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転生龍は人と暮らす  作者: くらいさおら
第二章 セルニアン辺境伯領
32/98

32.殺意覚醒

 何かがおかしい。

 こんなレフィは見たことがない。


 魔獣を片っ端から叩き殺した。

 一方的な蹂躙だった。


 まるで、殺すことを楽しむかのように。

 無差別な殺戮を楽しむかのように。


 いや、楽しむかのようにではなく、間違いなく楽しんでいた。

 無差別な殺戮ではなく、龍平を確実に認識して手を出さずにいた。


 これでは理性なき魔獣の方が、まだマシなのかもしれない。

 理性ある破壊神など、冷静に世界をぶち壊しかねない。


 龍平は、ケイリーの元へと急行するレフィにしがみついたまま、とめどない思考に囚われている。

 龍平は、レフィに身体を譲った龍の異名をいみじくも言い当てたことに、まだ気づいていない。




「貴様ぁっ! なにをしやがるっ!」


 デイヴの怒号が響く。

 今の今まで感謝を口にしていた冒険者たちは、不気味な無言を貫いている。


 デイヴは何が起きたか、理解できなかった。

 他の護衛もケイリーも、そしてアミアも、何が起きるのか、理解できない。



 龍平とレフィが魔獣を足止めしている間に、冒険者を保護したケイリーたちはセルニアに通じる街道にたどり着いている。

 これでひと安心と思い、ここまで走り通しにさせていた冒険者を休ませるため、小休止を取ろうとしていた。



「おい、おめぇさんたち、名前は? それで何が起きたのか、ちょいと説明ぇしちゃくれねぇか。あの魔獣は異常すぎだ。辺境伯閣下に報告せにゃなるめぇよ」


 デイヴが馬から下り、冒険者たちに水で割ったワインを差し出しながら聞く。

 セルニアン兵のクリフとヨグジー、そしてもうひとりのネイピア兵であるバッレは、不測の事態に備えて馬上のままだ。


 デイヴは男たちの風体から、それなりのベテランと判断していた。

 駆け出しであれば、何がなんだか判らないうちに逃げ出してきたであろうし、まずあの魔獣相手にここまで生き残っていない。


 そうであれば、異常事態の原因くらい、推測できるのではないかと考えている。

 ただ見たままを報告するだけでなく、ベテランの意見が必要だと判断していた。



「ああ、助かりました。礼を言わせていただきます。俺……いや、私はセルニアで冒険者ギルドに登録している、シレンといいます。こっちはパーティを組んでいるツーライにカウン、それからトムルです」


 ようやくひと息ついたか、蒼白だったシレンの顔に血の気が戻りつつある。

 言葉遣いにぎこちなさはあるが、貴族の従者相手と見てか、それなりの礼儀はわきまえているようだった。


「俺……私たちは七人で魔獣討伐に来ていたんですが、あんな魔獣は初めて見ました。最初は一体だけで、それほど苦労なく倒しましたが、その直後です。いきなり群れに襲われて、あの魔獣が吐いた粘つく液にひとりが溶かされちまったんです。これは私たちの手には負えないと、とにかく必死で逃げてきたってわけです」


 思い出すのもつらいのか、シレンの顔が悲痛に歪む。

 仲間たちの死を改めて思い出したか、他の三人も沈痛な面持ちになっていた。


「そうかい。そりゃぁ、気の毒に。ん、あとふたりはどうしたんでぃ?」


 見も知らぬ冒険者の冥福を祈ったデイヴは、彼らの人数が合わないことに気づいた。

 途中で脱落したなら、気の毒だがもう助けに戻っても無駄だと思いながら聞く。


「はい。ふたりは少し離れたところにいたんで、うまく逃げられたんじゃないかと。バラバラになる前に、お互い救援を呼ぶように声はかけていました。うまくいけば、今頃救援がこちらに向かっているかと」


