光景が、あるはずのない光景が、あっていいはずのない光景が目の前で繰り広げられている。
龍がいるなんて、聞いていない。
伝承上の幻獣が、現実に姿を現しているなんて、ひと言も聞いていない。
そればかりか、仲間がゴミのように惨殺されている。
夢だと思い込もうとしたが、かすかに漂ってくる血のにおいと、肉と髪を焼く異臭が現実だと知らせていた。
彼らは、恐慌状態に陥っていた。
古来、勝ち戦をひっくり返された軍は脆い。
接戦の末に勝利を取り逃がすくらいなら、まだ立て直すことも可能だ。
だが、約束された勝利を取り上げられ、その代わりに死の顎が待っているとなれば、軍は脆くも崩れ去る。
早く逃げなければ、仲間の後を追うことは確実だ。
彼らは雪崩を打って、逃亡を始めた。
「取り逃がすな! 裏になにがいるか、はっきりさせてやる! 動ける者は追え!」
ケイリーが剣を抜き放ち、逃げ散る集団を追跡にかかる。
既に刃こぼれがあちこちにでき、いつ折れてもおかしくない状態だ。
だが、このままで終わらせる気はない。
これは完全な待ち伏せだった。
今日、ケイリーたちが遠乗りに出ることを、事前に掴んでいなければできないことだ。
どこからか、この話を漏らした者がいる。
どこへ漏らしたのかは、判らない。
だが、愛娘を狙われたバーラムが、黙っているとは思えない。
草の根を分けても犯人を捜し出し、その黒幕に鉄槌を下すだろう。
ケイリーも指をくわえて見ている気など、さらさらなかった。
領主に喧嘩を売った者は、許せない。
妻に手を出した者を、ケイリーは許さない。
そのとき、赤龍の咆哮が轟いた。
聞く者すべての心をへし折る、龍の咆哮だ。
あの集団を、赤龍は逃がさない。
龍平に危害を加えた者の仲間を、赤龍は許さない。
今、殺す。殺してもまだ殺す。
今この場で殺さなければ、いつまた刃を向けてくるか判らない。
ならば、やるべきことは、たったひとつ。
大切を守るため、敵を掃滅するだけだ。
最凶だろうが最悪だろうが、大切な人を失う悲しみは覚えている。
なぜ、世界を破壊しようとしたのか、その理由は覚えている。
叱ってくれたレフィの魂が、それを忘れさせなかった。
だが、龍平の置かれた状況に、赤龍が気づいていた。
あの集団を鏖殺する前に、やらなければならないことがある。
赤龍の両手に水属性の体内魔力が集積し、膨大な量の自然魔力が呼応する。
ブレスと見まごうばかりの光が掌に集まり、腕のひと振りとともに龍平の傷口に吸い込まれた。
みるみるうちに傷が塞がり、龍平の体内に溶け込んだ過剰な魔力は、失った血液さえも復活させる。
アミアが涙を流して見守る中、龍平がやっと息を吹き返した。
龍平が覚醒すると同時に、レフィの念話が脳裏に響く。
――はっ? 私? あっ! リューヘーっ! よかったぁっ! よかったよぉ。……私、リューヘー死んじゃうかって……えぐっ……ひぐっ……えっ?――
我に返ったレフィが、リューヘーの無事な姿に安堵し泣き崩れそうになる。
そして、それとほぼ同時に、赤龍が地を蹴った。
――ティランっ! ティラン、だめっ! やめなさいっ! リューヘーっ! 止めてっ! ティランがっ! ティランが暴走してるっ! 早くっ! 早く止めてぇっ!――
赤龍の暴走に気づいたレフィが、必死に止めようとする。
レフィの念話は、このあと起きるであろう惨劇に、恐慌を来しかけていた。
だが、ティランは止まらない。
そして舞い上がった上空から、算を乱して逃げまどう武装集団を、鈍く光る紅い瞳で見下ろした。
――コロスコロスコロス……大切ナ人ヲ傷ツケル奴ハ……ゼンブコロス――
赤龍から、憤怒にまみれた念話が溢れ出している。
鈍い光を放つ瞳は、狂気に染め上げられていた。
四つ足の態勢で着地した赤龍が、本来の巨大な体躯を顕現させる。
身の丈一〇メートルを超える巨体が、この世界に初めて顕在化した。
そして咆哮とともに、逃げ散る男たちに襲いかかる。
そこからは、もう掃討戦とすらいえない、殺戮の嵐が吹き荒れた。
