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転生龍は人と暮らす  作者: くらいさおら
第一章 幻霧の森
22/98

22.旅立ち

 夜、食事のあと軽く酒を嗜みながら、龍平とレフィ、そしてセリスは顔を付き合わせていた。

 いよいよ、ふたりがこの館を発つに辺り、いくつかの打ち合わせをしておく必要があった。



 まず、龍平の素性は隠し立てできない。

 一般庶民はともかく、貴族の間で龍平が異世界人であることは、周知の事実になっている。


 もちろん、外交関係にある諸国も同様だ。

 目立たず、ひっそりと市井に紛れ、平穏な生活を送るなど、端から無理だ。


 しかし、必要以上の政争に巻き込まれることは、正直に言って御免被りたい。

 無理矢理ことを荒立てる気はないが、いざというときは幻霧の森に逃げ込む手はずは必要だった。


――それは、私に任せてほしいわ。リューヘーひとり乗せて飛ぶなんて、簡単なことよ――


 レフィが小さく胸を反らす。

 確かに本来の大きさになれば、龍平ひとりを背に乗せたところで、誤差にもならない。振り落とさなければ。


「……ん。……いざと……いうときは……レフィに……任せる。……でも……リューヘーも……魔法……開発……しておかなきゃ……だめ」


 四六時中、ふたりが一緒とは限らない。

 いつどこで、危険に晒されるか、絶対の安全など保障があるはずがない。

 セリスは龍平に、引き続き移転魔法の開発をするように求めた。


 当然、龍平もそのつもりだ。

 むざと捕らえられ、拷問など受ける気は、さらさらない。

 そのためにも、武技の鍛錬と魔法の開発は、同時進行させると決めていた。



「それから、どうやって連絡するか、だよなぁ。手紙も伝書鳩も、幻霧の森を突破できないしなぁ」


 現代日本で携帯電話やメール、ラインなどに慣れきった龍平にとって、普段連絡が途絶えることは相当なストレスだ。

 もっとも、セリスにしろレフィにしろ、この世界の住人にとって、遠隔地間でリアルタイムの連絡が取れるなど、想像の埒外だった。


 通常、手紙は協会関係者や、巡礼の旅に出る者、それか巡回商人に依頼するかしかない。

 貴族であれば専門の人間を雇うか、限られた上流階級や情報を生業とする者たちが伝書鳩を使うくらいだ。


 手紙を出してから相手の下に着くまで、一年以上かかることもざらだ。

 また、相手がそこにいる保証もない。


 伝達速度でいえば伝書鳩が最速だ。

 だが、帰巣本能を利用しているにすぎず、行方不明なることも希ではない。


「……ん。……それは……気にしなくて……いい。……一年に……一度……くらい……帰って……くれば……充分」


 別にセリスやレフィが、薄情なわけではない。

 この世界においては、これが当たり前の感覚だった。


――ん? 龍平はそんなにセリスが心配なの? これが今生の別れってわけでもないでしょうよ。しっかりない。それでは、セリスも安心して送り出せなくてよ――


 レフィの念話に、セリスも頷く。

 それでも染み着いた感覚から、なかなか脱することができない。


「言いたいことは判るし、そうなんだってことも解るよ。でもなぁ、俺の世界だとなぁ……。ま、移転魔法さえ完成させれば、それでいいか」


 何度話しても、おそらく解り合えまい。

 生まれ育った環境の違いを、言葉だけで理解させるのもするのも無理だ。

 移転魔法さえ完成すれば、問題ないと龍平は頭を切り替えた。



「……ん。……リューヘー……渡す物。……危ないとき……使う。……基本……使い捨て……使いどころ……考えて」


 セリスが木箱をテーブルに置いた。

 ワーズパイト謹製の魔道具や魔装具が入っている。


 羊皮紙を丸めて紙封したスクロールや、小さな宝石をはめ込んだ指輪や腕輪、そして以前も使った水の宝珠が詰め込まれていた。

 いずれも研究者が目にしたら、三べんと言わず一〇〇でも二〇〇でも回って、ワンと言いそうなものだ。


 スクロールとは、四属性の魔法を羊皮紙に描かれた魔法陣に封じ込め、相性に関わらず使えるようにしたものだ。