 デイヴの顔に安堵の色が浮かび、そのことをケイリーに報告に向かう。

 冒険者たちを従卒に任せ、彼らに背を向けたとき、遠くから鎧を着けて走っているのか金属が擦れ合う音が聞こえてきた。


 救援にしては早すぎるとデイヴが訝しんだとき、背後から剣が肉を断つ音と従卒の悲鳴が耳を裂く。

 慌てて振り向いたデイヴの視界に、殺意に満ちたシレンが剣を叩きつけてくる光景が大写しにされた。


 デイヴは体を躱しながら右手で柄を握り振り抜くが、剣は鞘に残されたまま一センチも動いていない。

 訝しげに剣と右手に目をやったデイヴは、肘から先が消え失せた右腕と、柄を握ったままの右手を見て驚愕の表情で固まった。


 僅かに遅れて、痛みが肘から這い上がってくる。

 喉までせり上がってきた悲鳴をこらえ、デイヴはシレンに向かって叫んでいた。


「貴様ぁっ! なにをしやがるっ!」




 魔獣がいる方向とは反対側、つまり逃げる方向から金属が擦れ合う音は聞こえてきた。

 砂煙を巻き上げ、突進してくる影が、みるみる大きくなってきた。


 尋常ならざる事態に、従卒がシレンたちを取り囲むが、次の瞬間、従卒の群れから悲鳴が上がった。

 シレン以外の冒険者、いや、賊が剣を抜き、従卒たちに斬りかかっていた。


 セルニアン兵のクリフとヨグジーがアミアを守るため、同時に馬を馬車に駆け寄せる。

 もうひとりのネイピア兵バッレは、デイヴを助け出すためにとっさに風属性の魔法でシレンを牽制し、馬を賊との間に割り込ませた。



 従卒たちは時間を稼ぐため、剣を抜き放って賊に立ち向かう。

 今、この場の足止めさえできればいい。


 そうすれば、龍がやってくる。

 魔獣を討ち倒した龍がやってくる。


 従卒たちは、悲壮な決意を固めていた。

 だが、誰も悲観的な表情は浮かべていなかった。




 シレンたちは、恐ろしいほどの手練れだった。

 瞬く間に従卒たちを斬り伏せていく。


 それは、彼らが弱いわけでは、決してない。

 領主やそれに連なる者の護衛に、弱い者が選ばれるはずがない。


 彼らは元々の地力がすぐれているだけでなく、正規ではないとはいえ軍事教練も受けている。

 それだけではなく、街道警備などの従軍経験も豊富だった。


 それゆえに彼らは、眼前の賊を侮ってはいない。

 不意打ちとはいえ同僚を討ち倒した賊に、油断なく立ち向かっていた。




 従卒たちは、特にネイピアの兵は知っている。

 領主を失った領地に、どれほど悲惨な未来が待っているか、血肉に溶けて知っていた。


 ひとびとの往来が多い開けた土地と違い、ネイピア山塊には人跡未踏の地がまだ残っている。

 そこに住む魔獣の討伐は、散在する村の領主が解決すべき問題だ。


 過去、首尾よく討伐に成功し、英雄になった領主もいる。

 その反面、返り討ちに遭い、二度と戻らなかった領主もいた。


 幸いにして、ネイピアの領主が還らなかったことはない。

 だが、領主が戻らなかった村は、代官に統治されるか、打ち捨てられて廃村になるかのふたつにひとつだ。


 ネイピアに派遣されるような代官の余裕など、ガルジオンにはなかった。

 いくら勝手放題とはいえ、日常生活品にまで窮するような村に代官として行こうとする人材も、またいなかった。


 そして、たいして税収を期待できない村ならば、近隣に住民を吸収させて潰した方が後始末が楽だった。

 ネイピア山塊には、そういった廃村の跡が、いくつも残されている。


 今ここでケイリーを討たれてしまえば、村に残してきた家族がどのような運命をたどるか、考えただけでも寒気がする。

 ネイピアの兵たちは、ここを死に場所と覚悟を決めていた。




 そんな従卒たちの覚悟をあざ笑うかのように、シレンたちは暴虐なまでに強かった。

 瞬く間に、仲間が打ち倒されていく。