赤龍の腕がひと振りされ、ひとりの男が上半身を吹き飛ばされる。
蒼白いブレスが数人をまとめて蒸発させ、長大な尾がうなりを上げて振り降ろす。
その下には、それが人間だったとは思えない、血と肉と骨のミンチができあがっていた。
「おい! レフィっ! やめろっ! 何やってんだっ! やめろっ! やめろぉぉぉっ!」
現代日本人の感覚は、殺人を極端に忌避する。
いくら襲ってきたのが向こうとはいえ、一方的な殺戮を龍平は許容できなかった。
――私じゃないっ! 身体動かせないよぉっ! やめてっ! ティラン! ティランがキレちゃってるのっ! 止めてぇっ! リューヘー、ティランを止めてよぉぉぉっ!――
レフィの悲痛な叫びを、ティランの雄叫びが掻き消していく。
一方的な赤い虐殺の嵐は、とどまるところを知らなかった。
強大な顎が男を捕らえ、骨を砕く音を響かせて全身を噛み裂いた。
まるで汚い物が口に飛び込んだかのように肉片を吐き出した赤龍の目が細められ、深紅の虹彩が縦に絞り込まれる。
見る者すべての心胆を寒からしめる冷酷な瞳が、生き残った男たちを見据えていた。
その全員が、その場に腰を落とし、瘧にかかったかのように震えている。
逃げ出したくても身体が言うことを聞かない、生きた亡者の群れがそこにいた。
――やめてぇっ! ティラン、やめてぇっ! もうそれ以上やっちゃだめぇぇぇっ! 帰って来れなくなっちゃうよぉっ! また、あのときみたいに世界を壊す気? もうやめてぇっ!――
レフィの念話が、また響いた。
身体のコントロールは赤龍の意志に支配され、レフィの思い通りに動かない。
世界すら破壊しかねない龍の意志が、ちっぽけな人間の意志を封じるなど、簡単なことなのだろう。
ましてや、破壊と殺戮の衝動に支配された、本能を剥き出しにした龍に、人間の理性が勝てるはずもない。
だが、二〇〇年に及ぶ歳月が、かろうじてレフィを龍の本能に対抗させていた。
ともに生きると心に決めた、その峻烈な意志が龍の本能に飲み込まれることを拒んでいた。
レフィの意志が赤龍をねじ伏せようとしているのか、右の瞳がエメラルドの輝きを取り戻しつつある。
それに対抗しようとしているのか、左の瞳の濁った紅いガラス玉が、さらに透明感を失わせていった。
――リューヘーっ! ティラン、我を忘れてるっ! ぶん殴ってでもとめてぇぇぇっ!――
赤龍が武装集団の生き残りを前に、自らの心を持て余して戸惑っている。
腕のひと振り、ブレスの一撃で殲滅できるはずなのに、その一撃を繰り出せないもどかしさに戸惑っていた。
だが、殺戮と破壊の衝動には坑し得ないのか、口腔内に熱と蒼白い光が集束していく。
レフィの悲鳴のような念話が、龍平の頭の中で響き続けていた。
「無茶言うなぁっ! こんなん俺が殴ったくらいでとまるかぁぁぁっ!」
「殿下っ! 皆殺しはまずいっ! ひとりでもいいから確保をっ!」
ケイリーがとっさに叫んだ。
つい先ほどまでは怒りにまみれていたケイリーだが、激昂する赤龍の姿とレフィの念話で冷静さを取り戻していた。
赤龍の怒りに任せて武装集団を殲滅するのは、確かに容易いかもしれない。
だが、あまりにも見事に仕組まれた待ち伏せは、背後を洗わなければならない。
既にリーダー格とおぼしき男は、赤龍のブレスで消滅している。
その上残った敵まで殺し尽くしては、冒険者をかたった盗賊団による襲撃で片づけられてしまいかねない。
武装集団が持っていた意図を思うとただ殺すだけでは許し難いが、向後の憂いは断たねばならない。
なによりも、リーダー格の男が持っていた剣が、盗賊団にしては拵えから手入れまで良すぎたことが気になっていた。
――言いたいことは解るけど! そんなことしたらあなたたちまで巻き添えよ!――
ケイリーの意図は充分理解できるが、今のティランに理屈など通用しない。
敵認定した者を確保すれば、救出しようとする仲間にしか見えないだろう。
意識がはっきり戻ってきたとはいえ、ブレスの照準を僅かにずらす程度が関の山だ。
