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転生龍は人と暮らす  作者: くらいさおら
第二章 セルニアン辺境伯領
24/98

24.大領主

 「災難だったな、若いの。でも、まあ、こうしてここに来たんだ。もう大船に乗った気でいてくれ。フォルシティ卿もご苦労だったな」


 辺境伯の館にある謁見用の広間に、野太い声が響いた。

 龍平は半分ビビりながら、バーラムに向かって頭を下げている。


「ええ、閣下。これで二年越しの肩の荷も降ろせます。まだ王都まで連れていく仕事が残っていますがね」


 既にブラフの掛け合いは始まっている。

 互いに一歩も退かない殴り合いだ。


「若いの、おまえさん、どこの出身だ? どっからあの森に来たんだ?」


 威圧するような声が、龍平に浴びせられる。

 バーラムは心に書いたシナリオのどの分岐に踏み込むか、じっと待っていた。


「はい。俺……いえ、私はとんでもない山奥暮らしで、そこの王様がどなたかも、存じ上げておりませんでした。気づいたら霧の中にいて、そばにはこのドラゴンがいて……」


 龍平は用意していた答えを返す。

 村人ではなく、獲物を追って季節ごとに移動する山の民という設定だ。


「ずいぶんと上手い答えだな、男爵殿よ。身代金でも惜しくなったか?」


 いきなりぶん殴ってきた。

 想定はしていたが、早すぎる。


「閣下、そのようなお戯れを仰られても困ります。あらかじめ決められた迷惑料をお支払いすることで、その話は決着済みではございませんか」


 慌てることなく、ミッケルは正論で返す。

 これで話が済むなどとは、思ってもいないが。


「ああ、そうだな。その件はたしかに済んどる。だがな、俺がいないところで話を進めて、でかい金を懐にってのは、ちょいといただけねぇなぁ。違うかい?」


 どう見てもこの少年は、ガルジオンの者ではない。

 カナルロクでもないだろう。


 魔神族の国ブランナツか、自由都市群に住む獣人族か亜人の血が入っていることは間違いない。

 ガルジオンにも魔神族や獣人族、亜人も住んでいるが、ガルジオンの者ならそう言えばいい。


「もちろんですとも、閣下。これから王都に連れ帰り、それを調べてしかるべき措置をとります。追加分はそれからでもよろしいのでは? あまり欲をお掻きになるのは、よろしくないかと」


 バーラムの陪臣でも血の気の多い者が、さっそく気色ばんで前へ出ようとする。

 だからといって、ミッケルに退く気などない。


「相変わらず、言ってくれるじゃねぇか。街道警備隊は全滅。行方不明だった若造を、俺が保護するか?」


 地方領主の恐ろしさは、ここにある。

 ひと声かければ、町全体が敵に回る。


 そうなれば、どんな手練れだろうと脱出は不可能だ。

 バーラム直率の親衛隊の他、陪臣領主の兵もいる。


 さらには隠れ潜む場所もなくなる。

 通りすがりの旅人がいくら身を潜めても、町の人間があっという間に追い立てるだろう。


 よしんば町を脱しても、地の利を得ている追っ手から逃れられるはずもない。

 龍でもなければ。


「できますか? ドラゴン殿を敵に回して、町が無事に住むとでも? 人語を解するドラゴン殿の前で、もうこれだけのことを言ってしまった以上、私が退いても少年を保護など無理でしょう」


 貴族同士のお約束は、この龍には通じないとの意味を込め、ミッケルは答えた。

 それに応じるように、レフィが翼をゆっくりと広げる。


「そんなハッタリが効くとでも? なるほど、確かにドラゴンだ。一対一でかなう者などいるまい。だが、一気に少年を保護して、一斉にかかればどうかな? 試してみても、こちらは一向に構わんのだぞ」


