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異世界メモリアル【2周目 第22話】


「舞衣、俺はこの世界の秘密を知ってしまったよ」

「♪~」


そうか、口笛か。

最近よく使われるが、なんか都合が悪いときは舞衣は下手くそな口笛を吹くのだ。

そっぽを向いて私し~らない、みたいな態度が可愛いので、たまにわざと言ってみたりする。

ただ、これでこの世界の秘密の信憑性が増したというものだ。

的外れじゃないから、口笛を吹いたのだろう。


「さて、ステータスどうなったかな」

「はいはい~♪」


口笛のメロディーに乗せた返事と共にステータスを確認する。


【ステータス】

―――――――――――――――――――――――――――――

文系学力 120(+10)

理系学力 125(+14)

運動能力 98(+10)

容姿   121(+30) 

芸術   116(+21)

料理   108(+0) 装備+100

―――――――――――――――――――――――――――――


バランス良く上がっている。

しかし、指標を失った俺はこれでいいのかどうか自信がない。


「なに、お兄ちゃん。生徒会入るための行動だったから、今後で悩んでるの?」

「さすが我が妹、そのとおりだ」

「そんなの好きな子に好かれるようにしたらいいじゃない」

「あ、あんな人工知能のこと好きじゃねえよ」


人工知能?

誰のこと? という顔の舞衣。

なんか1周目の記憶を全部引き継いでいるわけじゃないらしく、親密度に載ってない女の子の話は通じない設定らしい。実羽さんのことも知らないし。

前回誰かをクリアした、みたいな会話にならないようにだろうか。


それにしても、あの自立式人工知能江井愛(えいあい)もそうなのか?

あいつも成仏できない転生者なの?

だって人工知能だよ?

謎だ。


うんうん唸っていると何を考えているんだか、といいつつ舞衣による親密度チェックが始まる。


【親密度】

―――――――――――――――――――――――――――――

来斗述(らいとのべる)     [友人C]

ニコ・ラテスラ(にこらてすら)  [一緒に酒飲みながら実験したい]

画領天星(がりょうてんせい)    [ロト×男子生徒C]

次孔律動(じあなりずむ)     [副会長は同性愛者!?]

―――――――――――――――――――――――――――――


「あんまり変わってないね」

「一人だけ、ゴシップ記事書く気満々の新聞記者がいるけどな」


親密度が本当に変わってたとしたら、会長だったろうからな。

やはり星乃煌という名前はもう、出てこなかった。

まあ、あの人は初回プレイでクリアできるようなキャラじゃない。

システムをたっぷり理解して、アイテムを揃えまくって、満を持して挑ませてもらうさ。

目下の課題は、今回のプレイで誰を攻略するかということだが……。


「今の所、ニコさんが一番脈アリっぽいけど? どうなの?」


むふふ、と口に手を当てて聞いてくる妹は、可愛いけどウザかった。

脈アリっぽいとか、簡単に言ってくれるぜ。

ゲームの攻略順っていうのは色々あるんだよ!


「どうだろうな」


適当に誤魔化すと、舞衣はあらあら~と笑ったまま返事をする。ウザカワ。


順番に全員攻略してやる、という意気込みは決意したものの、今回のプレイ、つまり2周目でどうするかということについてはまだ何も決められていなかった。

普通のギャルゲーと違う点は、クリアしたらもう出てこなくなるということだ。

つまり、次のプレイでは会えないわけで。

となると好きな相手ほど、攻略したくなくなるわけで。

ところが知れば知るほど好きになっちゃうわけで。


なんというジレンマなんだ……。


普通にゲームとして考えてみよう。

今回は料理以外バランス良くパラメーターが上がっている。

星乃会長は攻略できない。

そうなるとやっぱり、あいつだろうなあ。

他の女の子の親密度をバカスカ下げていく、とんでもないヤツ。

江井愛だ。


2年生になったときに登場するはずなので、今はこのまま料理以外のステータスを上げておこう。


「部活と生徒会を頑張りつつ、体力も上げていくわ」

「そっかー、じゃあこの地獄の特訓メニューを」

「それはいらん」


あっさり拒絶すると、ぶ~と頬を膨らませて不満を示す舞衣。

最近わかったことなのだが、妹というのはこっちから好意を示すより、ちょっと冷たく扱った方が可愛いんだな!

なんであんなに可愛い妹いるのに、冷たい態度してんだこいつって世の中の羨ましい兄どもによく思ってたけど、こういうことだったのかと合点がいったぜ。


「お金も稼ぎたいから、土日と冬休みに運動能力が上がるバイトするわ」

「はいはい、バイトね」


バイトは常に妹から提示される3択という決まりだ。

アルバイト情報誌などこの世に存在しないし、舞衣がどうやってバイト先を知るのかもわからない。

しかし俺は、このゲームシステムに不満など一切なかった。

あっ、いや、1つだけ不満あったわ。


「あれだぞ、違法と死ぬやつ無しな」

「あっ、そう?」


意外な顔をするなよ。また入学からやり直すの嫌だっつの。


1.殴られ屋

2.銅像

3.悪の手先


……いや、ないよ。不満。本当に。


「説明を頼む、舞衣」


話を聞いてみないとわからないからね。本当にわかんない。


「1はわかるでしょ。ストレス解消のために殴られて、お金が貰える。デメリットは痛いことと顔に傷ができて容姿が下がっちゃうことくらいだよ」

「デメリットがキツすぎる!」

「メリットは可愛い女の子にも殴ってもらえることかな」

「俺はそんな変態じゃないぞ!?」

「え~? 本当?」

「舞衣に踏まれるのはウェルカム」


スパーン!

スリッパで叩かれた。

くっ、スリッパを脱いだときは素足で踏んでくれるんだと思って期待したのに……。


「2は大学の銅像を酔っ払って壊しちゃった人がこっそり直すまでの間、顔を緑色に塗って身代わりになるお仕事」

「突っ立ってるだけじゃねーか! そんなんで運動能力が上がるのかよ」

「動かないって結構大変なんだよ?」


そうかもしれんが……

微動だにしないパントマイムとか、絶対真似できないと思うしな。


「3は遊園地のヒーローショーで悪の隊員をするの。良い子を攫ったり、ヒーローに蹴られて吹っ飛んだりする」

「それ面白そうじゃん! それだ!」


俺は悪の手先になった。



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