レフィの念話は、焦燥感に溢れていた。
――コロスコロスコロスコロス……邪魔スルヤツモ皆殺シニシテヤル……――
赤龍からは憤怒と狂気にまみれた念話が、涙のように溢れている。
ブレスをところ構わずぶちかましているのは、レフィが必死に照準を外しているからに他ならない。
のどかだった街道脇の草原は、焼けただれたいくつものクレーターと、人が焼けるにおいが充満する地獄絵図が展開されていた。
「ちっ! おいっ! 喉元の鱗ぶん殴ったら、どうなんだよっ!」
ふと、ワーズパイトの館で荒ぶるレフィを撃沈した逆鱗を、龍平は思い出していた。
おとなしくさせることは無理でも、正気を取り戻すことくらいならできるかもしれない。
――それなら! でもどうやって!――
僅かな希望が見えた気がしたが、どうやって地上七メートルにある逆鱗を殴るのか、レフィには皆目見当がつかない。
自分で殴れと言ったことなど、すっかり棚に上げていた。
「いいから、そのトカゲの動き止めてろっ! 今、何とかすっから!」
それから龍平はケイリーに向き直る。
そして、手早く作戦を説明した。
「よしっ! リューヘー殿の策でいく! デイヴ! アミアを連れて馬車で下がれっ! サリサ、ライカ嬢! ふたりを頼む! クリフ、ヨグジー! レフィ殿下の援護! それから奴らの確保! バッレ! 悪いが付き合え!」
ケイリーの号令一下、各人が的確に動き出す。
まずは、混乱しきった戦線の整理からだ。
赤龍相手に戦う術を持たないアミアや侍女たち、そして治癒魔法を施されたとはいえ重傷を負っているデイヴが退避する。
歯噛みをして悔しがるデイヴだが、自分が指揮を任されていればそうすることも充分理解しているが故に、素直に従っていた。
クリフとヨグジーが赤龍の目を攪乱するように、二手に分かれて武装集団の生き残りの下へと駆けていく。
レフィの念話は、当然ふたりにも届いていた。
龍平が何か策を持って赤龍に突撃することも、ふたりとも理解できている。
同時に二カ所への対処を強要することで、少しでも赤龍を混乱させ、龍平とレフィの行動を補助するためだ。
バッレは、両手に風属性の魔力を集中し、念入りに自然魔力と練り上げ、二発の魔法を準備している。
未だかつて、敵を倒すために放つ魔法を味方の補助に使うなど聞いたこともないが、ここは龍平の策に乗るしかないことをバッレは理解していた。
「いつでもいけます! 吹っ飛ばしゃいいんでしょ! どうなっても知りませんよっ!」
不安はあるが、龍平を信じる。
幻霧の森で出会って以来、バッレはこの少年の愚直さを気に入っていた。
「思いっきりお願いしますっ! レフィ! 一回こっきりだからなっ! いっくぞぉぉぉっ!」
龍平は肉体強化の魔法を全身に展開し、全力疾走を開始した。
蹴り込み踏み込んだかかとの下で、大地が砕け飛ぶ。
――いいわよっ! ティランっ! 止まりなさぁぁぁいっ!――
龍平の疾走を見て、レフィが精神力のありったけを振り絞る。
赤龍が雷に撃たれたように、その場で棒立ちになった。
――邪魔シナイデ……コロスコロスコロスコワス……焼キ尽クス……――
動きを止められた赤龍の口腔に、熱と蒼い光が集束していく。
「バッレさん! 今っ! いっけぇぇぇっ!」
龍平が大地を蹴り、赤龍の逆鱗めがけて跳躍する。
「応っ! ぶっ飛べぇぇぇっ!」
バッレの左手から魔力が迸り、龍平の背後で炸裂した。
暴風の魔法が、龍平を砲弾のように加速させる。
「目ぇ覚ませぇぇぇっ! トカゲやろおぉぉぉっ!」
自らを砲弾に擬した龍平が宙を飛ぶ。
そこへバッレからの追撃が炸裂し、龍平の身体がさらに一段加速した。
――だめぇっ! ティラン! 撃っちゃだめぇぇぇっ! リューヘー! 避けてぇぇぇぇぇぇっ!――
首から下の動きを阻害され、そのもどかしさから怒りに火を注がれた赤龍が口を大きく開く。
口腔に集束していた蒼い光が、よりいっそう鋭く輝いた。
ブレスが放たれる瞬間のきらめきに、レフィの悲鳴が重なった。




