表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

93/364

異世界メモリアル【3周目 第6話】


「次孔さん、これを読んでくれないか」


新聞部の前の廊下で5分間に及ぶ土下座を敢行。

ようやく話を聞いてくれることになり、俺は絶対の自信作を見せた。

学校新聞に載せられるように編集した、来斗さんによる学校の良いところ紹介だ。

レイプっていう言葉を削るだけなのに、そこがメインの感想だったりして結構大変だった。


「へえ……ふ~ん、ほう……これ、面白い……!」


みるみる表情が輝いていく次孔さん。そうそう、彼女はこうじゃなくっちゃな。


「来斗さんの文芸部としての活動にもなるし、読んだ人がこの学校をもっと好きになってくれると思うんだ」


一心不乱に読み進める次孔さんに、俺はアピールを行う。


「むう……これなら確かに連載したいところっすねぇ~」


腕を組んで悩む素振りを見せるが、表情を見れば一目瞭然。

少しも悩んでなどいない。

これは載せたくて仕方がないという顔だ。


「事情があって、来斗さんの原稿はそのままでは他の人に見せられないんだ。俺が編集しない限りは新聞には載せられないよ?」

「事情?」


胡散臭いなあ……と顔に書いてあるくらい疑いの眼差しを向ける次孔さん。

気持ちがわからんでもないが、次孔さんがあの原稿をそのまま読んだら腰を抜かすぞ。

実は次孔さんも水玉のパンチラを目撃されているし。しかも水色と桃色の2色だ。水玉が好きに違いない。


「入部試験は合格だと思うのだけども」

「むむむ」


困ったような顔で首を傾げる。

なんでそんなに入部を嫌がるのか……傷つくなあ。

顔か? 顔が悪いのか?


「だって写真が無いしなあ」


そうだった、写真も必須って言われてた。

これはエッセイだから写真なんか無い。


「写真撮れない新聞部は、屁のツッパリくらい要らないんですよ」

「言葉の意味はよくわからんが、とにかく凄く納得したよ」


別の写真有りの特ダネを探しに、また冒険に出かける俺だった。


しかしそう簡単には見つからず、数日が過ぎる。


8月初旬の朝。


――やっちまった……。


3周目にも関わらず、同じ過ちを繰り返すとは。

まさに馬鹿だ、俺は。


「あーっ! やっちゃったね、お兄ちゃん」


すっかり仲良しに戻った舞衣が、洗面台の前で呆然とする俺を指さして叫んだ。


「いや、お前がいつものパジャマパーティーで一言でも言ってくれればよかったのに」

「パジャマパーティーじゃないから!?」


なぜかムキになって反論する妹。

ステータス確認なんて事務的な言い方をしたくないからパジャマパーティーと呼んだということもあるが。

もはや大体この世界のことはわかってるので、1週間の行動について相談することもないのだ。

あんなの、もはや妹のパジャマ姿を堪能するだけのイベントだ……と思ってたらコレだよ。


そう。

ガリ勉のステータス異常だ。

もともと理系の学力だけが高い状態で、新聞に入るために文系学力だけ向上させてしまったからだ。

呪いのように外すことが出来ない分厚いぐるぐるメガネを装着させられて、容姿が-50の効果。

すなわち0になってしまう。

もともと低いからどうでもいいだろって? ほっとけよ! 全然違うよ!


とはいえ、特ダネ探しをしない選択肢は俺には無いので、夏季休暇中の学校へ。

高校球児やサッカー少年達が爽やかな汗を流しているなか、ひたすら浪人していそうな野暮ったい男が登場です。


「ぎゃはははは! うはははは!」


俺を指差しながら腹を抱えて、涙を流しながら大笑いをしているのは生徒会長の星乃煌(ほしのきらめき)だった。彼女は早々に出会っているが、攻略する気はさらさらない。ラスボスみたいなもんだからね。