 扉や窓の外から、盛大な殺気が襲ってくる。

 次の瞬間、レフィが宙に羽ばたき、龍平の前てホバリングした。


 ブレスが口腔内に凝縮され、赤からオレンジ、黄色から白、そして蒼へと炎の色を変えていく。

 謁見の間の気温が、一気に数度あがったように感じられた。


 針でつつけば炸裂しそうな沈黙が、謁見の間を支配した。

 誰もが汗を流しながら、固唾を飲んで龍と、対峙するバーラムとを見つめている。


 誰ひとりとして動けない中、龍がブレスを撃つ前動作を開始する。

 首を大きく後ろに反らせ、見下ろすようにバーラムをにらみつけていた。


「そうかい。やる気かい、男爵殿。受けて立とうじゃねぇか」


 バーラムがゆっくりと玉座から立ち上がる。

 そして、龍に向かって鍛え込まれた胸を、堂々と突きだした。


 小さな、だが威厳に溢れた赤い龍と、大領を背負って立つ男が対峙する。

 互いに一歩も退かぬとの構えだが、バーラムが破顔一笑してから龍に言う。


「よぅし、いいだろう。合格だ、ドラゴン殿。あとは、宴の席でいかがか」


 レフィの口から炎が消え、それと同時に謁見の間を支配していた緊張も消えていく。

 誰とは分からないが、大きなため息が聞こえてきた。



「ここじゃ、若いのも名乗りすら挙げられまい。とりあえず、一旦休め。部屋は用意してある。ドラゴン殿もくつろがれよ」


 やはりお約束だ。いつもの楽しいじゃれ合い。

 そして、レフィも貴族の端くれ。分かって乗っていた。


 次はなごやかな雰囲気も、作っておかなければならない。

 いくら毎度のように喧嘩寸前まではやる気だとはいえ、今回は相当に気遣いが必要だ。


 酒の席まで、先ほどの空気を持ち込むわけにはいかない。

 陪臣の中でも血の気の多い者を、遠ざけておかなければまとまるものもまとまらなくなる。


「ありがとうございます、閣下。ただし、この少年の保護者は私。そして、こちらのドラゴン殿。そこをお忘れなく。ええ、ご高配のほど、よろしくお願いします」


 くどいほどに念を押すミッケル。

 もちろん、バーラムの意図など、既にお見通しだ。


 宴の席次をどうされようと、いくらでも対応はできる。

 レフィを隔離などできないことは、バーラムも承知しているはずだ。


 血の気の多い陪審たちには、こちらも血の気の多い騎士たちを当てればいい。

 ひと悶着起きるなら、そのときを狙って龍平を確保すればいいだけだ。


「おう。しばらくしたら迎えをよこす。それまでゆっくりしてくれ。では、また後ほど」


 そう言ってバーラムは玉座を立った。

 陪臣たちが忌々しげな視線を送りながら、謁見の間から退出していく。


 ひとり通る度に、いつ拳や足が飛んでくるか龍平は気が気ではなかった。

 だが、ミッケルもレフィも、そのような視線などどこ吹く風とばかりに受け流している。


「ミッケル様、控えの間にご案内いたします」


 陪審たちがすべて退出し、取り残された龍平たちにセルニアン辺境伯ワーデビット家の執事が声をかけた。

 その表情は、毎度毎度懲りませんね、とでも言っているかのようだ。


「お、いつも済まんね。よろしく頼むよ。この少年は貴族のしきたりなんて、面倒なものとは無縁だったんだ。そこを配慮してくれると助かる」


 旧知の間柄なのだろう、先ほどまでとは打って変わってなごやかな雰囲気が漂った。


「承りました、ミッケル様。そちらのドラゴン様は、大丈夫なようでございますな。先ほどのお見事な振る舞い拝見いたしましたが、実に堂々たるものでしたな」


 ミッケルに付ける辺り、ただ者ではないようだ。

 僅かの振る舞いから、レフィが貴族社会に通じていることを見抜いていた。