 二〇〇年前にレフィが暴発させた羊皮紙も、これと似た技術で作られたものだった。


 現在でもスクロールは生産されているが、ワーズパイト作のものとは威力がまるで違う。

 ワーズパイトが伝えた高威力スクロールの製法は、彼ほどの技術を持たない者には作れなかった。


 ワーズパイトの隠遁後、多くの者が再現に取り組んだが、成し得た者は皆無だった。

 そして時代が下がり、ワーズパイトの技術は失伝し、スクロールがロストテクノロジーとして残されていた。


「いいのか? 使い捨てってことは、使ったらなくなっちゃうんだろ? こっちの指輪と腕輪で充分だよ、セリス」


 ふたつずつある指輪と腕輪も、ワーズパイト謹製だ。

 こちらもそれぞれに四属性の魔法が込められていた。


 体内魔力の代わりに自然魔力と感応し、魔法をこの世界に具現化させる。

 使用者の体内魔力を吸い上げ、目減りした封入魔力を補うことで、複数回の使用を可能としていた。


 だからといって、永久に使用可能でもない。

 どれも相当数使えるが、いつ壊れるかは運次第だった。


「……ん。……指輪も……腕輪も……損壊は……予測不能。……切り札は……絶対……必要」


 魔道具も魔装具も、セリスにとっては本と同じだ。

 どれも使ってこそ意味があり、飾っておくものでは、決してない。


 どのアイテムも封じ込めておける魔法は一種類だが、ワーズパイトが考え抜いてそれを決めていた。

 ただの魔法が使える珍しい道具ということではなく、完全な実用品だった。


 スクロールには火属性から炎槍が、風属性からは風刃が、水属性からは治傷が、土属性から錬成が封じられている。

 いずれも戦術級とまではいかないが、個人が扱える魔法としては破格の高威力を誇る魔法だ。


 火と水の指輪にはそれぞれ火矢と封傷が、風と土には風弾と土壁が封じられている。

 いずれもスクロールの威力には遠く及ばないが、その代わり連続使用を可能としていた。



「確かにロケット砲に傷の完治、鎌鼬に金属製の壁があれば心強いけどさ。ライフル二種と傷の応急処置に、薄くても土壁があればたいがい大丈夫だと思うんだけどな」


 セリスは過保護すぎだと、龍平は小さく呟く。

 だが、ふたりには解らない単語も混ざったせいか、軽く聞き流されていた。


 炎槍は直径がひと抱え、長さが人の背丈ほどもある紅蓮の火柱を、使用者が指定した目標に叩きつけるロケット弾だ。

 追尾機能もあり、よほど体術にすぐれ、素早いものでなければ、逃げおおせることは不可能だ。

 レフィの蒼白いブレスには及ばないが、牛や熊程度なら数瞬のうちに焼き尽くすほどの高温の槍だ。


 風刃は風を尖鋭化させた空気の刃で使用者が指定した目標を切り裂く。

 飛翔速度が速いため、追尾こそ不可能だが、避けられる者は希だろう。

 鋼鉄製の鎧であれば、盾ごとでも両断し得る切れ味を誇る。


 治傷は使用者が指定した怪我のほとんどを、傷跡すら残さず治癒する。

 致命傷の治癒や、切断された部位の再生はさすがに無理だが、接合であればリハビリも必要ない。


 錬成は足下の直径一〇メートルの球体内に存在する金属を無作為に抽出し、土砂と練り合わせて盾を形成する。

 その強度は、一撃だけならば風刃すらも完封できる。



 火矢は直径三センチ、長さ六〇センチの炎の矢だ。

 追尾機能がない代わりに、三〇発までの連射を可能としている。

 敵を焼き尽くすほどの熱量はないが、貫通能力に特化している。

 使用者の指定により、貫通または体内に残留が選択できる、凶悪な火矢だ。


 封傷は出血を止め、傷口を塞ぐ。

 一定以上の裂傷、骨折や打撲の治癒は無理だが、失血による損耗を抑えることが可能だ。


 風弾は風を尖鋭化させ、使用者が指定した目標を銃弾のように撃ち抜く。

 貫通力に特化し、連射も一〇〇発までは可能だ。

 威力自体は小さいが、手数で敵を制圧する。


 土壁は足下の土砂を壁に作り上げる。

 一発の物理衝撃で破壊されるが、使い捨ての盾としてなら充分だ。

 一度に四枚、設置位置も直径一〇メートル以内に設定できる。


