異世界メモリアル【2周目 第2話】
夜、俺は机に向かっていた。
最初の1週間でもう俺は小学校の勉強をもう終わらせて、中学1年生の勉強をしていた。
1周目と比べたら圧倒的に早い。
それにしても……。
この1週間のことを振り返る。
俺は学校が始まってすぐに沙羅さんのストーカーになっていた。
出会いイベントが起きない限り、向こうは俺を認識しない。
ただ存在はしているので、遠目に見る分には問題ない。
久しぶりに見つけたときは、泣きそうになったぜ。
傷つけると、見ることすら出来なくなるのだから。
料理部に入れば、出会えることはわかってるが。
料理部を辞めたら、傷つけてしまうかもしれない。
だとすると、料理部は厳しい。
料理のステータスはやはり基本的には優先度が低いのだ。
1周目では舞衣が望んだからそうしたが……。
今回はアイテムで誤魔化す。
1周目のときに15万円で買った”遺伝子レンジ”である。
なんとそもそもの食材の遺伝子を調理中に組み替えて品種改良してしまう恐ろしい調理器具だ。
これを装備していると料理は+100の恩恵を得る。
料理はもうこれで許してもらおう。
真姫ちゃんは部活見学のときに見た。
空手部の部長と、柔道部の部長を同時に倒したり、素手で剣道部の主将に勝ったりやりたい放題だった。
あんなのと闘ったのか俺は……。
ちなみに弓道はおっぱいが大きすぎて胸当てが合わなかったという理由で不参加。
何から何までスペックが桁違いだった。
ただそんな状況を眺めるだけで、武道系部活に入ることも俺は躊躇していた。
で、次孔さんだけは見かけることがなかった。
新聞部に行ったって、基本部室に居ないしな。
だが、もうすぐラジオが始まる。
ぴ、ぴ、ぴ、ぽーん♪
時報の後、軽快なジングルが流れる。
「始まりました、次孔律動のリズム天国ぅ~! この街のニュースを中心に、いつもの通り面白おかしくトークしていきたいと思いまーす♪」
俺はすっかりこのラジオのファンだった。
自分が出演したことを誇らしく思っている。
1周目の最初の頃は聞いてなかったもんな~。
楽しみだぜ。
「実は今週から私は花の女子高生なんですね~、ぱちぱちぱち~」
ださ可愛い感じがたまんないぜ。
花の女子高生なんて言葉は、女子高生は使わないだろう。
「それにしても桜が綺麗ですよねえ~。私もお花見デートしたいなあ~、なぁんて!」
そうなんだよ、この時期はデートで公園とか行くと桜が咲いてるんだ。
1周目はそういう季節感のあるデートあんまりしてないんだよなあ。
次孔さんとお花見デートか……いいなあ。
正直、桜花賞の方がしっくり来るけど。
あいちゃんだったらなんて言うかなぁ……。
「綺麗な桜ですね~。でも私の方が綺麗だって? ありがとうございます~」
「言ってねえよ!」
「言ってないけど、思ってるんですよね~、顔に出てますよっ?」
こんな感じかもな。
フフフ。
おっと、なんで俺はあんなポンコツ人工知能のことなんか考えてるんだ。
次孔さんのラジオを聞こう。
「それで今週はゲストが来てくれています。なんと、我が校の生徒会長さんで~す」
「ラジオの前の皆のもの、私が星乃煌だ! よろしく頼む!」
素人とは思えないハキハキした聞き取りやすい声だった。
う~ん、こんだけキャラの濃い生徒会長なのに1周目は知らなかったなあ。
「生徒会長は1年生で会長になったんですよね~?」
「そうだ! 会長に立候補したからな!」
「え~、書紀とか副会長とかにしようと思わなかったんですか~?」
「う~ん、その発想はなかったな!」
豪快な人だなあ。
全てのセリフにエクスクラメーションマークが付くんだけど、これってラジオだからなの?
声が凛として涼やかなので、うるさくはない。
「どうして生徒会長なんですか?」
「権力だ!」
おいおい、堂々となんてこというのだ。
大体、生徒会って言うほど権力なんてあるか?
いや、そういやギャルゲーとかだと信じられないくらいあったりするわ……。
この世界ってギャルゲーだったわ。
「なるほど、権力があれば、大人たちの都合に振り回されずに生徒達の自主性を守れるというわけですね」
「うん? いや、気持ちいいからだ!」
次孔さんのフォローを台無しにした!
この人正直すぎるというか、アホなんじゃないのか?
「みんなが好きだから、みんなを喜ばせるために、私がやりたいように、やる! それが最高に気持ちいいんだ!」
……この人は、なんか大物なのかもな。
ちょっと、興味が湧いた。
「はい、ありがとうございました生徒会長~。私もこのラジオ、やりたいようにやってるだけですから、よくわかります。リスナーのみんな、愛してるよ~! てなわけで今日はこの辺で。いい夢を~♪」
俺も次孔さんを愛してますってFAXしようかな……いや、止めておこう。
変なフラグを立てるのは怖い。
1周目とすでに大分違うんだ。
あまり異なりすぎると2周目をプレイしているアドバンテージが無くなってしまう。
しかし、今日もいいラジオだった。
次孔さんの声はやっぱり元気が出るぜ。
ラジオを切って、ペンを手に取る。
俺は勉強の続きをしようと机に向かうが、どうも集中できない。
2周目を始めてみたものの、俺は誰を攻略するかなんて決められてはいなかった。
ゲームなら数時間で終わるから、順番に全員やるのもいいだろう。
この世界は本当に3年間経過するんだから、そういうわけにもいかない。
10代の俺にとって3年間という時間は途方もなく長いのだ。
だからといって、この人さえいればいい。
そういう相手が見つかったとはいえない。
I Love Youという言葉の意味を俺はまだわかっていないと思う。
I Miss Youなら、わかったような気がする。
会いたい。
沙羅さんに。
真姫ちゃんに。
次孔さんに。
そして、あいちゃんに。
だが、今できることは頭に単語を詰め込むことしかなかった。