 クリフもヨグジーも、そしてバッレもその様を切歯扼腕しながら見ているしかなかった。

 接近してくる集団が、救援であるわけがない。


 重傷を負ったデイヴに、護衛の役は果たせない。

 ケイリーとアミアを放置して、従卒たちの救援に回るわけにはいかなかった。


 せいぜい、それぞれが使える火属性と風属性の魔法で、牽制することが関の山だ。

 そして、その程度の牽制で戦況をひっくり返せるほど、敵は甘くはなかった。




 ひとり減り、ふたり減る間にも、従卒たちはせめてひと太刀とばかりに必死の形相で斬りかかるが、その剣が届くことはない。

 風のように身をかわし、稲妻のように剣が振り抜かれる。


 敵を取り囲んでいたはずの兵たちは、いつの間にか包囲されていることに気づく。

 もう遅かった。


 断末魔の悲鳴が響く中、最後のネイピア兵が敵に斬り込む。

 一合、二合と斬り結ぶが、背後からの一撃にあえなく切り倒されてしまう。


 薄れ行く意識の中で、彼は思いだした。

 あの剣技は正規の訓練を積んだ、兵士の太刀筋だということを


 知らせなければ、大変なことになる。

 這いつくばってでもケイリーの元へとたどり着こうともがく兵の意識を、冒険者のリーダーを装ったシレン・デ・モナスが手にする、紋章の刻印を施した剣が断ち切った。




 従卒たちを瞬く間に掃滅したシレンたちは、ケイリーたちと対峙した。

 あとは増援の兵と合流して、ケイリーたちを討ち取るだけだ。


 魔獣たちが龍をすり抜け、ケイリーに追いつくなら、さらによし。

 いかな龍であろうと、あれほどの数の魔獣を殲滅できるとは思えない。


 ここまでくれば、ケイリーに逃げる術はない。

 万が一、どこかの村に駆け込んだとして、手持ちの戦力があれば村ごと殲滅することも不可能ではなかった。


 注意すべきは、魔獣との同士討ちのみ。

 いざとなれば隠し玉の魔獣寄せの秘薬もある。


 それをケイリーたちに投げつければ、魔獣は迷わずそちらに向かう。

 持っていたせいでにおいが移っている可能性もあるが、ケイリーたちと並べばよりにおいが強い方に襲いかかるはずだ。


 シレンは配下のツーライ、カウン、トムルとともに、酷薄な笑みを浮かべながらケイリーたちを包囲にかかった。

 逃げ場などどこにもない恐怖を、たっぷりと思い知らせてやる。

 一度受けた屈辱の恨みは、どのような手を使ってでも晴らしてやる。




「サリサ、アミアを頼む。ライカ嬢も頼まれてくれるか? 私が馬車を出たら、一気に走らせろ。近くの村まで逃げ込めば、そう簡単には落とせまい。いいか、決してあとを振り返るな」


 ケイリーが剣を鞘ごと掴み、立ち上がる。

 ふたりの侍女にあとを託し、最後にアミアに笑顔を向けた。


「アミア、私はあなたに出会えたことを、心から感謝している。まだ正式な婚儀はまだだが、不甲斐ない夫を許してくれ」


 そして、馬車の扉を開け、手綱を握ったまま命令を待つ御者に脱出を命じる。

 だが、ケイリーが馬車を出る前に、三人から異を唱える答えが返ってきた。


「ケイリー様、サリサは地獄の果てであろうとお供いたします。どうぞ、心おきなく本懐を」


 もちろん、サリサは簡単な護身以上の武芸など、身につけていない。

 だが、彼女にとってケイリーは、人生そのものだ。


 彼なくして、領地は立ちいかない。

 彼のいない領地に、彼女の生き甲斐はない。

 彼の侍女に任じられて以来固く心に誓った決意は、彼に危機が迫ったとき身代わりとなって死んでも構わないということだった。


「わたくしは、ケイリー様とともにありたく存じます。夫を見捨て、ひとり落ち延びる妻など、どこにおりましょう。婚儀など些細なことにございます。どうか、わたくしも最後までお供させていただきとう存じます」