 これだけの魔法があれば、そうそう命の危険に追い込まれることはないだろう。

 ただし、使いこなせれば、だが。



――備えあれば憂いなしって、あなたの世界の言い回し通りよ。でも、それに頼ることないよう、あなたの魔法も完成させなさい――


 いつになく真剣な眼差しで、レフィが言った。

 移転魔法もそうだが、龍平が開発中の肉体強化魔法にもレフィは興味を持っていた。


 人間としての生前、レフィは魔法そのものの開発より、スクロールの開発に力を入れていた。

 だが、今までに存在しなかった仮称無属性の魔力は、誰も知らない故に無限の可能性を秘めたフロンティアだとレフィは見ている。

 さすが、悲劇の魔法姫。


「解った。ありがたく使わせてもらうよ、セリス。お返しに、いつか、移転のスクロール作ってやるからな」


 日本に帰る。

 この大目標がある以上、移転魔法の完成を諦めることはできない。


 だが、一足飛びに次元を越えようとしても、それは困難であり危険が伴う。

 いざ移転してみて、石の中や次元の狭間に落ち込んでは意味がない。


 地道な実験と検証を怠るわけにはいかない。

 まずは、この世界の中での移転から成功させようと、龍平は短期の目標を定めていた。


――もう遅いし、そろそろ荷造りして寝なさいな。明日寝坊したら、今度こそ息の根止めてあげるわよ――


 そう念話を飛ばすと、レフィはねぐらにしている部屋へと飛び去っていく。

 食堂には、セリスと龍平が取り残された。



「……ん。……あとは……やって……おく」


 セリスはそう言って、背嚢に荷物を詰めていく。


「……ん! ……これは……私の……仕事。……リューヘーは……早く寝る」


 龍平は手伝おうとするが、セリスはそれを許さなかった。

 見ていることすらも。


 着替えを数日分。もちろん、セリス謹製。

 携帯用の食器に携行食料。言うまでもなく、セリスの手によるもの。


 野営に必要な着火財等の小物を詰めたポーチに個人用テントと毛布を背嚢にくくりつけて完成。

 セリスの頬に一筋光るものが伝った。




 朝。

 明け方の通り雨が残した匂いは、夏の到来を告げていた。

 龍平がこの地に来て、二度目の夏が来る。


 その夏に向かって、龍平とレフィは歩き出す。

 飾りたてた言葉は、三人には不要だった。


 また帰ってくる。

 必ず、帰ってくる。

 サヨナラなんて、必要ない。




「その宝珠は、いったいどんな仕組みなんだ。私には皆目分からん」


 レフィが宝珠を抱えて飛ぶ。

 一瞬で霧が晴れた。


 宝珠を中心に、半径二〇メートルの範囲にある霧が消えている。

 宝珠とともに乾いた霧のないドーム状の空間が、音もなく移動する様は壮観でもあり、一種異様な光景だった。


 ドームが霧を押し分けていくようにも見えるが、そうではない。

 間違いなく、宝珠は霧を吸い取っていた。


――大丈夫よ、卿。私にもさっぱり解らないから――


 レフィは宝珠が吸い込んだ霧を自然魔力に変換し、放出しているのを関知している。

 かつての盟友である黒龍ほどではないにしろ、魔法に長けた龍の身体だから関知できた。


 だが、その仕組みはさっぱり解らない。

 さすがワーズパイトだと、レフィは感心しきりだった。



――ところで、卿。よろしいかしら。セルニアまでの道中、宿はどうするおつもりかしら――


 ふと、気になった。

 ミッケル配下の街道警備隊とは、以前顔を合わせている。


 だが、幻霧の森から十日間の行程すべてを、野営で過ごすには少々つらいものがある。

 レフィは問題ないとしても、他の人間は宿を取らなければ疲労が溜まる一方だ。


 安全な街道であれば何とかなるが、盗賊団が出るような状況下では、疲労の蓄積が死につながる。

 かつて、従士長からそう聞かされたことを、レフィは思い出していた。


「殿下、ご安心ください。すべての村では無理ですが、三カ所ほどそこそこの宿がございます。公爵家ご令嬢がお泊まりになるような格式ではありませんが、そこはこの地の事情をお汲み取りの上でご容赦ください」