完全無欠のスーパーヒロインである星乃さんだから、こんな状態の俺をバカにして笑っている……のではない。

ガリ勉状態の容姿0になると、もはや笑わざるを得ないくらいのルックスなのである。

単純に見た目が面白くて笑っているのだ。あくまで状態異常だと頭で理解していてもツライものがある。


「ひー、ひー、お前、それで私に告白するのか?」

「しないよっ! 会長には恐ろしいくらいのイケメンになってから迫るから覚悟しとけ」

「ククク、フヒヒ、その顔でそんなこと言われても、ギャグにしか思えんぞ、デュフフコポォ」


デュフフコポォって。

炎天下の校庭で、のたうち回るほど面白いのか俺は……。

しかしこの有様ではインタビューとか成り立たねえな。

数少ないこの世界の秘密を共有する仲間である、星乃会長相手ですら会話にならないのだから。


結局何も出来ず、次のパジャマパーティーがやってきた。


「だからパジャマパーティーじゃないって! ステータス確認!」

「何も言ってないぞ」

「聞こえたから、心に聞こえたから」


そんなことをいいつつ、新しい可愛いパジャマを着てきている舞衣だった。


「ほら、ステータス確認するよ」


【ステータス】

―――――――――――――――――――――――――――――

文系学力 59(+44)

理系学力 93(+2)

運動能力 47(+2)

容姿   0(+6) ガリ勉-50

芸術   10(+1)

料理   105(+0) 装備+100

―――――――――――――――――――――――――――――


芸術……いや運動も十分低いな。料理も装備品補正だけで全くやってない。

というか学力くらいしか無いな。

ガリ勉状態になるのは当然だったわ。

自分の愚かさに愕然とするぜ。ガリ勉のくせにバカ。最悪だ。

どうする。この状態を放置するわけには……。


「ガリ勉脱出なら運動上げるのが一番早いよ」

「!?」

「なに、その驚いた顔は」

「役に立つアドバイスをするなんて意外だなと」

「ちょ、なにその失礼な反応」

「ここ最近そんな気の利いたこと言わなかったじゃん」

「お兄ちゃんが聞いてないだけでしょっ!?」


そうだったっけなあ……。

パジャマの色とか模様はよく覚えているんだけどなあ。


【親密度】

―――――――――――――――――――――――――――――

星乃煌(ほしのきらめき)    [柿ピーのピーくらい愛している]

実羽映子じつわえいこ     [好き]

次孔律動じあなりずむ    [新入部員として認めなければならないのか!?]

来斗述(らいとのべる)     [超モブキャラ]

―――――――――――――――――――――――――――――


星乃会長は、まあいいや。

実羽さんはバグか? ラーメンくらい好きみたいな表現じゃなかったっけな。

なんにせよ2人はここに表示されているだけでもレアな感じ。

次孔さんはマジで俺のことを嫌ってない? マジで凹む。

来斗さんもさ、超はいらないでしょ、超は。


ここで落ち込んでいる場合ではない。

運動能力を上げなくては。


「お金もないし、運動能力がアップするバイトをするよ」

「よしきた!」


久しぶりに(3周目では初めて)選択肢を用意してもらったからか指をパチンと鳴らしてノリノリで提案してくた。


「犯罪じゃないやつな」

「合法限定ね! おっけー!」


1.ピラミッド建設

2.地下労働施設

3.雪山強行軍


うーん、なんだろう、犯罪じゃないけど罪を犯した人がやらされるものって感じがする。


「1はね、なんと王の墓を建築できる名誉ある仕事。ビールとにんにくとパンが支給されるよ」

「うわー。マジで4000年くらい前の労働かよ」


壁画とかで描かれているようなやつじゃねえか。

王様知らねえし。モチベーションゼロ。無理っす。


「2はね、とある金融機関が有する地下労働施設で工事をする仕事。住み込みになっちゃうけど、夜になるとチンチロリンとかでお金を増やしたりできる」

「チンチロリンで稼げるほどの才気ねえよ」

「ゴネれば大丈夫だよ、ゴネ得だよ」


班長? 班長側?

……ペリカしか稼げないんじゃねえの?

無しだな。


「3はちょっとブラックなお仕事だけど、寒い雪の山の中を板に乗って滑って移動してちょっとしたお届け物をするんだ」

「それスキーじゃん! レジャーだよ、レジャー!」


スキーがない世界の価値観かよ?

むしろ金を払って行う遊びだよ、そんなの。


「この真夏にだよ?」

「それを贅沢っていうんだよ!」


真夏にスキーなんて富豪だよ、富豪の遊びだよ。

なんていい仕事なんだ。


「じゃあ3ね」

「よろしく」


急遽、翌日から雪山でバイトすることとなった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