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異世界メモリアル【2周目 第10話】


「それは……言葉もありませんね」


悲痛な顔をしてくれる実羽さんに、少し救われる。


余りにも何も出来ない無力な俺は、新学期早々にボランティア部を尋ねていた。

同じ転生者であり1周目のときの記憶も保持していて、なおかつ物凄く良い人の実羽さんは心の拠り所だった。

言ってしまえば、俺はどうしようもない悲しみを彼女に打ち明けて、慰めてもらっているということ。

情けないにもほどがあるが、そうでもしなければ生きていけない。


「私は本当に両親に恵まれていたのに、ろくでもない人間でした」

「まぁまぁ、実羽さんは立派だって。俺はそう思う」


実羽さんは自分が一番悪い子だったと思っている。

だから今は善行を積む乙女ゲームのような世界をプレイすることになったのだろう。

でも、死ぬ前の事を反省して、心から人のために過ごしている実羽さんを俺は尊敬している。


そして、俺も両親には感謝していた。

そのくせゲームばっかりやってアホみたいに死んだ。

だからこんな努力をしまくるギャルゲーみたいな生活を現在している。

あんなに魅力的な女の子達が親に恵まれていないのは、本当に悔しい。


「ところで、俺の仮説についてはどう思う?」


実羽さんに俺は仮説、というか心配事も聞いてもらっていた。

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彼女はネグレクトを受けていたが父親に急に呼び出されて、無理やり後継者にされそうになっている。

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彼女は兄弟と闘わされて、負けると肌に傷が残るくらいに折檻を受けている。

そして、来斗さんだ。

どうも偶然じゃないような気がする。

つまり、次孔さんやニコ、てんせーちゃん達も、親がまともじゃないんじゃないかということである。


「可能性はあると思います」

「そう、だよね」


わかったところで、何も出来ないんだけど。

それでも気になる。


「なんか方法ないかなあ」


独り言のようにつぶやく俺に、実羽さんは、ちょっと気になることっていうだけなんだけど、と前置きして言った。


「生徒会は、世界を変えられる、らしいんです」

「世界を変える?」

「ええ、私は生徒会に立候補する自信がないのでなったことがないんですけど」


そう言って、過去に見てきた生徒会選挙のときのことを話してくれた。


生徒会選挙は10月下旬から立候補が始まり、11月中旬に選挙が実施される。

このスケジュールもあのゲームと同じだな。

推薦人は多ければ多いほど有利で、選挙時に応援演説が実施される。

生徒会選挙の立候補を促すポスターに書いてあるのだという。

生徒会役員になって世界を変えよう!と。


「なんだその変なキャッチコピーは」

「私も最初は学校のことを世界って言ってるだけかと思っていたんですが、今となっては本当にそういう意味なんじゃないかと」


ふうむ。

俺は両腕を組んで、目を瞑る。

確かに生徒会は妙に力を持っている事が多いし、あの生徒会長は何か普通じゃない感じがする。

そしてこの世界は妙に狭い。

テレビやラジオ、新聞ではこの街のことしか報道されない。

ひょっとしたら俺や実羽さんのような転生者のための世界なのかもしれない。

だとするなら、この学校の生徒会に入ると何か特別な事が起きる可能性はある。


でもなあ。

俺なんかより、実羽さんの方が生徒会役員っぽいけどな。

むしろ生徒会長でも全然おかしくない。

ちょっと薦めてみるか。


「生徒会役員ってカルマが良くなるイメージあるけど?」

「え? 私に生徒会役員になれって言ってます?」


俺のやんわりとした推薦の意図をすばやく察したようだ。

自分の顔を人差し指で指した実羽さんは、慌てふためいた。


「そんな上等な人間じゃないですよ~」


無理無理とばかりに手をバッテンにクロスして、目もバッテンにする実羽さん。

クールなイメージだったが、こんなコミカルでチャーミングな一面があったのか。


「ロトさんが目指したらいいじゃないですか」

「大丈夫かなー」


正直、生徒会役員ってよっぽどのエリートしか成れなくない?

確か、ステータスが相当良くないと立候補すらできなかったような。

1周目なんて存在すら知らなかったぞ。

全科目補習じゃあ、妥当か。

そんな考えを見透かしたかのように実羽さんは俺を勇気づける。


「今回はいけますよきっと」

「応援演説してくれる?」

「しますよ」

「じゃあ、頑張って目指してみるよ」


そう言うと実羽さんは目を大きく見開いて、瞳をキラキラさせた。


「頑張ってくださいね」


握った両拳を上下に振って応援してくれた。

こんなんされたら死ぬまで努力するわ。

俺はサムズアップをかまして応えた。


2時間後。


「舞衣~~~~」


俺は家に帰るなり、青いロボットに頼る小学生のような声を出していた。


「どしたのお兄ちゃん」


アイスキャンデーのようなものをねぶりつつ、ソファーでのんびりしていた最愛の妹にみっともなく手を合わせた。


「生徒会役員になりたいんだ」


そう言うと、舞衣は微笑みながら本当に軽く言った。


「いいんじゃない。なれると思うよ」


――マジか。

舞衣が言うなら、なれるに違いない。

俺の中にあった不安は全て吹っ飛んでいた。



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