 確かに公爵家令嬢が泊まるような格式を、この辺境の地に求めることは無茶もいいところだ。

 そもそも、そのような立場の者が来ることなどない以上、最初から用意するはずもない。


 貴族の娘が宿泊するとしたら、地方領主の娘が王都と領地の往復に際してくらいのものだ。

 その道中ならば、他領を含め宿場町が整備してある。


 もちろん、全行程で宿が取れるわけではない。

 かといって、格式が合わない宿を取ってしまうと、互いにろくなことにならないため、その場合は野営することになっていた。


 当然、この街道警備隊のように、地面に毛布を敷いて寝るようなことはない。

 寝泊まり可能な馬車に、従士侍女付きの至れり尽くせりだ。


 当時のレフィはといえば、王都在住の新興公爵家が地方に出ることなどあり得ず、外泊などの経験は皆無だった。

 宿に泊まるというイベントを、レフィは密かに楽しみにしていた。



――ええ、卿、そこはご心配なく。ただ、私の姿に宿の者が怖れないか、少し心配が。いえ、この前も泊まろうとはしてたけど。改めて、ね――


 人と暮らしたいと望んでいるが、人間社会に混乱をもたらしたいとは思っていない。

 いきなり村に突入しても大丈夫なものか、今更になってレフィは心配になっていた。


「大丈夫だって、レフィ。俺のペットってことにしときゃ、人と暮らしてるから平気ってなるんじゃねぇのか」


 現代地球で龍の驚異など知らずに育った龍平が、かなり気楽に言ってきた。

 ライオンやチーターなどの大型猛獣ですら、ペットとして飼っている中東の富豪を見たこともあってか楽観的だ。


――私は嫌よ。首輪つけて引きずられるなんて――


 心底嫌そうに、レフィが文句を言う。


「そんなことするかよ。名目上だ、名目上。俺だって飼いたくねぇよ、悲劇の魔法姫なんて」


 心底嫌そうに、龍平が答えた。


――きぃぃぃぃぃぃぃっ! ぜぇぇぇぇぇったいっ! ぜぇぇぇったい殺すっ! 今度こそ焼き殺すぅぅぅっ! 逃げるなぁぁぁっ!――


 脱兎のごとく逃げ出した龍平と、凶相をさらに歪めて追いかけ回すレフィ。

 ミッケルはそんなふたりを、微笑ましく眺めていた。

 もう異種○タグ付けるか。




「お帰りなさいませ。いかがでしたか、ご首尾は? リューヘー殿はいかがなされたので?」


 所々焼け焦げた龍平と、ぷんすかしているレフィを連れたミッケルに、ケイリーが怪訝な顔で問いかけた。

 懲りもせず、今日も元気に追いかけっこをしていたらしい。


「ご苦労。なかなか実りの多い訪問だったな。君も、きっと楽しくなる。ああ、楽しくなるとも」


 ふたりが追いかけっこをすれば、乾いたドームは当然レフィを中心に移動する。

 その度にミッケルは、霧の中に取り残されていた。


 ふたりの掛け合いは仲の良い姉弟喧嘩のようでもあり、ミッケルは大いに笑わせてもらっていた。

 これほど腹の底から笑ったのは、いつ以来だろう。


 いくら幻獣や魔獣の襲撃を心配する必要がないとはいえ、少々気が緩みすぎたのではないかと思ったほどだ。

 いつか、この輪の中にケイリーも入れたいと、ミッケルは考えていた。


「それは重畳。こちらは一名事故に遭いましたが、それ以外の被害はありません。この辺りの危険は、当面去ったと考えます。もう撤収してもよろしいかと」


 ケイリーがミッケル不在の間の状況を、簡潔に報告する。

 それに対して鷹揚にミッケルが頷いた。