「ああ。問題ない。案内を頼むよ。いくら中の造りを知っているとはいえ、私が客人を案内するわけにはいかないだろう?」


 そんなふたりのやりとりを、レフィは目を細めて眺めている。

 過去に父や兄がやっていた修羅場は、こんなものじゃなかったと思いながら。




「リューヘー君、ご苦労様。上出来だよ」


 控えの間に戻り、聞き耳を立てる者の有無を確認したミッケルが、ソファに腰を下ろしながら言った。

 もちろん、領主の館で完全な防諜など、無理なことだと分かっている。


「ずいぶんと修羅場だったようですね、リューヘー殿」


 謁見の間には呼ばれず、控えの間で待機していたケイリーが、労いの言葉をかけた。


「はい、すっかり雰囲気に飲み込まれて。途中から何も言えませんでした」


 胆力の違いを思い知らされ、落ち込み気味のリューヘーがぼそぼそと答える。

 ぬるま湯のような日本と、育ってきた環境の違いを、嫌と言うほど思い知らされていた。


――それで正解よ、リューヘー。あそこで何か言う必要はないもの――


 レフィが慰めにかかるが、龍平の心はすっきりしない。

 分かって黙っているのと、飲まれて黙るしかなかったのでは、天と地ほども違う。


「結果がすべてだよ、リューヘー君。この後の宴席では、異世界人ということだけ伏せてくれたまえ。後はすべて私と相談してからでなければ、返事はできませんで通せばいい」


 おそらく、接待に名を借りて、ミッケルやケイリーからは隔離されるだろう。

 そこで無言を貫き通すのは、さすがに無理がある。


「私が付いていられるなら、ミッケル様のご負担も減らせるのですが。まあ、私も隔離されるのでしょうね」


 ケイリーが申し訳なさそうにいった。

 間違いなく引き離され、三人の矛盾点を突いてくる腹だ。


 三人の間に、大きな隠し事はない。

 それぞれがいない間の知らないことはあっても、極端な矛盾は出ないと、ケイリーは考えていた。


 それよりも、ネイピア兵が心配だ。

 騎士たちは弁えているから、口止めだけしておけば心配ない。


 だが、ネイピア兵たちは、すれた町の人間に慣れていない。

 酒の勢いで、口止めした内容をうっかりこぼさないか、そこだけが心配だった。

 死人に鞭を打つ気はないが、事故に心を痛めていたケイリーの心労が軽くなったことは、自嘲してしまうほどの皮肉だった。


――私が付くから。念話で操ってあげるわ。どうせ、ワーズパイト様の件は公表するんだから、幻霧の森での暮らしは隠さなくていいわ。セリスのこともね――


 宴席では、龍平が持っている水の宝珠さえ、バレなければいい。

 半径一〇メートルの範囲があれば、完全武装の兵一〇人程度は送り込める。


 いくらセリスでも、適切に距離を取った兵一〇人を、一気に殲滅することは無理だ。

 何人かは倒せるだろうが、その隙に館自体を占拠されたらそこまでだ。


 森の中の通り道の設定や、有効範囲の狭い水の宝珠の製作は、セリスが鋭意取り組んでいるはずだ。

 この水の宝珠だけは、渡すわけにはいかなかった。


 いずれにせよ、森の中心部の話をすれば、どうやって霧を抜けてきたかの話にもなる。

 今回どうやって出てきたかだけ、口裏を合わせておけばいい。


 幸い、レフィに飛翔能力があることは、最前の謁見でその片鱗を見せてあった。

 セリスの魔法をでっち上げ、レフィが進路を確認しながら進んだということにしておけば、とりあえずは誤魔化しきれるだろう。


「分かった。その線で話してみる。どうせ、森に道を整備しなきゃならないし、水の宝珠も作るんだし。入り口に関所みたいのも作るんだろ? いっそ、ある程度の利権くれてやって、ここのご領主様にでも作らせちまうか?」

