異世界メモリアル【2周目 第30話】
「今度の週末、遊園地行かない?」
「そんな子供っぽいところは行かない」
その翌週。
「今度の週末、室内プールに行かない?」
「子供っぽい身体を見せたくない」
その翌週。
「今度の週末、BARに行かない?」
「こんな子供っぽい見た目でそんなところに行ったら恥ずかしい」
――デートの誘いがうまくいかねえええええ!
これじゃ、親密度が上がらない。
デートの誘いにOKしてくれるかどうかはデート場所によって異なる。
デート場所の好みはキャラクターによって異なる。
これは基本中の基本だ。
今まであまり断られてこなかったが、ここへ来て3回連続の空振り。
誕生日プレゼントの選択ミスで機嫌を損ねているので、よっぽど彼女好みでないとうまくいかないのだろう。
この方法だけは避けたかったが、背に腹は代えられない。
「義朝、ニコの好きな場所知ってるか」
俺はニコの信者兼親友を訪ねた。
「ニコ様のことを知りたいのか、わかる、わかるぞ」
腕を組んで、大仰に頷いてみせる義朝。
いや、絶対わかってない。
別に合法ロリだからニコが好きなんじゃないんだ。
むしろ成長して欲しいんだ。
俺はお前の好きなニコの見た目を変えてしまう、本来の姿にしてしまう男なんだぞ。
敵視されてもおかしくない。
ただ、本当に悪いと思うのは、お前に対して悪いと思う気持ちがひとっつも無いことだ。
さっさと教えろ。
「ニコ様が特に好む場所は、動物園だな」
遊園地より子供っぽいじゃないか!
「本当かよ!?」
「特にふれあい動物園コーナーでうさぎとかモルモットを抱っこするのがお気に入り」
子供にも程がある!
似合うけど!
「それ、お前の脳内だけの設定じゃないよな」
「ふれあい動物園の写真だけで4日分あるぞ」
「わかった、それ以上言わなくていい、ありがとな」
俺はストーカー野郎に一応礼を言って、踵を返す。
もう一度、ニコを誘いに行くためだ。
この世界では1回断られたからといって、1日が過ぎたりはしない。
※
あっさりとデートはOKされ、週末。
動物園の入口で待ち合わせだ。
「よー、早いな」
そう言って現れたニコは、フリルがいっぱいついた桃色の派手なワンピース……ってそれどころじゃねえ。
俺は目をこすって、もう一度よ~く見る。
……間違いない。
「お前、さらに若返ってないか?」
もともと低い背はさらに低く、顔は本当に子供。
「わかるか!?」
幼い顔を満面の笑みにして、ビー玉のようなきらきらした目でなぜか喜ぶニコ。
髪切ったのに気づいたみたいなノリだが、一大事だろう。
どういうこと?
大人っぽくなりたいのでは?
「ふっふっふ」
右手だけ人差し指を立てたまま、腕を組んでしたり顔。
やたら顔の可愛い小生意気な子供である。
俺は相槌も打てずに見守る。
「実験は成功だ! もはや年齢など自由自在なのだ!」
「な、なんだってー!?」
「んっふっふ、さっすが天才の私……まぁ神頼みしたあんたのおかげもあるかもね。だから学校以外ではあんたの好きな年齢で会ってあげる」
な、なにー!? 好きな年齢でデートできる……だと……?
いや、これなんというか……、ギャルゲーのキャラとしては無敵なのでは……?
8年間かけて娘を女王に育てるときですら、グラフィックの好みが年齢で別れるのだ。
それが毎回、ご指名とは……。
眼鏡をかける、かけないが指定できる以来の神システムなのでは!?
「今日は9歳のときの私で登場だ、どうだ愛らしいだろう」
むう!
そういうことなら途端に可愛く見えてくる。
「正直、めちゃくちゃ可愛いな」
「うわっ、こわっ、寄るな、ペド野郎」
「それはねえだろ!?」
「9歳で来たのは間違いだったか」
「ああ、次は12歳くらいで頼む」
「うわっ、リアル! ガチのロリコン!」
「お前が好きに選んでいいって言ったのに!?」
システムは神だが、相手から罵倒されるのは納得いかん。
せっかくだから少しずつ大きくなってくところが見たいじゃないか。
俺はペドでもロリでもない。
「ま、いいや、さっさと入ろうぜー」
ちんまい身体でとっとこ進んでしまう。
うーむ、もはやデートと言うより子守だぜ。
なんでこいつ9歳なんかで来たんだ。
「おーい、写真撮ってくれー」
答えはすぐに判明した。
この動物園は120cm未満の子供に限り、ポニーに乗れるのだ。
真っ白な毛のポニーの鐙に跨る、プラチナブロンドの髪と白い肌の、ピンクのフリルのワンピース。
慌てることはなく、背筋を伸ばして、遠くに目線を置いている。
それはまるで異国の幼い姫君が乗馬を嗜んでいるかのようだった。
俺はカメラを構えながら、少し泣きそうなのを我慢していた。
お姫様に見えるからといって、「なんと堂々たる騎乗であろう、うう、ご立派になられて……亡くなった女王にも見せてあげたかった……じいやは、じいやは……」と思っているわけではない。
そりゃ中身は17歳だから、凛々しくもあろう。そうではなく。
普段子供っぽい見た目にコンプレックスを抱いているであろうニコが、ポニー乗りたさに9歳になってるのがなんだか可愛くて、愛しくて、そしてその強さに改めて尊敬していたのだ。
不遇を自分でなんとかする強さ。
コンプレックスを克服する強さ。
自分の好きな事を曲げない強さ。
とても自分だったら出来ないと思う。
何もせず愚痴って、自分の殻に閉じこもって、人の目を気にして生きているだろう。
今、撮影したポニーの乗馬写真は、ただの見目麗しい少女の写真ではない。
見た目の凛々しさよりも遥かに気高い、尊い美しさであった。
「いや、ちょっとそこまでの熱視線を浴びると照れるどころか引くんだが……まじでそういう人なの?」
「だから違うって!」
台無しだよ、もう!
その後、モルモットやらウサギやら子猫やらと戯れるニコの写真もたっぷり撮って、デートは終了した。
写真を撮影するギャルゲーの影響で、やたらドアップの写真が多くなってしまった。
あのゲーム、被写体がでかいほど点数高かったからな……。
現像した写真を並べて幼いニコをニヤニヤしながら眺める。
たまには9歳もいいかもしれないな……。
見た目の年齢が自分好みに変えられるギャルゲー、マジで誰か作ってくれないかしら。




