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異世界メモリアル【3周目 第5話】


実羽さんには土下座を済ませたが、もう一度次孔さんに会うには正しい特ダネが必要だろう。


毎日カメラを下げて、学校を徘徊するものの、そう簡単に特ダネは落ちていない。


料理部の若きホープ、望比都沙羅もうひと さら さんはすでに紹介済み。

空手部に所属する最強の称号をほしいままにする寅野とらの 真姫まきちゃんは次孔さんの親友だ。

美術部の画領天星(がりょうてんせい)ことてんせーちゃんも、色んな意味で学校の有名人である。

星乃煌(ほしのきらめき)に至っては町中の人間が知っている。

いずれも紹介したところで記事にはならない。みんな知ってる前提だ。


まぁ、そもそも誰とも出会ってないから取材も出来ないわけだが……。

この世界はステータス上げないと何も出来ないっていい加減理解しろよ、俺。

新聞を読み書きするために文系学力向上だけはやっているが。

”萌える参考書 ~ねえ、妹と暗記しよっ~ ”を1周目で買っておいて本当に良かった。


頑張っているけど日の目を見ていない人ねえ……。

ニコがそうだったな。

あいつはいつも苦労ばっかりしてたのにそれを誰かのせいにしたり、不運を嘆いたりしなかった。

彼女こそみんなに紹介したかった。

ニコ……なんで居ないんだ……おっと、いかんいかん。

上を向いて歩こう。


おや。

屋上に、女生徒が立っているぞ。

少し滲んだ光景に見える、風でなびく黒髪ロング。

まさか、飛び降り!?

俺は急いで駆け出した。


――ハア、ハア。

息があがる。

運動能力が低いからな。

ようやく屋上のドアを開ける、間に合ってくれよ……。


「ば、馬鹿な真似はやめるんだー」


人を救うにはあまりに弱々しい声だった。

もう、へとへとだ。

全く、この世界の序盤つまり1年生は生きていくのがキツイぜ。

こんな状態の俺でも頑張ってるんだ、普通の高校生の能力がある人の自殺など許さん。


「ん? ひょっとして私が自殺すると思って止めに来たんですか?」


振り返った顔には見覚えがあった。

来斗述らいとのべるさんだ。普通の高校生ではなかった。かなり変わったお方だ。


「……止めに来ました」


彼女は俺のことを知らない。

これは出会いイベントということか。

2周目のときは図書館だったが、今回は屋上。

シチュエーションがだいぶ違うな。


そのとき強い風が吹いた。

あ、シチュエーションは違うけど、展開が同じだ。

めくれあがったスカートの中に見えたのは。

ガーターベルト付きの白いレースがいっぱいのピンクの、超えろえろのぱんつだった。

うん、色も形もデザインも全部同じだ。間違いない。

制服をきちんと着こなした細めの体。

なびいたスカートが元に戻る。

肌はやはり陶磁器のように白く、唇は薄く赤い。黒い瞳はじっと俺を見据えている。

相も変わらず清楚な美少女にしか見えない。


「レイプしたくなりましたか?」


そして、セリフも同じだった。

しかし俺はもうこの出会いにテンパってしまうことはない。


「そりゃ可愛くてエロいからね。でも、できれば無理やりじゃない方が良いな」


両手を上に上げながら、肩をすくめて話す俺。

アメリカの映画みたいなセリフ回しだが、ブサイク(容姿が19)である。

それでも自殺しようとしてるかもしれないなら、このくらいのトークで雰囲気を和らげないと。


「そうですか」


淡々とした返事だが、飛び降りる気配はない。

とりあえずは良し。


「なんでこんな真似を?」

「自殺する少女の気持ちを知りたくて」


あぁ、人生を悲観しているのではなくて、取材のようなものか。

前向きな理由だったので安心する。

来斗さんが本当に自殺しようとしているなんてことじゃなくて本当に良かった。

であれば、文芸部の彼女のことだ。

小説のネタのためということだろうか。


「……ひょっとして、レイプされて自殺する主人公の小説を書いてる?」

「惜しいですね、世界で1人だけレイプされないから自殺する少女のお話です」


ああ、そうだった。

彼女はレイプされたい人だった。

まぁでも、世界で1人だけレイプされなかったらそれは自殺するかもしれないけれど。

そうか、文芸部か。

スポーツに比べたらあまり新聞に取り上げられないような気がするな。

来斗さんを新聞記事に載せる事はできるだろうか。


「来斗さんは、書いてる小説をまだ発表していないの?」

「なんで、私の名前を知ってるの?」


おっと、自己紹介がまだだったか。

こっちは何度もデートしてるから気安く話しかけてしまうんだよな。


「俺はロト。新聞部に入ろうとしているから、生徒の名前を覚えているんだ」


口から出まかせを言うのはいつの間にか得意になっていた。


「そう。私は来斗述(らいとのべる)。文芸部です」


いつもどおりの抑揚のない淡々とした口調。

彼女とは何度かデートをしているが、文芸部としての話はほとんどしたことがなかった。


「小説は書いているのですが……まだ完成していないし、過激な表現が多いので誰かに見せたことはないです」

「そう、なんだ」


2周目のときも俺は彼女の文章を読んでいない。

過激な表現っていうのはおそらく強姦も含めた高校生には読ませられない内容ということだろう。

じゃあ発表できないだろうな。

残念だ。


「あとはエッセイというか日記のようなものも書いています」

「え、エッセイ? それ読んでも良い?」

「いいですよ」


使い込まれた様子のノートを貸してもらう。

ブログやらSNSやらというものが存在しない世界なので、こういったものを発表する機会が少ないのだろうなあ。

俺は万年筆で縦に書かれた文豪のような文字を読み始める。


内容は普段の生活で思ったことを書き連ねたものだったが、登下校中や学校での視点が人と変わっていて面白い。

特に学校内の観察は3周目の俺がびっくりする情報が山盛りだ。

飼育されている動物に可愛いリスが居ることや、教師用の駐車場には自動販売機があるということなどを見つけたときの体験として美しい文体で書かれている。

へえ、景色がよくて夏は涼しく人目にも付きづらい。これほど居心地がいい場所がこんなところにあったのか……レイプしやすそうな場所、みたいな感想をカットすればみんなに見せられるだろう。

一番詳しかったのはパンチラスポットについての情報だが……これは発表しなくていい。俺の胸の中に仕舞っておく。見ることが出来たパンチラの表現も秀逸であった。それにしても、てんせーちゃんは防御力が低いなあ。困ったものだ、全く。


それにしても、この文章は学校の良さを再認識させてくれる。

いや、パンチラスポットのことだけじゃなくてだぞ。


これ、ひょっとしてイケるんじゃないか?



なろうデビューして1年が経ちました。まだ未熟ですが、よろしくお願いします。

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