 だいたいの方針が決まり、控えの間の空気が少し緩む。

 しかし、そのなかでミッケルだけは、自分で言ったにも関わらず難しそうな顔をしていた。


 利権をくれてやるのは、いい。

 見返りもなしに領内を勝手に開発することを、黙って許可する領主などいない。


 問題は今後だ。

 常時近衛や軍人領主の軍を、幻霧の森に張り付けておくわけにはいかない。


 いずれ大陸中にワーズパイトの館の存在は、公表しなければならないだろう。

 独占するなど、戦争の引き金になるだけだ。


 そうなれば、他国の人間も入り込む。

 セルニアン領は、かなり潤うはずだ。


 だが、この森を狙う輩が、必ず出てくる。

 特に危ないのが、覇権欲を隠そうともしない隣国カナルロクだ。

 東の大帝国ドライアスも無視できないが、いきなり攻め込んでくることはないだろう。


 となれば、当面はカナルロクに備える必要がある。

 これをこの地に根拠地を持たない国軍に押しつけるのは、補給等兵站の面から無理もいいところだ。


 こちらもある程度の出血は覚悟で、セルニアン辺境伯領に任せる方法はないか。

 ミッケルは、そのことを考え続けた。


「その辺りは、なんとかしよう。さて、この後の宴席の席次をどうしてくるか。まぁ、先になるか、後になるかだけだな」


 ミッケルは自身に言い聞かせるように、わざと声に出して言う。

 そこにドアがノックされた。


「セルニアン辺境伯妃様、四の姫様がご入室をご希望されております。いかがなされますか?」


 対応に出たミッケル付きの侍女が、来客を告げた。


「お通ししてくれ」


 数瞬の逡巡の後、ミッケルは入室を許可した。

 もちろん領主の館で、その細君の申し出を断ることなど、選択肢にない。


 しかし、いったい何の用だ。

 こちらの手の内を覗きにでも来たか。


 龍平の抱き込みは、あり得ない。

 一四歳になる二の姫ならばともかく、六歳になったばかりの四の姫では、龍平と歳が離れすぎている。


 侍女が対応にでている間、ミッケルは素早く考えている。

 だが、とりあえず、相手の出方を窺うことにした。



「お邪魔いたします、フォルシティ卿」


「こんにちは。ご機嫌はいかがでしょうか、ミッケル様」


 艶やかな亜麻色の髪を腰まで伸ばし、上品なドレスに身を包んだ三〇代前半の女性が入ってきた。

 清楚に見えるが、その視線には一朝事あればセルニアン領を、バーラムに代わって背負って立つという強い意志が見えている。


 その後ろで、一〇歳にはまだ間がある女の子が、好奇心に満ちた目で辺りを窺っている。

 母親と瓜二つの容貌だが、長い髪をいくつにも編み込んでいた。

 龍平は、縦ロールというものを初めて目にしたことと、レフィの生前を思い浮かべ、思わず凝視してしまった。


 凝視されたことに気づいたのか、女の子が母親の陰に身を隠す。

 上目遣いの視線には、明らかに場違いな装いの龍平を警戒する色が浮かんでいた。


「こら、お客様に失礼でしょう。ご挨拶なさい、ラーニー」


 母親にたしなめられたラーニーを見て、龍平はまだこの地で名乗っていないことを思い出した。

 相手の年齢は下とはいえ、この世界での身分、社会的地位は月とスッポンだ。


「お初にお目にかかります。こちらのフォルシティ卿にお世話になっております、リュウヘイ・クマノと申します。こちらのドラゴンはレフィ。私が幻霧の森に迷い込んで以来、助けてくれていた大切な友です」