「よし、今からでは行程が中途半端だな。明朝夜明けを期して出発としよう。まだこれで行程は半分だ。気を緩めることのないよう、よろしく頼む」


 ミッケルの命令に、ケイリーと子飼いの騎士がそれぞれの従士長に目配せする。

 それを受けて従士長たちは、伝達のためにそれぞれの集団へと駆けていった。


「無事の再会を。心から歓迎します。王都まで、ご一緒させていただきます」


 ケイリーは見事な姿勢で、龍平とレフィに一礼した。

 ミッケルの態度から、レフィが龍平のペットなどではなく、賓客のひとりだと判断してのことだった。



「先触れを出しておきますので、ドラゴン殿もどうかご安心を。伝説の幻獣殿を護衛する任に就かせていただくこと、このケイリー、生涯の誉れとさせていただきます」


 まぶしいほどの笑顔を、レフィに向ける。

 そこには、ひとかけらの恐怖も浮かんでいなかった。


――ネイピア卿、お心遣いありがとうございます。申し遅れましたが、私は元ノンマルト公爵家長女、アレフィキュール・ラ・ノンマルト。わけあって、このドラゴンの身体を借りています。公爵家長女であったことは遠い過去。どうかお心易く、お付き合いのほどを――


 居住まいを正したレフィが、公爵家令嬢に相応しい所作で一礼する。

 龍のそれとは異なる気品が、全身に漂っていた。


「光栄にございます、殿下。悲劇の魔法姫の護衛、ネイピア領末代までの誉れとなりましょう」


 その言葉にレフィは一礼し、背後の龍平に振り向いた。

 小さな肩が、小刻みに震えている。


 次の瞬間、何かを言おうと口を開きかけた龍平の脳天に、レフィの尻尾が打ち下ろされた。

 言わずとも解るんですね。もう結婚しちまえよ、おまえら。



「いってぇぇぇっ! 何しやがるっ! このトカゲ野郎っ! まだなんにも言ってねぇだろぉぉぉっ!」


 ひと呼吸おいて、龍平が叫びながらレフィの尻尾を掴み、思い切り振りかぶって地面に叩きつける。

 中身は女の子。でも、身体は龍。

 もちろん手加減はしたが、えぐい一撃だ。


 びたん、という擬音が聞こえそうな勢いで叩きつけられたレフィは、しばらくそのままでいた。

 そして、無言のままマズルをさすりながら、ゆっくりと起きあがる。


――……。……。乙女の顔に……なんてことすんのよっ! ぜぇぇぇったい燃やすぅぅぅっ!――


 大きく息を吸い込み、ブレスを撃つ態勢に入るレフィ。


「トカゲの分際で、なぁにが乙女だ! 乙女なら乙女らしく、お淑やかにしてみやがれぇぇぇっ! この、ひ・げ・き・の、魔法姫ぇぇぇぇぇぇっ!」


 そうはさせじと、叫びながら掴みかかる龍平。

 お約束の取っ組み合いが、始まった。


――きぃぃぃぃぃぃぃっ! もう許さなぁぁぁいっ! 許さない! 許さないっ! 許さなぁぁぁいぃぃぃっ! 燃えてなくなれぇぇぇっ!――


「やれるもんなら、やってみやがれぇぇぇっ!」


――っ! むぎゅぅぅぅっ! ん~っ! ん~っ!――


 至近距離から、ブレスをぶちかまさんとするレフィ。

 それを防がんと、マズルを両手で握り締める龍平。


 周囲の人間たちは、最初は呆気に取られ、次いで爆笑が沸き上がる。

 見守る誰もが、じゃれ合いだと気づいていた。


 本気の喧嘩なら、言葉など出るはずがない。

 歓声と応援が飛び交う中、ふたりの取っ組み合いはいつ果てるともなく続いていた。



 ミッケルさん、仲人お願いしてもよろしいでしょうか。

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