 アミアは決然とした眼差しで、ケイリーを見る。

 そこには、何の迷いもない、透徹とした瞳があった。


「ケイリー様。リューヘー様とレフィ様が、必ずやお助けに参ります。決してお諦めにならぬよう。およばずながら、わたくしも微力を尽くします故」


 ライカが侍女服のスカートを切り裂きながら、彼方の空に視線を投げる。

 それは、決してすべてを投げ出した者の目ではない。


「そうか。そうだな。ライカ嬢の言うとおりだ。よし。では、私は扉を死守。御者のふたりも、申し訳ないがお付き合いいただく。サリサとライカ嬢が最後の守りだ。リューヘー殿とレフィ殿下が来るまで、決して諦めるな」


 先ほどとは打って変わったような、力に満ち溢れた言葉に、アミアたちは笑顔で頷く。

 ケイリーは龍が間に合うことを、今では微塵も疑っていなかった。




――リューヘー、もう大丈夫だから、心配しないで。きっと、ドラゴンの本能が戦いの空気に引きずられたのよ。気をつけるから、もう心配しないで――


 落ち込んだようなレフィの念話が、龍平の脳裏に届いた。

 深い思考に沈んでいた龍平が、それでやっと我に返る。


――あぁ。解ってる。レフィがあんなこと、喜んでする女の子じゃないことは解ってる。そんな落ち込むな。俺は解ってるから。今はケイリー様たちを救うことを――っ!――


 レフィを気遣っていた龍平は、ケイリーたちの窮状を遠望し、思わず息を飲んだ。

 馬車が冒険者たちに取り囲まれている。


 そして、デイヴが腕を押さえてうずくまり、バッレがそれをかばっている。

 さらには、武装した集団がこちらを目指して迫ってくる。


 思わずこみ上げてきた罵声をこらえ、龍平は前方を見据えた。

 レフィも、今は落ち込む気持ちを心の棚に放り込み、前方を疾駆する影を見つめた。


 レフィが急上昇し、上空から戦場を把握する。

 従卒たちがひとりもいない。



 パズルのピースがかちりとはまるように、龍平とレフィは何が起きたか理解した。

 あの冒険者たちは、敵だ。

 あの哀れな、レフィに掃滅された魔獣は、敵が呼び込んだ罠だ。


 それだけ解れば、もう充分だ。

 倒すべき敵は、もう解った。




――ネイピア卿! 下がって!――


 ぐんと速度を上げたレフィが、突っ込んでくるシレンたちを威嚇するように、耳をつんざく咆哮をあげて急降下する。

 そして、シレンたちからデイヴをかばうように、大地に降り立った。


「サリサっ! デイヴを中へっ! ライカ嬢っ! アミアを頼むっ! あとは俺に続けっ!」


 レフィの咆哮に気づいたケイリーが、馬車の中に向かって叫ぶ。 

 御者たちがサリサを手伝いデイヴを回収するのを見たケイリーは、シレンに向かって一気に突っ走った。


――ネイピア卿! 下がれと言った! 全員で馬車を固めて!――


 レフィが翼でケイリーの突進を遮り、背後から襲い来る武装集団に備えるように叫ぶ。

 そして、一気に片を付けるべく、ブレスを撃つ態勢に入った。


 だが、レフィの動きが突然止まった。

 いきなり現れた龍に驚くシレンと、目が合ってしまった。


 人間と相対した瞬間、レフィは思わずブレスを躊躇ってしまった。

 魔獣を躊躇いなく蹂躙した龍が、人間を殺すことに怯んでしまった。