 先手を打って挨拶する。

 レフィを紹介するとき、照れくさくなったのは、内緒だった。


「リューヘー殿、ですか。先ほどは夫が失礼を。改めて、私は、辺境伯妃ラナイラ・デ・ワーデビットです。さ、あなたも」


 バーラムがミッケルとのじゃれ合いに興じたため、謁見のまで龍平は名乗る機会を失っていた。

 ラナイラの謝意は、これを指してのことだろう。


「初め、まして。セルニアン辺境伯家が四女、ラーニー・デ・ワーデビットです。ようこそ、セルニアへ。……母上……」


 さすがに大領の子女といったところか、龍平が我が身を振り返れば恥ずかしくなるほど、しっかりした挨拶だ。

 だが、その後がおかしい。

 なにかもじもじしている。


「ラーニー、きちんとお願いなさい。今のご挨拶を聞いていたでしょう。あなたが思うようなペットじゃないの。貸してくださいなんて、そんなのはだめよ」


 叱るでもなく、たしなめるでもなく、ラナイラがラーニーに言い聞かせている。

 話が読めたレフィと龍平は思案顔になっていた。


「立ち話のままというわけにもいかないでしょうから、お掛けになりませんか、ラナイラ様」


 ミッケルが助け船を出した。

 とりあえず、こちらの手の内を、探りに来たわけではないようだ。


「ありがとうございます、ミッケル卿。厨房にお茶の支度を、伝えていただけないかしら」


 ラーニーを伴い、ラナイラはソファに腰を下ろす。

 始めてみる貴婦人の所作に、龍平は見とれるしかなかった。



「さて、改めまして。ラナイラ様、ご用向きをお伺いしましょう。ラーニー様のご様子から、だいたいの察しはつきますが」


 おそらく、レフィの話を聞きつけたのだろうと、ミッケルは思っている。

 いつの世も子供は怪獣に憧れるものだ。それがたとえ女の子だとしても。


「ラーニーがね、ドラゴン殿に、失礼、レフィ殿に、是非一度お会いしたいと。いくら言い聞かせても、会いたいの一点張りで。おくつろぎ中に申し訳ないとは思いましたが、お邪魔した次第です」


 そうは言いつつも、実は会いたがっていたのは自分だと言わんばかりの視線が、レフィに注がれる。

 ラーニーはそんな母親にぴったりとくっつき、龍平に警戒の視線を送っていた。


「レフィ……」


 ミッケルの視線が龍平に注がれ、龍平がレフィをみる。

 何かを諦めたようなレフィが、小さく頷いた。


「構わないそうです。レフィは喋れないだけで、人間の言葉が分かりますから、普通に話しかけていただいて大丈夫です」


 龍平が承諾し、レフィが宙に浮いて前に出る。

 ラーニーが歓喜の色を全身に浮かべた。


「レフィちゃん、よろしくっ! 遊びましょっ! いつまでここにいるの? いる間一緒に遊んでくれる? 毎日? ずっとここにいてほしいなっ! なにして遊ぶ? お庭行こっ! お食事も一緒ねっ! 夜も一緒に寝ようねっ!」


 レフィの手を取り、ぴょんぴょん跳ねながら、ラーニーの口からマシンガンのように言葉が飛び出す。

 あまりの喜びように、ラナイラは叱ることも忘れ、我が子を唖然として見ていた。


 龍平はその光景を嬉しそうに、ケイリーは楽しそうに、そしてミッケルは苦虫を潰したような顔で見ていた。

 畜生、してやられたか。


「リューヘー様、不躾なお願いで申し訳ございませんが、こちらにご逗留の間、娘の願いなにとぞお聞き届けのほどを」


 形ばかりは申し訳なさそうに頭を下げるラナイラだが、その目は喜色に染まっている。

 はたして、龍平とレフィの分断に成功したことへの喜色なのか、それとも娘の願いが叶うことへのそれなのか、さすがにそこまでは掴ませない。


 まだ龍平もレフィも承諾していないが、これを断ることができるわけがない。

 たとえ当人たちに悪意がなかろうと、領主館において、その家族からの願いは命令に等しかった。


「レフィ、いいかい?」


 すまなそうに龍平が聞く。

 当然、龍平にはミッケルの危惧など、理解できていない。

 ただ、小さな子供に振り回されるレフィが面倒ではないか、それを危惧していた。


――構わないわ。妹を思い出すわね。宴席には合流できるようにするから、お姫様の相手してくるわね――


 龍平とミッケル、そしてケイリーに念話を飛ばし、レフィはラーニーの手を取りに近寄った。

 二〇〇年の時を越え、妹の面影をラーニーに重ねながら。

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