異世界メモリアル【12周目 第14話】
「へえ……」
「だいぶマシになったな、あいつ……」
俺のルックスが良くなった。
それはヨガだの美肌だの、そんな生易しいものじゃない。容赦なく整形。足を長くするというエゲツないくらいの外科手術。
もはや「誰?」ってなるんじゃないかと思うのだが、周囲の反応は「マシになった」らしい。
この学園において、整形は別に恥ずかしいこととかではないので、整形したことを隠したりはしなくていいようだ。いや、隠せないけど。背が20cm伸びてるからね。
正直、学園に来る意味はほとんどない。ステータスものえみちゃんと一緒に居た方が全然上がるし。
それでも来たのは……。
「あっ、ロトさん……」
「おっ、いいじゃないかロト!」
そうそう、この二人に会うため。
――なわけないだろ。
一般的にキツくて苦しくて辛いとされるドブネズミ殺しのバイトについては喜んでくれるだろうが、俺はあんたらを喜ばせるためにやったんじゃない。
ルックスだってお前らのためじゃないんだ。
無論、この学園の女性でも、野郎どものためでもない。
名前もわからない、好きな女の子のためである。
ああ、これが純愛。これがトゥルーラブ。
攻略できない相手正直を好きになる。攻略のためじゃなく、純粋な思いで。これこそ恋愛なんだよ。
所詮、いままでやっていたのは恋愛シミュレーションなんだよ。ついに俺は真の恋愛にたどり着いたってわけだ。
「後は服だろ、見立ててやろうか!?」
「あっ、髪切ってあげようか?」
俺のことが大好きな二人がなんか言ってるが、華麗にスルー。
そういや星乃さんはデートに誘った際、もう少しマシな顔になってからまた誘ってくれとか言ってたが、そもそもそんなこと言う女なんて無理だろ。俺が「マシになったかな? デートしてもらえる? えへへ」とか言うと思ってたのか。馬鹿にするのもいい加減にしろ。
「あっ」
「無視か!?」
当然だろ。
百歩譲って、俺をディスってたことはいい。
のえみちゃんをモブ呼ばわりしたんだぞ。デートしたって意味がないって言ってたんだぞ。絶対に許さない。
学園に来ているのは、のえみちゃんに言われたからだ。ちゃんと通学して卒業して欲しいって。
だから来ているだけ。
もはや俺にとって、のえみちゃん以外のすべてが意味がないというわけだ。
「いいな」
いい。
この世の中で大切なものが一つだけ。
これだよ。
これこそが恋愛ってもんよ。
そう思うと、のえみちゃんだけがヒロインで、他はモブに感じる。
ははは、愉快なものだ。
星乃、実羽。おまえらはモブだ。フハハハ!
おっと、一人だけモブじゃない人がいた。ちょうど今日だな。訪ねてくるのは。
モブしかいない学園での一日を終え、家に帰って彼女を待つ。
「さて、お兄様」
舞衣だ。
呼び方が変わろうと、口調が変わろうと舞衣は舞衣。
舞衣だけは、特別な存在だ。
ルックスも良くなったことだし、褒めてくれることだろう。
「なにをやってますの?」
「……ん?」
なんだ?
なんか怒ってる?
まさか、整形手術するのが嫌だったとか?
前の状態の方が好みだった……そういうことなのか。
「そっかー。整形手術しない方がよかったかー」
「いや、それはした方がいいに決まってます」
「えっ、そう?」
「もっとした方がいいです」
「あ、そう……」
いや、するつもりなんだけどね。
なんだろうね、なんかつらいよね。
「そうではなくて、攻略できない人を愛するとかいうやつです」
「ああ。のえみちゃんのことか」
「そうです」
まさか、のえみちゃんなんて攻略できないのだからやめておけとか言うのか。
それだけは許さんぞ。
「攻略できない人を好きになるなって言うのか」
「いえ、それはいいと思います」
「いいのか」
「好きになる気持ちは、誰にも止められるものじゃありません」
「おお……」
なんという理解者。
さすが舞衣だぜ!
「それはそれとして、攻略はしないと」
「えっ?」
「それはそうでしょう」
しれっと言ってのける舞衣。
それはそれ。これはこれだと。
「いや、俺はね。革命を起こすんだよ。その攻略しないといけないなんて馬鹿な話に抗うんだ」
誰に馬鹿にされようとも、誰に理解されなくてもいい。そう思うけど、舞衣は別だ。
舞衣だけは、特別だ。
「お兄様は、ゲームをしているとき、そうやってきましたの?」
「え?」
舞衣は、怒っているのか?
呆れているのか?
蔑んでいるのか?
口調は静かで、あくまで冷静で。だからこそ、なにか怖くなる。
舞衣は「例えば……」と話を続ける。
「将棋で勝てないと思ったら、途中から手を抜いたり」
「……!」
そういうやつ、一番嫌いだ。
最後まで全力を尽くしてあらがうべきだ。それがゲームだ。
「負けた後、本気じゃなかったって言い訳したり」
そういうやつ、一番情けないと思う。
本気でやったけど負けた。そう言うべきだろう。
「麻雀で負けたら全部運のせい」
そういうやつ、一番くだらないと思う。
運のせいにしたら、何も面白くないだろう。
「ボードゲームで負けそうになったら相手を殴る」
そういうやつ、一番許せない。
ゲームというのは、ルールがあるからゲームなんだ。
「そういう人たちと同じでは?」
……。
「お兄様の言う革命というのは、ゲームを真剣にやらない言い訳では?」
「……!?」
「ゲームから逃げてるだけでは?」
「ゲームから、逃げてる……?」
な、なんだって……。
俺が、ゲームから逃げてるっていうのか。しかも、偉そうな革命なんて言い方で言い訳して?
「もちろん、そういう自覚があるなら止めませんよ。ゲームの楽しみ方は自由ですもの」
「くっ……」
一番嫌な言い方をする。
それでは誰が許しても、俺が俺を許せない。
「エンディングを迎えて、あークソゲーだったと。本当に好きな人が攻略できないとかなんて酷いゲームだって。どうせそう言うつもりなのでは?」
……そうなる、のか……。
それは、胸を張れることなのか……。
「さて、攻略するつもりもない親密度なんて知っても仕方がありませんわね。それではおやすみなさい」
言いたい放題言って、舞衣は去っていった。
ああ……。
そうは言ってもな……。
とてもじゃないが、気持ちを切り替えることなどできない。
となると……。
「それはそれ、これはこれ……?」
俺はのえみちゃんとキスをする。
のえみちゃんを好きになる。
でも、実羽さんを攻略する……?
「無理だよ、舞衣……」




