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異世界メモリアル【12周目 第5話】

「なにあいつ」

「近寄ったらダメよ、気持ち悪い」

「なんだあいつ」

「やめとけ、見たらバカが伝染る」


入学早々、罵倒の嵐だった。

いままでも似たようなことは言われてきたが、単純にこいつら口が悪い。

上流階級というか、貴族っぽいというか。妙にお高くとまっており、妙に蔑んでくる。これが女性向け恋愛シミュレーションゲームのあるあるなのか?

聖トゥインクルスターズ学園は、校舎も制服も日本人が想像する中世というか。いわゆるファンタジー。授業もファンタジー感満載で進行している。

みんなの年齢は高校生くらいだが、教室は大学っぽいし、文房具が原始的。わかりやすく言うと卒業シリーズじゃなくてウィザーズハーモニーっぽいということだね。

ほんと、今にも魔法の基本原理のおさらいとかが始まりそう。

こういうとき、結局俺が無詠唱で魔法を出せば黙るんだろ?

異世界から来た俺が周囲から馬鹿にされているのは、ネタフリってことだろ?

そんなことを考えていたら、教師と目が合った。


「ロトくん。前に出てやってみなさい」

「はい」


見てろよ。

これをこうして……こうだ!

俺は大きなファイアーボールを……出すわけがなく、大きなミートボールを平らげた。食事マナーの授業だからね。っていうかこの世界に魔法なんて無いし。


「ふふふ……どうでしょう」

「どうしようもないですね」

「ええ!?」


フォークとスプーンは両端から使うはずでは!?

俺の食事マナーのどこに問題が!?

って、当たり前か。ファンタジー世界の食事マナーなんて俺の常識と違うよな。


「食事の前の神への感謝を忘れるとは……」

「ありえないよね」

「どこで生まれたんだよ」

「マジ引くわー」


ああ、そう……。

そんなの日本では……いや、いただきますくらいはするか……。


「次に手を拭かずにパンをちぎるとは」

「汚い」

「本当に人間かよ」

「マジ引くわー」


あ、うん、そうか……。

それもまぁそうね、日本でも手は洗うか……おしぼりなかったけど、このフィンガーボウルで洗って拭けばいいもんな……。手が汚れたら使おうと思ってたよ、うん。


「ミートボールの感想も一切言わないし」

「作った人が目の前にいるのに」

「こいつ絶対モテないな」

「マジ引くわー」


なにこれ、主婦が集うネット掲示板かなにか?

言ってることはわからなくはないが、今やってるのは食リポじゃないんですよ?

食事のマナーで、感想がいるとは……。


「ははははは!」


大笑いしているのは星乃さんだ。俺を指さして、腹抱えてヒーヒー言っている。あれはマナー違反じゃないんですか? 上品さのかけらも無いんですけど?


「次、実羽映子さん」

「きゃー、映子様よーっ」

「これは楽しみだ」


ヤンキー感のある長い茶髪を翻し前に登場する実羽さん。品のいい人たちしかいないところで、彼女が尊敬の眼差しで見られているのは、なかなか面白い。

さっきまで俺が座っていた椅子に、実羽さんが腰を下ろす。

彼女はやや芝居がかった動きで、周囲を見渡す。みんなが注目していることを、余裕で受け止めているという感じだ。


「いただきます」

「両手を合わせるなんて……なんて丁寧な」

「目も、目も瞑ってるぞ!?」

「さすがですわ~」


うわー、俺がなりたかった主人公をやってるぞ……。

アレだよアレ。普通俺がアレなんだよ。


「はむっ」

「ちぎらずにパンをかじった……なんてワイルドで美味しそうに」

「ミートボールのソースもつけてたぞ!?」

「さすがですわ~」


絶対俺がちぎらずにかじってたらブーイングでしたよね?

しかし実際のところ、実羽さんがパンをかじるのは絵になる。一口サイズにちぎって食うとか似合わない。

次はミートボールか。ハンバーグよりデカいけど、一口で食ったりして。


「ジューシーで美味しい! 見てください、この肉汁」

「カットした断面を見せてくれるなんて」

「セリフもいいけど、表情からも美味しさが伝わってくる!?」

「さすがですわ~」


だからそれは食リポですよね?

なにこれ、夕方の情報番組なの? あら美味しそう、我が家も夜ご飯はミートボールにしようかしら、じゃないんですよ。

どうやらこの世界のマナーはちょっとオカシイようですね?


「素晴らしい!」

「最高でした!」


拍手喝采。スタンディングオベーションだった。実羽さんTUEEEEE!


「……ふふ」


俺の方をちらりと見てほほえみ、席に戻っていった。早くここまで追いかけてこい、ということだろうか。

やってくれるぜ……。

ハードモードとはいえ、勉強や運動はこの世界での経験値があるからそこまで苦労しなくなっていた。そこに来てこれだよ。

この学園で必要なのは、決して魔法なんかではなかった。

礼儀作法、ダンス、教養など……いわゆる貴族のたしなみ的なもの。そして現代日本とはもちろん異なるルールのものだ。まったくわからん。

そして教師もクラスメイトも、完全に俺を馬鹿にしており、実羽さんと星乃さんは羨望の的だ。どちらを攻略するにしろ、現状では夢のまた夢。

二人の望んだ、俺が死にものぐるいで努力しないといけない状況ってわけですよ。


フフフ、ハハハ!

クラスメイトから馬鹿にされるくらい、なんぼのもんだっての。

待ってろ、すぐに星乃さんの方からデートの申込みをさせてやる。


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