 いくら驚いたとはいえ、レフィが棒立ちになった隙を見逃すほど、シレンは間抜けではなかった。

 レフィの顔面に躊躇いのない剣を叩きつけ、そのままレフィの脇を駆け抜ける。


 人間が振り下ろした剣など、レフィの額の鱗が軽く弾き返すが、すり抜けるカウンは止められなかった。

 とっさに首を振り向けるが、ブレスの射線上にはケイリーがいた。


 次の瞬間、龍平が剣を抜き、レフィの背中を蹴ってシレンに飛びかかる。

 気合い一閃、脇を抜けるシレンに剣を振り下ろすが、僅かに届かない。


「うらあああっ! っ? がぶっ!」


 そのとき、既にシレンの剣は、龍平に向かって逆袈裟懸けに振り抜かれていた。

 血飛沫を散らして、龍平が大地に落下する。


「がはっ! げぶっ! げぇっ! かはっ……」


 シレンの剣は、龍平の胸板を深く切り裂いていた。

 痛みに耐えかねてか、大地に伏せた龍平の身体がくの字に折れ曲がる。


 だがそれも一瞬で、龍平の身体が一気に脱力した。

 大地に倒れ込んだ龍平の身体の下に、ゆっくりと血溜まりが広がっていく。


――いやぁぁぁぁっ! リューヘーっ!――


「リューヘー殿っ!」


 レフィの悲鳴に、ケイリーの叫びが重なった。

 龍平は大地に叩きつけられた衝撃と、胸板を切り裂かれた激痛に、大量の出血が重なってぴくりとも動かない。


――ゆる、さない……許さない……許さない! ゆるさなぁぁぁぁいっ!――


 逆上したレフィが、絶叫とともに突進する。

 憤怒の限りを込めた龍の咆哮に、シレンは恐怖に竦んでその場で棒立ちになってしまう。


 レフィは勢いを殺すことなくシレンを蹴り倒し、頭を右手で掴み絞めて引きずり起こす。

 シレンの身体が宙にぶら下げられた瞬間。


 レフィの左手が、貫手となってシレンの胸板を貫いた。

 絶命しかけたシレンの背中に、突き抜けたままの爪を食い込ませ、脊椎骨を掴み絞める。


 そして、力任せに脊椎骨をへし折り、頭を握り潰して息の根を止め、ゴミを捨てるかのように大地に叩きつけた。

 それでもまだ足りないとばかりに、元は人間だった肉の塊を踏みにじる。


――殺す……お前もリューヘーに剣を向けるか? 殺す……殺す……殺ス……コロスコロスコロスっ! ……大切ナ人ヲ傷ツケル奴ハ……ゼンブコロシテヤル!――


 レフィが呟くような鳴き声を上げ、口腔内が蒼白く輝いた。

 次の瞬間、仲間の無惨すぎる死を目の当たりにしてたじろぐトムルに、蒼白い軌跡を残してまばゆい光弾が炸裂する。


 トムルの腰から上が蒸発し、巻き添えを食った背後の立木が消失する。

 焼け焦げた肉の断面からは血が噴き出すこともなく、トムルの下半身がくず折れた。


 瞬時に仲間ふたりを失ったツーライとカウンが、恐怖のあまりにへたり込む。

 口が絶叫の形に開かれているが、ひりついた喉からはうめき声すら出なかった。



 絶望に染め上げられたふたりを、深紅の鱗をまとった龍が光を失った瞳で見下ろしている。

 鮮やかなエメラルドの輝きを放っていた瞳は、いつの間にか鈍く濁ったルビーのように変化していた。



 最凶最悪の赤龍が、長い眠りから目を覚ました。

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