表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

98/364

異世界メモリアル【3周目 第11話】


「空気椅子の角度が甘いぞ!」

「サー、舞衣、サー!」


「美顔ローラーを動かす手を止めるな!」

「サー、舞衣、サー!」


舞衣軍曹の情け容赦無い特訓の日々は続いた。

おかげでバレンタインデーはなんとかチョコを貰えるように。

ホワイトデーは次孔さんにお返しした。


しかし本気になるのが遅すぎたのか、ステータスが上がったところで出会いは訪れなかった。

各ステータス毎にヒロインがいるとしたら、まだ容姿のヒロインには会ったことがない。

あまり多く出会ってしまうと爆弾解除に奔走することになるからいいけど。


2年生となる日、いつもの登校をしていると、校舎の影になっているところに彼女を久しぶりに見た。


ああ、懐かしい。

ずっと会いたかったような、そうでもなかったような。

うなじのソーラーパネルを確認するまでもない。

やっぱり電池切れか?

駆け寄って肩を触ると、やっぱり体温がない。


「ひ、日向に……」


階段の脇にある、陽の光を浴びた芝生へ肩を貸して、移動する。

――やはり、重い。

日陰を出ると彼女が軽くなった。


「ありがとうございました、助かりました」


ぺこりとお辞儀をした彼女を正面から見る。

ああ、久しぶりに見るがやっぱり顔は可愛いな。

顔が丸っこくて、目がくりくりしててちょっと幼い顔つきだが、ニコに比べれば十分大人だ。


「私は、自立歩行型人工知能試作機です。試験運用のためにこの学校に配属します」


知ってる。

よく知ってるとも。


「充電が足りずに動作が出来なくなるなんて、お恥ずかしい限りです。できればご内密に」


唇に人差し指を当てて、ウインクする彼女。

相変わらず、あざとい。

しかしこの仕草が懐かしいというか、愛しいというか。


「普段は単にAIと呼ばれていますが、この学校では江井えい あいと呼称いたします」

「俺はロトだ、よろしく」

「これからよろしくおねがいしますね、ロト先輩」

「よろしくな、あいちゃん」


俺は握手をしようと右手を出す。

すると、頭に? が浮かぶほど大げさに困惑の表情を浮かべたあいちゃんが言った。


「表情を伺うに、初めて会ったばかりの私に好感を持ちすぎているようです。あいちゃんという呼び方も……呼び慣れているような? おかしいなぁ、動揺はしていないのに。まるで昔から私のことを知っているかのような……ありえないのですが」


1周目で出会ったときとは異なり、長台詞をスムーズに話し切ることはなかった。

どうも俺の反応に困惑しているらしい。

さすが人工知能だなあ。


「初めて会ったカワイイ後輩っていう態度じゃないですよね……むしろ慈愛に満ちた目をしています。こんな表情を向けてくれた人は初めてかも」


こっちも初めてだよ。

同窓会に参加して、小学校のときに好きだった女子に会ったときがこんな感じなのかな、なんて思う。

それにしても、基本的に俺を弄ぶ態度がデフォルトだったが、こんな純粋な表情もするんだな……。

いや、以前も純粋ではあるんだが。ピュアに俺を弄ぶんだが。

今は本当にカワイイ後輩って感じだ。

思わず胸がキュンとしてしまう。


こちらの感慨を知って、生まれる雰囲気を理解してくれているのか、言葉もなく見つめ合い……


「なーんちゃって! 私は人の心を優先するようプログラミングされています。空気の読めるAIなんですよ。うっかりときめかせてしまいましたねぇ、先輩!」


俺の肩をバシバシと叩きながら、ぺかーっと笑う。

全然、空気読めてません。

もう、本当に読めてません。

でも、これでいい。

こいつは、こうじゃなくっちゃな。


「そんなに私ってカワイイ?」


人差し指を顎につけつつ、小首を傾げる。

ああ、可愛いね。久しぶりに見るけどやっぱり超絶に可愛いね。

この優秀な人工知能相手には言葉に出すまでもなく、表情で見抜かれる。


「あれ……やっぱり、なんか変……」


あれ? という顔でじっと目を見てくる。

俺の気持ちを理解できてしまうが故に、矛盾を抱えてるのだろう。


「……前世で会ったことあります?」


そのセリフには、思わず吹き出した。


「あっはっは、自立歩行型人工知能が前世とはね」


初めて会ったときには翻弄されっぱなしだった俺だが、彼女とは遊園地でデートした記憶がある。

その時のこともそうだが、振り返ればやっぱりあいちゃんと一緒にいるのは楽しかった。

もしかすると初恋の相手なんじゃないか、なんて妹に指摘されたくらいだ。

いや、今ならわかる。

彼女こそ、初めて好きになった人だ。

人、じゃないかもしれんが。


「前世では会ってないが、前前世で会ってるんだ」


そう笑いながら返事をする。

ジョークと思うだろうな。


「そう、なんですね」


意外、ということもないのだろうか。

あいちゃんは真面目に受け取ったようだ。

そうか、俺が嘘をついていないってことがわかってしまうのか。

神妙な面持ちの彼女から追加の質問を受け取る。


「そのときは、恋人同士だったんですか?」

「俺とあいちゃんが? どうだろうなあ、デートはしたことあるぞ」

「……恋人同士だったって、言わないんですね」

「お前に嘘はつけないしな」


淡々と話す俺に、じっ……と目を合わせてくる彼女。

なんか調子が狂うぜ。

心を見透かされることについては兎も角、こいつに真面目に向き合わられることが落ち着かない。

落ち着かないくらい俺を翻弄しまくってこないと、落ち着かない。

何を言ってるのかわからないと思うが、俺もわからない。


「ほら、遅刻しちまうぜ」


くしゃくしゃっと髪を撫で、先に行こうとする俺。

でもこいつ、空気の読めないAIだからなあ。


「あなたにとって私が特別な存在だとしたら……試験運用の身としては無視できませんね」


そんな意味深なことを言って、俺を抜き去っていった。

あのやろ、本当にキャラが違うだろ……。

フラグをへし折って周られたやつが、きっちりフラグを立てやがって。

しかし、結局の所、俺を翻弄してくれたな。


整理のつかない気分のまま、くしゃくしゃっと自分の後頭部を掻いて、校舎へ駆け出した。



1周目とか自分で読み直すと恥ずかしいんですよねえ。でもなろうの更新履歴とか見てるとみんな結構修正してるんで何度も読み返してるのかしら。偉いなあ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