異世界メモリアル【3周目 第8話】
この学校の運動部ってどうなってんだろうな。
やたらいっぱいあるんだが、生徒会長だったこともある俺なのに全貌が見えていない。
部活は毎回完全に一致というわけではないみたいだ。
野球部やサッカー部、柔道部などは必ず存在しているのだが、ラグビーやアメフト、剣道と弓道なんかはあったりなかったり。
真姫ちゃん、つまり寅野真姫はいつも最強だが。
空手部がなくても、少林寺拳法同好会がなくても、全ての武道系部活で常に活躍している。
今回は柔道に、剣道と、テコンドー、それに俺も所属したことがあるプロレス同好会だ。
上記はがっつり次孔さんの取材が行われており、一本背負いも、二刀流も、ネリチャギも、シューティング・スター・プレスも撮影されている。
野球やサッカーなんかは2年生や3年生が当然ながら常に取材しているわけで、シャッターチャンスはあっても先輩たちよりもいい写真を撮るというのは難易度が高い。
メジャーな部活はすでにネタがなさそうなので、マイナー競技を探してみることに。
ん~、ラクロス部とか、女子バスケットボール部あたりだろうか。
うろうろと部室棟をさまよっていると球技では3周目にして初めてゴルフ部があることに気づき、そちらを覗いてみることに。
校内というより裏の山みたいなところに練習場とショートコースがあるようだ。
ぱかん
ぱかん
キィーン!
ぱこん
ぱしゅ
ガッキィーン!
近づいていくだけでわかる。
1人だけ圧倒的な飛距離を出している音がする。
練習場、いわゆる打ちっぱなしを覗き見る。
ゴルフウェアに身を包んだ部員達に紛れて1人だけ異彩を放つ女の子がいた。
間違いない、彼女だ。
彼女こそ取材すべき人だ。そうはっきりとわかる。
オーラとかスター性とかそういう次元じゃない。
何故か白いドレスを着ている!
キャップじゃなくてツバの広い帽子をかぶっている!
ゴルフシューズじゃなくて白いリボンの付いたパンプスを履いている。
髪を縛らずに長い金髪のまま、やたら長いドライバーを振っている。
要するに、貴族のお嬢様のような格好の美少女がゴルフの練習をしている。
とてもアスリートには見えない、ほっそりとしたスタイルだが、握っているゴルフクラブはムチのようにしなってゴルフボールは途方もない距離を飛んでいた。
尋常ではない存在感。
これほどの女性を同じ学校にいながら知らないでいるなんて不可能なのではないかと思うほどの。
でも何故か知らないのだ、俺は。
つまり、これはそういうことだな。
新しい出会いだ。
3周目で初めて未知のヒロインを発見したのだ。
撮影の許可を得るため、彼女に近づく。
盗撮すると次孔さんに怒られてしまうからな。
彼女のショットが直ぐ側から見える後ろに回り込む。
しかし、高貴な雰囲気が漂っていて声をかけずらいな……。
そうこうしているうちに、ゴルフクラブを交換しようとキャディバッグに近づこうとした彼女は、ゴルフボールの入ったカゴに脚をつっこみ、盛大にコケた。
「あにゃあ!」
……全く受け身など取れておらず、顔から人工芝に倒れ込んだ。
あまりのことに呆気にとられて助けることも、手を差し伸べることもできない。
今のは本当に彼女の声なのだろうか?
どうみても深窓の令嬢という趣の彼女が、まるでギャグ漫画のようだったが……?
ゆっくりと立ち上がり、ふぁさっとほのかに輝く金髪を掻き上げる。
透明感のある白い肌に、バラのような唇。
うーん、やっぱりどこぞのお姫様みたいに見えるんだが……。
「うっきゃー!」
すってーん。
転がっていたゴルフボールを踏んでコケた。
自分でばら撒いたんだからわかるだろ、そこかしこにゴルフボールが落ちてるって!
「大丈夫ですか」
倒れているところを助けようとすると、馬車から降りるときのお嬢様のように手を出してきた。
なんなんだ、このギャップは……。
「あ、あの、新聞部……に入部したい、ロトという者ですが」
「は、はひっ! そうなんですかっ! こんにちはっ! 私は庵斗和音鞠です」
のおおおお!?
見た目とマッチしねえ!
姫のようにしか見えないのに口から出るセリフが純朴すぎる!
いっそ凛としすぎて悪役にも見えかねないくらいなのに、目を閉じたら野暮ったいくらいだ。
完全にただのいい人って感じ。
「す、すみません、あの、人見知りなものでしてぇ」
絶対ウソじゃないってわかるものの、顔は自信なさげには見えない。
眉は凛々しく、目つきは誇らしく、慌てている素振りがない。
キャラクターを間違えてアテレコしているんじゃないか?
そのくらいの違和感だ。
ともあれ、こうして会話を始められたことだし目的を果たそうじゃないか。
「えーっと、取材したいのですが」
「へ? 誰をです?」
「あなたですよ、あなた」
「ええ? だって下手くそですよ? ゴルフ」
「そんなわけないでしょう!? あんなに飛んでるのに」
「でも、ベストスコア140ですし」
「……マジ?」
「すみません……」
この世界のゴルフが俺の知ってるものと違うのか?
「あの、部長さんですよね? 部長さんのベストスコアは?」
「81です」
うん、みんゴルだったら俺の勝ちだが、普通に考えてこれは十分に凄いスコアのはずだ。
間違いない、普通のルールだ。
つまり、うん、おかしいね。
「なんで!? あのショットでなんで!? 庵斗和音さん?」
「あ、長いんで鞠でいいですよ~? わたくし、普段のショットは上手くいくんですけど、すぐドジをしちゃうんです」
「ドジ?」
「ええ……間違えて松ぼっくりを打っちゃったり、バンカーでコケてクラブを砂に付けてペナルティになったり……」
ドジっていうレベルじゃねえ!?
ゲームのゴルフだと起こらないような事態だからルールがもうわからん!
松ぼっくりを打ったら駄目なんだねっ、知らなかったよっ。
しかし、なんでそんなことになるのか。
ドジっぷりに関しては、確かにさっきのズッコケ方を見ていれば理解は出来るのだが……。
実力は間違いないが、活躍はしていない彼女。
本来の実力を見せることができれば、絶対に輝かしい実績を残すに違いない。
さて、どうするか……。
ちなみにゴルフではゴルフボール以外のもの、例えば松ぼっくりをショットしても1打とカウントされます。
素振りでも本当は打つ気があったら1打になります。そんなの打つ気がなかったって言えばカウントされないでしょうという話なのですが、だからこそ紳士のスポーツと言われているということですねえ。しかしこの小説、将棋だの競馬だのプロレスだのゴルフだの、出てくるものがジジ臭いなあ……。




